地獄絵図 - painting of a scene in Hell -
------カワレ
またお前か。
お前が出てくるって事は、俺は死んだのか。
------カワレ
死んだ人間に許可求めんなよ。
予感はしてたんだ、なのにあいつ等を救えなかった。
死んで当然……あいつ等は、無事なのか……
------カワレ
悪い、もう少し待ってくれ。
確認しねえと、ライムとカツミとコウが無事かどうかこの目で確かめんだよ。
------カワレ!!!
だから……
「待てって言ってんだ……」
リュウトは朦朧とした意識の中ゆっくりと目を覚ました。
巨大な飛行船から落ちた光の玉が町の中に消えた後、建物や人は吹き飛ばされ、それに巻き込まれた。
辺り一面は瓦礫の山。
瓦礫の上にも下にも隙間にも、血だらけの人が横たわってる。
「地獄絵図ってやつか……」
感覚の薄い足を手で押さえながら立ち上がる。
近くにライム達の姿は見えない。
瓦礫の下に埋もれてる可能性もある。だとしたら、恐らく助からない……
「畜生が……」
コウが言ってた爆発はこの事なのか。
空を見上げると、燃える街に照らされ赤く染まる中に、あの船は浮いていた。
「いったい誰だ」
------キミコソダレダイ?
答えた。今までは一方的に聞こえていた声、今度はこちらの質問に質問で返してきた。
つまり声の主はちゃんと意思のある事が分かる。
「その船にいんだろ……降りて来いよ」
------メンドウダカラキミガキナヨ
ふざけてやがる。街を粉々にしといて面倒だと、何人の人が死んだと思ってやがる……
リュウトの中に怒りが込み上げてくる。
怒りの矛先へ向かって一歩、また一歩と、ふらふらな体を無理矢理力尽くで支えながら前へ進む。
一歩を踏み出す度に大幅に体力が削ぎ落とされていき、体は悲鳴を上げ関節が軋み、奴が内側から外へ溢れ出ようとしてくる……
------カワレ
足を止めれば背後に鬼が迫り、遠く高い先に正体の分からない元凶が立ちはだかる。
後ろも前も地獄でしかない。
そんなリュウトの足元に音を立てながら石が転がってきた。
「誰かいんのか……」
顔だけ向ける、瓦礫の陰からゆっくりと人影がこちらに向かってくるのが見える。
一人、二人か。いや、それぞれが一人づつ人を抱えてる、四人だ。
炎の光に照らされて、煙に紛れながらこちらに近づいて来る、そしてその全貌がゆっくりと判明していった。
「お前等、無事だったのか」
一人はカツミを抱えたドゥカテに、もう一人はライムを抱えたコウだった。
ドゥカテには目に見える外傷はないが、コウは額から血を流し今にも倒れる寸前だ。
リュウトは二人の元へ駆け寄る。痛みが走る満身創痍の体を無視して二人の元へ。
「リュウト殿、無事でなによりです。」
「リュウト様……ライム様が、ライム様が!」
リュウトを見つけると膝をガクンと落として倒れ込み、我慢していたのだろう涙を流しながらリュウトへ抱き着くコウ。
リュウトはコウを支えながら背後に背負われてるライムに目をやる。
意識は無いが死んではいない、生きてる。
「助かってよかった、コウ、ライムをありがとな」
「すいません、私が、私が傍にいたのに、傷を負わせてしまいました……」
「泣くな、お前がここまでライムを守ったんだ。ライムだって感謝してるさ」
一番謝んなきゃなんねえのは俺だ。
皆に言っときゃよかった、例え確信がなくても何かが起こりそうな嫌な予感がすると……
泣きじゃくるコウを前に自分までヘタレていては駄目だと、内心で自分を責めるリュウト。
言ったところで結果は今と変わらないかもしれないが、身構えが出来れば被害を抑えられたかもしれない。
そんな負の感情がリュウトの心を疼いていた。
「リュウト殿、今後どうするか何か考えはありますかな」
カツミを抱えながらドゥカテが聞いてきた。
流石は有力な騎士と言ったところだろう、自分の守るべき者をしっかりと守っている。
「なんもねえ、俺が聞きてえくらいだ」
「ならば城へ向かいましょう。見た所城までは被害が及んで無い様で、城に行けばウェンズ王殿や騎士も居ります。ここに居るよりは安全かと」
「案外よく見てんだな、確かにアンタの言う通りだ。一先ずは城へ向かおう」
コウからライムを受け取り立ち上がる。
普段なら軽い体重も今はとても重く感じる。
こんな事本人が起きてる前では言えやしない。
「立てるか、コウ」
「はい、私は大丈夫です。」
「そっか、城までの辛抱だ。すまねえおっさん、先頭を頼む」
「ええ、最初からそのつもりでしたぞ」
リュウトはドゥカテを見ていると自分の不甲斐なさが辛くなる。
声や嫌な雰囲気に怯えて、誰かどころか自分の身すら守れてない、そんな自分に腹が立つ。
挙げ句の果てには心配される始末、最初からリュウトを前に立たせるつもりなど無いと、嫌味とかじゃなくてそれが事実なんだろう。
城へ向かいながらひたすらに自分を責め続けた。
「おお、無事でしたか!」
「すぐに医療班を呼べ! それとウェンズ王様に報告を頼む!」
城は所々ヒビが入り崩れてはいるが全壊はしておらず、緊迫感を漂わせる騎士達が警戒体制をとっていた。
