表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/29

その先に待つもの

五つ目の試練の広場に瞬間移動した。


小さな聖樹に触れてから、北を向く。


森の中に、道が開く。


迷わず、歩き始める。


今度は、柔らかな光が漏れる、まるで普通の森のようだ。


平和そうな森の道を進む。


春もまだ始めなのに、花が咲いて、鳥のさえずりが聞こえる。


孤独で、道の果てが見えないのは、変わらないが。


お腹が空けば、食べ物を食べて休む。


道で仮眠するのも今までと同じだ。


どこまで歩いても、変わらない風景。


多分、精神的には辛いはずだ。


諦めるのは簡単だ。

後ろを向けば、広場に戻るだろう。


まるで人生のようだ。

たかが19歳だけど、そう思う。

諦めて、後ろを向いても生きていける。


誰も咎めたりしないだろう。

選ぶのは自分だ。


進むことを諦めて、自分を呪ったのは一年前のことだ。


この世界に来て、生きるために前を向いた。

世界を渡ったのは、悪いことではなかった。


今はそう思える。


歩き続ける。

時々食べるためと仮眠するために足を止める。


今回は道のりが長い気がする。


もう何度仮眠しただろう。


食べる物や飲み物はまだある。

師匠のパンも大事にし過ぎて沢山ある。


自分は恵まれている。

空中に放り出されたけど、聖樹に辿り着いた。


師匠に出会えた。

力を与えられて、優しい人たちにも知り合うことができた。


応えたい。

必要としてくれる人たちに。

今も心配してくれる人たちがいる。


また何度か休んで、ようやく広場が見えた。


休憩して、態勢を整える。


広場へ向かう。


足を踏み入れると、空間が歪んだ。


荒野だ。


いつか来ると思った相手がいた。


自分だ。

どす黒い自分だ。


自分と見つめ合う。

変な気分だ。


攻撃がくる。

魔力弾が飛ぶ。

躱す。


剣を出す。

相手も剣を構える。


走り、跳んで、斬り結ぶ。

力は互角だ。そうだよね。


何度か攻撃を撃ち合い、斬り結ぶ。


『何故戦う?』


頭の中に自分の声が響く。

戦う必要があるからだ。

心で答える。


『魔物や盗賊、お前の手は血で汚れた』


死ぬ気がないなら戦う。

汚れたとしても。


『お前は両親にも愛されない』


そうかも知れない。

でも、自分の子供を愛することができない両親の方が、辛かっただろう。


『お前の力なら何でも望める』


必要とされる人たちのために使うだけだ。


『また裏切りにあい絶望するだろう』


裏切られることもあるかも知れない。

人は強さだけを持つわけじゃない。

絶望なんて、一人よがりだった。


戦いながら、答える。


『人など信じて何になる』


信じることもこの世界で教えられた。

人を信じるなんて、押し付けじゃない。

信じる自分を選ぶんだ。


『お前などちっぽけな存在でしかない』


そんなことなら分かっている。

自分だけならちっぽけだ。

それでも笑顔を交わす相手がいる。


『思い出せ裏切りや憎しみを』


自分が招いたことだ。

