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師匠との約束

朝、目が覚めて、本当に疲れたなと思う。

顔を洗って、朝食を食べに行く。


聖樹を巡り、五つ目の聖樹で腕輪をかざす。


大神に文句、いや、報告をするためだ。


無機質な空間に入る。


『柚木沙織との繋がりが切れた』

「自爆しましたからね」

『そうか』

「約束通り、後の問題を早くお願いします」

『直接干渉はできない。が、一週間ほどで片付くはずだ』

「何か不自由な神様ですよね」

『つくづく不遜な者だな』

「感謝はしてますよ。世界を渡る前の私は好きではありませんから」

『そうか、何か得たか』

「はい、沢山」

『ならば、良かった』

「問題が片付いたら来ます」

『ああ、待っている』


空間が元に戻る。


一週間ほどか。


挨拶回りと、帰る準備だな。


雪乃は1年くらいだから、あまり変わらない世界だろうけど、沢井さんたちは、大変過ぎる。


まず、タキガワに行く。


本当に帰還を望む人たちを、確認してもらう。


そこからだ。


歳相応になってしまった滝川さんを心配して、みんな食事に来ているそうだ。



冒険者ギルドにも顔を出す。

ドルトスさんがいた。

手招きされて、応接室に行く。


「魔術ギルドで何かあったみたいだな」

「まあ、はい、関わりました」

「100年前のことについても、近いうちに王国から声明が出るそうだ」

「それは良かったです」

「何か、助けになれたかどうか疑問だが」

「いえ、私は良い人たちと関われて、助けられたと思っています」

「そうか、それならいいが」

「転移者の帰還ができそうです」

「ああ、帰るのか」

「帰る前には、また来ます」


少し残念そうなドルトスさんに、挨拶して冒険者ギルドを出る。


さて、ガルデス師匠の人生が分からないと、お墓も作れないな。


その辺りも詳しく調べてくれるだろうか。


久しぶりに、アンデッドの森に行く。


果実を取りながら、師匠との思い出の広場に行ってみる。


時々魔物を狩り、木を輪切りにした椅子に座る。


空は明るくて、何事もなかったかのようで、まだ1年しか経たないのに、遥か昔のことみたいに思える。


雪乃は、自分が本当に帰りたいのか、まだ迷う気持ちがある。


どちらの世界も、生きることは容易く無い。


ただ、この世界は、自分が本来いるべき場所ではない。


試練を乗り越えたというのに、まだ悩むのかと、少し情けない。


まあ、帰るのが正解だな。


帰って、ちゃんとやり直す。


夕方には、リンダースに戻り、宿屋で夕食。


1年間、宿屋か、焚き火で食事。

帰ったら大変かも知れないな。


野営に慣れた現代人て、どうなんだろう。

焚き火なんて、消防法とかあるし。


お風呂に入り、部屋着に着替える。


お風呂とトイレはやっぱり元の世界がいいな。



そんな感じで暫く過ごして、日曜日、タキガワに行く。


転移者会はまだ開いていくのかな。


暖簾が仕舞われた店の扉は、開いた。


店に入ると、みんながいた。


「今晩は」

「雪乃さん、いらっしゃい」


椅子に座り、お茶を飲む。


「もう暫くで、帰れますが、皆さんは全員帰りますか?」


みんな顔を見合わせる。


「私は帰りません。もう歳を取りましたし、タキガワを続けます」

「私は、大変だと思いますが、帰ります」


沢井さんが言う。


「橋本さんも高木くんも帰ります」

「鈴木さんは?」

「大変でしょうが、帰ります」

「優子さんは?」

「大変でしょうね、でも帰ります」

「川本さんは?どうですか」

「滝川のオッサンが心配だから、残るよ。料理の修行をする」

「私のことならいい。帰りなさい」

「まあ、適度に生きてた俺だから、タキガワは居心地がいいんだ。俺のためだし」

「川本くん、本当にいいのか」

