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ハッピーエンドした後の異世界攻略  作者: らいむらいふ
ハッピーエンドした後の異世界
9/53

君の為に走る - run for the you -

ラカスとの戦闘実演で魔法を使う為の気力が無いと分かったリュウト

しかし負い目を持つ訳でもなくただ、普通の人間として強くなる事を了承する


元々ラカスに一発も決めれない様なら護衛以外の役職を与えようとしていたウェンズだが

あまりの数をラカスに決め、更にはラカス自身も彼を見所ある奴と納得した


その後もリュウトはラカスから兵士独特の体術を教え込まれ目まぐるしい速さで覚えていった



「お前、体術だけでいいのか?剣技や銃の使い方も教えてやると言うのに、はぁ……」


「ああ?そんなん、持って無かったり、奪われたら意味ねぇだろ?それに俺は道具は使わねぇんだ」



息を切らしながら、何度も何度も実演し、リュウトもラカスも殴り殴られた

もう駄目と言わんばかり2人とも芝生に倒れ込んだ



「はぁ、はぁ、どうだ?さっきより、俺の動きが見えるだろ?」


「はっ!そんなもん今更……はぁ……見えたところで……また俺が勝つさ……はぁ……」



そんな光景を見ているウェンズとライム

2人は芝生の上のベンチに腰掛けて、2人のやり取りを見ていた



「彼はなかなか人を惹き付けるねぇ、同じ兵士の部下にもキツク教えるラカスが、あそこまで親身になるとわ……」


「そういえばリュウト、何十人も相手にしてたとか言ってたなぁ~」



ライムは初めてリュウトに会った、裏路地での出来事をウェンズに話した

3人のごろつきを素手で倒し、降参するごろつきに馬乗りになりひたすら殴り続けた事を



「ん~、彼は不良って奴だな。しかも今までどんな奴等を相手に喧嘩してたか分からんが、スイッチが入ると限度を知らない。さっきのラカスの時も、笑いながら殴ってたし」


「ええ、それが唯一リュウトの怖いところだと思うの。今みたいに、最初から本気じゃないと分かっていれば、あーやって立ち上がるのを待ったりするんだけど……」


「ライムはリュウトをどう思うんだい?正直ライムが誰かを連れて来るなんて初めてだったし、しかも家にも泊めてあげるなんて」


「私は、リュウトはとてもいい人だと思うの!言葉は汚いし、喧嘩っ早いし、ちょっと乱暴だけど、だけど、一緒にいて笑っていられるの」


「……過去を話す事も出来るのかい?」



その言葉を聞くと、ライムは俯き、膝の上で手を固く握り震えた・・・



「今は、まだ無理かもしれない。でもそれは私自身が……耐えられないから……」


「そうか。無理はしなくていい。君の性じゃない。」


「でも、私自身が強くなったら!その時は……その時は、リュウトに話そうと思う」


「そんなに彼を信用しているのか。たった2日前に会ったばかりの彼を。やっぱりリュウト君には、強くなってもらわなきゃな!はははは」



声を張り上げて大きく笑うウェンズ

その声を聞いて喧嘩にも見える実演訓練をしているリュウトとラカスも振り向き

ウェンズの提案で今日の訓練を切り上げ昼食を摂ることにした


ラカスは用事があるといい席を外し、

食室のテーブルにはリュウトとライムとウェンズの3人が並んでいた


メイドが食事をテーブルに並べ終えると、リュウトはすぐに食べ始めた

礼儀もなってない食べ方にライムは恥ずかしがり、メイドと執事は呆れた視線を送るが

ウェンズだけはそれを笑っていた



「リュウト君はいったい、現世で何をやっていたんだい?」


「ん?俺は高校生だ!」


「ほう?高校生かぁ、じゃぁ歳もライムと近いんだなぁ。今は何年生だい?」


「高1だ!本当なら高2。サボりすぎてダブったんだ」


「じゃぁ歳は17か?」