慢心や安易な信頼のような気持ち。

ちゃんと向き合っていなかった。


『それでも絶望して憎しみに囚われた』


ああ、そうだ。

何も見えていなかった。

つまらない自分には相応しいことだった。


『あの時と何が変わったというのだ』


偉くも強くもなってない。

ただ自分を見つめることができる。

自分から目を反らさない。

それだけだ。


斬り結ぶ力が弱くなってくる。


『人など弱い信じるに値しない』


弱いからこそ、見つめ、信じ、裏切られてもまたそこから学ぶ。

覚悟だ。

信じる自分には覚悟が必要だ。


『それでも愛されないならどうする』


愛されることだけを求めるのは違う。

愛することができれば、それでいい。


どす黒い自分の剣が砕け散る。


『それでも生きるというのか』


生きる。

自分を見つめ、人を愛して、覚悟して。


迷わず斬り裂く。


『それでも、それでも』


眠れ、どす黒い自分。

迷うこともあるだろう。

自分が嫌になることも。

その度に見つめ直す。


最後の一撃を入れる。自分に。


空間が歪んでいく。


森の中の広場。

気がついたら、結構ぼろぼろだった。

治癒。


広場の中央には、何も生えてこない。


北へ、道が見えて、その先に明るい場所がある。


歩き出す。


明るい場所に出る。


北の果てだろうけど、雪は無い。


丘の上に聖樹がある。


ゆっくりと歩いて、聖樹に近づく。


美しい幹。天高く伸びる枝。

初めて聖樹を見た時を思い出す。


手を伸ばし、聖樹に触れる。

はらりと葉が落ち、果実も落ちる。

金色の果実だ。


さて、これだけでおしまいじゃないよね。


何かあるはずだよね。


聖樹の後ろの泉の水を汲む。


腕輪を見てみる。

金色の光が指し示すように、聖樹に向かう。


聖樹にぶつかるほど近づいてみる。


空間が歪んで、聖樹に吸い込まれるような感覚がある。



無機質な空間だ。

姿のない声を聞いた時のような。


不愉快な感じではない。


『辿り着いたか、人の子よ』


懐かしいような声がする。


「あなたが、大神ですか?」

『そう呼ぶ者もいる』

「まずは、文句です。この世界で知った人たちは、あんな酷い人たちじゃないです」

『試練に文句か。強くなったな』

「みんなのおかげですけど」

『さて、試練を乗り越えし者、塔ノ沢雪乃よ、何を望む?』

「まず転移者を元の世界に帰す方法です。大体あんなに毎年転移者が来るなんて、酷いじゃないですか」

『帰す方法ならある。しかし、私が世界を渡らせた者は、今も生きている者なら20年前に渡らせた者だけだ』

「滝川さんは15年前に来たはずですが」

『滝川?滝川信司ならば30年前だ。20年ほど前に繋がりが切れた。死んだと思ったが』

「繋がり?」

『私が渡らせた者には腕輪がある。それで私との繋がりを感じるようになる』

「滝川さんは腕輪をしていません。20年前に来た人は?どこにいるか分かりますか?」

『ふむ、滝川は料理を作り店を出すのが望みのようで、力はあまり与えずリンダースに降ろした。20年前の者はお前のように憎しみに満ちていたが、何かを成すよう少し力を与えリンダースの魔術ギルドに降ろした』

