神殿の街
神殿の総本山と言われる、レオルトの街に着いた。
貴族の力が強く、物価も高い。
庶民はどんな暮らしをしているのだろう。
レオルトは、リンダースと比べて、とても大きな街だ。
門に近いほど下町で、路地の奥は薄暗く、スラムがあるようだ。
冒険者ギルドを覗くと、規模はリンダースと変わらないし、依頼は多い。
ランクの高い依頼は、護衛がほとんどだ。
貧富の差が激しいなら、盗賊が多いかも知れないから、そういうことだろう。
朝、宿屋で目覚め、朝食を食べたら、リンデル王国の聖樹に移動して、恵みを受け、泉の水を汲む。
少し、北の山の側で狩りをして、レオルトに移動する。
レオルトの街を歩き、本屋を探し、地図を買う。
サルトリア王国と、レオルトの地図だ。
地図を頼りに、神殿を目指す。
街が広くて、神殿は遠い。
レオルトの街は、聖樹を元に発展したはずで、神殿は北にある。
神殿の南に王宮があり、そこから貴族街があり、貴族の家臣が住む場所、教会と南下して、高級そうな商店があり、少しずつ下町に向かう。
つまり、下町からは、貴族街や王宮を迂回して、かなりの距離を歩かなければ、神殿には行けないのだ。
それでも栄えている神殿だ。
相当な苦労があるのだろうか。
急ぎ足で歩く。街中で飛翔は駄目だろうから、ひたすら歩く。
多分、神殿行きの馬車があるのだろうと気がついたが、もう、昼を過ぎる頃だ。
歩く。馬車代を惜しんだ人みたいだな。
本当に大きな街だ。
貴族街を過ぎ、王宮を迂回する。
神殿が見えたのは、日が傾き始めた頃だった。神殿の門までようやく辿り着いたら、夕方だ。
ちょっと甘かったな。
宿屋に移動。
夕食を食べて、部屋に戻り、お風呂に入る。
明日からは、リンダースの宿屋に戻って、通うことにしよう。
朝起きて、朝食後、宿を引き払う。
リンデル王国の聖樹に寄り、レオルトの神殿前に移動する。
総本山なので、寄付と供え物を用意する。
リンデル王国の果実だけど。
門を入る。立派で彫刻が美しい。
リンダースの神殿に初めて行った時のように、身体を何かが通り過ぎる。
門番の部屋があり、門番がいる。
「リンデル王国から来ました。お祈りと、聖樹を見たいのですが」
ファリアさんの手紙を出す。
お供え物と寄付も渡す。
「少しお待ちください」
何故か眩しそうな顔をした神官だろう門番が、奥へ消える。
待つ。座るわけにもいかないから、立ったまま、待つ。
暫くして、足音が聞こえ、人が数人現れる。
「記帳はしたのか」
「いえ、まだです」
「ふむ、後で良いか」
現れた人物は、衣服からして、かなり高位の人に思われる。
神官を従えている。
「私はレオルトの神殿長オルストだ」
「初めまして、ユキノと申します」
「ファリアからの手紙も見た。神々の祝福を盛大に受けた者らしいな」
オルスト神殿長は一見太った俗物に見える。
「神殿に行く。ついて来い」
歩き出す神殿長に、ついて行く。
神官が一人一緒に来る。
門から見える神殿は、リンダースとは比べてはいけないくらい大きい。
神殿に入り、祭壇に向かう。
神殿長と神官が跪く。
雪乃も跪く。
旅の無事と師匠やリンデル王国の聖樹を思い、祈る。
続いて、八柱の神々の彫刻に、順番に祈る。
神殿長は、五つ光り、俗物を装っているが、神殿長に相応しい人物のようだ。
神官は二つ。雪乃はやはり全てだった。
神官は驚きを隠せないようだ。
神殿長は言う。
「ファリアの手紙にもあった。全ての神々に愛された者か。私は俗物で忙しい。神殿を維持するには、貴族の機嫌を取らないといかんからな。聖樹には案内させる。明日の朝また来るがいい。話をする必要があるだろう」
神殿長は、それだけ言うと、神官に雪乃を預け、立ち去った。
「ユキノさんですか。全ての神々に祝福を受ける人は、初めて見ました」
「そうなんですか」
「聖樹にご案内しましょう」
神殿の北側、彫刻の柱に囲まれて、聖樹があった。白く、彫刻のようで生命力を感じる神秘的な木。
近づいて触れる。
この木が、世界の始まりだと言う。
葉がはらりと落ち、果実も落ちてくる。
「聖樹の恵み」
「ご存知ですか」
「リンデル王国の聖樹に行きましたから」
「恵みも、受けに来る人は少なくなりました」
「そうなんですか」
聖樹の裏側には、やはり泉がある。
空けておいた瓶に汲む。
聖樹の果実は、リンデル王国のものはオレンジ色だが、この聖樹の果実は赤い。
聖樹ごとに色が違うのだろうか。
もう一度聖樹に触れる。心地よい。
それから、門に戻りながら、神官と雑談する。
神殿も、孤児院は開いているそうだ。
門で、訪れた人が書く記名帳に記帳する。
ユキノ、リンデル王国。
正確には、リンデル王国の国民か疑問だけど、リンデル王国の聖樹には縁がある。
嘘というわけではない。
明日の朝来るように、神殿長から言われたので、この後はどうするか考える。
もう12月だ。
冬のために、狩りに行こう。
リンデル王国の北の山。
この辺りで、狩りや採取をして、次の旅に備える。
