表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/29

聖樹

妄想世界ですので、ご容赦ください。

ステータスは、雰囲気です。

一瞬の後、居眠りでもして、訳の分からない夢を見たのかと思って目を開ける。


山のなかの木にもたれて、座って…


いなかった。


落ちている。

落下中なのだ。


まだ夢の中にしては、生々し過ぎる速度で。


ハッとして、左腕を見る。

見た事の無い、ブレスレットがある。

幅が太く、大きめの宝石のような物がいくつも嵌め込まれた、価値がありそうな物。


落ちながらも右手で触れてみる。


ステータス画面が目の前に現れる。


夢ではなかったのか。


自分を呪い、全てに嫌気がさしていたが、死ぬ気はない。


ステータスの【魔法】に目を止める。

重力…?重力に干渉できるのか?


「反発!重力に反発!」


叫んでいた。


途端に落下が止まる。

止まったのは良い。しかし、人は頭が重い。

しかも、背中のリュックも重い。

季節は春だった。

服装はジーンズにスニーカー、スカートなら大変だった。


ちょっと三点倒立みたいになっている。

長袖のTシャツにパーカーは、捲れて顔の前を覆っている。ブラが慣性の法則で、若干ズレている。


普通の二足歩行としての態勢に戻るには、どうすれば良いのか?