「ねぇ、ウェンズ?こうこうせい?とかなんなの?話に着いて行けるみたいだけど、分かるの?」



しまった!と言わんばかりの表情でその場で即席に見繕った「昨日リュウトに聞いたんだ」とう言い訳でで何とかごまかすが

「昨日聞いたのにもう忘れちゃったの?」という鋭い指摘をもらい焦るが

「ごっほん!」と嘘丸見えの咳払いをし話を変える

リュウトは聞いてるのかいないのか、食べるのに夢中だ



「ところで2人はこの後どうするんだい?なんか予定はあるのかい?」


「ん?俺は特にねえな。ラカスもどっか行っちまったから訓練も出来ねぇしな」


「んー、私も特にー、あっ!そうだ!」


「なにかあるのかい?」


「えっと、リュウトはいつも同じ服着てるでしょ?動物の革の服を……」



ライムはまだ違和感があるようで「動物の革」と言う辺りはかなりフェードアウトし小声

ウェンズは知っているだけに普通に聞き流す



「それでね、服を買いに行くなんてどうかな!って」


「服なー、俺はこれ気に入ってんだけど、流石にずっとこれじゃ汚ねぇな。よし、そうすっかな」


「うん!そうしよう!」


「あっ!でも俺金ねえかんなぁ……」



リュウトはじーっと無表情の真顔でウェンズを見る

えーーっとか言いそうな顔でウェンズも見返す



「しょうがないねえ。じゃぁ、先に1週間分の報酬を渡そう。前貸しだ」


「流石!やっぱ王様はちげえなあ!」


「よかったね!リュウト!」


「おうよ!」



昼食を終えリュウトとライムは街へ出掛ける


そこはリュウトが目覚めた始まりの街

この国で最も盛んな所で家具も食料も雑貨も服もなんでも揃う

値段はまちまちでここに来る人は皆お買い得な物を見つけて歩き回る



「ねぇリュウト!ここ行ってみようよ!?」


「お、おう」



最初に入ったのは最近流行りの若者が着る様な服を並べた店

流行りと言っても異世界ならではのって感じで現代とは程遠い



「んー、派手だな。そしてなんで殆どの服がヒラヒラしてんだよ」


「だってそれが今の流行りだもの。リュウトも着てみたら?」


「嫌だね!こんなんじゃ喧嘩した時に掴まれて不利だろ」


「もー!喧嘩前提で服を選ばないで!」



ライムが選ぶ服はヒラヒラふわふわカラフルになり

リュウトはそれを却下する

リュウトが服を選ぶと現代でいうスラックスとTシャツになり

ライムは「おじいちゃん見たいと」と言い却下する


あれこれと店を変え服を選ぶが納得するものが見つからず1時間くらい歩き続けた

その中でリュウトはガラス越しに何かを見つけた様に店へと入って行き

その後ろをライムが付いて行く



「これ、いいな。動き易そうだし、俺のいた世界でこーいうの着てる奴がいるんだよ」


「へー、それ船の帆と同じ生地で作ってあるみたいね。でもなんかブカブカしてない?」


「そうか?こーいうの見た事あるから普通としか思わねえけど、ボトムスはこれにするぜ!」


「ふうん。まぁリュウトが気に入ったならそれがいいよ!じゃぁそれに合うトップスも探さないと!」


「上はライムが選んでくれ!なるべく動き易いのがいいな!」



その後ライムがあれもこれもと選ぶが殆どがヒラヒラふわふわ

その中からリュウトが2着選び買い物を終え「せっかくだから」とライムの提案で着て帰ることにした



「どうよ?あんま変じゃねえら?」


「うん!あんまり見慣れない格好だけどとても似合ってると思う!」


「そうか!それならいいや!」



トップスは長袖でフードの着いた黄色いパーカーと

どこにでもあるような黒いTシャツ


リュウトが好んで選んだボトムスは黒く、腰から下が極端に太く、足首でキュッと縮まっている

現代で言うニッカボッカにかなり近い物だ


買い物を終えた2人は城まで戻る

話す事に慣れてきたリュウトはいつもの様に他愛も無い会話も途切れる事無く楽しんでいた

