夢見る少女の就職活動
遥か未来
空を越えた
星の彼方で
★★★
「ワープアウト三十分前だよ。」
アントニオの声がヤマトの眠りを覚ます。
「ありがとよ。」
ヤマトは眠っていたパイロットシートの上から体を起こしぼさぼさの頭の頭を掻きながら欠伸をした。
「もう少し時間があるからその間に顔でも洗ってきたら?」
「ああ、そうするぜ。」
体を固定していたシートベルトを外すとヤマトの体が浮き上がる。その状態でシートを軽く手で押しやると空をすべり開いた扉の向こう側へと消えていった。
暫くして戻ってきたヤマトの顔はすっきりしていたがぼさぼさの頭はそのまま、無精髭も伸びたままだ。
「本当に顔を洗っただけなんだね。」
「俺は顔を洗いに行ったんだ。他の事をしに行ったわけじゃない。」
「はいはい、そうでしたね。」
「それよりもうすぐワープアウトだろ?」
「そうだね。あと三分だよ。」
暫くの沈黙の後小さな振動がくる。
「ワープアウトしたよ。」
「ああ。共通チャンネルを開いてくれ。」
「了解。」
「まずは、この星系の皆様にご挨拶だな。」
口元に笑みを浮かべヤマトはマイクに向かって話し出した。
『ハロー ワールド!! こちらはスペースネットワークサービス・スターシップ・ミレニアム、キャプテンのヤマトだ。星間通商条約に基づき、貴星系との取引を希望する。』
「さて、どんなお返事が返ってきますかね。」
「ここは他の星系から離れているから通商実績もあまり無いみたいだよ。」
「他人の手垢がついていない。つまりは儲けるチャンスって訳だろ。」
「そういう捉え方もあるね。」
「とりあえずスクラップになったメイドロイドを新品にしたいぜ。」
そう言うとヤマトは船内の倉庫区画へ視線を送る。
「ケチって銀河基準品を買わないから壊れるんだよ。」
「銀河基準品のドロイドは高すぎる。船内の炊事洗濯清掃だけしかやらせないのにあんな高いもの買えるかよ。」
アントニオの指摘にヤマトは口を尖らせる。
「ワンクルーズも持たない物買うほうが高い。」
「そう言われると耳がいたい。二年持てば御の字だと思ったんだが、まさかマスドライバーの射出に耐えられないとは思わなかった。」
「低重力惑星の構造基準はそんなものだよ。あ、返信来たよ。」
「繋いでくれ。」
「了解。」
『ようこそカルテア星系へ。スターシップ・ミレニアム来訪を歓迎する。当星系は第二惑星以外無人だ。取引の際は第二惑星ローリスまで来られたし。』
「第二惑星の位置を確認したよ。ここから約四光分だね。」
「標準加速でどのくらいかかる?」
「約二日かかるよ。正確には四十六時間五十六分三十五秒だね。」
「わかった。」
アントニオの言葉に頷くとヤマトはマイクを握った。
『ミレニアムより、第二惑星の位置を確認した。約四十七時間後には衛星軌道上に到達する。』
「理性的な星のようだな。」
「そうだね。いい取引になるといいね。」
『ローリスより、貴船の安全な航行を支援するため星系内基本情報を送付したい。チャンネル五五一プロトコルタイプ二.二Bは受信可能か。』
「マイナーなプロトコルだね。だけど問題ないよ。」
『ミレニアムより、受信可能。気遣い感謝する。受信完了後、再度の交信は衛星軌道上にて行う。』
「わざわざ星系内データをくれるなんて良い奴らだな。」
「そうだね。」
「無いと思うが偽のデータを送ってくる可能性もある。だからこっちでも天測しといてくれ。」
「了解。」
『ローリスより、了解した。これより星系内基本情報を送信する。貴船の到着を待つ。』
「データの内容はどうだ?」
「まだ全部受信したわけではないけど、今のところボクの天測と整合性はとれているよ。」
「受信完了したら惑星ローリスとやらに向けて出発だ。俺はメシ食ってくる。」
「了解。」
ヤマトはアントニオに仕事を任せると操舵室を後にした。
「受信完了したよ。これから第二惑星に向かうね。」
ヤマトの食事中にアントニオの声が届く。
「わかった。」
ヤマトは足を床に固定すると返事を返した。ヤマトの返事を受けて船が加速し、その瞬間に上下が生まれる。
「惑星データはどうなっている?」
「第二惑星でいいのかな?」
「そうだ。」
「それなら。標準重力加速度は十一.二〇。標準大気圧百八十二.〇。自転速度三十六時間二十七分十二秒。公転速度一.七一〇。平均半径一万二千五百二十。惑星比重三千二百。平均気温三百一.二彼らが送ってくれたデータはこうなっているよ。ボクの天測で今のところ分かっているのは標準重力加速度、公転速度、平均半径、惑星比重だけど全部このデータとほぼ一致しているよ。いや、今再計測したけどむしろ彼らの方が正確みたいだね。」
「ずっと住んでいて不正確でも困るだろ。」
「それもそうだね。」
「重力加速度が大きいな。」
「そうだね、惑星自体も大きいよ。」
「その割には比重が小さい。」
「そうだね。この星系では他の惑星の比重もあまり大きくない、星系全体の比重が小さいよ。」
「重金属元素は少なそうだな。」
「そう予想されるね。」
「わかった。ちっと売りもん考えてみるわ。」
「了解。それと嬉しい情報と残念な情報が来ているよ。」
「何だ。」
「第二惑星はテラフォーミングされているよ。」
テラフォーミング、つまりは星の地球環境化が行われていれば生命維持装置を持ち歩く必要がない。また惑星の多くの土地に人類が生活できるため人口も増えやすいし豊かである事が多い。
「それは助かる。」
「ただし彼らは軌道エレベーターもマスドライバーも持っていないみたいだよ。」
「マジか。ランデブーとかめんどくせぇよ。」
アントニオの伝えた情報にヤマトはあからさまに嫌な顔をした。ランデブーは細かな制御を必要なり、接触事故が起こる可能性がある上に、どうしても取引量が少なくなってしまう。できれば避けたいところだった。
「自転も遅いし、重力加速度も大きいからしょうがないかもしれないね。」
重量物を軌道へ打ち上げるマスドライバーは重力が大きくなり、大気圧すなわち空気抵抗が大きいほど効果は薄くなり、軌道エレベーターは重力が大きくなり自転速度が遅くなるほど建築は困難になる。
ローリスの大きな重力と大気圧から大気圏外に打ち上げるほどのマスドライバーだと中にいる人間は無事ではすまないだろうし、軌道エレベーターは長大─始祖星地球の物と比べると倍以上の長さ─になってしまい通常の物質ではその自重に耐えることができない。
惑星の重力─質量と言い換える事もできる─を減らすということは惑星そのものを小さくするということだ、それは人類が現在所有する技術では不可能に近い。
大気圧を無視できるほど小さくすると地表で人類が生きて行く事が出来なくなってしまうので、テラフォーミングの意味がなくなってしまう。
また、自転を早めるためにはいくつもの小惑星を惑星にぶつけなければならない。小惑星の軌道を変更しぶつけるためには数百年の時が必要な上に、地上に甚大な被害が出る。
これらを鑑みるとロケット推進による軌道投入のほうがコストは低い。そのためローリスのような惑星では軌道エレベーターは建築される事はまず無いと言っていい。
「ま、しかたねぇか。」
アントニオの言葉が意味する事を理解しているヤマトだが、それでもランデブーの手間を考えるとついため息をついた。
二日後。
『…星間通商条約第二条に基づき前訪問二星系の医療情報および現在所有の星図を送付する。貴星系の医療情報、星図も送付されたし。転送はチャンネル五五一プロトコルタイプ二.二Bを引き続き使用する。』
『ローリスより、了解した。貴船着陸直後歓迎の場を設けたいよろしいか?』
『ミレニアムより、歓迎の場は問題ないが惑星馴致に時間がかかる着陸直後は不可能だ。それに記念すべき一歩は光の中で行いたい。夜が明けてから貴星に降りる。』
『ローリスより、了解した。記念すべき日は光の中にしよう。』
「まさか着陸することになるとは思わなかったな。」
「軌道投入費用の半額を彼らが負担してくれると言っているから、そこまで悪い条件じゃないよ。」
「まあな。着陸したほうが取引もたくさんできるし。ところで、情報の交換はすんだか?」
「終わっているよ。」
「なら久しぶりの大気圏突入にむけて準備開始だ。」
「了解。」
数時間後
「大気圏へ降下を開始するよ。」
「わかった。」
アントニオの言葉が終わると小さな加速がかかりミレニアムはゆっくりと軌道を離れ大気圏へ向けて降下を開始した。船体が大気に触れ振動が伝わる。
「おっ。来たな。」
「重力加速度も標準大気圧も大きいから少しゆれるよ。」
「わかってる。」
★★★
惑星ローリスの歴史は長くは無い。ローリスの大地で人々の営みが行われるようになって四百公転を少し超えたところである。地球年に換算して七百年足らずだ。
始祖星地球に比べ数倍もの広さを誇る大地はほとんど開拓されておらず手付かずのままだ。その大地の所々に緑が広がっている。緑の中心にあるのがローリスの都市だ。
ローリスの赤道付近、大地でもっとも多くの緑に囲まれているのが最初の入植都市スティラ市である。
スティラ市は歴史が古いだけではなく人口一千万を超えるローリス最大の都市であり、星系政府が置かれる政治経済の中心都市であり、星間船が発着できる唯一の空港を持つ都市でもある。