両足をグッと胸に引き寄せ、前転を試みる。


どうにかなった。

とりあえずブラを直して、Tシャツとパーカーを引っ張る。


体育座りだ。空中で。


そろっと目線を下に向ける。

良い天気だ。雲ひとつ無い空の下、見えるのは森だ。


目線をそっと動かす。


遠くに山が見えたが、何となく日本じゃない雰囲気がする。何となくだけど。


かなりな高度にいるようだが、息はできる。

で、そんな高度から見ても、建物が無い。


そろりと立ち上がり、もう一度遠くまで見渡す。視力は悪くないはずだ。


人工的な物が見えない。


空中を移動できるか試してみた方が良さそうだ。


「推進力…?」


ブォッと音がしそうな勢いで、目を向けた方向に身体が飛び出す。


「ちょっ!…ちょっとゆっくり!」


意識するだけで、調節できるようだ。


なんとか慣れたところで、改めてどの方角に向かうのか、考える。


時計、スマホがあるから、腕にしてない腕時計に、方位磁石もあったはずだ。


リュックを下ろして、リュックにぶら下げた時計を見る。ソーラー充電だから、暫くは使えるだろう。


高い山が見える方角が北。どちらを向いても緑の濃い森だ。方位磁石が間違っていなければだが。


山の反対方向に行こう。南へ。

根拠は無い。山よりましな気がしただけだ。


リュックを背負い直そうとして、重いなと思った。色々詰め込んで来たからなと。


すぅっとリュックが消えた。

左手首に向かって。


「ちょっと!…リュック!」


ポイッとリュックが現れる。

何このハイスペックな腕輪。


何の説明も無く、腕輪をはめられて、空に放り出されたのだ。

不親切にも程がある。


とりあえず、空中だけど、リュックから必要そうな物を取り出す。


ステータスに【短剣】とあったから、サバイバルナイフを装備?する。

革の鞘がジーンズのベルトに付けられる。


こんな物騒な物をなぜ持っているのかは、ちょっとミリヲタな弟が、誕生日プレゼントにくれたからだ。


どうやって手に入れたのかは追及しなかった。


財布やスマホを入れた、ウエストポーチは外して、ペットボトルホルダーをベルトに付けて、美味しい水のペットボトルをホルダーに入れる。


リュックとウエストポーチは腕輪に吸い込ませておく。


身軽になった。


今度はそっと飛び始める。南へ向かって。




速度は分からないが、慣れたので、かなり速いはずだ。

なのに、まだ人工的な物が見えない。


大体、何の説明も無いので、魔法があるし、使えるのは分かったが、どういう仕組みで発動しているのか、限界があるだろう不安が拭えない。


急に限界がきて、落下するのは困る。

そろそろ何処かに降りないといけない気がする。


日本じゃない森の中…不安過ぎるが、紐無しバンジーよりはマシだ。

少しずつ高度を下げ、森でもできるだけ木が密集していない場所を探す。


木々が少し疎らな場所を見つけ、そっと着地

…さすがに、ついさっきからしか使ってないので、そんなに上手くはいかない。


少し落下した。推進力も止め切れていない。

地面をズザザザッと滑り、灌木に突っ込み止まった。


なんとか立ち上がり、周りを見る。

高い木々と周りの灌木。

手足の土を払いながら、少し開けた場所で休憩する。


不貞腐れて山に登った時、すでに夕暮れだった。今、どう見ても真っ昼間だ。


リュックを取り出し、コンビニで買ったおにぎりを食べる。


日本じゃない事は認めよう。

では、地球上の何処か…いや、現実から目を反らしてはいけない。


自分は、さっきまで、空を飛んでいた。

そんな人間が、地球上にいる訳が無い。


あの知らない声も、世界を渡るだの、知らない世界だのと言っていた。


頭の中を占めていた、黒い思いは暫くお預けだ。

リュックの中身だけでは、せいぜい三日くらいしか保たない。


死ぬ気は無い。なら、生きなければいけないのだ。


理不尽に腹を立てたら、更に理不尽な事になった。

一体何で私がこんな事に…


とりあえず、キャンディーを口に放り込んで、南へ歩き出す。


道すら無い森の中だ。

川でもあれば、川沿いに歩くとかできるのに。

ため息が出る。


それでも、夜になるまでには、なんとか安全な場所を見つけないとマズい。


夜には火が必要だろう。

鉈やノコギリは無い。

手で折れる灌木の枝を集めて、腕輪に収納しながら歩く。


下り坂のような感覚が、緩やかな登りになった。

丘を登っているような感じだ。


木々の切れ間から、大きな木が見える。

丘の上にそびえ立つ大樹。

白っぽい幹は美しく、枝は天高く伸びている。葉は少ないが、果実も見える。


他の木々とは違う何かを感じる。


大樹を目指そう。とりあえずの目的ができた。



少し安堵した気持ちの、隙をつくように、何かの気配がした。


後ろだ。

坂を駆け登り、間合いを取り振り向く。

猪のような獣がこちらを睨むように木々の間から現れる。


逃げたりしてくれないよな、バッチリ目が合ってるし。


魔法…使い方くらい教えてほしかった。

何かなんでも使えるっぽい事言ってたな。

氷…氷柱でも飛ばすとか?


両手に氷柱が現れる。

お、ああ、狙って投げるのは自信がある。

獣の頭に氷柱を投げる。


ガシッ

手で投げたくらいじゃダメか…

風、氷柱を飛ばせ!


グガァッ

刺さったけど…怒ってる。


雷、ピンポイントで落ちろ。


チュバァッ

ティザーくらいにはなった。チャンスだ。

風で刃を作れ…よし、飛べ風刃。


グギャッ

まだか…土、足元に穴を。

ズボッ


とどめに、火、小さく弾丸のようにゆけっ。


魔法、何となく分かってきた。


なんでそんなに躊躇い無く生き物を殺せるのか?

