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真実の一端

日曜日がきた。

朝食を食べて、五つの聖樹を巡る。


夕方まで、山の北側で狩りや採取をする。


夕方前には、聖樹の泉の水を汲み、リンダースに戻る。


宿屋には、夕食は要らないと言って、部屋で時間をつぶす。



タキガワに向かう。

凄く久しぶりだ。


暖簾が仕舞われた店の前に立つ。

無駄な気負いがないか、自分を確かめるように、深呼吸をする。


まあ、緊張はする。

タキガワは、憩いの場所だ。

それを乱すことを、今からするわけだから。


扉を開けて店に入る。


「今晩は」

「雪乃さん、いらっしゃい」


滝川さんは変わらないように見える。


椅子に座って、何から話すか迷う。


「もう、凄く心配したわよ」

「元気そうで安心したが」

「何か修行とか、木下さんに聞いてたけど」

「俺も、一応心配した」

「いや、本当に、若い女性ですからね」

「木下さんが、時々会うって言ってたからまあ、無事は分かってたけど」

「雪乃さん、本当に久しぶりですね」


上から、木下さん、沢井さん、橋本さん、高木さん、鈴木さん、川本さん、滝川さんだ。


「ご心配をおかけしました。修行みたいなものも終わりました」

「何のための修行か聞いてもいいかな」

「沢井さん、その前に、皆さんのプレートを見せてもらえませんか?」

「プレート?構わないが」

「できれば、皆さん外して、渡していただきたいんですが」


滝川さん以外は、あっさり外してくれる。


「滝川さん、何か不都合でもありますか?」


ちょっと嫌な自分だな。


少し迷って、滝川さんも渡してくれた。


みんなのプレートを回収した。

まずは一歩だ。


そこからは、嫌な自分を出す。


「滝川さんに聞きたいことがあります」

「何かな?」


すでに、少し動揺している滝川さん。


「滝川さんは、本当のことを話してくれていません。30年前に来たはずなのに年齢もおかしいです。腕輪はどうしましたか?」

「30年?ちょっと、雪乃さん?」

「すみません、皆さんには後で説明します」

「雪乃さん、私は15年前に」

「いいえ、滝川さん。30年前に来たのは確かな話です」


混乱するみんな。

ごめんなさい、でも全てを明らかにしないと、また召喚される人が増える。


「話していただけないなら、別の人に聞きます。柚木沙織さんのところに案内してくださいますか?」

「それは、それを何故!?」

「話していただけますか」

「私は、いや、何故だ?」


プレートが柚木沙織に付けられた監視や制御の意味があれば、本人の意思で、話せるはずだ。


頭を抱える滝川さん。

動揺するみんな。

悪役みたいな私。

大神には盛大に願いを叶えてもらおう。


「私はサオリ様には逆らえない」

「プレートを外したから話せてますよね」

「サオリ様は全てをくれた」

「全て、ですか」

「私は30年前、店が潰れ、妻子に見捨てられた。絶望して声を聞いた。世界を渡らせるとやり直せると思った」

「腕輪は?」

「左手首に不思議な腕輪があった。店を作るために、冒険者をしようとした。だが力があまり無いようだった。伝説の聖樹を目指したいと思ったが、無理だった」


堰を切るように話し始めた滝川さん。

みんな、息を止めるようにして聞いている。


「料理屋で修行したのは本当だ。8年かかって店を持った。だが、孤独だった。お客はついたが、和食の材料はない」


話し始めて、少しずつ、滝川さんの何かが落ち着いていくようだった。


「20年くらい前に、サオリ様が現れた。店の名前は今と変わらない。日本人に会いたくて来たと思った。サオリ様は、信じられないくらい美しい人だ。魔術ギルドで研究をしているから協力してほしいと言われ、私の家に魔法陣を作った。サオリ様の部屋と通じる魔法陣だ」


やはり、柚木沙織は魔力が強いのだろう。


「サオリ様は、まず、研究のために腕輪がほしいと言った。外せないものだと分かっていたのに。和食の材料ならいくらでも召喚すると言われた。実際に召喚してくれた。腕輪を外すことはできない。左腕ごと斬られた。腕は再生してくれた。神のような人だと思った」


みんなの顔が歪む。腕ごと切り落とすなど神ではない。悪魔のようだ。


「それから、身体を作り変える魔法を試された。老いることがない身体に。サオリ様も老いることがない身体だ。10年ほどは楽しかった。サオリ様と二人で過ごし、和食を作り満足していた」


喉が渇いた、みんな飲み物を飲む。


「サオリ様は満足などしていなかった。薬を作り、一部の者たちに不老を与えて、富も魔術ギルドでの立場もある。11年前に人を召喚する魔法陣を完成させた。私では不足だったのだろう。相応しい者を召喚すると言った」


柚木沙織の心は、闇のようだ。

どこまでも満たされない闇だ。


「人を召喚するには魔力が莫大に必要なようだった。他の研究や不老のために使う魔力は残して、少しずつ魔法陣に魔力を注ぐ。一年に一回しか召喚はできない」


みんなの顔が無表情になっていく。

召喚されたことが、ただ一人の満足のためだと言われたのだ。


「最初はすぐに召喚した。その人物は少し気に入ったようだ。魔術ギルドの部屋に留めている。不老を与えて。それで満足したわけではなかった。次の年に沢井さんが召喚された。帰還を願う気持ちが強い沢井さんは、プレートを付けて、リンダースの近くに置いた。魔術ギルドの記憶を封印して」