そんなスティラ市近郊にある丘の上で蒼髪の少女が空を見上げていた。少女の名をリーネという。リーネの立つ丘は市の北西の農業区と住宅区の境となっている。市街から離れているため、街の明かりに邪魔されること無く星空を見ることができるうえに、昼間は北に海を遠望できる。
海と言ってもローリスのそれは始祖星地球の海のように一つにつながっておらず、宇宙から見ると大きな湖のようにも見える。その中でも約二億平方キロもの広さを誇り、ローリスでもっとも大きい海がスティラ市の北にある海で大洋と呼ばれ市民に親しまれている。
ローリスの海一つ一つは始祖星地球の海と比べ狭いものの、ローリスの海を全て合わせるとその面積は始祖星地球の海洋面積を超え六億平方キロを超える。また平均水深もローリスの海の方がずっと深く約六千五百メートルとなっている。そのためローリスでは始祖星地球以上に豊富な水資源がある。これは人類が多くの星に住むようになっているが非常に珍しいことであった。
海により塩分濃度が大きく異なり真水に近いような海もあれば、塩類が析出する飽和状態の海もある。大洋を始めとする条件の良いいくつかの海では魚類を始めとする水生生物が放されてはいるが、その数はまだまだ少なくローリスにおける水産資源はとても高価であり、また非常に大切にされている。
そんな星と海を見ることができるこの丘はリーネのお気に入りの場所だった。
テレビ─白黒からカラーへ、通信がアナログからデジタルへ、二次元映像が三次元ホログラフへと変わってもテレビという単語は変わらなかった─のニュースによれば今日は八十三公転ぶりに他の星系から人が来るという。
リーネにとって宇宙は憧れの場所だ。そんな憧れの場所を旅するのはどんな人なのだろう。美しい星々の間を旅するのはどんな気持ちだろう。乗ってくる宇宙船はどんな姿なのだろう。
小さな体に大きな期待を詰め込みリーネは空を見上げていた。
どれくらい待ったかわからない。始祖星地球に比べるとゆっくりとしたローリスの自転が生み出す長い薄暮が消え、辺りの闇が深くなり頭上に星々が瞬きはじめた。その夜は雲ひとつ無く晴れ上がり、オーロラも出ていない。─ローリスでは惑星の磁場が弱いため極以外でもオーロラが見える。赤道直下のスティラ市でもしばしばオーロラが観測されている。─星を見るのにうってつけの夜だった。
ローリスの持つ唯一のそしてとても小さな衛星、ラオが東の空から顔を出した頃、空にオレンジ色の光が流れた。
「また流れ星?」
リーネは思わずつぶやく。さっきから小さな流れ星が何度も期待を裏切っていたからだ。
流れ星にしてはいつまでも消えない。
「宇宙船!?」
リーネの期待にこたえるようにその光はゆっくりと尾を引き降りてくる。スティラ市の上空で一度大きく弧を描くと、市の南側にある空港へと降りていった。
時計で測ればほんのわずかな時間、だがリーネにはそれで十分だった。降りてくる宇宙船を見た、それだけで幸せだった。リーネは幸せな気持ちを抱きしめ、すっかり暗くなった道を歩き、家へと帰るのだった。
★★★
「着陸完了したよ。」
「わかった。問題ないとは思うが大気組成など確認してくれ。」
「了解。」
一瞬の沈黙の後アントニオの声が響く。
「呼吸に問題ないよ。」
「ならチャンネルを繋いでくれ。」
「了解。」
『ミレニアムより、無事着陸した。誘導に感謝する。』
『スティラ市空港管制室より、客人を歓迎する。』
「空気組成を外気と同じになるようにしてくれ。」
「どれくらい時間をかけようか?」
「朝まで時間はたっぷりある。検疫も兼ねてゆっくりやってくれ。」
「了解。」
★★★
翌日リーネは職場でそわそわしていた。
リーネの職場はスティラ市中心街にあるレストラン『グラナダ』だ。客席は二つのフロアに別れており、下のフロアはグランドフロアと呼ばれていて自動調理器とアンドロイドによる無人サービスで良心的な価格設定になっているが、上のフロアはアッパーフロアと呼ばれていて料理人による調理とウェイトレスによる完全有人サービスで少々高めの価格設定だ。一般的な店よりも高い価格設定にもかかわらず客の入りは上のフロアの方が良い。
リーネは上のフロアでウェイトレスをしている。長い髪は料理に入らないようにお団子にまとめ、制服のエプロンドレスを見に纏い、笑顔を振りまく仕事だが自分でも気に入っていた。
その日の職場は宇宙船の話題で持ちきりだった。リーネもウェイトレスの仕事中店のテレビを何度も覗き見た。そこには白い涙滴型の宇宙船が空港に着陸するときの様子。そして大気圏突入時に輝く様子が何度も映し出されていた。その映像はリーネが昨日見たものと同じものだった。改めて昨日見たものが本物だったと実感する。
ナレーターによるともうまもなくすると中から降りて来るらしい。どんな人だろう。リーネは胸が高鳴るのを感じていた。
★★★
「ちょっくら行ってくる。留守番は頼んだ。」
「了解。」
ヤマトはアントニオへ後を託すとエアロックへ消えていった。
★★★
テレビに宇宙船からゆっくりとタラップが降りてくるのが映し出される。カメラはズームし降りてくる人物を捉えようとしているのがわかる。ハッチがすべるように開いた。
リーネは仕事中なのも忘れ画面を食い入るように見つめていた。
見たことのないデザインの白い服を着た男がタラップの上に現れた。
思わずリーネは息を呑む。あの人が宇宙を旅してきたんだ。
朝の光に照らされ、一段一段タラップを降りる姿はとても落ち着いていてリーネには英雄のように感じられた。花束を受け取り、市長に挨拶をする姿も堂に入っている。
ナレーターは暫くの間彼がこの星に留まることを告げていた。
もしかしたら彼を直接見られるかもしれない。リーネの働くレストランに顔を出すこともあるかもしれない。握手とかできたら最高だ。リーネはそんな想像をめぐらし一日過ごした。
おかげでこの日は何度も仕事でミスをした。注文を聞き間違え、料理をこぼし、間違ったテーブルに配膳した。
「リーネ、今日はどうしたのですか?すこしミスが多いのではなくて?」
あまりのミスの多さを見兼ねたフロア主任のツィッテが仕事上がりに声をかけてきた。
ツィッテはリーネの働くレストランのホール主任だ。三角眼鏡が似合う中年の女性で、後ろにも目があるのではないかと疑うほど視野が広くホール全体に目を配り、オーナーの信任も厚い人物だ。
「はい。すみません。」
「どうしたのですか。貴女らしくも無い。体調が悪いのですか?」
「大丈夫です。」
「ならしっかりなさい。何時も言っているように接客は一期一会です…」
ツィッテ主任の説教は続いたが、上の空だったリーネの耳には何も入らなかった。
長々と続いた説教が終わると、リーネはすぐに地下鉄に飛び乗り空港へと向かった。そこに宇宙船があるはずだ。テレビでは無く直接見たかった。
地下鉄が空港にある駅へ滑り込みドアが開くとリーネはすぐに駆け出した。一秒でも早く到着したかった。
息を切らせ空港に着くと普段は閑散としたロビーが人でごった返していた。久方ぶりの来訪者の姿を観に物見高い人々が集まっていたのだ。
幾重にもできた人垣は背の低いリーネには鉄壁の城塞だった。群集に揉まれ潰されながらも何とか最前列までたどり着く。
人々の熱気とは対照的にひんやりとした柵を握り締め駐機場に目をやると、テレビで何度も見た白い涙滴型の宇宙船が横たわっているのがリーネの目に飛び込んできた。
想像していたより小さく、所々煤で汚れた船体は宇宙の過酷さを物語るようだ。
所々に突き出たアンテナ、半球を描く天測機器、力学的に配置されたスラスター、尾部で存在感を主張する大出力のイオンエンジン、その全てがリーネの憧憬の対象だった。
それから毎日仕事が明けると空港に向かい宇宙船を見に行った。だんだんと見物に来る人の数が減って行ったが、宇宙船が見やすくなりリーネには好都合だった。何度見ても飽きなかった。
何日かして船体が掃除された。表面を汚していた煤が落とされた船体は白く輝きリーネの目に眩しいほどに映った。
リーネは時間の許す限り宇宙船を眺めていた。
★★★
歓迎セレモニーを終えたヤマトは各種手続きに関して市の担当者と会談を行っていた。
「…ダストカーボナイトに関しては買い取りいたしません。」
「了解しました。では通常廃棄物としての処理をお願いします。」
ダストカーボナイトは、有機廃棄物から水素と酸素─副次的に窒素─を取り除き、結晶化したものだ。炭素を主成分に燐や硫黄の他、カルシウムなどのミネラル類などを含み見た目は石炭に似ている。
大型の宇宙船なら全ての物質を完全再循環させるための機器が積み込んであるが、総重量二百トンのミレニアムにはそこまで大規模な機器は積み込めない。その為どうしてもダストカーボナイトが発生してしまうのだ。
星間通商条約によりスペースネットワークサービスに所属する宇宙船は、宇宙空間で質量一グラム以上のデブリを故意に宇宙空間に留まるように放出してはならない。したがってダストカーボナイトの処分は無人の星へと落下させるか─有人の星の場合万が一の事故を鑑み星系政府の許可が無く投下することはゆるされていない─、着陸後運び出すかどちらかである。
有機物に恵まれない星ならダストカーボナイトが売れることもあるが、人類の生存できる星では有機物はそこまで貴重でない場合が多い。通常はゴミとして処理される。ヤマトにとっても予想通りの内容だ。
