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瑠璃の女神一凛  作者: 桃巴


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瑠璃と緋色

 ルピナス連合軍は二手に分かれていた。


 一軍はルピナス義勇軍と小国派兵部隊。二軍はスオウ率いるグラジオラス軍である。


 さらに遊軍として二隊。こちらは連合軍出立の後に編成されたもの。カズサの隊と配備兵、用人数名で構成されている一隊。もう一隊はブリアの宰相の精鋭隊である。ネリアの遊軍と戦うは一軍。ネリアに侵攻するは二軍。守り人を捕らえるは遊軍カズサ隊。


 遊軍宰相隊はルピナス城内である。宰相はブリア王より、成果を上げよと命じられている。ルピナスに留まるはそれに応えられない。ネリアを見つめるアリッサムの横で、宰相は声を上げた。


「どうか、出陣の許可を!」


 と。アリッサムは視線を変えない。


「お母様にお会いになってください」


 宰相の娘、側室のことだ。宰相はルピナス城に入ったものの、側室とシオンにはまだ会っていなかった。


「いえ! 戦中にございます。どうか、出陣の許可を!」


 宰相は必死だ。


「恥を忍んで申し上げます! この戦いでブリアの力が皆無であるならば、ブリアの地位は地に下がりまする。いえ、もう地位などの問題ではありません。


娘の圧政により、ブリアはすでに他国から蔑んで見られておりましょう。


グラジオラスを前に戦わず、逃げ帰るという失態も……


ここに居ることさえ、憚られる事態だとは思っております。


しかし! どうか最後の機会をお与えください!」


 ーーコツコツーー


「お父様……」


 宰相の背後から。宰相は振り返らない。


「どうか! 出陣の許可を!」


 宰相の悲痛な顔。アリッサムは振り向いた。


「お母様、ここには宰相と狸しか居りませんわ。明らかにすべきです」


 アリッサムは、側室の手を握るシオンに顔を向ける。


「シオン、お祖父様よ。さあ、顔を見せてあげて」


 アリッサムに促され、シオンは側室共々宰相の前に歩んだ。宰相はフッと力を抜かせた。アリッサムに小さく頷く。


「リアンナ……」


 側室の名だ。宰相はリアンナを優しく見た。その手に繋いだシオンに視線を動かした。


「シオン様」


「はい、お祖父様」


 宰相はシオンと瞳を同じくした。シオンは照れたように笑む。


「よくルピナスにお戻りになられました。シオン様……」


 シオンはルピナスの王子だ。宰相は頭を垂れる。


「あ、はい。えっと、姉上?」


 シオンはどうしていいかわからず、アリッサムを見上げた。


「宰相、抱き上げてください。シオンにも見せないと」


 アリッサムはネリアへと視線を戻した。宰相はシオンを抱え、アリッサムの横に立つ。リアンナはその後ろで潤んだ瞳をしていた。アリッサムがリアンナの代わりに圧政の事情を話した。


 ……


 ……


「……お母様のおかげなのです。今、ネリアと戦えるのは。宰相、ブリアはすでに手柄をたてておりますわ」


「……ですが、それはリアンナの手柄。ブリアは何もしなかった。せめて、この戦に出陣させてくだい」


 宰相は事情を知ってもなお、ブリアの体面を守るため、出陣をしたいのだ。アリッサムは親書で言っていた、仲間連なる地となると。そこにブリアも入りたい。このままでは、ブリアは……


「宰相、秘密を知りたくはないですか?」


 突然アリッサムはそう問う。守り人に探られた最大の秘密。それによって、リアンナは悪者にならざるをえなかった。そうしなければ、ルピナスを守れなかった。


 宰相は疑問に思っていたものの、それは訊かずにいたのだ。何よりもブリアの出陣が頭を支配していた。しかし、考えてもみてば、その秘密を探られなければリアンナは圧政などしなかったであろう。さらには、このような事態にはならなかったはずである。


 この場でアリッサムがこれを口にしたこと、それに意味がある。宰相は、しばし考えた。出陣を頭から退けて、考える。


「……先程、明らかにすべきと」


 アリッサムは『ええ』と答えた。宰相は周りを見る。確かに、今この場に居るのは、


「宰相、ええそうです。この場が必要なのです。この場には、宰相以外は秘密を知る者だけなのです。


グラジオラスの者もいない。

小国の首長たちも」


 宰相は頷く。狸もあわせて頷いた。用人も今はいない。回廊には、アリッサム、宰相、狸ら。そしてリアンナとシオンだけ。宰相は気ばかり焦っていたと、反省した。アリッサムはこの場を設けるために、ブリアを待たせている。


