表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Space Network Service  作者: 浜野書人
エフェフノ星系カシュオーン
16/22

幕間8 Roolis After Story-1


★★★

 リーネがローリスから宇宙へ飛び立った日。


 SNSから新作物を購入したため、農業局では大きな配置転換が行われていた。カスネも新たな部署へと異動になる事が決定していて、明日から新作物の導入試験を行う部署へ配属される。

 今日はその合間と言う事で休暇をもらっていた。


「行ったわね。」

 カスネはグラナダのグランドフロア奥にあるバーのカウンターで一人つぶやいた。

 カスネの情報端末に映し出したテレビの映像は、ミレニアムが無事に打ち上げを終えた事を伝えている。

 あの娘は無事に宇宙へ飛び立ったようだ。

 カスネの情報端末はグラスタイプだ。使い勝手が良いタッチパネルタイプや携帯に便利なスティックタイプにくらべ人気がないタイプである。

 これを愛用している理由は音声及び視線入力が出来るため使用時に両手が空くという利点があるからだ。農場で作業をする際両手が空くことは非常に便利である。

 視線入力で目の前一メートルの位置に映っているように見えるテレビを消し、一息ついてから杯の残りを干す。

「同じのもう一杯頂戴。」

 カウンター内に立つドロイドにお代わりを注文すると、ドロイドは黙って一礼し酒を作り出した。

 ここのドロイドは無駄に喋らない。一人静に飲みたいときにカウンター席は打って付けだった。

 休暇をもらえたため、リーネが飛び立つのを見送りに行く事も出来た。だがその勇気が出なかった。

 家で一人テレビを見ることも出来た。しかし素面では見ていられないだろうと思い、結局昼間からこんなところで杯を重ねている。

 意気地の無い自分がすこし情け無い。

 程なくして運ばれてきたのは黒地に白い渦を巻いたグラナダオリジナルカクテル・ネビュラだ。

 このカクテルはブランデーをベースにコーヒーリキュールで割ったカクテル、ブラックルシアンに、コーヒーアートの手法で渦を巻くようにクリームをたらしたものである。

 渦巻くクリームを銀河の渦巻きに見立てたのが名前の由来だ。

 グラスを口元に近づけるとブランデーとコーヒーに由来する芳醇な香りが鼻をくすぐる。少し口に含むとクリームの甘みとコーヒーリキュールのほのかな苦味が舌の上に広がっていく。

 このカクテルはまろやかな口当たりとは裏腹に驚くほど酒精が強い。口当たりにだまされて杯を煽るとあっという間に酔いが回ってしまう。ちびりちびりと嘗めるように味わうのが正しい飲み方である。

 飲み進めるうちにクリームの螺旋が解けて、グラスの中で雲のようになっていく。

 程よく酔いがまわり心地よい。

 カスネはグラスの中の雲をぼんやりと眺めながら、壮行会の時の事を思い出していた。

 小さな蒼髪の娘は『何時か必ず星間船を手に入れてこの星に戻ってくるから、もし良ければそのときに一緒に働いて欲しい。』とカスネに言い残して行った。

 あの娘は星間船の値段をわかっているのだろうか。

 カルテア星系政府ですら一つしか持っていない星間船である。それを手に入れられるほどのAuならどんな星でも一生遊んで暮らせる額になる。

 それに時間の流れも異なっている。

 あの娘が若いうちにこの星に戻ってきたとしても、それがどれだけ後になるのかわからない。おそらくその時、自分は宇宙にいける歳では無いだろう。

 それでも何時かあの娘が帰ってくると思うと嬉しくなる。

 戻ってきたときにはきっとこの星は今と大きく変わっているだろう。

 大きく変わった故郷の様子を見た時、あの娘はどんな顔をするだろうか。

 明日から新作物の導入試験が始まる。ローリスでは栽培実績の無い未知の作物だ、しばらくは試行錯誤だろう。

 カスネは導入を成功させ、いずれは新作物で一杯の光景を作りたいと思っている。




 あの娘が何時か帰って来たときに驚くように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