強化週間 - first day -
大闘技会まで1週間。限られた時間で何か出来るかを模索するリュウト
いざ戦うまで相手の情報も分からず対抗策など考えても無駄に近い状況だ
もしも唯一勝てる方法があるとしたら、サクバスから強制的に与えられた鬼の力の使用
しかし発動条件も知らなければ解除する方法も分からない。
ならば最初に行く所は1つ
「サークーバースー!!!」
「そんな大きな声出さなくても聞こえますよ」
城の廊下でどこにいるか分からないサクバスに向け大声で名を呼ぶと、いつの間にか背後に立ってシレッとした顔をしている
「俺のこの鬼とかいう力はどうやって使うか教えてくれ」
「そんなことですか。簡単ですよ。死ねばいいんです。」
「は?死ぬって……なんでだよ」
「魔人族たちの魂憑依は魂と対話することでその方法を得ます。ですがリュウトさんの場合はエネタル越しなのでそれは出来ません。ゆえに死んで、鬼の魂に体の主導権を渡せばいいのです。」
何言ってるのかサッパリ分からない
この世界じゃこんなことが当たり前のように皆やっていると思うと、普通の人間なんて本当はどこにもいないんじゃ無いか、と思えるくらいだ
「とにかくだ、俺はどうすればいい?死ぬのは無しだ!」」
「私もそこまでは考えてなかったのでちょっと調べてみます。それまでごきげんよう~」
さすが魔女と言いたくなるほどあっという間に姿を消した。まるで水のミストのように分散された感じで空いた口が塞がらない
一発で解決すると思っていたリュウトだがまさかの解答者消失。普段から使わない頭じゃ次の選択肢の数は少ない。
「とりまウェンズのとこ行くか……」
果たしてウェンズが役に立つかは未知数だが、頼みの綱のサクバスが消えた以上ウェンズしかいない……
「リュウト?何してるの?」
「よ、よう……ちょっとな」
ウェンズの部屋に行く道中でいきなり声を掛けられ、振り向くとライムが立ってた
出場がバレたところで止める気は無いが無駄な心配を与える必要も無い
とりあえずはバレないように話を逸らす
「お前こそ何してんだ?」
「んー、私もちょっとね。ドレスの採寸をするとかでアンに呼ばれたんだけど……」
「ドレス?」
多分、闘技会で着る用の物だろう。話を濁すあたりやはりリュウトに打ち明ける気が無いらしい。
深く追及するべきかあっさり聞き流すか。下手に話をして墓穴を掘るなんて情けない事にはしたくなかったリュウトは後者を選んだ。
「アンなら入り口近くの部屋にいたぞ?行って来いよ」
「なんかリュウト、そわそわしてる?」
「してねえから、早く行けって、な?」
「じゃぁ帰る時呼んでね!」
「あいよー」
バレないようにバレないようにと意識すればするほど逆に困惑してしまい態度に現れる。
一番いいのは接触を少なくすること、とりあえずはウェンズの元へ急ぐ。
「って、いう事だから。なんかいい方法ねえか?」
「サクバスが知らないんじゃその力はお蔵入りだなぁ。ところで闘技会のルールとかは知ってるかい?」
「んなもん知らねえよ。ルールなんてあんのか?」
「まぁ、簡単だが5つほどある」
試合のルールは難しいものじゃ無く深読みする程じゃない。
「殺さないこと」「武器は一つ」「魔法以外の飛び道具は無し」「観客へ被害を出さないこと」
そして最後に「王でない事」の5つでほとんど当り前のことで納得できるものだった。
「まぁこんな感じなんだが、とりあえず武器でも選んでみるかい?」
「俺は剣とか使えねえぞ。今から覚えて間に合うか?」
「剣以外にも種類はあるからな、武器庫へ行って直接見て見ると良い。付いてきたまえ」
庭を挟んで少し歩くと船のコンテナ2つ分ぐらいのでかい倉庫があった。
中を開けると、剣は剣でも長いのから短いものに斧や槍の数種類が並んでいる。飛び道具は禁止という事で銃を覗いてもその数はとても多い。
「定番なのは剣なんだが、殺傷力があるからな。うまく使うのは一週間じゃ難しいか」
「無くてもいいんだろ?別に無理に選ばなくてもいいだろ」
あまり武器を使うことに気持ちが乗らないリュウトは一通り見て倉庫から出ようとした。
「リュウト君。これなんてどうだい?」
「だから俺は武器なんていらねえって……それいいな、おい」
「リュウト君のスタイルにピッタリだろ!?」