ゴミとされるのが分かっていても人類圏から失われてしまっては長い眼で見れば資源の損失になる。ヤマトのポリシーはダストカーボナイトといえども資源。資源は可能な限り人類圏へ循環させる事だ。そのために多少コストがかかってもそれは必要な義務と考えている。
「当市での廃棄物処理基準に準じまして処理量一kgに対し三μAuのお支払いを願います。」
「了解しました。」
ヤマトは予想よりかなり安い処理価格に安堵しつつ次の話題を切り出す。
「次に機器類のスクラップ処理に関してですが引き取り願えますか?」
「機器類の組成はどのようになっていますでしょうか?」
「鉄合金を主とする金属部品が八割以上。詳細な組成が必要でしょうか?」
「いえ、当市では重金属の引き取りは行っておりません。金属再処理業者へお売りするのが良いでしょう。」
「了解しました。次に…」
ヤマトと市担当者との交渉は数時間にわたって続いた。
★★★
数日振りにヤマトはミレニアムに戻っていた。
「もう商談はすんだのかな?」
「いや、まだだ。それより乗員を一人増やすのは問題あるか?」
「今は四人乗りの船に二人しかいないから問題ないよ。」
「なら一人乗員を増やす。」
「了解。それにしても今まで雇わなかったのにどういう心境の変化があったのかな?」
「ここ数日商談してわかったのだがこの星はAuの価値が非常に高い。」
「重金属が少なそうだしそうなるだろうね。」
「つまり人件費がべらぼうに安いんだ。メイドロイドを買うよりよっぽどな。」
「納得したよ。」
「人選に注文あるか?」
「綺麗好き人が良いかな。」
「俺の意見と一致したな。ここ数日で変わったことは?」
「変わったことと言えば見物人が沢山来ているくらいだよ。」
「それはこっちも同じだ。取材だの表敬訪問だの腐るほど来てる。」
「よっぽど珍しいみたいだね。」
「星系外来訪者は八十三公転ぶりらしい。」
「そうすると約百四十二年だね。」
「生身ならけっこうな長生きだな。」
「そうだね。」
「まあおかげさまで商談は順調だけどな。」
「それは良かったね。用件はこれで終わり?」
「ああ。」
「また外出るの?」
「いや今日はこっちで寝る。」
「了解。」
★★★
『SNS見習い募集。下働きを厭わない者。申し込みは市民局住民窓口まで。』
この一文が発表されたときリーネの胸に衝撃が走った。わたしでも宇宙にいけるかもしれない。そう思ったら止まらなかった。やらないで後悔するより失敗して反省するほうが良い。何も迷いは無かった。すぐに役所に走った。
「すみません。SNSの見習い募集の窓口はこちらですか?」
「はい。」
少し疲れた様子の市民局の局員はリーネをチラリと見上げる。
「それではこちらの書類に必要事項を記入してください。」
「書類ですか?」
局員の言葉はリーネにとって意外だった。ローリスでは役所の手続きは本人の生体認証で行われる書類を書くことは無いのだ。
「本人確認は生体認証をさせていただきますが書類の提出は星間通商条約による規定です。SNSの前組織である星間通商同盟から続く規定のため古い内容も残されているのだそうです。」
局員は何度も同じ説明を繰り返ししたのだろうか物憂さげに説明する
「そうなんですか。」
局員から市章の透かしの入った書類を受け取りその場で記載を始める。
「すみません。」
「はい。」
「希望年収の欄にあるAuってなんですか?」
リーネの見た事の無い単位だった。
「星間通貨単位です。」
「えっ?」
星間通貨単位など聞いた事の無い単語だ。
「SNSは色々な星々を渡ります。ですからフェルスを使いません。」
フェルスはローリスの通貨だ。
「フェルスじゃないんですね。」
「それは他の星では使えませんから。」
「なるほど。一Auはどのくらいになるんですか?」
「一Auは金一グラムに相当します。」
重金属の少ないローリスでは金の埋蔵量は多くても数百トン程度と見積もられており非常に高価だ。金のアクセサリーを持つ事は一種のステータスになる。リーネはもちろん持っていない。
「それってフェルスにしたらいくらぐらいですか?」
「現在のレートで一Auは二百万フェルスくらいです。」
局員の答えた額はリーネが一公転で受け取る収入を超えていた。
「わかりました。」
希望年収には一という数字を記載した。
他にもいくつかの項目を窓口の局員に聞きながら記載し、祈るような気持ちで提出した。
幾日かたった後、書類選考を通過し面接が行われるとの通知がリーネの元にやって来た。まるで夢の中にいるような現実感の無さだ。
面接の日は精一杯のおしゃれをした。白いノースリーブのブラウスに飾りカフス、二重にフリルがついたフレアスカートはローリスで最近流行っているファッションだ。腰まである自慢の蒼髪も綺麗に梳かし、前髪には金色─もちろん金製品ではなくメッキですらない─のクリップをワンポイントで留めてある。これならどこへ行っても恥ずかしくないはずだ。リーネは鏡に向かってそう言い聞かすと高鳴る期待と緊張をつれて面接会場へと向かった。
面接会場の扉を開くとそこにはすでに数十人も集まっていた。リーネも集合時間より早く来たはずだが他の人たちはもっと早い。すでに自分が出遅れているように感じた。
入り口を入ると職員から整理券を渡された。五人ずつの集団面接を行うので、番号を呼ばれたら集まるようにとのことだ。
リーネは少し落ち着くと待合室にいる人々を見回して見た。男女の区別無く全員がクラシカルな地球様式のスーツを着ているのに気付く。もしかしてこういう場合には地球様式のスーツで来るのが当たり前なのかと不安になった。どちらにしてもリーネの持つ服には地球様式のスーツは一つも無いのでどうしようもないのだが、一人だけ場違いな気がして待合室の端の方にある椅子に腰掛け窓の外を眺めることにした。
「ここ良いかしら?」
突然声をかけられ振り向くときっちりと地球様式のタイトスカートのスーツを来た女性が隣の椅子に座ろうとしている。見た感じリーネより何公転か年上に見える顔立ち、ショートボブにそろえられた赤い髪に豊かな胸元。リーネは一瞬自分の胸元に目線を下ろし、その起伏の無さを再確認すると少しやるせない気持ちになった。
「はい、どうぞ。」
胸の豊かさは断る理由になる訳も無いのでリーネは首肯する。
「私はカスネよ。貴女の名前は?」
女性は座りながら簡単に自己紹介してリーネの名を尋ねる。
「リーネです。」
「よろしくね。」
リーネの名前を聞きカスネは目を細めにっこりと微笑む。その仕草は大人の女性特有の艶っぽさがあった。
「はい、よろしくお願いします。」
つい返事の声が裏返る。カスネの微笑みは同性のリーネでさえドキリとさせるものがあった。
「そのカフスはミナー・ウィルビルかしら?」
リーネのカフスを見ながらカスネが話しを続けてきた。
「はい。そうです。今シーズンの新作ブルースパイラルです。」
新作発表で見て一目ぼれし、前回の給料で買ったものだ。
「知っているわ。私も買おうか迷っていたから。結局ハイナンドスの新作にしたけどね。」
「あれも素敵ですよね。」
ミナー・ウィルビルは『全ての女性を美しく』をキャッチコピーにしているように、全年齢の女性を対象としたモデルを販売している。一方、ハイナンドスはどちらかと言うと大人向けのデザインの物を多く売り出している。カスネはリーネより幾分年上に見えるためハイナンドスが似合うだろう。
「それにしても貴女やるわね?」
「はい?」
何がやるのだろう。カスネの意図がわからずリーネは聞き返す。
「その格好よ。私達は能力ではファーストに敵わないもの。服装で差別化されれば少しは可能性上がるじゃない?」
どうやら奇抜な格好をしてきて気を引こうとしていると思われたらしい。
「あの、わたしそんなつもりじゃなかったのですけど。」
もちろんリーネにそんな意図はないので否定する。
「なら何でそんな格好?他星との接触なら古典的な地球様式にするのが当然でしょ?」
他星系との接触で地球様式にするなど初めて知る事だ。しかしなぜ全員が地球様式だったのかが理解できた。いくらローリスで流行っているスタイルでも他の星で流行っているとは限らないのだ。
それならばどこかの星の基準を作ったほうが良い。そして基準になるとしたら始祖星地球をおいて無いだろう。
そう言えばテレビで見た歓迎式典でも市長が地球様式のスーツを着ていたような気がする。
しかし同時に市長の歓迎を受ける側である宇宙船の船長の格好が地球様式のスーツでないことを思い出した。
「でも宇宙船の船長さんも式典で地球様式のスーツを着ていなかった気がします。」
リーネは自分の格好だけでなく船長の格好も異なっていたことを口にした。
「確かにスーツは着ていなかったわ。でもあれは詰襟よ。」
「詰襟?」
聞いたことの無い単語に思わず聞き返す。
「そう。地球時代に詰襟は海を仕事にする職業の制服だったと聞くわ。そこから宇宙を星の海に見立てて、詰襟を好んで使う者もいるそうよ。」
「そうなのですか?」
結局は自分の無知を晒しただけだったようだ。リーネは今の自分の格好が恥ずかしくなり耳が熱くなるのを感じていた。
「貴女、星間文明史苦手だったの?」
「すみません。わたしサードなので星間文明史は習っていません。」