とす黒い気持ちがあるからだ。

今多分、私の顔は醜いだろうな。


でも、躊躇わずに済むのは、この場合は正解だろう。


猪っぽい獣に近づいて、運ぶ方法を考える。

また何か出て来たら面倒だ。

ちょっと考え、腕輪に吸い込む。


さっさとその場を離れ、大樹を目指す。


思ったより遠くて、森を抜けてから緩やかな坂を登り、まだ歩く。


日が少し傾いてきたような気がする。

午後四時くらいな感覚だ。


ようやく大樹まで10メートルくらいの距離かという所。


空から影がさして、大きな鳥がこちらを目掛けて来た。

友好的なムードではない。


鷲とか鷹とか?いや、大き過ぎるでしょ。

ちょっとスピードも速い。

爪も、嘴も鋭い。


風刃で首を狙う。

躱された。

突っ込んで来た。とりあえず躱す。


上昇するところに、風刃を複数作り、連射。

羽が飛ぶ。首にもかなりダメージ。


落ちそうになりながら、嘴をカッとあける。

何か飛んできた。危ういところで躱した。

いや、鳥でしょ?嘴あけて火の玉とか反則だよ。どこの竜だよ。


少し慣れた風刃で連射。

ブァッサァ〜みたいな感じで落ちてきた。


危ない鳥には、サバイバルナイフでとどめ。


ズルズルっと引きずって、やっと大樹の元へ行く。


本当に綺麗な木だ。

汚い手で触るのはいけないような気がして、ペットボトルの美味しい水を飲んだ後、水を魔法で満たし、手を洗う。


幹の直径は15メートルくらいか、白っぽくすべすべした、彫刻のような、でも、生命力を感じる、神秘的な大樹だ。


枝は下の方には無く、遥か高くに美しく伸びて、あまり多くない葉と果実が見える。


大樹の周りを歩いてみた。

最初に見た裏側には、まるで大樹から湧き出したかのような、小さな泉があった。


泉の水を手ですくい、飲んでみる。

力がわくような気分だ。

それだけではない。着地の時にできた手の擦り傷が消えた。


神木?いや、聖樹と呼ぶべきだろう。


黒い心が少し恥ずかしくなるような、神秘的な聖樹に見惚れる時間。


しかし、また空に影がさす。

さっきと同じような鳥が見えた。

聖樹の側で戦いはいけない気がして、樹から離れようとする。


また火を飛ばしてくるかと、身構える。

でも攻撃が来ない。

聖樹から5メートルくらいの場所から、鋭い爪や眼光を見せながら、羽ばたいているだけだ。


もしかして?

重力反発で、上昇してみる。鳥も上昇する。

聖樹の上まで上昇。鳥も上昇。

右に移動する。鳥も移動。

地面に降りる。鳥も少し上空まで降りる。


鳥さん、多分青筋たててるな。


聖樹から、多分5メートルくらいの範囲は安全圏になっているようだ。


旅をする人が、安全に休める場所。

癒しの水まである。


でも、朝起きたら、5メートル先にわっさわさ獣だらけとかは…無いよね?