「シオン、わかった?」


 幼いが、話が全くわからない歳でもない。シオンはコクンと頷いた。


「守り人に見られた。だから」


 シオンはそう言って、夜が始まった空を見上げた。


「シオン」


 リアンナが震えた声でシオンを呼ぶ。


「お母様、ブリアに知らせずして、グラジオラスに明かすわけにはなりません。創始はシオンの後見を引き受けてくれましょう。しかし、まず知らせるは宰相に」


 アリッサムはそうリアンナを制して、宰相に向き合う。


「宰相、シオンを見てください」


 宰相はシオンを見る。月が映った瞳はキラキラと輝いていた。そして、シオンが宰相を見る。


「な、に? ひ……いろ?」


「『緋色の王子』です」


 瑠璃の女神は告げた。


「忌み……」


 宰相はハッと口をつぐんだ。


「はい、瞳が差異なる者。僕は『忌みの緋色の王子』です」


 シオンはハッキリと答えた。宰相は呆然としている。


「シオンは月を見ると、左の瞳が緋色になります。緋色の王子はルピナスを背負う者です」


 アリッサムは未だ呆然としている宰相に話しかけた。


「宰相、父上もお母様も悩んだのです。私の瑠璃も秘密にしていました。シオンの緋色も隠すしかなかった」


「それを! ……探られたのですね」


 宰相はやっとアリッサムに応えた。


「ええ、私の瑠璃ではなく、シオンの緋色を知られてしまった。守り人はネリアの間者です。


守り人は、お母様を脅したわ。でも、お母様は屈しなかった。あえて、悪者になって守り人を命じる立場を貫いたの」


 宰相は『ああ』と声を漏らす。慈悲の表情でリアンナとシオンを見つめた。


「お父様……」


 リアンナはか細く呟いた。


「お祖父様、僕は忌みを恥じていないよ。『ルピナスを背負うは緋色の王子』僕は緋色の王子だもの」


 宰相の頬に涙が伝う。


「ええ、そうでございます。そうでございますとも」


 宰相はアリッサムに頭を垂れる。この場は必要であった。


「宰相、出陣を許可します! 瑠璃の狸ら、そして宰相が守ってくれた用人を託します!」


 ーーバタバターー


 待っていたかのように、側室に助けられた、宰相に助けられた用人が走ってくる。シオンを抱く宰相の前に整列した。


「我らをお使いください! 我らの活躍が後のシオン様のご時世を支えます!」


 宰相は、用人らにも頭を垂れた。シオンの緋色は用人にも知られていた。共にあの通路に居たのだ。気づかないわけがない。


「宰相、前線に行っていただきます。一軍はすでにネリアに侵攻しています。それには追い付かないでしょう。ですが、グラジオラス軍は城内戦に弱い。


……それに、ネリアの王はきっと城を捨てますわ。宰相ならネリア王を捕らえられましょう」


 アリッサムは出陣を命じた。


「はっ! 必ずやネリア王を捕らえます!」


「ええ。あっ、それと、ダリア公はご存じね?」


「え? はい」


「ネリアの新王はダリア公ですわ」


 アリッサムは軽やかに告げる。宰相は驚いた。そこまで準備済みなのかと。しかし、目の前でアリッサムがくるりと反転し、イチリンの瑠璃を見てストンと納得したのだ。


 ブリア王に送られた親書を思い出す。月の出る女神の刻だ。女神は全て見えている。宰相はシオンをリアンナに預け、ソッと場を後にした。


 ブリアの精鋭隊と狸ら、用人が出陣する。用人はアリッサムである。アリッサムは城に居ながらにして、全てを見ていた。用人とアリッサムは繋がっている。


 捕らえるはネリア王と、守り人。




***




「突撃ーー!!」


 スオウ率いるグラジオラス軍がネリアに侵攻している。一軍はネリアの遊軍と戦い、足止めしている。脇をすり抜け、二軍のグラジオラス軍が攻め込んでいく。


「ネリア王を捕らえるぞーー!!」


 城に向かってなだれ込んだ。

次話更新明日予定です。

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