夕方まで狩りを続け、リンダースに戻る。
前の宿屋に行き、部屋をお願いする。
夕食を食べて、お風呂付きの部屋で休む。
リンデル王国もサルトリア王国も、それぞれ大陸の北ではない。
冬はそれほど厳しくないのではと思う。
師匠は、冬になる前に街に行けと言ったが、あまり長く雪乃を引き止めないためだったように思う。
翌朝は、早めに朝食を食べて、リンデル王国の聖樹に寄って、レオルトに向かう。
神殿に移動して、門で記帳する。
神殿に向かうと、朝の祈りだろう、神殿長や大勢の神官、数人の冒険者が祈っていた。
雪乃も祈る。
祈りが終わると、聖樹に行く。
恵みを受けるためだ。
雪乃も恵みを受け、泉の水を汲む。
聖樹は、冒険者にとって、まさに加護そのものだと思う。
聖樹から離れ、神殿の方へ戻ると、神官が側に来た。
「ユキノさんですね。神殿長がお話を」
「はい、分かりました」
案内されるまま、ひとつの部屋に入る。
清潔で、神秘的な雰囲気は、リンダースの神殿と同じだ。
椅子を勧められ、お茶を出してもらう。
少し待つと、オルスト神殿長が来た。
立ち上がり、会釈をする。
「堅苦しいのは貴族だけで充分だ。座れ、私にもお茶だ。ポットごとだ」
前半は雪乃に、後半は神官にだ。
お茶が運ばれ、お菓子まで出された。
「さて、ファリアの手紙では転移者だとか、話を聞こう」
「はい、では」
姿の無い声の話をする。全て与えると言われた後、空中に放り出され、聖樹に辿り着いたところまで。
「ファリアの手紙と違いないな。大神ではとファリアは書いてきた」
「私もファリアさんに言われました」
「大神が世界を渡らせる、何かあるのかも知れんな」
「私は、私がいた世界では、信仰心もなく奇跡もない、俗な人間でした。私は世界を呪うような気持ちを持っていました」
「何故選ばれたか不審だと言うのか」
「はい、この世界には、神秘的な力があります。悪しき心が使うには危険な力が」
「大神は、世界を見守り、時に人を試すと言われている」
「私は試されているのでしょうか」
「そうだろうな。まあ少なくとも今のお前からは悪しきものは感じない」
「そうでしょうか」
「忘れておらんか、私は俗物で昼間から貴族と酒も飲む。しかしこの神殿は私を追放しない。この世界最古の神殿がな」
「そうでした。この世界の始まりの神殿がここで、オルスト神殿長は神殿を統ています」
「まあ、そういう事だ」
「何か、手掛かりはありませんか」
「神殿に伝わる話がある。全ての聖樹の加護を受けた時、道が開くと。信じるか信じないかは己次第だがな」
「全ての聖樹の加護ですか」
「ここにはいつでも来ればいい。腕輪を見せれば誰も邪魔はせん」
「腕輪が?何かの証ですか」
「よく見てみろ」
腕輪を見る。手首にはまり、抜けそうにない腕輪。宝石のような物が手の甲側の真ん中に大きな物がひとつ。
触れる時は自然とこれに触れる。
その両側に二つずつ、少し小さな宝石がある。今までまじまじと見なかった。
合計四つの小さな宝石。
そのうち二つが光を宿している。
オレンジと赤の光。
「気が付きませんでした」
「聖樹を巡れ」
「はい、そのつもりでしたから」
「全て巡り何があるかは分からんが、また来るといい。私が追放されないうちにな」
自虐的な言葉と、俗物的な外見。
しかし、間違いなくこの人が神殿長だ。
「ありがとうございました」
面倒くさそうに手を振る神殿長を残し、部屋を出る。
聖樹を巡ることは間違っていなかった。
西の大陸は過酷だと言う話だ。
港街エストを目指しながら、訓練をして、西の大陸の港までは早めに行こう。
冬よりも、雨季が大変だろう。
雨季はこの世界の六月くらいだ。
それまでにどこまで進めるか。
暫く拠点はリンダースだが、西の大陸の情報は少ない。
メイナード夫妻の息子さんは、聖樹を巡り、何を成そうとしたのか。
雪乃が旅をすれば手がかりは見つかるかも知れない。
リンデル王国の北に移動。
夕方まで狩りをした。
日曜日、タキガワに行く。
「今晩は」
「雪乃さん、いらっしゃい」
いつも通りだ。
椅子に座り、お茶や料理を頂きながら雑談する。
「神殿の街に辿り着きました」
「そうですか。雪乃さんにばかり頼るようで心苦しいですが、何か分かりましたか」
「やはり聖樹を巡ることが正しいようです」
「ほう、何か見つかりましたか」
「全ての聖樹を巡れば道が開くとだけ」
「そうですか。私たちも調べ物はしていますが、なかなか進展はありません」
時間が経つほど、みんな歳を重ね、帰還が辛いものになる。
「また次を目指します。皆さんの努力を無駄にしないためにも」
「私たちにできることがあれば、言ってください」
「勿論、お願いします」
また料理を食べて雑談する。
ホッとする時間だ。
明日からは、また訓練をしながら、エストを目指す。
宿屋の部屋で、お風呂に入り、ベッドに寝転ぶ。
師匠の物資もまだ返せない。
100年前の事件も分からない。
このまま進んでいいのだろうか?