「滝川さん、俺、料理人になれますかね」

「分かった。明日から修行だ」


雪乃を入れて、6人が帰る。


「では、帰る皆さん、来た時の服はありますか?無かったり、着られないなら、優子さんにお願いして、なんとかしないといけませんね」

「あ、そうか」

「持ち物も考えないと」

「優子さんには、ちょっと凄く仕事をお願いすることになります」

「任せて、頑張るからね」

「皆さんの、今の仕事も、なんとかして、円満にやめる方法を探していただかないと、ですかね」

「ああ、確かにそうだな」


料理を食べて、飲み物を飲んで、みんなそれぞれ話し合う。


勝手に帰ることもできるけど、それはみんな後味が悪いだろう。


身辺整理ができたら、雪乃のいる宿屋に移ってもらうかな。



次の日は、マルト商会に行く。

買い取りをしてもらいながら、いなくなることを、いつ告げるのか、考える。


聖樹を巡り、恵みを受ける。


この恵みも、どうするかな。


水曜日に、やっと魔術ギルドから使いが来た。

瞬間移動で魔術ギルドに行く。


また、違う部屋に通されて、部屋に入ると、机の上に、本があった。


ギルド長がいて、説明される。


「お待たせしました。ガルデスという魔法使いの方について、王国に問い合わせていました。本を2冊、やっともらいました」

「お読みになられましたか?」

「ざっと読ませてもらいました。何故こんなに素晴らしい魔法使いのことを、隠したようなことがあったか驚きました」

「では、ガルデス師匠のことは?」

「今後、発表します。研究もしていきます」

「今日は、ここで読ませていただけますか」

「どうぞ。時間は気になさらずに」


みんな、部屋から出て行き、一人になった。


本を手に取る。


1冊は伝記風、もう1冊は、魔法の研究だ。


伝記から、読む。


途中、お茶が運ばれたり、昼食まで出された。


ガルデスは、リンダースから東に3日ほどの町に生まれた。

神殿に信仰を持ち、魔力を開花させる。


早くに両親を亡くし、兄弟もなく、冒険者として活躍した。


その魔力は強く、操る魔法も多彩。


弟子になりたい者もいたが、冒険者としての道を選び、一人で世界を巡った。


独り身のまま30代を前にして、当時は今より遥かに栄えた王国から請われ、王宮付きの魔法使いになる。


王宮では、他の魔法使いたちの指導をすることもあったが、弟子は取らなかった。


100年ほど前、王国を強い疫病が襲った。


当時、リンデル王国の聖樹には、道が通じていた。


聖樹の恵みもあったが、疫病は収まらず、教会の薬も役には立たなかった。


そして、アンデッドの森。当時は聖樹の側では一番強力な魔物がいる代わりに、薬草や薬の材料の宝庫と言われた森に、軍が出された。


目指したのは、森の最奥。

水場に生える苔。


少量でも万能と言われる薬の材料。


その森は、人を拒み、進むのも難しいと言われていた。


王国は焦っていた。

国王が病になり、隔離されていた。


執政や軍の決断で、軍を動かした。

物量作戦だ。


聖樹の周りに陣を築き、森に入った。


間違いに気がついた時は遅く、軍は壊滅状態。


最後に人伝手にもたらされた報告は、ガルデス以下、魔法使いたちと、軍の全滅だった。


ガルデスの死を悼む魔法使いは多かったが、何故か、その噂も次第に聞かなくなり、ガルデスが自ら築いたと言う小さな家に時折花が手向けられていた。


小さな家、その場所についても書かれていた。

リンダースから北西の村。

そこから更に北西に1日の森にある。


あの村から近い。

当時は道もあっただろう。


聖樹への道にも近かったはずだ。


師匠、教えてくれても良かったのに。


何度か読み直し、魔法書も読む。


あ、師匠がくれた手記と魔法の本、どうしようか。


師匠の手記には、王宮に仕えてからのこと以外は、簡単にしか書かれていなかった。