だが城に戻ると兵はドタバタと駆け回り異様な空気が流れていた

気になった2人は少し駆け足で城の中にいるウェンズの元へと急ぐ



「ウェンズ、何かあったの?皆慌てているようだけど……」


「戻って来たか、ライムにリュウト。実を言うとな、裏の門を見張っていた門番が殺されたんだ!!」


「殺されただと!?」



異様な雰囲気はこの事件のせいだった

ウェンズは事情を戻ったばかりの2人へ説明する


殺されたのは2人の門番

2人とも胸にナイフが刺さったままで争った形跡は無く、不意打ちか相当の手練れ

犯人はまだ分かっていないが、裏門を知っているのは城の兵士とメイドと執事

身内を怪しむと同時に疑いたく無いという気持ちがウェンズの中で交差しているようだ



「現場にはメモが一通置いてあった」


「メモ?いったい何が書いてあったの?」


「太陽が半分沈んだ時間にウェンズ王、ラープ・ライム、そして異国の男3名は城の屋上へと来い」


「なんだよ……それ・・!?」


「異国の者って……もしかして?」


「私が考えるに恐らく、リュウト君、君の事だろう」


「リュウト!?なんでリュウトの事を!?」


「分からない。だがこの事からして更に内部の者が怪しくなったとう事だ。それともリュウト君は他の誰かに自分の正体を話した覚えはあるかい?」


「いや、誰にも言ってねえ!ライムと、ウェンズと……2人だけのはずだ!」


「そうか、とりあえず時間までもうすぐだ。兵士も連れて今から屋上に向かう」



3人は20名ほどの兵士と共に屋上に向かい、そこで待機した


太陽が沈み始め丁度半分といった頃に遠方から黒い影が2つ空中を浮遊してこちらに向かってきた

スピードはさほど速いくはない、しかしその場にいる全員が不安と恐怖を抱えていた


影は目の前で止まる 黒いボロボロのマントを被り、目だけ赤い黒のマスクを着けていた

そして影はリュウト、ライム、ウェンズを確認すると口を開いた



<初めましてウェンズ王。ライムさん。そして異国の方>


「なぜ俺の事を知ってる!!」



影の声はまるでボイスチェンジャーを使ったような高い声だが、ラジオの様に雑音交じり

おそらくマスクのせいだろう どお考えても加工された声だ



<今からいう事を素直に聞いて欲しい>


「こっちは兵士を2人殺された!お前達が犯人だろう!?」



ウェンズが珍しく声を荒げるが、マントの2人は気にもせず返事はしなかった



<異国の者よ、我々と共に来い。そして、ウェンズ王よ。我々が去るのを大人しく待て>


「はっ!?誰がテメェ等なんかと行くかってんだよ!!顔見せろや!」


「その通りよ!あなた達はいったい何の為にこんな事を!?」


<これが最後だ。我々と来い。異国の者よ。サクバス様がお呼びだ>


「いってぇ誰だよソイツわ」



リュウトは皆の方を振り返る


だが、その名を聞いたウェンズも、ライムも、兵士も硬直し驚愕の表情を浮かべていた

兵士の中には膝を地面に突き怯える者までいた



「おいライム!ウェンズ!誰なんだよ!?」


<七つの大罪において序列2番目の魔女、それがサクバス様だ>


「魔女だぁ?今更魔女だとか言われても不思議じゃねえが、俺はそんな奴知らねえな!!」


「な、なぜ……なぜ魔女がリュウトを呼ぶ!?」


<時間だ。ここからは少々手荒にやらせてもらう>



マントの2人は両手を前に突き出した

その瞬間あたり一面に黒い霧が充満し視界を塞いだ

霧を振り払う様に両腕を振りまわすリュウト

しかし霧は濃く一向に消えない


「リュウトー!!きゃああああーーー!!」


霧の中からライムの悲鳴が響いた


「ライムー!!!」


ライムの名を叫ぶが返事は無くリュウトは我武者羅に前へ走り出す

すると霧を抜け視界が戻るが、既に離れた空中にライムを抱えたマントの2人が飛び去っていた