少し迷う。
いや、進まなければ何も分からない。
迷っている時間はない。
そう自分に言い聞かせる。
今日は眠ろう。
翌日は、マルト商会に行き、買い取りをしてもらう。
聖樹をハシゴして、レオルトからエストに向かう街道を飛翔する。
進めるところまで進んで、リンダースに戻る。
火曜日から土曜日までは、聖樹をハシゴしたら、北の山周辺で、訓練と稼ぐための狩り。
昼の休憩をした後、エストへの飛翔。
毎日繰り返し、土曜日にはエストが見えた。
エストの街は、イストと似ているが、西の大陸に向かう船が出ているせいか、少し厳しい雰囲気がする。
外から見ただけだが。
リンダースに戻り、宿屋で夕食を食べ、部屋に戻り、お風呂で疲れを取る。
明日はエストだ。
翌日も、聖樹をハシゴしたら、エスト前に移動する。
城壁の門を通る。
冒険者証を見せて、問題なく入れた。
港に向かう。
船がいつ出ているのか調べる。
港の案内所を探して、入る。
西の大陸は、名前も分からない。
航路図を見る。
西の大陸は南北に分かれている。
南の大陸の南東の港はドルアという街だ。
北の大陸の南東にもラクアという港街がある。
南から行こう。冬だから、北は厳しいだろう。
エスト、ドルア間は、普通便が一週間で、高速便が四日。
普通便、銀貨50枚〜、高速便、金貨一枚〜。
今日が12月15日。
エスト、ドルア間の高速便は、火曜日17日にある。
窓口に行く。
「エスト、ドルア間の17日の高速便は空いていますか?」
「はい、どの種類の部屋になさいますか?」
「個室はありますか?」
「金貨二枚から五枚までです」
「お風呂付きの部屋は?」
「金貨四枚からです」
「では、金貨四枚、一人、お願いします」
支払いをして、チケットをもらう。
西の大陸行きは、リーゼル、イスト間より格段に安い。
冒険者くらいしか行かないからだろう。
それだけ危険な土地なのだ。
リンダースに戻り、魔道具屋を見に行く。
野営をすることは、あまり考えられない。
瞬間移動で戻れるから。
でも、備えはあった方が良い。
魔法を使う人用の物を見て回る。
魔力で結界を維持するテント。
金貨20枚だ。
買っておこう。
魔法が付与された袋も、買い足す。
生活雑貨屋では、瓶を買い足す。
まだ何か必要か、見当もつかない。
夕方、またタキガワに行く。
「今晩は」
「雪乃さん、いらっしゃい」
美味しい料理に飲み物。
安らぐ。
「来週、西の大陸に行きます」
「気をつけてくださいね」
「はい、ありがとうございます」
リンダースの宿屋は、また少し留守にする。
みんなの気遣いを感じながら、雑談をして、
時を過ごす。
宿屋に戻り、お風呂で寛いだら、ベッドに横になり、不安はあるが、前進していることを自分で確認する。
西の大陸では、戦いが増えるだろう。
ステータスを見る。
ユキノ、19歳
職業、冒険者、ランクA
レベル、800
体力300000
知力300000
俊敏300000
魔力300000
スキル、【体術】【短剣】【剣】【槍】【言語理解】【文字認識】
【魔法】火、水、風、土、雷、氷、
聖、闇、無、時空、重力、付与
上がっている。
西の大陸で通用すればいいけど。
今夜は眠ろう。
▶▶▶▶▶▶▶▶▶▶
豪華な部屋、テーブルには贅沢そうな料理。
酒の瓶もグラスもある。
退廃的な匂い。
ベッドに横たわり、男たちを纏わりつかせた美女。
「つまらん」
「サオリ様…我々は心からお慕いしております。どうかご機嫌を…」
「つまらんな、滝川、あの女は」
「サオリ様がお気になさるほどとは思えません」
「ふん、精々楽しい夢を見せてやれ」