鳥さん…諦めて帰らないかな…

チラッと見てみる。

駄目そうだ。エサを見る目だな。


仕方ない。

反対方向に走ると見せかけて、重力反発で飛び上がる。

安全圏を抜けた所で、勝負をかける。


風刃の連射だ。

この鳥は火は飛ばすし、スピードが速い。

ただ、大きいので、攻撃も当てやすい。


結局、火の玉が掠ったけど、15分くらいで落とした。


日がかなり傾いて、夜に向かう時間だ。

無粋な鳥たちも、腕輪に吸い込む。


集めた木の枝を取り出す。

生木はあんまり燃えないんだっけ。


なんとか火をおこす。

生木を風と火を組み合わせた…多分、温風で乾かしてみる。


いい感じに萎れた。

火にくべると多少火が大きくなった。

木の枝を全部取り出して、乾燥させる。


身体の中の何かが、ごっそり減った気がする。

泉の水を飲むと、回復するような気がする。


身体の中に、魔力があるのか。

そして、泉の水は魔力も回復する。


これ、アレだな。

回復とセーブポイントのある場所みたいだ。

暫くこの場所でレベル上げするのが正解だな。


リュックを取り出し、コンビニのおにぎりを出す。

賞味期限はもう気にしない。

おにぎりはあと二個ある。


ここで、いきなり獣を捌いて食べるとかは、自信が無い。


おにぎり二個、ペットボトルのお茶二本、キャンディーひと袋、クッキーひと箱。

チョコレート菓子ひと箱。

これだけで、二日くらいは保つだろう。


泉の水があるから、空腹感さえ凌げば、体力も魔力も大丈夫だ。

汗や土で汚れた服や身体。これをどうするかだな。


さっぱりしたいと思ったら、何か発動した。

全身をすうっと水洗いするような感じ。

髪も、汚れたスニーカーさえも綺麗になる。

また、便利な魔法らしい。


体感温度も、寒くない。

すっかり夜になった。

聖樹は淡い光を纏うように、ポウッと輝いている。


幹に凭れて、座る。何か心地よい。


月はこの世界にもあるようだ。

降るような星空を見上げる。


目を閉じて、心の中を探る。




物心がついた頃。

三歳くらいの風景が浮かぶ。

多分弟が生まれる頃だ。


お腹を空かせ、暗い部屋の中で座っている。

二歳上の姉は側にいない。


強烈な印象だった。

母方の祖父母に預けられた時だと思う。


連れて来た両親が帰ると、祖父が表情を一変させた。

「餓鬼は嫌いだ。覚えておけ」


祖母は黙って目を伏せる。

食事になると、座り方が気にくわない、箸の持ち上げ方が気にくわない。


そんな理由で、食事の席から暗い部屋に入れられた。私だけが。

次の食事も、その次も、

「お前のせいで、食材が勿体無い」

最初のおかずを出され続け、固く乾きながらカビが生え、嫌な匂いのする物を

「食べろ」

と、睨まれる。


涙が出たら、容赦なく叩かれ、暗い部屋に入れられる。

一挙手一投足に文句をつけられ、恐怖が心を満たす。


姉はどんな風だったか思い出せない。


最初の記憶がそんな感じだ。


弟を迎えた家は、楽しかった。

赤ちゃんの弟はとても可愛くて、愛しかった。


記憶の欠片を追う。


小学生になり、姉と私はピアノを習っていた。小さいながら、姉との違いは分かっていた。


姉を憎んだ事は、不思議に無かった。

憧れ、追いかける人。

姉は、テストは常に満点。容姿も優れていて、ピアノも才能を発揮していた。


私は努力した。勉強もピアノも。


両親は、多分、最初の子供が成績は常にトップ、ピアノもやすやすと年齢的には難しい曲を弾きこなし、それが当たり前になっていたのだろう。


98点のテストを見せて、殴られる。

「あと2点がなぜ取れない」

褒められた記憶は無い。


完璧な姉、待望の男の子の弟は可愛がられていた。


仕事の事でだろうか、すぐ機嫌の悪くなる父親の、怒りの矛先は私にだけ向いていた。


友達と遊ぶ事まで禁止された。

「お前なんかに遊ぶ資格は無い」


いつの間にか、食事を抜かれ、一晩中外に出される事が増えた。

近所の人に見つかり、親切心から

「こんな夜に外にいましたよ」

と、ドアチャイムを鳴らしてくれ、家に入ると、愛想良く応対した両親の雰囲気が一変する。


殴られ、泣けば、うるさいと、泣くのを我慢すると、強情だと。

どうすれば良いのか分からなかった。


私は暗い雰囲気を纏っていたのだろう。


学校でもイジメが当たり前になっていた。

男子に蹴られ、殴られる。女子からは無視されていた。

成績なら、姉がオール5で、私はほぼオール5時々4だった。

運動神経も悪くない。


小学生時代の写真を見ると、笑顔は無いが、客観的に見て、容姿も悪くない。


何がいけないのか、どうすれば周りに受け入れられるのか、全く分からなかった。


両親にイジメを打ち明けた。

間違いだった。


担任の教師に

「イジメられる側に原因がある」

と言われたらしい両親は、家に帰ると、激怒した。私に。


「お前のせいで恥をかいた」

暴力と、食事抜き、追い出される。


近所の人に見つからないように、寒い戸外で隠れる。


最近なら、児童相談所など、子供が助けを求める場所が、子供に教えられている。

残念ながら、少し前の時代だ。


中学生になり、イジメは直接的暴力ではなくなった。言葉の暴力と無視。


姉の輝かしい天才的な成績と、教師でさえ比べて言葉を放つ。