ローリスでは教育段階により市民は階級に別れる。高度な専門教育まで卒業しファーストと呼ばれる一級市民、高等教育まで卒業しセカンドと呼ばれる二級市民、初等教育だけ卒業しサードと呼ばれる三級市民、無教養でロストと呼ばれる四級市民がある。教育段階によっては就けない職業も存在する。リーネは初等教育までしか受けていない三級市民だ。三級市民の習う歴史は地球時代史とローリス史だけで、星間文明史は高等教育で履修する項目である。そしてカスネはどうやら二級市民らしい。
「えっ?サード?道理で若く見えるわけね。やっぱりアスリートとかかしら?」
SNS見習いとは言え宇宙飛行士だ。宇宙飛行士という職業はローリスにも存在する。しかしそれは物理学と工学の両方の専門教育を終えた一級市民の上に、過酷な訓練に耐えうる身体能力も併せ持つ特別な存在となっている。教育段階の低いという話しを聞いてリーネが身体能力の高い特殊な人材と思ったようだ。
「いえ。レストランのウェイトレスです。」
「えっ、じゃあ資格とかは?」
リーネの答えを聞きカスネは目を見開いて聞き返す。よほど驚いたようだ。
「特に持っていません。」
「何で書類選考通ったの?」
「わたしにもわかりません。」
書類選考が通った事に浮かれてその理由など考えたこともなかった。言われてみれば学の無い三級市民な上に、特別な資格も無く体力も人並みのリーネがなぜ書類審査が通ったのか自分でもわからなかった。
「そう言うこともあるのね。」
カスネは自分を納得させるように小さく頷いていた。
「カスネさんはどんなお仕事しているのですか?」
自分の仕事の話しをしたところでカスネの仕事が気になったリーネは正直に聞いて見る事にした。
「私は北西農業区で土壌管理士をしているわ。」
「土壌管理士?」
リーネの聞いた事の無い職業だ。
「そうよ。あまり有名ではない仕事だから貴女が知らないのも仕方が無いわね。」
「どんな事をするんですか?」
名前から土をどうにかするのだろうと言うことはわかるが、この細身の女性─ただし胸元以外─が重い土を運んでいる姿は想像できない。
「畑の作物は土から栄養を吸い上げて育っているの。土の中の栄養が無くなってしまったら作物は育たないわ。それはわかるかしら?」
「わかります。」
「土の中の栄養は色々あるけれど、作物によって必要とする栄養の種類と量は変わってくるわ。一箇所で同じ作物を育て続けたら土の中から特定の栄養素が早く無くなってしまうの。必要とする栄養素が一つでも足りなくなると作物は育たなくなるわ。」
「そうしたらいつかはお野菜が採れなくなってしまうんですか?」
「それは無いわ。作物が採れなくなるほど栄養が無くなってしまっても、肥料をあげれば栄養を補えるし、土の中の微生物がまた栄養を作ってくれる。ただ元通り収穫できるようになるのには時間がかかってしまうの。」
「へー、そうなんですか。」
「ローリスは開発してからあまり時間がたっていないわ。」
「そうですね。まだ今の公転で着陸四百二公転目です。」
前公転での着陸四百公転記念祭を思い出しながらリーネは答える。
「そうね。ローリス自体の開発はもっと昔から行われているけど短い事には変わり無いわね。」
「はい。」
「さっきも話した通り土の中の栄養ができるまで時間がかかるの。開発されてから時間のたっていないこの星では土の中の栄養はとっても少ないのよ。」
「そうなんですか。」
「ええ。だから私達土壌管理士が土壌の状態を確認して育てる作物を選択したり、栄養不足にならないように肥料の量を調節したり、時には何も栽培せず土地を休ませたりする判断をしているのよ。」
「すごいです。」
「そうは言っても私はまだ楽なほう。私より前の時代の人たちはもっと大変だったの。昔は今よりも土の中の栄養がもっと少なかったの。一度作物を収穫したら少なくとも1公転は何も育たない状態になってしまったと師匠から聞いたわ。」
「大変なんですね。私達が美味しいお野菜を食べられるのもカスネさんたちのおかげですね。ありがとうございます。」
「ふふふ。そう言ってもらえると私も嬉しいわ。」
やがて時間になったようで、係りの者が番号を呼びはじめた。周りの受験生達も席に着いている。リーネもカスネとのお喋りを終わらせ静かに自分の番を待つことにした。
結局リーネが待合室に着てからその後やってくる人は一人もいなかった。どうやらリーネが最後の一人だったようだ。服装のことと言い集合の時間と言い周りの人に比べ一歩も二歩も遅れてしまった気がする。リーネはせめて面接だけは失敗しないようにしっかり受け答えしようと心に決めた。
だんだんと面接に人が流れて行き、待合室の人数が減っていくのと反比例してリーネの緊張が高まっていく。リーネは接客なら得意だし、受け答えはお客さんにも好評だ『わたしは大丈夫』そう心の中で自分に言い聞かせ面接の時を待った。
最後に待合室に入ったから当然のようにリーネの面接は最後の組だった。係員に誘導され面接の部屋へ入ると窓を背にした事務机と肘掛のついた大きな皮製の椅子に座る白い服装─詰襟と教わった─をした船長の姿があった。
周りの人に合わせるように一礼し事務机に対するように並べられた椅子に腰掛ける。リーネは心臓が早鐘のように鳴るのを感じていた。
「では貴女から自己紹介と志望理由を聞かせてください。」
船長はいきなりリーネを指名した。
「わたし、リーネ・コニスです。」
反射的に席から立ち上がり自分の名前を言う。
「座ったままで結構ですよ。」
船長は立ち上がったリーネに落ち着かせるように話す。
また失敗した。そう思ったら考えていた志望理由など頭から吹っ飛んでしまった。
何か言わなければいけない。焦れば焦るほど頭の中が真っ白になる。
「えっと、宇宙に行ってみたくて応募しました。」
何とか口から出た言葉がこれだった。
最悪だ。こんな子供のような理由があるだろうか。自分でも失敗したのがわかる。
後は何を話したのかまったく憶えていない。とにかく一生懸命に対応したのは確かだった。
面接からの帰り道リーネは一人歩いた。きっとこの面接で終わりだろうそう思うと悲しかった。こんな惨めな気持ちになるなら書類選考で落ちたほうがまだましだった。その夜リーネはベッドの中で泣いた。
翌日からリーネは気持ちを切り替えた。三級市民では通るはずの無い書類選考に通り船長と直接面接できただけでも十分だ。
きっと面接まで行った三級市民は自分だけのはずだ。そう思えばむしろ誇らしかった。
リーネの気持ちの切り替えが終わった頃、リーネの手元に面接が通り最終選考が行われる旨の通知が届いた。
まったく信じられなかった。宛名は何度見直してもリーネの名が書いてある。内容を何度見直しても合格のようだ。市民局にも問い合わせたが間違いは無いらしい。
あの面接の何が良かったのかわからない。とにかく合格したのだ、気持ちを再度切り替え最終選考の内容に目を通した。
『最終選考:簡単な適正検査と簡単な実務を行います。動きやすく汚れても良い格好をしてきてください。
集合場所:空港第七ゲート前に市民局局員がいます。
日付:…』
今度の選考では服装はあまり気にしなくてよさそうだ。
それにしても実務とは何だろうか。リーネは星を眺めるくらいしか宇宙のことはわからないし宇宙船の機器の整備などできるはずも無い。
深く考えたところで答えはわからないしわかったところでどうしようもない。最終選考は自分のできることを精一杯やろう。リーネはそう決心した。
最終選考の日、リーネは早くに起きて支度をした。今度は最初に集合場所に集まるつもりだった。集合場所もよく分かっている。第七ゲートは何度も通いつめた宇宙船の目の前のゲートだ。
集合時間の三時間前に集合場所に着いた。当然のように誰もいない。ちょっと張り切りすぎたリーネはそう思うと一人苦笑した。
仕方なしに時間まで宇宙船を眺めることにした。白い涙滴型の船体をここから眺めるのは何度目だろうか。宇宙船を見ていると瞬く間に時間が流れていく。
集合時間の一時間半前に市民局の制服を着た局員がやって来た。話しかけるとすぐに担当者だとわかる。担当者によると最終選考に残っているのはリーネともう一人だけだと言う。
そのもう一人も一時間前にはやって来た。もう一人の人物は今回もきっちりとした地球様式のスーツを着ている青年だった。
リーネが宇宙船を見ているのを一瞥した後、市民局の局員と雑談している。雑談の内容が耳に届くが、なんだか難しい話でリーネにはさっぱりわからない。きっと頭の良い一級市民なのだろう。
時間の五分前になった時。宇宙船のハッチが開き船長が中から降りてくるのがみえた。今日は詰襟ではなくラフな格好をしている。
今回も服装を間違えていないか少し心に引っかかっていたリーネは船長の姿を見てほっとする。今回はこの服装でよさそうだ。船長は局員と二言三言話した後、リーネともう一人の青年の方を見つめ口を開いた。
「キャプテンのヤマトです。ダクズトス・フィノール及びリーネ・コニスこれから最終選考をはじめます。私についてきてください。」
「はい。」
ヤマトの言葉にリーネの返事とダクズトスと呼ばれた青年の返事とが重なる。
二人の返事を聞くとヤマトは真っ直ぐ宇宙船の方へと向かった。