持っていてもいいかな。


魔法書は、雨季に読んだ本と、あまり変わりはなかった。


すっかり夕方になり、宿屋に帰ろうと部屋を出たら、連絡役の人がいた。


本のお礼を言い、帰ることを伝える。


入り口まで案内してもらい、魔術ギルドを出た。


明日は師匠の家に行こう。


宿屋で夕食を食べて、部屋で休む。


100年も前だから、村の位置や規模も変わったかも知れない。


ちょっと簡単には探せないかな。


でも、当時、花を手向ける人がいたくらいだから、そんなに遠くはないはずだ。


一つずつ、願いを叶えていこう。



翌朝、朝食後は、聖樹を巡り、北西の村の側に移動する。


この辺りから、北西へ、飛翔する。


空を飛ぶのも今のうちだな。


師匠の腕輪を持って、何か反応しないか期待する。


何となく、この辺りかなと思って、森に降りる。

魔力はあまり濃くない。


師匠の腕輪が反応したような気がして、森の開けた場所に出る。


灌木が生え、緑の植物に覆われた、家の形のようなものがあった。


風魔法で、植物を切り払う。


私が作ったものよりも、ひとまわり大きな、石造りの家が現れた。


植物を切り払うと、状態保存がかかっているのだろう。丁寧に作られた家が建っていた。


家の周りを綺麗にして、師匠の腕輪から、鍵を取り出す。

この家の鍵を、と思って出したから、間違いないはずだ。


鍵を開ける。

師匠、お邪魔します。

家は、窓が3つもあり、トイレは勿論、お風呂まであった。


調理する場所、テーブルや椅子。

ベッドもちゃんとしたものだ。


地下室があるようで、階段を下りてみる。

師匠、凄いな。

ワインがある。皮袋も沢山ある。


この家で、人生を終えるまで過ごすつもりだったのが分かる。


状態保存をかけ直しながら、家じゅう見て回り、外に出て、鍵をかける。


家全体に状態保存。


裏庭だった辺りを綺麗にする。


木で柵を作り、家を囲む。


そして、最後に、裏庭に穴を掘る。


ビニール袋に入れた砂を、少しだけ残して、穴に埋める。


石で囲み、石の柱を立てる。

墓標のつもりだ。


ワインとパンを供えて、祈る。

師匠、家に帰りましたね。


明日から、帰るまで、毎日来ますから。


1日がかりの仕事だったけど、心から嬉しい思いで、リンダースに戻る。


宿屋で夕食、部屋でお風呂。


ぐっすり眠った。



翌朝、朝食に行くと、見慣れない、騎士みたいな人がいた。


宿屋のご主人が、戸惑ったような顔で、雪乃を呼ぶ。


「おはよう、何かお客みたいだぞ」

「おはようございます。私にですか」

「そうらしいな」


騎士が近づいて来て、話しかける。


「ユキノさんでしょうか」

「はい、そうですが」

「私はリンデル王国の軍務卿からの使いで参りました」

「そうですか。朝食を食べて着替えます。暫くお待ちいただいても?」

「はい、出かけられる前にと、朝早くからお邪魔してしまいました」

「では、少しお待ちください」


朝食を食べる。

その辺に騎士が突っ立ってるのも何だから、宿屋のご主人が、飲み物を勧めてた。


部屋で、ユーコ製のワンピースに着替える。

アクセサリーや髪止めも付けて、靴も替える。


「お待たせしました」

「いえ、では、参りましょうか」


どこへ参るのかは知らない。


宿屋の前には、妙に立派な馬車が停まり、下町だから、見物する人たちが、朝からいた。


馬車に乗る。


ゆっくり走る馬車は優雅で、居心地が悪い。


下町から貴族街に向かい、更に走る。


まあ、物資の話だろうけど、嫌な予感しかしないな。


予感は的中した。

馬車は貴族街を抜けて、見たことも無い、立派な門に入る。


更に、美しく手入れされた庭園が続き、まだ走る。


そして、止まった場所は、多分王宮。

見たこと無いから分からないけど王宮。


馬車の扉が開けられて、降りる。


