表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瑠璃の女神一凛  作者: 桃巴


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/39

入口

 アリッサムは玉座の肘掛けを撫でる。イキシア王存命時を思い出しながら。


『城は我の体だ。我が不調の時は、城も不調だ。のお、リサ……最近我の体に異物が混入しておるのだ。見つけてくれんか?』


 イキシア王はアリッサムの頭を撫でる。アリッサムは、目をキラキラさせ頷いた。父からの問題は、いつもアリッサムの好奇心を満たしてくれていた。


「父上、今ならわかりますわ。異物がサフラン様を壊したのですね」


 アリッサムは哀しげに瞳を揺らした。そして、


「女王様、到着の伝がネリア塔城壁門から届きました」


 記録の用人が伝える。アリッサムは揺らした瞳に力を込めた。


「ネリア塔でお迎えするわ。あそこから全てが始まったのですから」


 ネリア塔……サフランの居塔であった。しかしあの日からネリア塔は閉鎖されている。用人は頷く。


「準備をしてまいります」


 下がった用人、王間はアリッサムだけとなる。アリッサムは玉座に座る。城の息吹を全身で感じた。


「父上、異物ですわね。……ええ、わかります。だから、ネリア塔に渡らなかった」


 王間に流れるアリッサムの声。凛とした空気がアリッサムを纏う。


 ネリア王が知らぬ真相、

 ギラが求める真実、


 アリッサムだけが、その答えを知っている。


『ガロ……信じているわ。異物を見つけてきて』


 まだ、ルルは飛来しない。きっとガロと共に帰ってくる。それでも、アリッサムは空を見てしまうのだ。綺麗な月よりも、羽を広げたルルの影を、探してしまうのだ。




***




 繋がれたネリア王は入城した。しかし、王間には連れて行かれない。城壁門の前で立っている。


「さっさと連れていけ! 新王とやらに会わせろ!」


 威勢よく発している。そこで、城壁門が開いた。繋がれた者、ネリア王はそれを確認する。威勢のよかった声が止まる。その者を睨んでいた。


「……知り合いですかな?」


 狸がニヤッと笑いながらネリア王に声をかけた。ネリア王はフンッと鼻を鳴らすのみ。


「ただいま戻りました」


 カズサは狸に報告した。狸はチラリと繋がれた者を見る。


「確かに守り人ギラである。よくやった」


「いえ、よくやったのは用人らです。我々だけでは捕らえられませんでした」


 そこでブリアの宰相も加わる。


「同じく、我々もですぞ。用人のおかげでネリア王をいち早く見つけられました。全く、用人とやらは……さすがイキシア王のお残しになられた遺産ですな!」


 用人らはオロオロと身を縮めるばかり。辺りの兵士たちは驚いた顔で、その会話を聞いていた。忌みとして蔑んでいた者が、この戦の功労者であることは確かな事実である。恥じることなく、国の大物たちが賛辞を送っている。


 ルピナスは大きく変わろうとしていた。いや、ルピナスだけでなく、ブリアもグラジオラスもである。この大陸に忌みは存在しなくなるであろう。アリッサムが望む未来だ。その一歩がここ城壁門の前で始まった。


 しばらく経つと、記録の用人と記憶の用人が訪れた。


「準備が整いました。どうぞ、ネリア塔へ」


 声は通る。皆が一瞬静まった。それを切り裂くは怒声。


「ネリア塔だとぉぉ! 王塔ではないのか?!」


 ネリア王である。廃されても一国の王を、王塔でなくネリア塔で迎える。それに憤怒したのだ。


「女王様は、サフラン様の居塔でお迎えしろと命じられました。そこに真実があるのだと」


 用人は怯むことなくネリア王に告げる。差異の瞳は、ネリア王を捕らえて離さない。


「真実を知りたくはないのですか?」


 堂々たるその対峙の姿に、周りの皆は一瞬アリッサムを見る。


「ネリア塔にご案内いたします」


 有無を言わさぬ声。用人は反転し歩み出す。宰相と狸らはネリア王を連れて、後に続く。カズサらも守り人ギラを連れて。用人らは、皆で頷きあった。着いていく者と、残る者。着いていくは、あの日を知る者である。


