Dead or alive. Transmigration or transition
このV型2気筒エンジンの音が好きで
毎日、毎晩、風を切るように走った
ヘルメットを着用する法律は無視だ
風の音もエンジンの音も聞こえないから
山の見える道路
海の見える道路
朝日に照らされる道路
夕日に照らされる道路
月を背景にした道路
そんな唯一の楽しみを邪魔する奴等は片っ端から殴った
おかげで高校入って初日から不良呼ばわり
そして今日もまた邪魔が入った
「お前、また1人で走ってんのか。目障りなんだよ。」
「走るのによぉ、群れなきゃならん決まりなんてねぇだろ。」
「うるせぇ、二度と走れねぇようにしてやれ!」
------しゃおらあああああぁぁぁぁああ!!!
いつもこうだ。
怒声と共に何十人て奴等が殴りかかってくる。
殴って、殴られて、殴り返して、殴り返される。
いつもはこの後傷口押さえながら帰るんだが、
今日のは違った。
暴走族の頭、強羅省吾
国一道の真ん中でタイマンて展開だ
「くたばれっ! 山口いいいぃぃ!!」
「てめぇだあぁ!! 強羅ああぁぁ!!!」
殴りかかったその時、
背後からでっけえ光が2つ光った
目の前は真っ白でなんの音も聞こえねぇんだ
重力も感じなかった
「あぁ、死ぬんだ。せめて最後は走ってたかったなぁ」
強い衝撃が背中にぶつかり俺はそのまま、真っ白の世界で目を閉じた。
…キロ…オキロ…
ビケ……サキヘ……サキヘ……ミチビケ……
「だれだ?」
微かに聞こえる声に出にくい声で反応するが返答は帰ってこない。
耳を澄ますと、まるで賑わう都会の様にいろんな人の声が耳に入ってくる。
ゆっくりと目を開けると青い空と少しの雲が浮かんでいた。
体を起こし周りを見渡すと……そこにはまるで中世ヨーロッパの様な街並みが並び、その時代にマッチする服装の人々が大勢いた
「なんだよ、これ、」
徐ろに立ち上がりふと気付き体を見るが、殴られた傷も、痛みも、全て消えていた。
「どーいうことだ……!?死んだんじゃないのか!?」
状況を把握出来ずとりあえず近くにいたヒゲ面のおっさんに掴みかかり
「ここはどこだ!?」
「いきなりなんだよお前!? ここはウェンデ国の城前通りだ!」
「そんなの聞いたこともねぇ!今は何年だ!」
「その、ナンネンて、なんだ?」
「西暦がないのか?」
「セイレキ?さっきからアンタなに言ってんだ?」
分かったこと、ここはウェンデ国という聞いたこともない国
名が横文字の国だが日本語は通じる
「いってぇどうなってやがる!?」
悩み、考えてる最中少し距離の空いた方から
「これなんだ? 」
「見たこともないなぁ〜」
「ここにボタンがあるよ?」
ファーーーーーー!!!
警報の様な音が街中で響いた
「うわぁーーーー!!!なんだ今のは!?」
「……今の音、間違いねぇ。クラクションだ」
集まる人混みを掻き分け隙間を走り、抜けた先にはバイクがあった
シートに飛び乗りスターターを回しエンジンを掛ける。
「問題ない。走れる!」
道路なんて呼べないレンガの道を人を避け颯爽と走る
行く先は無くただひたすら走り続けた
1時間経つか経たないかくらい走りようやく街が切れ、草原が見えた
アクセルを引き、勢い良く飛び出した
「……どうなってんだ!?」
本来であれば草原へ抜けたはずだが、バイクを止め地に足を着けるが
見覚えのあるレンガの床、後ろを振り返るが同じくレンガの壁
しかも左右にも同じ壁
「街に戻ったのか?しかも今度は狭い路地裏か?」
現状に少し慣れたせいか、驚きも薄くなりつつある
「街、というより国の端から国の端へ繋がっている?草原へ抜けた場所の反対側と考えるべきか?」
もはやある程度冷静に考える事も出来る様になっていた。
「とりあえずもう一度見街に出て人に聞くしかない。」
一旦バイクを置き足を進め路地裏を進んだ
------お前こんなとこで何やってんだ?
後ろから聞こえた声に振り返ると、そこには3人の薄汚れた服を着た男が3人
「ちょうど良かった、聞きたい事があるんだが」
「馬鹿かお前!先に質問してんのは俺らだよ」
「道に迷ったんだ。外に出たはずなのにまたこの街に戻って来ちまった」
「そーかそーか。お前よそ者だな?」
「ここわ俺等の縄張りだ。痛い目見る前に出す物出しな」
どんな所にもこういう奴等はいんだなと思った時だった
------待ちなさい!
また後ろから、今度は女性の声が聞こえ振り返ると、腰まで伸びた茶髪の髪に上下白のスリムなセットアップ、肩から胸までの短いファーのマントを羽織り、腰にはレイピアの様な細い剣。
「あなた達!一人相手に三人で脅迫だなんて卑怯じゃない!」
そー言って山口の元へ歩み寄る
「あなた、大丈夫?」
「あぁ、まだ何もされてねぇからな」
近くで見るとその肌は雪の様に白く、背は160から165といったところ。
そして何より一番気になったのは、拳を震える程強く握っていた事。
恐らく止めに入ったはいいが、怯えている、そしてそれを隠そうとしている。
「おいねーちゃん、俺等はこいつに用事があんだ。それともあんたが体を出すか?」
まるで勝ち誇ったかの様に笑うゴロツキ共
そして彼女は剣を抜き、構えた
「いいわ。私があなた達のお相手をします!」
「おうおう、威勢がいいねぇ」
一歩を踏み出そうとした彼女の前に横から腕を出し抑える
「あんたはさっき、一人相手に三人は卑怯だと言ったが、じゃぁ三人相手に一人はどうなんだ?」
「……何を言っているの?」
「俺はいつも何十人て奴等を相手にしてきたんだ。勝ち負けは別としてな。今更たった3人に負ける気はしねぇ」
そう言うと走り出しゴロツキに殴りかかる
先頭の1番体格の良い男を殴り飛ばし、奥の2人の間をその巨体が飛んでいった
「次はどっちだ。今のが不意打ちだとか言うならそっちから掛かって来てもいいぜ」
山口がそう言うと2人の男は懐からナイフを出し同時に斬りかかる
「死ねぇ!クソガキィ!」
「道具使うとか、流石にあの馬鹿もそんなクソみてぇなマネしなかったぜ」
ナイフを避け、握る手を懐に引き込み顔面に1発拳を叩き込む
その横からもう1人がナイフを振りかざすが捕らえた男を投げ、蹌踉めいた相手の顔面に横から蹴りを入れた
「口程にもねぇ」
蹴られた頬を押さえ痛みに悶える男に馬乗りになり何度も何度も殴る
「悪かった、うっ!や、やめ、やめてくれぇっ」
言葉を無視しひたすら殴り続ける
「喧嘩売っといて止めろだぁ!?テメェはゴミ野郎だ」
今までで1番高く振り上げたその拳を振り下ろそうとした時、腕を両手で思いっきり掴まれ止められた
「あなたが強いのはもう分かった!だから、戦意を喪失した相手をこれ以上殴ってはダメ!」
そう言う彼女の声と腕は震えていた
「ちっ、わぁったよ。元々喧嘩するつもりは無かったからなぁ」
「ここを離れましょう?」
彼女は立ち上がる山口の手を握り、少し駆け足で路地裏を抜けた