もしかして実作業と言うのは宇宙船の中で行うのだろうか。リーネの期待は弥が上にも高まる。
リーネの期待にこたえるようにヤマトはタラップを上がり、空いたままのハッチへ入って行った。
タラップを上るのを一瞬躊躇したリーネだったが、ダクズトスが先に上っていくのを見てすぐに後を追った。
ハッチを抜けるとそこは薄暗く細長い通路のようになっていた。入ってすぐ左右─船尾と船首の方向─に扉があるが今は閉まっている。その先に二つ並んでいるカプセルの前にヤマトとダクズトスが待っていた。
「これはメディカルマシンという機械です。これで身体的な適正を検査いたします。特に難しい事はありません。中に入って座っているだけで自動的に終わります。」
ヤマトはそう言うとメディカルマシンと呼ばれた機械のタッチパネルに手を触れる。音も無くカプセルの蓋が開き中は人が一人座れるようになっている。
ダクズトスとリーネはそれぞれカプセルに入ると表でヤマトが何か操作したのかカプセルの蓋が閉じられた。
『それでは検査をはじめます。』
外からヤマトの声がするとブゥンと機械の作動する低い音がし始め、数分で音が止まる。
『はい。けっこうです。』
ヤマトの声で再度カプセルの蓋が開かれた。
「お二人とも身体的な問題無いようですね。それでは次に実務に移っていただきます。本日の実務はお二人のそれぞれ希望する年俸の日割り分が支払われます。只働きではございませんのでご安心ください。それではこちらへ来てください。」
そう言うとヤマトは船尾方面の扉を開いた。
リーネはヤマトの後に続いて行くと今度は廊下のようだ。廊下には左右に二つずつ扉があり突き当りにも扉がある。天井にはいくつものパイプが等間隔に並び雲梯のようになっていた。
廊下に入りすぐ横の扉へヤマトが入っていく。それに続いてリーネも扉の中へと入る。
扉の中は比較的広く、船首方面に向かって二つのシートが、船尾方向の壁際に向かい合うように二つのシートがあった。船首方向のシートの前にはいくつかのディスプレイ、タッチパネル、マイク、スイッチ類、そして操縦桿があるところを見るとここがコックピットなのだろう。
しかしそれにしては汚い。床には所々に何かこぼした跡が固まって黒くなっているし、脱ぎ捨てた服があちこちに散らばっている。何かの屑がシートの下に挟まっているかと思えば、食べかけの皿が副操縦士席と思われるシートの上におきっぱなしだ。部屋の四隅にはもれなく埃が固まっている。一体どのくらい掃除をしていないのか見当もつかない。
「お二人にやってもらうことはこの部屋の掃除です。」
ヤマトは二人に向かってそう宣言した。
「はぃ?」
「へっ?」
予想外の状況と言葉にリーネもダクズトスも返事が疑問系となっていた。
「道具はこれです。ゴミはこちらに入れてください。」
ヤマトは二人の様子を気にかけることなく掃除用具のバケツと雑巾、そしてゴミ袋の束を二人に手渡す。
「私はここにいますので何かわからないことがあったら聞いてくださいね。それではお願いします。」
そう言うとヤマトは主操縦席と思われるお皿がおいていないほうの席にすわるとタッチパネルをいじり始めた。
「はぁ。」
どうやらリーネたちはこの汚れたコックピットを掃除しなければいけないらしい。あまりの汚さに驚いたが掃除なら家でも仕事場でも毎日やっている。どちらかと言えばリーネの得意な仕事だ。
まずは目に付いたゴミと洗い物を集める事にする。
「すみません、洗い物は別に袋に入れておけば良いですか?」
「そうしておいてください。」
リーネの質問にヤマトはタッチパネルから顔を向けることなく答える。
「ダクズトスさんは洗い物を集めてもらえますか?私大きいゴミ集めますから。」
「はい。」
とりあえず二人で手分けして仕事をはじめる。目に付くゴミを集めるたら次は雑巾で拭き掃除だ。
「すみません、水はどこで汲めますか?」
「後ろの扉空けたところに蛇口があります。」
またもリーネの質問にヤマトはタッチパネルから顔を向けることなく答える。教えられた通りにリーネはバケツに水を汲み拭き掃除をはじめる。
「わたし、こちら側から拭きはじめますのでダクズトスさんはあちら側からお願いします。」
「はい。」
「あっ。機械とかって拭いても大丈夫ですか?」
機械の取り扱いが気になりリーネは再度質問をする。
「大丈夫ですよ。濡れても平気ですし、叩いたくらいでは壊れませんので全部拭いてください。スイッチなども私以外は触ったところで動作しませんので安心してください。」
リーネの問いに相変わらずタッチパネルを覗きこんだままヤマトは答える。
リーネはヤマトがさっきから何をしているのか気になって覗き見るとタッチパネルでチェスをやっているだけだった。ヤマトの態度に少しあきれつつもリーネは拭き掃除を続けた。
雑巾はすぐに黒くなり、たまりにたまった汚れはなかなか落ちない。リーネは何度もバケツの水を入れ換え、拭き掃除を続ける。
相方のダクズトスを見ると彼はあまり掃除が得意ではないようでリーネの半分も進んでいない。
暫く掃除を続けているとチェスを終えたヤマトが「ちょっと席をはずしますので続けていてください。」と言い残すとコックピットから出て行ってしまった。外部を映し出したディスプレイを見ると船から降りていってしまったようだ。
折角なのでヤマトが座っていた席も掃除することにする。少しの間拭き掃除の音だけがコックピットに響いた。
「ダクズトスさんは普段どんなお仕事をしているのですか?」
リーネは沈黙が重苦しく感じたのと横で働くダクズトスに興味を覚えたのと合わさってこんな問いを発してみた。
「僕はローリスの経済循環に関して研究をしています。」
予想以上に難しい仕事をしているようだ。
「やっぱりファーストなんですね。空港で局員の方とお話ししているときからそうじゃないかと思っていました。わたしサードなのでお二人の話しが難しくてぜんぜんわかりませんでした。」
「そうですか。」
「わたし、普段はレストランで働いているんです。」
「そうですか。」
「それにしても見ました?ヤマトさん席で何しているかと思ったらチェスやっていたんですよ。」
「そうですか。」
リーネは色々と話題を変えてみてもダクズトスはつれない返事を返すだけだった。
話しをしながらでも掃除は進んでいく。もう少しで終わるといったところでヤマトが戻ってきた。
出て行くときには持っていなかった手提げを持っているところを見ると何か買ってきたようだ。
「綺麗になりましたね、もう結構です。」
ヤマトは室内を見回すと掃除の終了を宣言した。
「もうちょっとやれば全部綺麗になりますけど?」
「はい。」
ヤマトは掃除を切りが良いところまで進めようとするリーネ、一方で諾々と従うダクズトスを見遣ると少し頷いて口を開いた。
「今回の選考はリーネさんを合格とします。ダクズトスさん、申し訳ございませんがここでお引取り下さい。リーネさんにはこの後お話しがあります。」
「はいぃっ!?」
ヤマトの言葉はまたもリーネの予想外のものでつい叫んでしまった。
「ですからリーネさん貴女が合格です。」
ヤマトはもう一度リーネの目を見ながら合格の宣言をする。
「はい。」
理解がようやく追いついたリーネは何とか返事をすることができた。
「なぜですか?」
搾り出すようにダクズトスが声を上げた。
「ん?」
何が問題あるのかといった表情でヤマトはダクズトスの方へ視線を送る。
「なぜ僕が落ちて彼女が合格なのですか?」
やや怒気を込めてダクズトスはヤマトへ視線を返す。
「彼女の方が今後有望だからです。」
当然のこととばかりにヤマトが理由を述べた。
「僕の方が有能です。僕はファーストですが彼女はサードだそうです。学歴がぜんぜん違います。加えて僕は物理学と経済学が専門ですから今後宇宙での航行や商取引の際にもお役に立てるはずです。それに彼女は貴方が居ない間やたらと話しかけてきたけどその間僕はまじめに掃除していました。それなのになぜですか!?」
ヤマトは半ば怒鳴り声となったダクズトスの言葉を聞くと頭を掻きながら大きくため息をついた。
「アホかてめぇ。物理学?んなもんいらねぇよ。てめぇの頭はコンピューターより計算速いのか?経済学?一つの星の経済だけしか知らんねぇてめぇの知識なんて役にたたねぇよ。そんなもん最初から求めてねぇ。勘違いすんなこのバカ。」
ヤマトの口調が今までの丁寧なものから打って変わった。ダクズトスの言葉に怒りを露にしているのがリーネにもわかる。
「でも彼女は貴方が見て居ないところで手を抜いていました。」
なおも食い下がるようにダクズトスが詰め寄る。
「これか?おい映せ。」
「了解。」
ヤマトがそういうとどこからとも無く返事が聞こえ、リーネがダクズトスに話しかけている映像がディスプレイに映った。どうやらディスプレイの方向から撮った映像のようだが撮影するような機械はまるで見当たらない。
「ほら、見ての通り彼女は貴方の居ないところで手を抜いています。」
「どこがだ?話しちゃいるが手は止まって無いぜ?てめぇの倍は手を動かしてる。大体拭き掃除なんて物は誰がやっても結果は大きく変わらねぇんだよ。手抜きしていなけりゃな。」
そういうとヤマトは不敵に口角を吊り上げた。つまり手を抜いていたのはダクズトスだと言っているのだ。
「なっ。」