ウェンズが持って来たのは金に塗られ見た目は派手だが非常にコンパクト。だが無いよりも圧倒的に威力は高く、正直なところ初心者でも簡単に使える物だった。
「メリケンサックかあ」
「これは一対だから両手に装備してもいいんじゃないか?ダメなら当日審判が言うだろう」
「これなら練習もくそもねえし、あとは喧嘩するだけってもんだ」
「やっぱ現役非行少年がつけると迫力あるねえ、なんてな!あっはははは」
ウェンズが高笑いしている中メリケンサックを両手にはめる。
サイズも丁度よく重さも大してないから違和感も不便さも感じない。あとは体術を強化すれば必然的にメリケンサックの効果も上がり一石二鳥という時間の限られたリュウトには持って来いの武器だった。
「おいウェンズ!誰か暇な兵士はいねえか?」
「ん?暇かどうかは知らんが、訓練場に行けば誰かいるんじゃないか?」
「なるほど。ちょっと行くけど来るか?」
「あまり王を舐めてもらっちゃ困るが、生憎の暇でな。同行しよう!」
「暇王だな……」
前回の闘技場なんて名前だけの芝生とは違い、まるで体育館の様な広々とした部屋に20人程度の兵士が剣や槍、体術などそれぞれ鍛錬に励んでいた。
「おいお前!ちょっと面かせ」
「いきなりなんなんだおまえは……って、王様!?これは大変失礼しました」
「いやいやぁ、いいっていいって」
ウェンズに気付くや否や今まで動き回っていた兵士達が一斉にウェンズの元に駆け寄り、膝を地面に着く忠誠の姿勢をとる。ウェンズが王だという事を改めて思い出させる光景だ。
「そんなのはいいからよ、早く準備しろよ」
「貴様!ウェンズ王の前で無礼だぞ!」
「皆落ち着いてくれって、彼はリュウト君で私の友人だ。誰か軽く手合わせしてあげてくれないかい?」
「そういう事ならば、私がお相手して差し上げます」
「ああ?女かよ……」
「女だからと言って舐めてもらっては困るな。私は護国4兵団の2番隊隊長を務めるカイ―ド・ルイだ。」
名乗りを上げた彼女はウェンズが創った4兵団唯一の女隊長だった。
ピンクのロングヘアーにスラットとした体形でとても隊長を任される様な見た目ではない彼女を見て、リュウトは抵抗を感じる。
「総長でも番長でも何でもいいけどよ、そんなに言うなら防具着けろ防具」
「ふん、貴様と対等に戦ってやる。貴様が着けないのなら私も着けないでやらせてもらう!」
「あっそ。いいのかウェンズ?」
「彼女が言うんだからいいだろう。リュウト君が着けた方が良いかもな?あっははは」
「そうかよ……んじゃ、しょうがねえからお前でいいよ。いつでも来いって」
リュウトとルイを囲むように周りにいた兵士達が観戦する。
構えて立つルイに対してリュウトは完全に舐めきっており、頭を掻きながらあくびをする始末だ。
「大抵貴様みたいな奴は負けてから戯言をいう戯けだ!!」
最初に動いたのはルイだった。釣られるようにリュウトも構えるが既に距離は縮まっており、視界の端から物凄い速さでルイの蹴りが飛んできた。
「痛ってえな、ちくしょおお!!」
「ギリギリだがガードが間に合った様だな。今度はもっと強く行くぞ!」
蹴りを受けた腕には痛みが残るがそんなの御構い無しにルイは向かって来る。
舐めきっていたリュウトだが完全に戦闘態勢に入った。そのスレンダーな体型からは想像も出来ない程の強力な攻撃は重く、しかも早かった。
「案外タフな様だが、受けるばっかりで反撃は私に掠ってもいないぞ?」
リュウトは、初めてラカスを相手にした時よりも圧倒的な戦力差を感じていた。
攻撃が来ると分かった時には避けれる隙は無く、受けると言うよりも受けている状態だ。
反撃を試みて手を出せば、空いた懐に衝撃を受ける、その繰り返し。
そんな状況が10分経ったあたりで、とうとうリュウトは倒れた。
「情けないな。どんな気持ちだ?格下に見た相手に負けるというのは……」
「あぁ、情けねえな……だけど、俺はお前が気に入った」
「気に入っただと?それはどういう意味だ!?」
「そのまんまだ。ルイって言ったよな?……付き合ってくれねえか?」
「は……?」
ルイはその唐突な言葉に顔を赤らめ、目が泳ぎふわっと力が抜けた様にその場に座り込んだ。
地面にうつ伏せに倒れ体が痣だらけになったリュウトは、一方的にやられた事に落ち込むでも無く、ルイが言った様に戯言を言う事もせず、疲れた体を休ませる様に静かに眠っていた。




