大義②
ーーザシューー
「な、なにを!」
ーーザシューー
真ん中の道、守り人率いる道では惨劇が繰り広げられていた。
「そ、そなたが、何故?」
ーーザシューー
答えることもなく、バタバタと倒れていく。むくろが増えていく。
「お前たちに用はないからだ」
守り人は、最後の一人を片付けた後に応じた。もちろん、それに答えるはずだった者は、皆むくろになっている。
だが、
一所に固まった者たち。むくろになっていない者たちだ。見繕った用人である。
幼い男の子。
ドレスの女。
甲冑の着けた男たち。
皆、用人である。
「さてと、お前たちはまだ役に立つ。いやいや、これからが本番だ」
守り人は剣を幼い男の子に向ける。
「殺されたくなければ、従え」
冷ややかな声だ。用人たちに選択の余地はない。
……
……
右の道、登り道では女がドレスの裾を用人に持たせ、ぶつぶつと文句を言いながら登っていた。時折、後ろを振り向く。分かれたシオンのことが気がかりなのだろう。だが、その視線は別の幼い男の子に向くのだ。
「早く歩きなさい! 先に到着してシオンを迎えなきゃいけないのよ!」
遅れをとって着いてきているのは、シオンの身代わりの幼い男の子だ。
「は、はい!」
男の子は小走りで女の横に。
「……」
女はじっと男の子を見る。汗だくでハァハァと息づかいが苦しそうだ。
「……休憩よ!」
女は叫んだ。前方の女の臣下が、振り返り怪訝そうな顔をした。
「何よ! 疲れたのよ、ちょっと休むだけよ!」
女は頬を赤くした。忌み子に、温情をしめしたのだろうか? シオンと同じ年頃の男の子に、思わず優しさをみせた。右の登りの道、女の周りをぐるりと用人が囲む。珍しく、臣下たちは女とは離れた場所で固まっていた。女の所まで下る労力を使いたくなかったからだ。女はその前方の固まった臣下たちに背を向け、登ってきた坂を見る。それから、横にちょこんと座る男の子に話しかけた。
「のお? 用人頭がいないのお?」
と。ネロのことだ。ビクンと男の子の体が跳ねた。もちろん、周りの用人たちもである。
「何人かえ? 我々に捕まらなかったのは?」
背後の臣下には聞こえていない。今、女の周りには用人だけだ。女の周りで緊張が走った。その様子を女はニヤリと笑って眺めている。用人の動向を愉しげに見ているのだ。
「のお? 答えてくれぬかえ?」
女はわざと幼い男の子に問い掛ける。その顔を近づけて。守り人と同じように、女も男の子に言葉の剣を向けた。
……
……
「いいか?」
守り人は用人一人一人に鋭い視線をなげた。皆、忌み者。その瞳を地に移したいのだが、守り人の腕に抱えられた幼い男の子を見上げていた。男の子の首筋に短剣があてられている。
「お前たちは先に行き、この惨状を伝えるのだ。『グラジオラスに襲われ、忠臣たちは殺された』と」
守り人の発する内容に、用人たちは目を見開いた。
「おいおい、それが本当のことになる。お前たちがその本当のことを言わねば、こいつは死ぬよ?」
短剣がスーッと動く。
「やめて!」
「やめてくれ!」
用人たちは叫んだ。守り人はクックッと笑った。
「いいな?」
用人は頷くしかなかった。
「そろそろグラジオラスの追っ手も来よう。走っていけ。ちゃんと伝えるのだぞ」
守り人は、後ろを振り返りながら進む用人に、最後まで隙を見せず男の子に短剣をあてていた。用人たちの姿が曲がり道で消えていく。守り人はそれを確認した後、男の子を背に担ぎ上げた。
「いいか、しっかり掴まっておけ。崖を進むぞ」
言ったそばから守り人は左の崖に向かって飛び降りた。男の子は必死に守り人にしがみついている。守り人が向かう先、それは三又から左の険しい下りの道に進んだシオンの元だ。
『大義を手にいれねばな』
と心の中で呟く。そして、
『あの女……、まあいいさ、捨て置けば。もう不必要、大義さえこちらにあればいいのだ』
女が一番に信頼していた守り人は、女を捨てた。
「小賢しい手を使いやがって。ムカつくぜ」
悪態をつき、守り人は崖を下っていった。
……
……
「シオン様、大丈夫ですか?」
女の用人がシオンを伺う。
「うん、平気」
女はシオンを背負って下りの道を歩んでいる。守り人の指示を守り、ゆっくりと。
シオン率いる一行には、他と同じく臣下と用人がいたが、他と違うのは臣下が力のないルピナスの者だということだ。
女の一行の臣下は、ブリアから乗り込み、ルピナスを侵した者たちである。女の忠臣と言ってもいいだろう。女の親族がこぞって女に寄生したようなものだ。
そして、それとは反対に守り人の権力に寄生したのが、むくろになった者たち。イキシア王統治の時代に、中位であった兵である。自身の力は高位であると自負していた身分に不満を持っていた者を、守り人は取り入れた。勢力を築くため、そして、高位の兵を退かすためである。
つまり、古株の武官や王の手持ちの隊、軍を取り仕切っていた指揮官、……アリッサムの守護隊も。それらを退かし、守り人は勢力を手に入れた。その勢力を先ほど切り捨てた。不要となったから。忠臣と言えども、皆が見ている先は自身の保身と繁栄だけである。
女も守り人も、上手くそれを指揮していた。偏った振り分けでありながら女がそれに異論を唱えなかったのは、そういうこうである。本来なら、シオンを兵が守っているはず。つまり、守り人の勢力がシオンの元にいるはずだ。だが、守り人の振り分けは見事なまでにそれぞれの勢力で分かれていた。
ルピナスを裏切った、ルピナスの忠臣がシオンに。
女には寄生した親族が。
守り人には築き上げた勢力が。
「シ、オン様ぁ、ヘェ、ハァ、も、駄目です。少し、休みましょう」
忠臣がへたりこむ。ルピナスの忠臣……皆が文官であるため、足腰、体力はシオンよりもないかもしれない。そんな文官だからこそ、屈するしかなかった。否、時代の勢力に従っただけ。保身に走っただけの者たちだ。
用人たちは呆れる。あまりの体力の無さ、そして危機感のなさに。
「……シオン様、どうされますか?」
兵隊の代わりに周りを固める用人は、シオンに問うた。
「う、うん、そうだね。休もう」
シオンも危機感がない。いや、幼い王にそれは望めないだろう。この休憩がシオンに味方する。
シオンを追っているのは、守り人、そして三人の古狸だ。
守り人は崖を下り終え、シオンが通ったはずの道を見て舌打ちした。まだ、シオンの一行はここを通っていないようだ。痕跡がない。
ゆっくり進んだこと、休憩をとったことで、守り人が予想していた進行の度合いと違っていた。
守りがシオンの元にさらに駆け出した時、
「おお、あれだな」
狸の一匹がシオンの一行を視界にとらえた。
「随分のんびりなものだ」
もう一匹がへたりこむ忠臣を呆れながら言った。
「いやいや、功績ではないか。あれたちのおかげで、大義を敵に与えないで済むぞ」
狸たちは笑いあう。その声はシオン一行に届いていた。
次話更新明日予定です。