「それにリーネのほうが細々としたことを確認して来たし、最後にはより良くするための提案もしてきた。ただなんとなく仕事している真似しているだけの誰かさんよりよっぽど良い。無能な優等生はこちらからとっととお引取り下さいまし。」
言葉に詰まるダクズトスにヤマトは畳み掛けるように言葉を浴びせると出口の方を指し示した。
「サードなんて雇うと後で後悔することになるぞ。」
そう言い残すとダクズトスは逃げるように去って行った。
「と言うわけでお前さんが合格だ。」
ヤマトはリーネの方へ向き直るともう一度合格を宣言した。今までの他人行儀の口調を改め砕けた調子だ。
「はい。」
「話しはメシ食べながらにしよう。サンドイッチ買ってきたからこれで良いな?」
「ありがとうございます。」
「そっち座りな。」
ヤマトはそう言うとシートの手摺に収納されていたテーブルを引っ張り出し、手提げからサンドイッチの包みとドリンクを二つずつ並べた。
中身はBLT、卵サラダ、野菜チーズ、さらにタラモだった。ローリスでは海産物は貴重だ、大きく育つ前の魚卵を使ったタラモサンドはローリスに於いて高級なサンドイッチと言える。ちなみにドリンクは暖かい紅茶だった。
早起きしたため朝食を抜いていた上に一生懸命掃除をしていたリーネのお腹は限界まで空いていた。お腹の音がグゥと鳴らなかった事を褒めたいぐらいだ。
リーネはしばしサンドイッチを頬張りドリンクを啜った。
食事を終えると、ヤマトは真剣な面持ちでリーネに語りかけた。
「リーネ。これでお前が望めばSNSの見習いとしてこのミレニアムに乗ることができる。」
「はい。」
「給与は応募書類にあった通り星間通貨であるAuだ。お前の希望年俸以上出すことは保障する。ただし一年は三百六十五日、一日は二十四時間の銀河標準時刻計算の船内時間が基準となる。これはどんな星を訪れていても変わらない。」
「はい。」
「次に生活は主にこの船の中になるだろう。今みたいにどこかの星に着陸している場合は外ですごしてもかまわないが、船内では場所は広くないから二人で一部屋だ。」
どうやらこの船にはもう一人乗組員がいるらしい。そういえば先程映像を写した際ヤマトの命令に答えた声があった。その声の持ち主だろうか。
「船長さんと同じ部屋になるんですか?」
「俺とは別だ。もう一人のやつと一緒になる。それと俺の事はヤマトでいいぜ。」
「わかりました。ヤマトさん。相部屋の方は男性ですか?」
宇宙に憧れるリーネでも流石に男性と相部屋は恥ずかしい。
「男じゃないから安心していい。静かなやつだから問題ないだろう。」
そう言うとヤマトは少し悪戯っぽく笑った。
「それと、自分自身を含め質量〇.五トンまでの私物を船内に持ち込む事ができる。これを使い俺の監督の元という制限があるがその範囲内で他の星との取引を行うことができる。大きく稼げば自分の船を持つことも可能だ。」
「はい。」
「宇宙を旅することはかなり体に負担がかかる。この星で一生暮らしたほうが長生きできるだろう。そのことは理解できるな?」
「はい。」
「それにこの星を離れたら次に戻ってくるのはいつになるかわからない、場合によっては戻ってこられないこともある。また、戻ってきたとしても知人が生きているとは限らない。星を出たときが家族、恋人、友人など親しい人との最後の別れになるかもしれない。それも理解できるな?」
「はい。」
「そしてこの星だ。この星しか知らないだろうがローリスと言う星はかなり豊かだ。テラフォーミングされているおかげで土地は広いし、今食べたサンドイッチでわかる通り食べ物もうまいし豊富だ。このような環境は宇宙では恵まれている。それはきちんと知っていて欲しい。」
「はい。」
「それらを踏まえた上で旅立つか否か判断してくれ。この書類を市当局に提出すればその時点でお前はSNSの見習いとなる。これは今までの人生で最大の決断になるはずだ。よく考えた上で提出して欲しい。」
ヤマトはそう言うとリーネにファイルを手渡した。
リーネはその薄いファイルにただの紙以上の重さを感じ、頷くことしかできなかった。
★★★
「ヤマト、ウラシマ効果の説明はしなくてよかったの?」
リーネが退出するとアントニオがヤマトに尋ねた。
「ちゃんと『戻ってきたとしても知人が生きているとは限らない。』と言っただろ?」
「それじゃあ説明になっていないよ。」
「あの子はこの星の初等教育までしか受けていないらしい。相対性理論や輻輳多元宇宙論の話しをしてもわからんさ。」
「だからと言ってちゃんとはなさなくて良い理由にはならないよ。」
「話したところで変わらんさ。あの顔は何が何でも宇宙に行くつもりだ。」
「そんなものかな?」
「そんなものだ。」
★★★
ヤマトの予想通りリーネは書類を提出するつもりだった。それもヤマトの予想を超えて空港から真っ直ぐに市の担当窓口へ向かい書類を提出したのだ。
書類を渡してその日の内に顔を出したリーネにヤマトも流石に驚いた様子だった。
「親しい人との挨拶は済ませたのか?」
「まだです。」
「荷物は?」
「これから運びます。」
「普通はそう言うのを先にするもんだぜ。」
「すみません。」
ヤマトの言うことももっともだ。
「家族は近くにいるのか?」
「兄弟はいませんし両親は二人とも事故で。」
水産局に勤めていたリーネの両親は数公転前に海洋調査の際の事故で他界していた。そのためリーネは初等教育までしか受けていないのだ。もっともリーネの両親の死後保護者となった叔父夫婦は高等教育まで受けさせようとしていたのだが、そこまでお世話になるのも気が引けたため、リーネは初等教育を終えた時点で働きに出たのだ。SNSにならなかったらリーネは仕事をして学費を貯め、自費で高等教育を受けるつもりだった。
そんな事情をヤマトに説明する。
「今から挨拶と荷物運びまとめて済ませてきな。急ぐような仕事もないからまあ何日かかけてゆっくりやってきな。」
「はい。」
リーネはミレニアムを後にすると空港のカースペースへと向かった。
並んでいるレンタカーの一台に近づき個人生体認証を行うとレンタカーのドアが開く。
住所をタッチパネルに入力するとリーネが運転すること無く車は静に動き出した。ローリスにおいて公道上で人が車を運転する事はほとんど無い。人間の操作より機器による操作の方が早い上に正確で無駄が無いからだ。そのため交通事故というものはめったに起こらないし渋滞する事も少なくなる。どうしても運転を楽しみたい人は郊外の専用サーキットで楽しむのが普通である。
スティラ市は計画的に開発されたため公共の交通網が整備されており車はあまり使われない。そのため個人で車を所有するのは非常にまれである。必要なときにはレンタカーを使用するのが一般的だ。情報端末で呼べば必要なところまで迎えに来てくれるし乗り捨ても自由で非常に使い勝手が良い。利用料金は個人生体認証によって対応する口座から自動的に引き落とされる。イメージとしては無人のタクシーが近い。
ローリスにおける車は水素を燃料としている。歴史の浅いローリスの緑化はまだ十分とは言えない。エタノールなどのアルコール類やオクタンなどの炭化水素を燃料とした場合、燃焼した際に排出される二酸化炭素の環境負荷が無視できないほど大きくなってしまう。もちろんテラフォーミングの際に使用した二酸化炭素を除去する機器に頼ることもできる。しかしそうするとローリスの生態系が発展していかない可能性が高くなるので、現在二酸化炭素除去装置は使用されていない。そのため二酸化炭素を排出する機器の使用は厳しく制限されている。また、減速時の運動エネルギーは磁力で真空中に浮かべられたフライホイールへ溜められて加速時に再度使用される。したがってエネルギーのロスは非常に少なく最初の加速時を除いたら空気抵抗と転がり抵抗の分だけしか燃料を使用しないのだ。
大気にほんの少しの水蒸気を追加させながら車は市街を北へと軽快に走る。
リーネにとってドライブは久しぶりだ。車窓にはスティラ市の町並みが流れていく。市の中心部に近づくと建物は徐々に高度を増し十階建てほどの高層建築が増えてくる。都市の熱がこもらないように高層建築の壁面は苔類で緑化されている為、道は緑の谷底を這うようになってきた。
建物の峡谷を走ると突然視界が広がる。市の中心にある着陸記念公園だ。ローリス最初の入植者が着陸した地点で、現在では移民船が展示保存されており市民の憩いの場ともなっている。スティラ市の道路はここを起点に放射状に伸びているものと、同心円状に伸びているものとが作られている。
車は公園の周りを三分の一周して進路を北西へむけ都市の谷間に舞い戻る。郊外へ進むにつれ建物は低くなりやがて平屋が多くなる。程なくして叔父夫婦の家に着いた。
リーネは両親が亡くなった後、初等教育を終えるまでの間叔父夫婦の家で暮らしていた。子供のいない二人はまるで娘のようにかわいがってくれた。そのためこの家はリーネにとっても色々な思い出があった。
幸いな事に庭で鉢植えの手入れをするふっくらとした叔母の姿が目に入る。
「ファータ叔母さん今日は。」
車の窓から顔を出し叔母に声をかける。
「おや、リーネじゃない。こんな時間にどうしたの?」
