幕間6 回転とスパッツの因果関係
カシュオーンの軌道を回るミレニアム内部でリーネはちょっとした暇つぶしを編み出していた。
軌道飛行中は船内が無重力状態になる。リーネは無重力状態での宇宙遊泳を楽しんでいたのだ。
エアロック区画と機関室を結ぶ廊下は船内でも最も長い直線の区画である。この長い直線を壁に触れずに飛ぶというちょっとした一人遊びである。
最初はただ真っ直ぐ飛ぶだけだったが、今は廊下の端から端まで行く間に何回宙返りできるか数えている。今の所、五回転が最高記録だった。
エアロック区画に繋がる扉を蹴り、体を回転させる。膝を抱える事で回転が少し速くなるのを発見してから回転数の記録が伸びた。
今回はうまく進路をとって進んでいる。操舵室前の扉を過ぎるときまでに二回転できた。この感じだと機関室に届くまでに最高記録になるかもしれない。膝を抱える手に力が籠もる。
ゆっくりと機関室の方に体が流れ三回転目が終わる。
そのとき突然居室の扉が開きヤマトがひょっこりと顔を出した。
リーネはあわてて体を伸ばし、床に手をつくが流れていく体は急に止まらない。
「きゃぁ。」
声を上げ、ぶつかるのを覚悟したところでヤマトが軽く体を捻り回避した。見れば扉の縁に足先を引っ掛けて動きを制御したようだ。
「なにやってんだ?」
ヤマトは半眼でリーネを見ながら半ば呆れたような口調で問いかける。
「ご、ごめんなさい。」
足を天井の梯子に引っ掛け、何とか回転を止めたリーネは謝る。
「別に遊んでもいいけど危ないから向こう側の廊下でやれ。」
「はい。」
広がる髪を押さえながらヤマトの言葉を噛み占めると、なんだか幼稚な遊びにはしゃいでいた自分が少し恥ずかしくなる。
ふと視線を足元に下ろすとスカートが捲れ上がっているのが目に入り慌てて押さえる。
「あの。見えました?」
「何がだ?」
リーネとは上下さかさまに浮かんでいたヤマトは少し不思議そうな顔をしている。
「いえ、なんでもないです。」
何がなど言えるわけも無い。見えていないならそれに越したことはない。
リーネの言葉を聞き流したヤマトは腕を伸ばすと共用区画の扉を開き、その中へ体を滑らせて行った。
扉が閉まる直前ヤマトがボソッとつぶやいた。
「ピンクの水玉。」
「もう、しっかり見てるじゃないですか!」
閉じられた扉を前に真っ赤な顔をしたリーネの叫びが響いた。
以来リーネはスパッツを着用している。