「お姉さんならできるのに」


唯一、見つけた救いは、部活だった。

両親は勿論反対した。成績が落ちるからと。


初めて出会った部活。

新体操に、私は魅入られた。

努力の上にある美しさ。


中学一年の秋の新人戦、元々強豪校だったので、団体戦は県大会優勝。

個人戦も、区大会、市大会を勝ち抜き、県大会三位を掴んだ。


両親は、部活については何も言わなくなった。


学校生活も、少しだけ楽な空気になった。


三年間、努力し続けた。勉強も部活も。


学業成績は、常にトップで、地元の最難関校に入った姉とは、相変わらず比べられていたが、学年5〜10位以内をキープしていた。


姉の学業のために、熱を入れる両親たちには、手伝いを越えた家事をさせられ、料理まで任せられていた。

信じられないかも知れないが、本当だ。


姉には余計な事はさせない。私はやめてしまったピアノも姉は続けていた。


弟は、自由にさせているようで、成績も悪くないようだが、100点でないからと殴られる事はない。


私だけが何故という気持ちは、もう心の隅に追いやられていた。


機嫌の悪い父親に、目立たない場所を殴られるのは、相変わらずだった。


鍛えた身体が、少しは耐えやすくなったくらいが、変化だ。


この頃には、何となく、私に対する両親の見方が、分かってきた。

自分たちの見たい私しか見たくない。

姉や弟は違うのだろうが、私は見たくない存在なのだ。


理不尽だと思った。

自分たちが、この世に生み出したのに、何故そこまで嫌悪されるのか。


努力しても否定される存在。


黒い思いが心に見えた。





いつの間にか眠っていたようだ。

目を開けると、聖樹から、はらりと、葉が一枚落ちてきた。

続いて、果実もひとつ、心なしか、ゆっくり落ちてきた。


聖樹の恵みだ。大切に腕輪に仕舞う。

変な体勢で眠っていたのに、疲れは感じない。


ペットボトルに水を満たし、顔を洗い、うがいをする。


何か食べるかと思い、腕輪を見て、昨日の戦いでステータスが上がっていないかなと気付く。


腕輪に触れてみた。


塔ノ沢雪乃、18歳

レベル、5

体力500

知力500

俊敏500

魔力500

スキル、【体術】【短剣】【言語理解】【文字認識】【魔法】火、水、風、土、雷、氷、

聖、闇、時空、重力、付与



レベル、上がってる。

能力が突出したものが無いのは、私らしいかなと、苦笑。


時空って何だろう?

付与は、何かに魔法を付けられるのかな?


リュックを取り出し、おにぎりと、チョコレート菓子をひとつ食べる。


薪になりそうな、木の枝を集めながら、戦いをして、レベル上げしないと、一生聖樹の側から離れられない。


リュックを仕舞い、立ち上がる。

薪を集めるには、聖樹からかなり離れないと森が無い。


辺りを眺め、聖樹の丘を囲む森の、一番近そうな方向へ、歩き出す。

火吹き鳥が来ない事を願いながら。


森に入り、木の枝を集める。

果実があったりするので、一応果実も取る。

食べられるかどうかは分からない。

勿論、その場で試すつもりはない。


油断しないよう、全方位に気を配る。

結構疲れるな。


左前方に、何かの気配を感じた。

まだこちらに気が付いてはいないようだ。

距離もまだ遠い。


あれ?もしかして、気配を探るのも魔法を使ってる?


そうなら、便利だ。

気配を探りながら、少しずつ移動する。

開けた場所を見つけないと、動き難い。


高い木の少ない、灌木に囲まれた場所に出る。

灌木の枝を折り、集めながら、気配を探る。


さすがに気が付いたようだ。

近づいて来る。

どんな獣だろう?

危なかったら、上空に逃げる。


木々の間から、チラッと見えた獣。

熊みたいに見えるけど、何か大きいよ?


難易度高いかも知れない。


ガサッと、灌木を分けて姿を現した熊?

いや、大き過ぎ。3メートルくらいある。

とりあえず地面を蹴って飛び上がる。


グォゥと唸り声を上げる熊。

上空から、火の弾丸を連射してみる。


結構当たったけど、ダメージは少ないみたいだ。


カッと口を開けた熊が睨みつけてくる。

うわ、危ない…また火の玉かい。

何で、鳥も熊も火吹き野郎なのよ。


氷柱の雨を降らせてみる。

弱点属性があればいいなと思いながら、次は風刃。


やっぱり、火を吹くせいか、氷の方がダメージを与えてる気がする。


氷を刃にできないか?

できた。やればできる。


氷の刃を風で飛ばし、頭を狙う。

頑張れ私。

たった二日目で、めげるな。


気合を入れて、氷の刃を放ち続ける。

時々くる火の玉を避けながら、火の玉は、氷の刃に当たると消える。


重力と、氷と、風。三つの魔法を同時に発動しているだけでも、充分凄い事には、気が付いていない雪乃。


20分くらいで、熊が地響きをたてて、倒れた。


疲れた。

素早く近づいて、腕輪に吸い込む。


聖樹の安全圏に戻ろうと、歩き出した。


むむっなんかマズい気配。

囲まれてる。

早過ぎるピンチだ。


どうする?飛び上がるのに、間に合うか?

嫌な汗が吹き出る。


群れの獣は、まだ無理な気がする。

今にも飛びかかってきそうな気配。


動けない…聖樹!聖樹の所に行きたい!


ドゴッ…ゴツン…


痛い…おでこぶつけた。

聖樹に。


聖樹が応えた?

