おまけ
「おはようございます、会長」
「ああ、おはよう」
「本日の予定ですが、定例会議の後、週刊新海の取材と、午後からはTV局の取材と」
「ああ、分かった。夜は開けてあるな」
「はい。食事対談は後日になります」
何でこうなった?
最初は、小さな警備会社だった。
慣れない営業が、頑張って、少ないクライアントで、まあまあなスタートだった。
それからだ。
警備保証サービスの契約者の家に、空き巣が入ろうとしたら、たまたま近くを巡回していた警備員が、あっと言う間に犯人を取り押さえて、お手柄。
次に契約者の宝石店も、夜に警報が鳴って、たまたま近くにいた警備員が取り押さえた。
その次も、契約者のお年寄りが倒れた時に警報を鳴らしたら、たまたま近くにいた警備員が駆け付けて、命が助かり、感謝された。
その次の現金輸送車も。
その次の会社も。
その次のデパートも。
その次も。
その次も。
会社の名前が有名になるのに時間はかからなかった。
たちまち大きくなった会社。
海外からも、支店の要請がある。
創業メンバーのために、何故か予備校を創り、セキュリティの安心からと、講師も良くて、予備校氷河期にも関わらず、人気だ。
傘下に入りたい会社が多く、ファッションから飲食店まで、グループ企業になった。
たった5年で、小さな会社の社長から、グループの会長になってしまい、まだまだ伸びるグループ企業として、人気の就職先にまでなった。
会議を終えて、週刊誌の取材、昼食を終えたらTVの取材。
何でこうなった?
夜、会社の車を帰して、夕食に向かう。
月に一度の息抜きだ。
いつもの店の、個室に行く。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ様。みんなはどうだ?」
「管理職でも名前だけですから」
「いやあ、楽しいですよ」
「私の店も順調よ」
「会長は大変ですか?」
「いや、まあ、妻子に見直してもらえたからいいんだが」
「みんな結婚もしましたもんね」
「そう言う雪乃さんもそろそろ」
「私は無理ですよ。人外だし」
沢井会長率いる、リンデルグループ。
元はリンデル警備保証会社。
取締役は、転移者会のメンバー。
雪乃は現場を飛び回っているけど。
文字通り。
警備保証の契約をしたクライアントの場所には、必ず雪乃が一度行く。
現金輸送車にも乗る。
敵う相手がいるはず無い。
リンデル警備保証の警備員は、いったい何人いるのかと言われている。
勿論、ちゃんと訓練した警備員がいる。
普通の警備は、普通の警備員がする。
雪乃は緊急要員だ。
雪乃を好きになってくれる男性もいるけど、夜中に姿を消す嫁はまずいだろう。
「いや、しかし、海外なんかどうする?」
「沢井会長、最近試したんですけど、現地の鮮明な写真を見ても行けますよ」
「はあ?試したのか?」
「エジプトのスフィンクスの前に」
「航空会社とか旅行代理店とか可哀想だな」
「パスポートは取りましたよ」
「凄く意味が無い感じだな」
「まあ、一応取締役ですから」
「雪乃さんは結婚を考えなさい」
「無理ですよ」
「いざとなったら全員で真実を話すから」
「そんなの信じないでしょう」
「とにかく相手を見つけて連れて来なさい」
「会長が父親みたいです」
「お見合い写真を集めるか」
「やめてくださいよ」
笑い声が響く。
世界を越えて、できた仲間。
ひと時の幸せ。
どちらの世界にも、待ってくれる人がいる。
雪乃の幸せは、まだ増えるだろうか?




