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帰還研究室

リンデル王国の王都、リンダース。

魔法学院。


魔法学校の上にあたる、大学のようなところだ。


各種の学校は、王国が管轄している。


魔法学院は、魔術ギルドとも繋がりがある。


リンデル王国にあるギルドは、冒険者、魔術、商人の三つだ。

それぞれ、王国が管轄する部門がある。


冒険者ギルドは、冒険者学校と関係がある。

商人ギルドは、商売をする者が申請して、認められた者が商人になる。

商工会みたいなものだ。


魔術ギルドは、性質上、王国にも全てが分かるわけではない。

魔法や、魔道具の研究開発、最も謎に包まれた機関だろう。


魔法学院は、魔法学校から上を目指す者や、冒険者ギルドからの推薦など、色々な者が在籍している。


たまに現れる、転移者は、魔法の力を大抵持ち、魔法学院に入る者もいる。


転移者が現れることは、昔からあったようだか、その仕組みも、魔術ギルドて研究がされているようだとしか分からない。


他の大陸に、転移者がいるかどうかも、今のところ不明だ。



魔術学院の、研究室棟のひとつ、二階の奥にある、研究室。


沢井健吾、橋本浩一、高木篤志の三人が、いる。


元の世界に帰る方法を探す、帰還研究室と呼んでいる。


こちらの世界は、貴族以外は姓がない。

学院内では、名前で呼ばれるし、お互いも注意深く、姓は呼ばないようにしている。


沢井健吾がこの世界に来たのは10年前。

助けてくれる人がいて、一年で言葉と文字を覚えた。


元が数学の准教授だったので、教師になろうと思った。

何故か魔法学院に招かれて、数学の講義を試しに行ったら、高度過ぎて、内容を下げることで、教授になれた。


この世界では、算数くらいで充分なようで、最初に試験をしたら、理解してもらえる内容が、ほとんどなかった。


算数の、少し上を目指す、ケンゴ教授の講義は意外と人気になり、週に三回の講義で、寮に住み、生活できるには充分な給料を貰うようになった。


研究室を貰い、学院の図書館で、本を読み、帰還の研究を始めた頃に、橋本浩一が、この世界に現れた。


言葉と文字を覚えた後、やはり魔法学院に招かれた。

講義は無理だった。物理学は理解してもらえない。


簡単な理科の講義、この世界に合わせるのに苦労したが、週に一度、行っている。


三年前に現れた、高木篤志は、日本史が専門だったので、ケンゴ教授の助手になり、寮で暮らしながら、研究をするようになった。


この世界で、一番理解に苦しんだことは、魔法だ。


人は魔力を持っている。

三人共、この世界に来た時から、魔力がある。


魔力を消費して、魔法が使える。


三人共、この世界の中では、一般的な人より魔法が使えるらしい。


転移者は、大体魔力が少し高いそうだ。


そのおかげで、魔法学院に研究室を持てたから、有り難いが、元の世界の常識から、最もかけ離れたものが魔法だ。



沢井が研究室を貰い、図書館の本を読み漁っていた頃、何も分からず、焦りや怒りに悩まされた。


結婚が少し遅くて、子供たちは小学校に上がるくらいの男の子と幼稚園児の女の子がいた。

突然失踪した夫を、妻はどんな思いで待っているだろう。


考えたら、気が狂いそうなほど焦る。


橋本さんが来て、落ち着きを取り戻した。


橋本さんは、院生で、恋人か婚約者がいたようだったが、大物だった。


焦りを見せず、研究になると、寝食を忘れてしまう。


寮の部屋にも帰らず、沢井が買ってきたものを、かろうじて食べたり飲んだりする。


転移者は、遥か昔から、時々現れる。

大抵は、帰還の研究をしたようだ。


中には、この世界に根を下ろし、結婚して生涯を送る者もいた。


転移者について、まとめられた本は無い。


貴族でもないから、特に記録はされないようだ。


歴史の本や、魔法の本に、時々名前でそれらしい者が書かれているのを、調べる。


なかなか進まない作業だ。


高木くんは、最初の頃の私と変わらず、焦りや怒りに苦しんでいるようだ。


無理もない。


平気でいられる方が、おかしいだろう。


突然知らない世界にいて、言葉や文字が分からず、何をすれば良いのか。


大昔の魔法の記録に、転移者が突然姿を消した話があった。

帰還したのかも知れない。


魔法の研究をした方が良いだろう。


魔法学院なので、魔法の本は沢山ある。


膨大な資料は集めたが、魔法については素人だ。

魔法の講義を聴講したり、他の研究室を訪問したり、時間が過ぎていく。


リンダースの転移者は、タキガワという料理屋で繋がっている。


毎週転移者が集まり、雑談する。


和食が食べられて、まるで日本にいるような気がする集まりだ。


焦りを少し、抑えてくれる。

そんな感じの時間を過ごす。



最近、新しい転移者が来た。

若い、娘さんだ。


不思議なことに、言葉や文字は分かると言う。


タキガワのご主人の滝川さんも、言葉や文字は分かったと言った。


新しい転移者の塔ノ沢雪乃さんは、私たちとかなり違うケースのようだ。


苛ついた高木くんが噛み付いていたが、研究室に招いて、詳しい話を聞くことにした。



暫くして、研究室に招待した雪乃さんは、驚くほどの話をした。


転移者会のメンバーは、みんなリンダースのすぐ側に現れた。


雪乃さんは、遠い北の森に、空中から落とされた。


よく、生きてリンダースに辿り着いたものだと思う話だった。


もしかしたら、そんな転移者は、他にもいて、人知れず亡くなっている可能性もある。


雪乃さんは、生きるために、魔力も高く、魔法もかなり使えるようだった。


つい、期待してしまう。


雪乃さんは、この世界を巡り、情報を集めて帰還にも協力するつもりになってくれた。


勿論、私たちも、資料を集め、関連のありそうなことを調べていく。


貴族に伝手があれば、王立図書館に入れるだろうし、魔術ギルドにも伝手がほしい。


雪乃さんが来てから、少し研究は活発になった。


10年だ。私は心の何処かで諦めかけていたのかも知れない。


この世界の旅は、獣や盗賊が出る。

魔物という、強力な生き物もいるそうだ。


そんな世界を、たった一人で巡ると言う雪乃さん。


私たちは、私たちにできることをしよう。


雪乃さんのおかげで、体調が悪く、心配だった橋本さんも、元気になった。

高木くんも、苛立ちを抑え、研究や講義の手伝いをしてくれる。


雪乃さんは、私たちとは違い、この世界でも生きていける力がある。


それでも、協力してくれるのだ。


後何年かかっても、もし私が倒れても、帰還の研究は、必ず成し遂げよう。

三人で、そう誓った。














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