 もう、アリッサムの命がなくとも、用人らは自身の役目をわきまえている。一行はネリア塔へ……




***




 ーーホロホローー


 アリッサムはネリア塔に向かう。その頭上にリラが飛翔している。伝鳥を扱う用人がさっと腕を出した。


 ーーホロホローー


「創始は、伝鳥をお気に召したのね」


 アリッサムは呆れたように微笑む。管から文が取り出され、アリッサムに渡された。


『大河を越えられるは、リラのみ』


 グラジオラス防衛完遂の報告であった。


「グラジオラスの頭脳は、やっぱり創始だわ。こんな短い言葉遊びが出来るのですものね」


 文を用人に渡したアリッサムは、読んでみてと促す。用人は文を黙読し、口角を上げた。


「イキシア王様を思い出します」


 用人はそう答えた。アリッサムはうんうんと頷く。


「ええ、そうね。言葉を如何様に使えばいいのか……父上はいつも、最も有効な使い方をしておられたわ」


 用人共に在りし日のイキシア王を思い出している。


「ですが、最もイキシア王様を引き継いでおられるは、アリッサム様です」


 アリッサムは嬉しかった。誰もが女王と呼ぶ中で、伝鳥を扱う用人はアリッサムと呼んだ。それがアリッサムには嬉しかったのだ。


「フフッ、ありがとう。……さあ、行きましょうか。貴方もあの日居たわね」


 用人はスッと顔色を変える。アリッサムもまた。そして、ネリア塔を望んだ。


「……異物の通路を行きますわ」


 アリッサムは歩き出す。夜風がアリッサムの頬を撫でた。数人の用人はアリッサムの言葉を受け、先回りする。進むその先。ネリア塔入口は、朽ち果てていた。


 ……


 ……




***




「グッ、うっぅ」


 男が顔を歪ませる。脇にあたったそれは、ガロの鞘である。男は脇への一撃を受けながらも、剣を突き出す。剣はガロの左の太股をかすめた。


「ガロ様!!」


 ソラが叫ぶ。


 大河をルピナスに北上し、その中州。ネリア本軍の一部はダリア公にはつかず、敗走をしていた。それを追うは瑠璃隊。しかし人数はガロを含め十名。瑠璃隊の半分はダリア公と共にネリア城に向かわせた。残った兵のみでネリアの敗走兵を追っている。共にいたラジール隊は、大河下降へと下るネリア兵を追っている。


 ガロは左の太股をかすめた剣を、素手のままで握った。


「な、にっ」


 男は焦る。剣を抜こうにもガロの力はそれを許さない。ガロは戦の最中でありながら、剣を鞘から引き抜いていない。脇を打ち付けた鞘に収まっている剣を落とす。その右手は肘を突き出し、男の鳩尾に一撃を喰らわした。


「グフゥッ」


 男は踞る。ガロは男の首根っこを真っ赤な左手で掴んだ。次いで、男に縄をかける。しかし、それを阻止しようと、ガロの背後にネリア兵。


「ガロ様!!」


 ソラも応戦中だ。ただ叫ぶしかなかった。


 ーーホロホロォォーー


「っおわっ」


 ーーバサバサッーー


 急降下したルルが、ネリア兵の視界を遮った。ネリア兵がよろめく。ガロは掴んだ左手をそのままに、男が離した剣を掴んでネリア兵を振り払う。そこに応戦を終えたソラが来る。


「よく見よ! お前らの指揮官は捕まったぞ! これ以上逆らえば、この剣がこいつの喉を突き刺す!」


 ソラの叫びで、中州は静かになる。しかし、


「私に構うな! 反撃せよ!」


 男は命じた。しかし、皆は動けない。ガロの左手の血が、男の首筋を伝い……男の負傷であるかのように印象付けていた。


 ーーガチャンーー


 ネリア兵が剣を離す。


「クソッ」


 男は無念を声にした。


「さあ、行きましょうか。ネリアの王子よ」


 ガロは首根っこを持ち上げた。敗走をするは王だけにあらず。ネリアの王子もその一人。これを野放しにすれば、不安の種を残すようなもの。ガロはほっと一息し、ルピナス城を望んだ。


「帰還します、女神」


 ……


 ……




***




 ギラの横を用人が歩く。ギラを説得した用人だ。


「この塔に入るのは、あの日以来です」


 ギラは入城後、何も発していない。用人の発言にもまた、顔を向けるものの黙している。ただ、唯一瞳は用人を促していた。用人は頷いた。


「あの日、豪雨の日です。覚えていますか? 八年前の豪雨の日を」


 ギラは記憶を手繰りよせる。フゥと一息出し、用人を見た。ネリアでも豪雨であった日のことを思い出したようだ。


「正妃様はその豪雨の日に亡くなられました」


 ギラはサフランの話だと思っていたが、突如の正妃の話に眉を寄せた。用人は続ける。


「……あなたを捕らえる時、私は言いました。『サフラン様は、あの日豪雨に打たれながらも進まざるをえませんでした』と」


 ギラは最初、全く話を読めなかった。しかし……


 正妃は豪雨の日に亡くなった?

 サフランは豪雨の中を進んだ?

 用人は豪雨の日にネリア塔に入った?


 出された課題が頭の中で回り、弾けた。ギラは自分でも信じられない発想をした。しかし、あり得ないと頭を振る。だが、たどり着いた納得出来る答えはそれしかない。ギラはソッと用人に視線を向けた。否定してくれ、そんな思いで。しかし、用人は哀しげな瞳をギラに向ける。


「あの日とは豪雨の日。悲劇が起こった日です。正妃様は病死ではありません」


 そう、病死ではない……その後に続く言葉をギラは聞きたくはない。キッと用人を睨む。用人は静かに発した。


「私が伝えるはここまでです。後は……」


 用人はネリア塔入口を見る。ギラもその重厚な扉を見た。閉鎖されていたとはいえ、城内の居塔である。小国に面する穏やかな妃塔とは違い、ネリア塔は華美な造りである。ブリア塔と競いあう塔であるから。一行は豪華な扉を開けた。


 ……


 ……



 アリッサムは朽ち果てた入口から。

 ネリア王とギラを捕らえた一行はは豪華な入口から。

次話更新明日予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