沢井さんが、怒りの表情を見せる。

酷い話だ。


「9年前と4年前2年前、少し気に入った者を召喚して不老を与え、魔術ギルドに留めている。一年前にも召喚した。若くて容姿が良く頭の良い男。サオリ様は満足することがないようだった。不老を保つにも、闇魔法に必要な生贄を求めるようになった」


淡々と話し続ける滝川さん。

みんなの表情は、見るのが辛い。


「サオリ様は退屈していた。新年の挨拶に来た教会の者たちや貴族たちに、種を撒いたと言った。ほどなく、神殿が襲われ、病が流行った。サオリ様が何をしたいのか分からない。最近は私も寵愛されなくなった」


全ては柚木沙織が起こしたことだというのか。大神は過ちを見過ごしたのか。


「サオリ様が何を求めるのか、もう私には分からない。不老を保つ生贄も増える一方だ。このままでは破滅が来る。頭は良くない私でも分かることだ。どうすれば良かったのか私には分からない」


「召喚された者は頭が良いはずでしょう。誰も何も言わず見ていたのですか」


「私は10年間の記憶も封印されなかったが、他の者は記憶を封印され、サオリ様への忠誠心だけを持つようだ」


「滝川さん。あなたは満足ですか」


嫌味な言葉を吐く私。


「転移者を集めて、会合を開き、サオリ様の記憶の封印を確認することが、私の役目だった。塔ノ沢雪乃に対して、サオリ様は警戒心を抱いていた。最近は姿を見せないことで興味をなくしたようだ。転移者会で料理を振る舞い、話す。それは楽しかった」


「それで満足していたと?」


「私には、サオリ様は失いたくない人だ。何があっても失いたくない。それだけなんだ」


「破滅が見えているのにですか?」


誰も、何も言わず、滝川さんと雪乃を見ている。

料理は冷めている。

料理に罪は無い。


雪乃は料理に手を伸ばした。


「料理に罪はありません。食べましょう」


滝川さんは黙っている。


「ついでに、滝川さんには軽く呪縛みたいなものをかけましたから。この状況でサオリ様とやらのところに行かれたら、間違いなく消されますから」


みんなも、無理にかも知れないけど、食事を始める。


料理が食べられ、飲み物が飲まれる。


滝川さんは、自分の料理を食べる人たちを見ている。


「それでも、滝川さんの料理は美味しいですよ。料理は嘘をつかないでしょう?」

「そうね、あんな話を聞いても、滝川さんの料理は私たちの支えだったわ」

「そうだな。この料理には助けられた」

「まあな、美味しいのは間違いない」

「毎日心を込めて料理はしたのでしょう」

「食材の開発もしましたからね」

「悪い雇い主じゃなかったと思う」


それぞれが、料理を食べて、お皿や鉢が空になっていく。


泣き声が漏れる。

滝川さんは、泣いていた。


大人の男性が泣いている。


雪乃もちょっと困る状況だ。


「滝川さん?」

「みんな、すまない。ありがとう」

「滝川さんも食べませんか?」

「ああ、本当にすまなかった」


滝川さんも、自分の料理を食べる。

泣きながらだけど。

絵的にはちょっとどうかと思う。


料理が食べ尽くされて、滝川さんは、お茶を淹れる。


みんな落ち着いたようだ。


「雪乃さん。お願いします。サオリ様、柚木沙織を止めてください」


滝川さんが、頭を下げる。


「嘘をついて、何食わぬ顔をしてきた私がお願いするのは間違いかも知れません。しかし私の力では止められません」

「頭を上げてください。最初からそのつもりでしたから」

「雪乃さん、私は結局何もできず、他人に頼るばかりです」

「大神が世界を渡らせる者は、ある意味追い詰められた者ばかりです。今は大神に文句を言いたい気分です」

「大神?」

「世界を渡らせる声の持ち主です」

「ちょっと待って、雪乃さん、神様に会ったの?」


みんなが騒ぎ出す。


「ああ、えっと、滝川さん、明日の夜早めにお店を閉めて、柚木沙織のところに連れて行ってください。みんなにはこれから説明しますから」


この世界では、秘匿事項だと念を押して、試練の話をする。


柚木沙織や、他の問題を片付けたら、帰れることも話す。


「ね、大神に文句、言いたいでしょう」

「本当に、被害者の会作りたいわね」

「雪乃さん、もう人外だね」

「人外はやめて。で、明日柚木沙織と対決するつもりだけど。滝川さん、多分年齢が元に戻りますから、大変だと思います」

「そんなことは、今更問題ではありません」

「柚木沙織は闇と何の魔法を使うか分かりますか?」

「腕を再生したのは聖属性でしょう。ただ不老を与えた相手には、聖属性は使わないようでした」

「なるほど、闇を打ち消すとまずいのでしょうね」


夜も遅くなっていた。

滝川さんには、柚木沙織との間を離す呪縛みたいなものをかけ直して、みんなのプレートは預かったまま。


みんなそれぞれ帰り、雪乃も宿屋に戻る。

部屋でお風呂に入り、着替えたら寝転ぶ。


柚木沙織が、自分を取り戻すのは難しいだろう。

同郷の者を、倒す覚悟があるか。

自分に問う。


今は分からない。


できれば説得で済めば、良いとは思う。

しかし、20年かけて歪んだ心を元に戻せるか。


考えても無駄だろうな。

覚悟か。

試練を越えたなかの覚悟はある。

大神には、文句が沢山あるけど、後でみんなの望みを盛大に叶えて貰おうじゃないか。


明日は何があるか分からない。

ベッドに入り、ちゃんと眠った。















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