叔母の疑問ももっともだ。普段ならこの時間帯リーネは仕事をしているはずだからだ。今日は選考があったので仕事は休んだのだが、もし落ちた場合言うのが恥ずかしかったので、叔父夫婦にはSNS見習いの試験に応募している事は伏せていたのだ。
「実はわたしSNSの見習いになる事になったんです。」
「おやまあ。リーネがねぇ。」
「なぜかわからないけど受かっちゃいました。」
「ならお祝いをしないといけないねぇ。ご飯は食べたのかい?」
「お昼は食べました。」
「なら夕飯はまだね。」
「はい。」
「そしたら家で食べてきなさいよ。ご馳走にするわ。」
「えっ。でもこれから荷物を宇宙船に運ばないといけないんです。」
「今日中に運ばなければいけないの?」
「そう言うわけではないですけど。」
「ならいいじゃない。」
「わかりました。ご馳走になります。」
叔母は何時でもマイペースで逆らうだけ損だ。
「折角だし泊まっていきなさい。」
「えっ。」
「遠慮することないわ。ちょっと前まで一緒に暮らしていたのだし。」
「あっ。はい。」
リーネは叔母の強引さに負けて結局その日は叔父夫婦の家に泊まる事になった。
「モビーにも連絡しておくわ。きっと喜ぶから。」
「モビー叔父さんに会うのは久しぶりです。」
「いつもどおり忙しいみたいでね。」
叔父は仕事大好き人間で叔母の言葉を借りるなら熱狂的仕事原理主義者だ。リーネが一緒に暮らしていたときも早く帰って来る事はほとんどなかった。当時新婚だった叔母に寂しくないか聞いて見たが『彼は熱狂的仕事原理主義者だけど体を壊すような仕事主義過激派とは違うから結婚したのよ。』との返事が返ってきた。独特な距離感の夫婦である。
「まあ今日くらいはすぐ帰るように言っておくわ。」
そういうと叔母は情報端末にメッセージを入力した。
「さてリーネ、車ならそのままマーケットまで行くわよ。」
「マーケット?」
「そうよ。ちょうどいいじゃない買い物に行きましょう。」
そういいながら叔母は車に乗り込んできた。
「まだ早いし脚を伸ばしてセントラルマーケットにするわよ。」
リーネの意見も聞かずにタッチパネルに勝手に入力している。
「はい。」
セントラルマーケットはスティラ市の中心部からやや北に行った所にある市内最大のマーケットである。日々の暮らしに必要な物は何でもそろうといわれている。情報端末だけでも買い物は出来るが品物を見ながら買うのはやはり楽しい物で連日多くの買い物客でにぎわっている場所だ。
車がカースペースに滑り込むと一旦レンタルを解除し車を降りる。セントラルマーケットに来るのはリーネも久しぶりだった。
「ここに来たらコンペイトウに行かないとね。」
コンペイトウとはマーケットに併設された甘味所だ。ここで出される小豆を使ったスイーツはリーネも叔母も大好きだった。
「そうですね。」
この人の良い叔母の欠点は二つある。その一つはマイペースで話しを聞かないこと。そしてもう一つは話しをはじめると長い事だ。それも日が暮れるほどに─ローリスでは始祖星地球より自転が遅いため、この言葉は元に意味していたものと比べてさらに長い時間を意味する─。そんなおしゃべり好きの叔母である、かわいがっていた姪がSNSの見習い試験に合格したなんてまたとないおしゃべりの機会を逃すはずがなかった。リーネは苦笑いを顔に貼り付けこれから始まるであろう叔母の一人舞台に付き合う覚悟を決めた。
叔母のとても長い話しが終わったのは帰宅した叔父からのコールがきっかけだった。気がつくと外はもう暗い。叔母と二人で大急ぎで買い物を済ませ、カースペースでレンタカーを再度借り叔父の家に向かった。
「ただいまモビー。」
「モビー叔父さん今日は。」
「二人ともお帰りなさい。」
叔父は穏やかな笑顔で二人を迎えてくれた。
「おそくなっちゃってすいません。」
「わかっているよ。いつもどおりファータの長話に巻き込まれたのだろう?」
「あら。その言い方だと何時も私の話しが長いみたいじゃない。」
すねたように叔母が頬を膨らませる。子供のようなしぐさだがこの叔母には似合っている。
「ふふ。そういうことにしておこうか。」
「今日は長くないと思うわ。」
そう言いながら買ってきた食材を自動調理器に入れメニューをいじる。
「で、実際のところどうだったのかな、リーネ?」
「長かったですよぉ。昼過ぎからずぅ~っと叔父さんのコールが来るまで話してましたから。」
「まぁ、リーネまで。憶えてらっしゃい。出来たご馳走は全部私が食べちゃうから。」
「ちょっと叔母さんそれは食べすぎ。」
リーネのあわてた様子に二人は楽しそうに笑った。
「ところでリーネ。」
叔父は改まった様子でリーネに語りかけてきた。
「はい。」
「SNSの試験に合格したときいたが。」
「はい。サードのわたしが何の偶然かうかっちゃいました。」
「リーネの頭は悪くない。ただ高等教育をうけていないだけ。ファーストだのセカンドだのはこの星の中で呼ばれているだけだからね。」
「そうね、リーネはいい子だわ。」
ちょっとずれた叔母の相槌に一つ頷くと叔父は話しを続ける。
「SNSになると言うことはこの星を離れる事になるね。」
「そうですね。」
「今の仕事もやめることになるのだろう?」
「まだ連絡してないですけどそうなります。」
「まだ連絡してないのか?」
「まずは叔父さんと叔母さんに挨拶をして、それからにしようと思ってました。」
少し驚いた様子の叔父に理由を話す。
「私達はいいから仕事場にまず連絡しなさい。」
「明日にでも連絡します。」
「いや、連絡だけならすぐにできるから今すぐにしなさい。」
仕事にかかわる事は後回しにさせてくれないらしい。流石は熱狂的仕事原理主義者だ。
「わかりました。」
情報端末を取り出すと職場のアドレスにコールを掛ける。
『おう、リーネどうした。』
「この声はクックオーナーですか?」
どうやらオーナーがコールの対応をしたようだ。オーナーは店に居る事はあまりないものの従業員思いでリーネも可愛がってもらっている。
『ああ。』
「今日受けたSNSの試験なんですけど。」
『そういえばそんなの受けるとかなんとか言ってたな。』
「はい。おかげさまで合格しました。」
『そりゃめでてぇ。』
「なので近いうちに、」
『ああ。わかったわかった。やめるってんだな。』
「はい。申し訳ないですけど。」
『じゃあ今日付けで手続きしとくぞ。』
「えっ。今日。」
『早いほうが良いだろ。じゃあな。』
そういうとオーナーはコールを切ってしまった。
退職が認められたのは良いがそれにしてもあまりにあっさりしたオーナーの態度だ。今の職場よりSNSを選んだのはリーネだが、オーナーの態度はまるでリーネが不用だといわれているようでおもしろくない。ふと、オーナーはリーネがやめてしまう事に怒っているのではないかという考えが頭に浮かんだ。オーナーから見たらリーネの行動はおもしろく無いだろう。オーナーに申し訳なく思う一方で折角のチャンスはふいにしたくない。複雑な気分だった。
「どうしたリーネ。」
コールが終わると黙りこくってしまったリーネを心配したのか叔父が声をかけてくる。
「なんでもないです。」
「急に黙って揉めたりしたのかと思うじゃないか。」
「今日付けで退職の手続きをしてくれるそうです。」
「そうか。」
リーネの言葉に叔父は一つ頷く。
「叔父さん。やっぱりちゃんと挨拶に行ったほうが良いですよね。」
「当たり前じゃないか。連絡と挨拶は別だろう?」
「明日ちゃんと挨拶に入ってきます。」
「そうしなさい。」
明日は店に顔を出して職場の皆にきちんと挨拶をして、オーナーに謝ろう。きっと解ってくれるだろう。
「モビー、リーネできたわよ。」
いつの間に料理が出来たようでダイニングから叔母の声がする。
食卓の上に並ぶのはリーネの好きな料理ばかりだった。叔母の心遣いが嬉しい。楽しい夕餉の時間が流れていった。
翌日、リーネは再びレンタカーを借りまずは家へと向かった。
たいして時間もかからずに自宅へ着く。リーネの家は職場の寮だ。寮は二階建てだがリーネの部屋は一階。ただし角部屋だ。間取りは1DK家具家電の類は備え付けである。
学費を貯蓄していたリーネの私物は多くは無い、衣類の他には雑貨類とほんの少しの思い出の品々である。その中でミレニアムに積み込む荷物は衣類と思い出の品々だけだ。車への積み込みはすぐに終わった。雑貨は廃棄した。
荷物を車に積み込んだ後、店へと向かう。皆に挨拶をしてオーナーには謝らないといけない。
店に着いたときにはまだ営業前の清掃の時間だった。グラナダのアッパーフロアではサービスは掃除にいたるまですべてが人の手で行うと徹底している。
「リーネ。」
リーネが来た事にツィッテがすぐに気付いた。
「ツィッテさんおはようございます。」
「オーナーから聞いたわ。貴女SNSの試験に合格したのですって。」
「はい。おかげさまで。」
「貴女が居ないと寂しくなるわ。」
「それで、オーナーは居ますか?」
「昨日貴女の事伝えてから暫く店を留守にするって。」
「じゃあ居ないんですね。」
オーナーと話しが出来ないのは少し残念だった。
「オーナーの代わりに私が諸手続きをするわ。」
「わかりました。」
「寮はいつまで居るのかしら?」
「それは先程退去してきました。」
「早いわね。」
「ゆっくりでも迷惑がかかると思って。」
「助かるわ。役所の手続きはもう済んでいるのかしら?」