リュウト達の姿を見つけた騎士がすぐさま医療班を手配しライムとカツミとコウを担架に乗せ連れて行った。
リュウトにも治療が必要だと言う騎士達を断わって城の階段を登り街を見渡す。
「……クソッタレぇっ‼︎」
その余りにも酷い光景に口を噛み、血を流しながらぶつける先の無い怒りや悔しさで拳を作り、震える程握り締めた。
普段は街と呼んでいる城を取り囲む城都は半壊し、そこら中から火が立っている。
未だ宙に浮く船の真下はクレーターの様に陥没し、そこにあった街が地面ごとえぐり取られたかの様に消滅していた。
つい最近戦争が終わったばかりの幸せな国、ウェンデ国。
そんな肩書きはどこにも見当たらない。
「リュウト君、ここにいたのか」
「ウェンズ……」
軽量の鎧を纏い腰には剣を下げたウェンズが険しい表情の中に、不安を浮かべリュウトの背後に立った。
「あの船が何か、ウェンズは知ってんのか」
「噂は聞いていた。街を覆う程の巨大船が宙に浮き、国を滅ぼすと。まさかここに来るなんて、誰も予想していなかった事さ」
「何が目的なんだ」
「分からない。 あの船が現れた後は更地になるらしくてね、何も痕跡を残さない。その原因はあの爆発って事が分かったくらいさ」
冷静に話してる様で全然冷静じゃ無いウェンズ。
落ち着きなく指や足を動かしながら、どうしたら良いのか悩んでる。
「俺には心当たりがある……」
「本当かい⁉︎ それはなんだ⁉︎ 」
リュウトの肩を掴んで力任せに揺さぶる。
やはり微塵も落ち着いてなんか無い、心の底からあの船を恨んでるに違い無い。
「コウが目を覚ましたらあいつに聞いてくれ。俺よりも詳しいからな」
「今朝いた子だね? 彼女が何か関係あるのかい?」
「あいつも被害者だ」
「そうだったのか……」
大分落ち着きを取り戻した様子だ。
それでもまだいつも通りとは行かないが。
「それよりウェンズ、すまねえ……」
「な、なんだい急に……」
「ライムを守れなかった。すぐ側にいて虫の知らせまであったってのに、俺は何も出来ねえで気を失ってた」
「何を言ってるんだ、ここまでライムを連れてきたじゃ無いか」
それだって途中まではコウのお陰だ。
「とにかく今はこの状況を打開するのが先決だ! あの船の動きがない内に、必ず来る第二波を防ぐ術を考えなければならない!」
ウェンズの言う通りだ。
国を丸ごと爆破する力を持ってる、にも関わらず半壊で済ました事には何か意味がある。
「国王様! ライム様が目を覚ましました!」
城の騎士が報告に来た。
それを聞いたウェンズとリュウトは一気に走り出す。
階段を何段も省き飛び降りて、ウェンズを追い抜いて、ライム達のいる仮設のテントまで一直線。
「ライム!!!」
「……リュウト、無事だったんだ」
顔を会わせると涙を流し始めたライム。
幸い怪我は軽く済んだ、目立った外傷も残る様な傷もない。
「それはこっちのセリフだ。コウに感謝しとけよ、お前を救ったのはコウだからな」
「コウちゃんが……目を覚ましたら真っ先にお礼だね」
「ああ。それと、悪かったな。傍にいたのに守ってやれなくて」
「仕様がないよ、突然だもん……そうだ、街は、街はどうなったの⁉︎」
見せたくないが見ずには通れない道だ。
ライムが立ち上がるのを助け、そのまま体を支えながら外へ出た。
ライムは目に入る光景に口を塞ぎ驚愕している。触れる体から震えが伝わってきた。
「そんな、ひどい……」
「酷いなんてもんじゃねえよ、ここに来るまでの間何十、いや、何百って数の死体が転がってんだ。街は……この国はたった一瞬で半壊した」
ライムは言葉が出なかった。
無情に流れる悲しみを抱えきれず、耐え切れず、リュウトの胸に顔を埋める様にしがみついた。
「リュウトさん。ウィート様とお連れの方の意識が戻りました。」
騎士が知らせにきてくれた。カツミとコウだ。
ライムも聞こえたのだろう、二人が気になる様子で顔を上げてリュウトを伺う。
リュウトは軽く頷いてライムの体を支えながら二人の元へ向かう。
「りゅうとさま……リュウト様!!!」
テントに入ってきたリュウトに気付いたコウはベッドから起き上がり、リュウトに飛び付いた。
「病み上がりでそんな動けんのかよ、お前すげえな」
「す、すいません。少し興奮してしまいました……」
「コウちゃん、助けてくれてありがとう」
「ら、ライム様!!! 無事だったんですね、良かったです、本当に良かったです」
ゆっくりコウを下ろすとライムが礼を告げた。
コウもライムの無事が分かり安堵したのか、涙を流しながら喜んでいる。
「おい、ウチも起きてんだけど、忘れてないか」
「忘れてねえよ。 お前もちゃんとおっさんに礼言っとけよ」
「一々言わんでも分かるわ! リュウはウチの親か! えっと、ドカじい……ありがと。」
「何照れてんだよ、散々いい様に使ってたクセに」
「やかましい! リュウは黙っとけ!」
カツミに関しては元気過ぎるくらいだ。
こんな時なのに、リュウトとカツミのやり取りを見てその場にいた皆が笑い出した。
いや、こんな時だからこそ、笑うのが良いのかもしれない。
この先当分は笑える状況になる事は無いだろうから。




