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ダニー・G  作者: 井上陽介
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子孫は年上

俺の病室に3人の男女が入ってきた。

真ん中に50代と思われる壮年の男性。その両隣に若い男女だ。

若い方の2人は俺より少し年下くらいだろうか。

3人とも美形と言っていい容姿をしていた。

まあ、俺の子孫だから当たり前だ。


「私はジョシュア。ジョシュア・ガーランドだ。はじめまして、と言うべきなのかな」


壮年の男が俺に手を差し伸べながら言った。

俺は笑って、その手を握り返した。

ジョシュアと名乗ったその男は俺の兄貴に似ていた。


「ダニーだ。ちなみに俺はあんたの何なんだ? じいさんのまたじいさんか?」


「医師から話があったと思うが、君は200年ほど寝ていたんだ。私は君の兄、ジョン・ガーランドから数えて五代目になる」


話がややこしいが、この男は兄貴の子孫らしい。

考えてみれば当然だ。

俺は次男だった。家は兄貴が継いだはずだ。


「この二人は私の子供たちだ。名はスコットとリサ」


その言葉が終わるか終わらないうちに女の方が話しかけてくる。

その瞳はキラキラしていて、好奇心に満ち溢れていた。

さぞかし興味深いだろうよ。二百年前の遺物との遭遇。

俺が逆の立場でも同じだ。


「こんにちは。ダニエルおじさま。私はリサ。伝説のあの〝ダニー・G〟と会えるなんて、とても光栄だわ」


リサ・ガーランドは豊かで鮮やかな赤毛の持ち主で、整った顔立ちをしていた。

くっきりとした瞳に高すぎない鼻。唇も適度に厚く、とても魅力的だ。

胸の二つの隆起は高く、結構なボリュームだろう。キュッとしまったウエストもたまらない。

はっきり言ってリサは好みだった。

子孫なのが残念だ。俺にもそのくらいの常識はある。


「僕はスコットです。ダニエルおじさん。お身体の具合はどうですか?」


スコットは俺と同じく髪の色は茶色だった。礼儀正しい好青年といった感じだ。

顔に目と鼻と口が付いている。体には手と足が2本ずつあった。

男と女で容姿の印象がかなり変わるのは仕方ないことだ。

俺は男の外見に興味はない。

1つ気になることがあった。リサが口にした言葉だ。


「伝説って何だ? 俺、なんかしたのか?」


何か伝説になるようなことをした覚えは無いが眠っているうちに忘れているのかもしれない。


「おじさまは私の憧れよ。わざわざ裕福な環境を捨てて、家出するだけでも凄いのに。その後、軍に入り戦地に赴いた。そこでも英雄的な働きをしたんですよね」


「おじさんの話は代々、ガーランド家に伝わっていますよ。一族の歴史上、最も気高い男として」


俺は絶句した。

このデマを流したのは誰だ?

確かに俺は家出をした。


「自分の力で生きてみたいんです」


そんなことを親父に言ったのを覚えている。

俺の家はとてつもない金持ちだった。若い俺は格好をつけて家を飛び出した。

ちょうど大学を卒業した時だ。俺は飛び級で二十歳で卒業した。

大学の仲間のように就職や金の心配などしたことがなかった。

だから同じような悩みを持ちたかっただけだ。

いわゆる若気の至りってやつだ。

しかし俺は悪い意味で賢かった。


俺名義のクレジットカードや口座はしっかりと持って出ていったのだ。

普通、金持ちが嫌で家出するんだったら、無一文で出て行くものだろう。

だが俺は違った。所詮、金持ちのボンボンだ。

いざという時の金は持っておきたかった。


もちろん親父はそのカードを使用停止にはしなかった。それどころか口座に金を振り込んでくれさえした。

そんな俺に普通の仕事が勤まるはずも無い。

ただ住所が変わっただけで、遊んで歩く日々が続いた。


そんな日々が終わりを告げたのは、ジュリアに出会ったからだ。

彼女は俺が働かないで金を使うのを嫌がった。

俺の金が目当てでなく、一緒にいてくれた最初の女性だった。

彼女の紹介で仕事に就き、まともに働いて彼女と結婚した。

ジュリアと結婚したかったために働いたようなものだ。


その頃の俺は彼女に愛されようと必死だった。つまり、ただ女のためだったんだ。

そのうちに世界の情勢が危うくなり、海兵隊に入った。

確かに勲章を幾つかもらったが、それは戦場に行けば誰でももらえる類いのものだ。

英雄的な働きなどしたこともない。

そんな俺が気高い男として語られていたとは。

多分、伝言ゲームみたいなもんだろう。

200年もの間、伝言ゲームをすれば俺みたいな男でも英雄になるらしい。


「残念だけど、そいつはデタラメだ。英雄でもないし、気高くなんてない」


一応、そう答えたが、スコットとリサの瞳にはいまだに憧れの色が見えた。

謙遜しているとでも思っているのだろう。

勝手に思ってやがれ。

その後、ジョシュアと色々と話した。

俺は数日で退院できるらしい。

その後はとりあえず家に帰り、仕事などは落ち着いたら就けばいいとのことだ。


「何と言っても二百年たっているからね。君の生きていた頃とは社会もかなり変わっているはずだよ。きっと慣れるまで時間がかかるだろう。でも心配はいらない。私たちがいるからね」


ジョシュアは優しくそう言ってくれた。

顔が似ているのもあるが俺は兄貴を思い出した。

人格者で清廉な兄貴。こいつはやっぱり兄貴の子孫だ。


「そうよ。ダニエルおじさま。何でも言ってね。家族なんだから」


リサがそう言うと、スコットも笑顔で頷く。


「とりあえず一つだけ、頼みがあるんだけど」


俺は早速、家族に甘えてみることにした。


「タバコをくれないか? ラッキーストライクってまだある?」


3人の顔色が変わった。


「タバコって、あの火をつけて吸うやつ?」


リサが驚きを隠せない声で言った。


「そう、それ。無ければ銘柄は何でもいいよ」


ジョシュアがリサとスコットを病室の隅に呼び寄せ、3人で何かを話し始めた。その声は俺には聞こえない。

目の前でひそひそ話はやめていただきたい。

やがてリサが3人を代表する形で俺に向き直った。


「タバコはね、ずっと前に禁止薬物になったの。今では違法な取引以外に手に入れる方法はないわ」

何故か哀れむような目付きで俺を見ていた。


俺はタバコをくれと言っただけだ。麻薬中毒者を見るような目で見ないで欲しい。


「だから今では吸えないの。逮捕されちゃうから」


どうやらこの世界では食後の一服は重罪となるらしい。

世界は俺の嫌な方向に進んだのだろう。

少なくともタバコに関しては。

他のことはどうなのだろうか。

俺は天を仰いだ。


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