騎士の案内は、ここまでだったらしく、立派な格好をした人に、案内される。


なんだか、どんどん奥に案内されて、階段を登ったり、きらびやかな廊下を通り、凄く大きな扉の前に、辿り着いた。


軍の物資を返すだけなら、軍の建物か何かだと思ってたけど、100年前だから、そうはいかないか。


ああ、国の財産でもあるか。


扉が開けられ、案内する人について行く。

視線は上げられないな。


案内の人が止まり、跪く。

真似をして跪く。


うわぁ、帰りたいよ。


「ユキノ様をお連れしました」

「ご苦労だったな。大臣」


大臣かよ。


「ユキノ殿、100年も前のことで、世話をかけたこと、許されよ」

「はい、いえ、お預かりしただけにございます」


こんな感じの喋り方でいいかな?


「100年前のことも明らかにしよう。ガルデスと共に、無念の死を遂げた者たちも眠らせてくれたこと、礼を言う」

「お役に立てたなら幸いです」

「物資は軍務卿が預かる。ご苦労であった」


暫くして、大臣が立ち上がる。

もう立ってもいいみたいだ。


国王陛下は、退出されたようだ。


大臣と、多分軍務卿が、別の部屋に案内してくれた。


やっと物資を返せる。


皮袋4つを、さっさと腰から外す。


「ちょっと待ってくれ」


軍務卿が慌てる。

あ、そうか、魔力の多い人じゃないと扱えないんだった。


王宮付きの魔法使いらしい人たちが現れて、皮袋をおっかなそうに受け取る。


「中身は、改められないのですか?」

「記録はあるが、何をどれだけ使ったのかは分からない」

「ああ、そうですね」

「それに、ガルデス殿の人柄も、記録にある。精霊の契約をした弟子のあなたを疑うような真似はしません」

「そうですか。師匠の意志を叶えられて嬉しいです」

「あと、大臣、王国からのお礼があるな」

「はい、お渡しします」


ずっしり重い皮袋。


「これからは、ガルデス殿のことも全て明らかになるでしょう」

「それが一番嬉しいです」


その後は、雑談しながら王宮の外に出る。


馬車に乗せられて、宿屋まで送られた。


宿屋の部屋で着替えて、聖樹を巡り、また大神に会いに行く。


『用は済んだのか』

「はい、ほとんど全部」

『では、帰る方法か』

「そうですね」

『試練を乗り越えし者よ、受け取るがよい』


綺麗な宝石のペンダントが現れる。

受け取り、首にかける。


「これは、どのように使うものですか?」

『まず、それは試練を乗り越えたお前にしか扱えない』

「はい、それで、みんなを連れて帰ることはできますよね」

『お前が瞬間移動で運べる人数なら連れて行ける。宝石に触れて願えば、元の場所、山の中だったな。そこに帰る』

「そうですか。それでは」

『まだ話がある』

「何ですか?」

『その宝石に触れ、願えばこちらの世界の知った場所に来られる』

「はあ?何ですかそれ」

『つまり、世界を渡る転移石というものだ』

「何ですか、こんなものがあるなんて!」

『この場所や、5つ目の聖樹は、試練を乗り越えた者しか来れない。今生きている者ではお前だけだ』

「それは分かりますけど」

『またこの世界に来るがよい』

「ああ、もう、大神が気まぐれで世界を渡らせないように、見張りに来ますから」

『そうか』

「そうだ、ついでに聞きますけど、この世界で得た能力ってどうなりますか?」

『そのままだ』

「無茶苦茶ですね、空飛べますよ」

『そこまでの力を得る者は少ない』

「とにかく、また来ますから」

『そうか、また会おう』


とんでもない神様だな。

世界を行き来できるなんて、馬鹿みたいだ。


とりあえず、宿屋に戻る。


疲れた、本当に疲れた。


夕食を早めに食べて、お風呂に入り、眠った。



















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