「ライムーー!!!」


声が届いているのかどうかすら分からない

影は徐々に小さくなり、そして消えた


「くっそおおお!!!」


倒れ込み地面を殴るリュウト

霧が薄れその中からウェンズと兵士が姿を現す


「リュウト君!!ライムは!?ライムはどこだ!?」


「やつらに……奴等に攫われた!!!」


「なんだと!!ライムが!?」


「ちきしょおお!!俺が……俺が素直に奴等に着いて行けば……」


「自分を責めるな!!あの状況では誰もどうしようも無かった!!」


取り乱すリュウトの肩を抑えなだめるウェンズ

だがそんなウェンズにも焦りと動揺が垣間見える


その場に居合わせていた兵士も混乱している

中にはウェンズの元へ謝罪に来る者もいたがウェンズは彼等にも同じ様になだめた


「とりあえず一旦中に戻ろう!体制を立て直しライムの救出に向かう!!」


ウェンズは兵士達にも告げた

そして30分後に救助隊を編成し正門へ集合する事となった


リュウトはその間も肩を落とし、正門付近の岩に腰掛け落胆していた

そこにウェンズが歩み寄り リュウトの隣に腰を下ろす


「俺は……俺はまさかライムが捕まるなんて思ってなかった.ただ見ているだけでなんも出来なかった……」


「リュウト君、君のせいじゃない。さっきは君が一番に走り出し捕らわれたライムを見つけてくれた。その御蔭で今こうやってライムを救出する先の目星も着いたってもんだ……」


「俺が助けないと……アイツは……ライムは俺の為に今まで動いてくれてた。寝る場所も、飯も、なんも知らねえ俺を助けてくれた。今度は俺がライムを助ける番だ」


「こんな時に言う事じゃないかもしれんが……切り替え早いな!!おい!!」


「今そんな事言ってる場合じゃねえだろ!!バカか!!」


「それで、リュウト君はどうする?私達は準備が整い次第、開閉門オプロズゲートから国外へ出て東へ進む。」


「悪いが俺は先に行かせてもらう!待ってる時間が勿体ねえんだ。俺は走って行くから追い付いたら拾ってくれ」


「悪いが、最初から止める気なんて無いよ。それどころか……街で不審な物が見つかってね。国民が届けてくれたんだよ」


「何を言ってんだ?そんなの今はどうだっていいだろうが?」


「それはね、鉄で出来ていてスイッチを押すと音が出るんだ。そして丸いゴムが前と後ろに2つ付いてるんだ。あまりにも懐かしくてね、ついつい物置に保管してしまったよ」


「お、おい!それってもしかして……」


「エンジンはⅤ型2気筒、1450ccの打刻がしてあり、タンクにはハーレーダビッドソンと書いてあった。」


「間違いねえ!!そいつは俺のバイクだ!!」


「なぁに、この世界じゃ高校生が大型バイクに乗ってようが誰も文句は言わないさ。正門の前に置いてある。無茶はするな、気を付けて行けよ!」


「すまねえ、助かったぜ!!」


走り出すリュウトを見送り招集する兵士の元へ戻るウェンズ


「今の私……めちゃくちゃカッコいいじゃない……



Ⅴ型2気筒の音が夜の街を颯爽と響いて行く

音に驚く者もいれば、その速さに転ぶ者いた

誰もが見た事も無いその物体に目を奪われ、後に轟音の悪魔と噂が流れた程である



「久しぶりに走るなぁ。やっぱりバイクはいいなぁ、ハーレー!」


久しぶりの愛車に乗り目一杯アクセルを引く

街を颯爽と走り抜け、開ききっていない開閉門の隙間をすり抜ける


国外の外は舗装されていない砂地に草原。

ウェンズに貰った磁石をハンドルに取り付け東を目指す


「今までの俺は、目的も無く、周りの目や勝手なレッテルから逃げる様に走ってた……」


轟音に掻き消されるその言葉には、本人すら聞こえ難とも

強く芯のある決意の現しだった


「今の俺は……お前の為に走る!!!」

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