まさかね。


泉の水を飲んで、回復した。


ちょっと、まさかとは思うけど、試してみようか。


昨日の森の出口。

距離は1キロメートルくらいあった。

強く思い浮かべる。


一瞬で景色が変わる。

瞬間移動だ。


聖樹!

ゴツン…

いや、聖樹の側とかにしないと、毎回おでこぶつけるよ。


時空魔法が、これかな?


ピンチになったら聖樹に戻れる。


これで、レベル上げが楽になる。

それでは、早速、昨日の森の開けた場所へ!


まずは、木の枝集め。

どのくらいの間、レベル上げを続けるか分からないから、薪はできるだけ多く集める。


気配を探るのも、忘れずに。


この辺りの獣は、火を吐くのが普通なのか?

最初の猪はどうなんだろう。


気配が、認識の範囲内に現れた。

小さめだが、四つ。

開けた場所の真ん中辺りに立つ。


群れにしては、少ない。

何だろうか。

木々の間から覗う。


おかしい、絶対、何か間違ってる。

この森、変だよ。


兎だ…けど、小学生の子供くらいの大きさだ。

兎の目は赤いけど、赤黒いよ、これ。


歯とか、牙みたいだし、足で蹴られたら死にそうな気がする。


気付かれたようだ。仕方ない。

戦わないと、レベル上がらないもんね。


氷の刃を準備。

危なくなったら飛ぶ。


兎の目がギラリと光る。

兎なのに凶悪な目つきをしている。


氷の刃を飛ばす。

他の三羽も気が付いたみたいだ。


やっぱり上空へ、飛ぶ。

ああ、また火の玉ですか。そうですか。


もう、氷の刃、首を刈れ。

氷の刃乱舞だ。

あんなの兎じゃないよ。


上空を飛びながら、氷の刃を量産する。

飛翔する動きもなかなか慣れて、いい動きをしているが、雪乃は勿論、気が付いていない。


最後の兎を倒して、今度は他の気配が無い事を確認してから、着地する。

昨日の今日で、ちゃんと着地しているのも凄いが、それも気付かない。


兎たちを腕輪に吸い込み、聖樹の手前に!


おでこは無事だった。


泉の水を飲み、木の枝を出す。

日の光で少しでも乾かしておきたい。


聖樹に凭れて休憩する。

腕輪の収納?獲物がどのくらい入るんだろうか。やっぱり頑張って捌いて食べないと、入らなくなったら、その辺り一帯がスプラッタだよね。


腕輪に触れてみる。

ステータス、上がってないかな。


塔ノ沢雪乃、18歳

レベル、10

体力1200

知力1200

俊敏1200

魔力1200

スキル、……


さっきの熊と兎で、上がってるし、微妙に上がり方が増えたし。


もう一回くらい、戦闘、いっとく?


ペットボトルに泉の水を入れる。


森の広場へ!


また、木の枝を集める。


猪と熊が出たので、仕留めた。今日はこのくらいで、聖樹の前!


最初の獲物の猪を取り出す。

うん?仕留めた時そのままに、血も乾いていない。

腕輪の収納?は、時間も止めるのか。


ならは、おにぎりは、とっておこう。


猪の足を切り、なんとか肉を、食べられそうな大きさに切る。

重労働だ。水を出して、洗いながら、皮を剥いだりする。


残りの猪は収納して、適当な枝に肉を刺す。

調味料は無い。

不味くても、食べるしかない。


焚き火をおこし、周りの地面に肉の枝を立てる。炙り焼きかな。


朝方見つけた果実を、水洗いして、毒でもあったら泉の水で回復できる事を期待して、泉の側で齧る。


皮が固かったから、ナイフで皮を剥く。

暫く待ってみたけど、毒は無いようだ。


焚き火の側に戻り、肉の様子を見る。


枝の向きを変えて炙り、匂いは良い感じだ。


もういいかな、食べてみる。

思ったより固くない。味付けがないけど、温かい食べ物は、この世界初めてだ。


串刺し肉四本、デザートに果実。

果実も、酸味があまりなく、リンゴに近い味だった。


暫くは、これで食べていけるな。


果実の皮は、穴を掘って埋める。


日が暮れる前に、果実を取りに行く。

戦闘はなしで、聖樹に戻れた。




















































毎日更新は難しいので、間が開く時が多いと思います。

最悪でも、週に一回は…頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