「はい。昨日済ませました。」
役所への書類提出は真っ先に済ませたことだ。
「なら後は皆に挨拶でもしていきなさい。」
「はい。そのつもりで来ました。」
「皆。一度手を止めて集まって頂戴。」
ツィッテは振り返ると大きな声で店内に呼びかけた。先程からリーネとツィッテのやり取りを横目で眺めていた昨日までの仲間達が手を止め二人の周りに集まってくる。
全員が集まったところでツィッテは小さく咳払いをすると口を開いた。
「もう聞いている人も居るかもしれないけど、SNSの試験を受けていたリーネが昨日行われた最終選考に合格しました。」
一拍間が空いて皆から拍手が沸き起こった。
「リーネから皆に挨拶があるそうよ。」
ツィッテは一度振り向くとリーネの目を見て軽く頷いた。
一歩前へ出ると皆の視線が集まるのを感じる。
「今まで何もわからないわたしに色々教えていただきありがとうございました。」
一度言葉を切り、頭を下げた。
「宇宙に旅立つ事になりますがこの店で働いた事は一生忘れません。」
新人時代の失敗、皆でいった海水浴、忙しかった四百公転記念祭の営業、この店での数々の思い出がリーネの頭に浮かんでは消える。
リーネは目から涙が溢れるのがわかった。泣かないつもりだったのに我慢できなかった。
「本当に、本当に。」
言葉が続けて出てこない。
「えぐっ。ありがどうございまじだ。」
何とか挨拶を終え、もう一度皆に深く頭を下げる。その瞬間に頬を伝った涙が床に落ちた。
「体に気をつけるんだよ。」
「俺の事忘れんなよ。」
「リーちゃん元気でな。」
「何時でも戻っておいで。」
再び巻き起こった大きな拍手と共に掛けられる皆の温かい言葉に、リーネはもう泣くことしか出来なかった。
一通り挨拶を終えたリーネは宇宙船に戻っていた。タラップは降りているものの入り口のあけ方がわからず、ハッチの前で右往左往していると扉が開かれた。
「挨拶は済んだのか?」
内側からヤマトが扉を開けてくれたようだ。
「はい。今日からお世話になります。」
「歓迎するぜ。荷物は後にしてとりあえず船内を案内しよう。」
「はい。お願いします。」
「といってもたいして広くないんだがな。」
自嘲気味にヤマトは笑う。
「入ってすぐのこの場所はメディカルマシンがおいてある。船内で疫病に発生した場合の隔離スペースであり、エアロック機構もかねている。」
「はい。」
「船首方面の扉の中は倉庫区画。色々な商品などがおいてあるが普段は特に用はないはずだ。」
ヤマトは一瞬船首側の扉を見遣るとまたリーネへと視線を戻す。
「はい。」
「主な生活スペースはこっち側だ。」
そう言うと船尾方向に続く扉を開いた。中は見た事がある最終試験をしたコックピットへ続く通路だ。
「右側の扉二つは居室。こちら側の居室は普段は使わない。乗客があった場合ここを使う事になる。」
「はい。」
「船尾方面の扉は機関室。燃料などの危険物も置かれているから注意してくれ。もっとも倉庫区画以上に入る用事はないはずだ。」
「はい。」
そう言うとヤマトは左側手前の部屋に入る。コックピットだ。
「ここは入った事があるな。」
「はい。コックピットですね。」
「その通りだが呼び名は操舵室で統一してくれ。」
「わかりました。」
「当然操船をするのはここだ。その他にも通信や天測なんかもここで行うし、船体の中央に位置しているため放射線から身を守るときのシェルターとしても機能する。」
「はい。」
「ついでに生体認証の登録もやっちまおう。そうすれば入り口のハッチを開閉することが出来るようになる。ここに両手を置いてくれ。」
「はい。」
リーネは示されたパネルに両手を置いた。
「登録してくれ。」
「了解。」
ヤマトが声をかけると返事と共にパネルが発光しリーネの生体情報がスキャンされる。
「登録完了したよ。」
「もういいぜ。」
「はい。」
どうやらこの声の持ち主がリーネと同室なのだろう。
「あの。もう一人の方は?」
一向に顔を出さないもう一人の人物が少し気になったリーネはヤマトに質問を投げかける。
「ああ。あいつは部屋から出ないんだ。」
「具合が悪かったりしてるんでしょうか?」
「いや、元気だと思うぜ。ただ出てこないだけだ。」
部屋に引きこもったままと言うのはどういうことなのだろう。相部屋になるからには気難しい人物だとこれから困る事になりそうだ。
「心配するな。後で紹介する。」
気持ちが顔に表れていたのかヤマトは安心させるようにリーネの頭を軽く撫でた。
「わかりました。」
「ここの扉の中に蛇口があるのは知ってるな。」
そう言いながら操舵室から船尾方面に続く扉を開く。
「はい。」
「ここは調理スペースだ。食料庫、水タンクなんかもある。調理器具の使い方は追々覚えてくれ。」
さらにヤマトは奥へと続く扉を開いた。
「こっちが共用スペースだ。リビングに相当する。」
ヤマトは少し広い空間を指差したそこには床に固定されたテーブルが置いてあった。
「こっちの扉は右がトイレで左がシャワーだ。どちらも宇宙仕様になっているから後で使い方は確認してくれ。」
「はい。」
「さらに左側は有機物の処理装置。生ゴミなどはここに入れてくれ。その隣が洗濯機だ。」
ヤマトは一つずつ指差し説明を続ける。
「右側の共用スペースの奥にある扉はさっきの廊下に続いている。」
「はい。」
「次はこっちだ。」
そういってヤマトは一箇所だけ説明していなかった一番左の扉を開いた。そこはさっきの廊下と同じつくりの廊下だった。
「ここも廊下になっている。船尾方面の扉はさっきも説明した機関室、船首方面の扉はメディカルマシンがあるところに続いている。こっちからもいけるようになっている。」
「あと正面の扉は俺の居室。リーネの部屋はこっちだ。」
そういうとリーネの部屋と言った扉を開いた。
そこにはベッド、クローゼット、キャビネット、折りたたみ式の机が一つずつあるだけだった。ベッドは使われている様子が無く、キャビネットには紐で固定された白いモミノキのような置物がある他に何もおかれていない。開かれたクローゼットの中も空っぽだ。そして誰もいなかった。
「ここを二人で使うんですか?」
その部屋は広くはなかった。
「そうだ。」
「一人用の部屋にしか見えないんですけど。」
「もともと一人用だからな。」
「わたしは床で寝るんでしょうか?」
ベッドも小さく一人が寝たらもう一人は寝られそうに無い。
「ベッドを使って良いぜ。」
「じゃあもう一人の方が床で寝るんですか?」
「そもそも横になって寝ないから安心していい。」
「えっ?寝ないんですか?」
「多分寝てないと思うぜ。」
「もう一人の方の荷物とかは?」
「無い。」
「無いんですか?」
「そうだ。だからクローゼットも一人で使っていい。」
「今部屋にいないみたいですけど、一体どういう方なんですか。」
寝ないし荷物も無い、相部屋になる人がどんな人物かまったく想像がつかなかった。
「さっきから部屋にいるぜ。」
そういいながらヤマトは悪戯っぽく笑っている。
「えっ?」
狭い部屋を見回してもどこにも人はいないし隠れるような場所もなさそうだ。
「紹介しよう。リーネと同居するのはこいつだ。」
そう言いながら手で指し示したのはモミノキのような置物だった。
「えっ?この置物?」
「置物とは失礼だな。ちゃんと生きている。」
「どうみても石で出来てるようにしかみえないんですけど。」
「ストーンツリーなんて呼ばれ方もしているな。」
「石ですよね?」
どうしても白い石にしか見えない。ヤマトがからかっているのかと思えてくる。
「アティア星系、メディウス特産の生物だ。地球系以外の生き物になる。」
ヤマトの答えは意外なものだった。リーネは地球由来でない生物がいるという事は聞いた事があったが、実物を見るのは初めてだった。
「石にしか見えないんですけど。」
「大変珍しい珪素系生物だ。」
「珪素?」
「石の主成分だな。俺達炭素系生物とは根本的に異なってる。」
「生きてるんですか?」
「ああ。クロシェット・ノエルと名づけて呼んでいる。」
「クロシェットさんですか。さっきからしゃべってたのもクロシェットさんだったんですね。」
「いや、こいつが話すところなんて見た事が無い。そもそも声は出せないんじゃないかな。」
「えっ?じゃあさっきから声がするのは?」
クロシェットじゃないなら誰がしゃべっているのだろう。
「おい。アントニオ。」
「なにかな。」
どうやらもう一人いるようだ。
「クロシェットと勘違いされてるぞ。リーネに自己紹介しろ。」
「了解。ボクはアントニオだよ。」
「リーネです。」
「よくこの船を見物しに来ていたね。」
「知ってたんですか?」
アントニオはリーネが宇宙船を見に来ていたのに気付いていたようだ。
「ほとんど毎日来ていたからね。」
「アントニオさんはヤマトさんと同じ部屋なんですか?」
「ボクに部屋はいらないよ。」
「えっ?」
「ボクは人間じゃないんだよ。この船の内蔵型ヒューマンインターフェース擬似人格なんだ。商品名称はアストロボーイ・タイプ三.一だよ。」
「わかりやすく言えばこの船のコンピューターだ。」
「何かわからないことがあったら声をかけてね。」
「はい。よろしくお願いします。」
人間のヤマト、ストーンツリーのクロシェット、コンピューターのアントニオこれがリーネの新しい仲間達だった。