「魔術ギルド?今、魔術ギルドで何か起きています」

『少し待て』


瞑目するような気配がする。


『ふむ、20年前の者、柚木沙織が悪しき心を持ち、何事かしたようだな。あの者ならば人を召喚したかも知れん』

「滝川さんも40歳くらいにしか見えません」

『では、どうする?柚木沙織をそのままにしておけば、また召喚者が来るだろう』

「大神は何もしないんですか?」

『私は見守る者だ。世界を壊すような争いならば手を貸す』

「随分酷いですね。世界を渡らせて試練を越えて、前に渡らせた者の始末までしろと」

『まあそう言うな』

「まだ話はあります。リンデル王国の100年前の歴史です。真実が明らかにされて、ガルデスという魔法使いの預かった、軍の物資を返すことができないと困ります」

『ふむ、それでは、柚木沙織を止めたなら王国への道が開くようにしよう』

「何だかこき使われてる気がします」

『小さな流れには手を出せない』

「気まぐれに世界を渡らせるのもどうかと思いますけど」

『言われたものよ』

「では、滝川さんから辿ります。魔術ギルドには簡単に入れませんから」

『約束は守る。ここにはいつでも来てくれて構わない』

「柚木沙織が私より強力な場合は?」

『それはあり得ない。今のお前ならば念じるだけで、どのような魔法も使える』

「やっぱり使い走りみたいです」

『すまんが頼む』



空間が歪み、聖樹の前に立つ。


あ、何で私だけ空中に放り出されたのか、文句を言うの忘れてた。



まず、レオルトの神殿に行く。

門番のところで、供え物と寄付を渡して、オルスト神殿長に会えるか聞く。


会えるそうなので、神殿に行き、祭壇で祈る。試練を乗り越えたこと、これからのことを。


祈りが終わったら、神殿長が現れ、また小部屋に行く。


「久しぶりだな」

「はい、お久しぶりです」

「試練は、どうだ」

「乗り越えました」

「何?今、何と?」

「試練を乗り越えました」

「ああ、神よ」


思わず祈る神殿長。


「それで、やはり大神に?」

「声だけです。世界を渡らせた声でした」

「そうか、大神はおられるのか」

「頼み事をされました」

「は?」

「もしかすると、神殿の事件も原因が分かるかも知れません」

「大神に、頼み事を?」

「小さな流れには手を出せないそうです」

「ユキノ、お前は大変な人物かも知れんな」

「大神が気まぐれに、世界を渡らせただけです」

「いずれにしても、無事を祈る」

「はい、また来ます」


神殿を出て、リンダースに移動する。

時間は夕方だったので、宿屋に行く。


曜日は木曜日だった。


夕食と部屋をお願いして、とりあえず夕食を食べる。


久しぶりの温かい食事。


部屋に行く。前と同じ部屋だ。

ベッドに熱風をかけて、お風呂に入る。


部屋着に着替えて、久しぶりのベッドに寝転ぶ。


滝川さんに、逃げられないように、日曜日の転移者会で、話をしよう。


転移者会自体が、転移者を監視する意味だったのかも知れない。


川本さんは、多分関わっていない気がする。

滝川さんも動き難いから、優子さんが変に思ったのかも。


少しずつ、色んなことが、繋がり始めた。


ベッドで眠って、翌日は、五つの聖樹を巡り、転移者には、会わないようにする。


心配はしているだろうけど、滝川さんに計画を知られないように、慎重に行動する。


柚木沙織、滝川さんが歳をとったように見えないのも、何かの魔法だろう。


腕輪は?どうやって外したのか?

みんなの持つプレートも、柚木沙織の意図ならば、回収するべきだ。


大神は、私なら何とかできると思っているようだが、手強い相手のような気がする。


少し力を与えたって、少しで魔術ギルドに入れるほどの魔力なら、相当な力のはずだ。


魔術ギルドで戦いになったら、問題にならないのか、また、毎年人を召喚していたなら、何人かは柚木沙織の元にいるだろう。


試練を乗り越えたのに、また試練みたいなものだな。


全く、大神は、戯れで世界を渡らせるのは、やめてもらいたい。


まあ、私は、この世界で学ぶことばかりで、助かったとも言えるけど。

あのままの自分だったら、どうなっていたか?


どうにもできないで、引きこもりか、野垂れ死にくらいか。


世界を渡らせることは、悪いことではないのかな?極限状態の人に、力を与えて違う世界に降ろす。


神のすることだ。人である私には理解しようとする方が間違いかも知れない。


ベッドで眠る。


日曜日まで、朝は五つの聖樹を巡り、狩りや採取をして過ごす。


昼食の休憩をして、場所を変えて狩りをする。


土曜日の夜。

宿屋の部屋で、また考える。


魔物や盗賊じゃない、元は同じ世界の人間。

話し合いでは済まない予感しかしない。

戦えるのか?


戦って、倒せるのか?


大神は、柚木沙織を止めると言った。

戦わずに止められるなら、それが一番良い解決策だ。


ああ、ごちゃごちゃ考えるのはやめよう。

何も情報が無いから、悩むだけだ。

そんな無駄なことをしても仕方ない。


自分に立ち向かった時を思い出す。

信頼や友好をくれるみんな。

それだけを思うようにしよう。


明日、何かが分かる。

久しぶりにステータスを見る。



ユキノ、19歳

職業、冒険者、ランクA

レベル、???

体力???

知力???

俊敏???

魔力???

スキル、【体術】【短剣】【剣】【槍】【言語理解】【文字認識】

【魔法】火、水、風、土、雷、氷、

聖、闇、無、時空、重力、付与


???って何よ。

もう謎の生き物になったとか?

まあ、いいか。

ゆっくり眠ろう。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