幕間7 浮かぶ水滴
時計は少し戻りカルテア星系からワープ時空に入った頃。
リーネは寝る前にシャワーを浴びに来た。
ワープ時空では重力が効かない。そのため移動も手探りだ。ちょっと力を入れると体が回転してしまったり、思ったところに止まれなかったりと上手く行かない。特に今は着替えを片手に抱えているため、リーネの動きは余計にたどたどしい。おっかなびっくりといったところだ。そんな感じで移動しながら、ヤマトがしていたように、流れるような動作で移動する自分を想像する。スムーズな動きが出来るようになれば宇宙飛行士らしくなれるだろうか。
シャワールームの手前で服を脱ぐ。脱衣籠に入れた服がふわふわとあちらこちらに漂っていく。少し考えて脱いだ服を入れた籠をさかさまにする─籠は磁力で固定されている─ことで服が漂わないで置ける事を思いついた。
何とか脱いだ服の問題が片付いたところでシャワールームに入る。勢いがつきすぎてシャワーノズルに額をぶつける。背の低いリーネにとって、いつもなら背伸びをした上に手を伸ばしてやっと届くところにあるノズルは意識の外にあった。
ぶつけた額を撫でながら少しだけお湯を出す。
…お湯が落ちてこない。
見上げるとノズルに張り付いたお湯が、スライムのようにウネウネと形を変えているのが見える。
お湯がノズルからちぎれゆっくりと漂ってくる。頭で丸くなった湯を受け止めると髪に張り付いて広がるが、流れ落ちてこない。
一度お湯を止める。
どうやってシャワーを浴びれば良いのだろう?
「アントニオさん。聞こえますか。」
船内で困った事があればアントニオに聞く。短い期間でリーネに備わった習性である。
「何かな。」
「シャワーをどうやって使えばいいんですか?」
「無重力で使うのは初めてだったね。」
「はい。上手く水が落ちてこないんですけど。」
「重力が無いからね。風を出せるのはわかるかな?」
「あ、ドライヤーの機能ですか?」
「リーネはドライヤーに使っているみたいだけど、本来は無重力状態で使うためにあるんだ。」
「そうなんですか。」
「無重力状態では水が落ちていかないから、風で強制的に流すんだ。」
「なるほど。」
早速風を起こす。風に流されてリーネの体が床に固定される。また少しだけお湯を出すと、先程とは異なりきちんと水滴も落ちてくる。
「これで良いんですね。」
「そうだね。注意して欲しいのは水で口や鼻が塞がれないようにしてね。」
「なんでですか。」
「無重力状態では水の粘性が無視できなくなるんだ。その状態で呼吸器が塞がれると溺れてしまうよ。」
「へー。」
「もし溺れていたらボクがヤマトを呼ぶから死ぬ事は無いと思うけど危ないからね。」
「気を付けます。」
シャワーで溺れてヤマトに救助されるなんて恥ずかしい目にあいたくない。リーネは水に気を付けようと肝に銘じてシャワーを浴びた。
いつぞの恥ずかしい記憶も何処へやら、リーネはアントニオと裸のお付き合いをしていた事に気付いていない。