1 『第37話 リーダー死す』
響く悲鳴、轟く爆音、泣き叫ぶ子供たち。この世の地獄とでも言えるような状況が広がっていた。車は破壊され、出動した警察や軍隊は成すすべなく地面に転がっている。
絶望がこの場を支配しようとしていた。
「そこまでだ!!ヘルドランテ!!!!」
闇夜より響くその声はヘルドランテと呼ばれた人影・・・いや、人の形をしてはいるが人の数倍いや、数十倍も大きなその巨体の注意を引くには十分だった。
ヘルドランテが声のした方を向くとそこには五つの影があった。
一つは碗部と脚部が真っ赤に燃え上がる骸骨を模した紅い仮面をした者。
一つは全身を西洋の鎧の様な物を着、派手なマントをたなびかせる者。
一つはぴっちりとした黒の革のスーツに不思議な煌きを持つブーツを履いた者。
一つは流動する金属のような光沢を持った体を持つもの。
そして、声を発した人物である白と赤を基調とした特殊仕様の戦闘服に身を包んだ者。
「な、貴様らは!!・・・生きていたのか!?」
ヘルドランテは破壊の為に振り上げていた腕をそのままの勢いで五つの影に振りかぶった。
幾らヘルドランテが巨大であろうと、この距離ならば届かないであろう。
――そう、本来なら。
ヘルドランテの振りかぶった腕に続くように暴風が吹き荒れ地面が捲れていく。
「おっと」
五つの影は、一つを残しその場から退いた。そして、残った影は吹きすさぶ風を正面から体全体で受け止め、押しとどめた。戦闘服の影だ。
「この前はこれで吹っ飛ばされたが、今度はそうはいかないぜ!!」
「な!?」
ヘルドランテは驚愕に顔を染めた。目の前の男を倒したのはほんの数日前である、たった数日でここまで強くなるなど有り得ない事だ。
「私たちも忘れて貰っちゃ困るわね!!」
「ぬぅっ!!」
突然の横からの衝撃にヘルドランテはたたらを踏む。横に目をやると燐光を撒き散らし宙に浮く黒革のスーツの女が居た。ヘルドランテは女を掴もうと腕を振るう。
「おいおい、後ろにも注意しとけよ」
「っづ!」
身を焼く痛みに注意を向ければ、灼熱の炎を纏った赤い髑髏の仮面をした男が背に抱き着いている。
「何をする!?」
「フ・・・ちょっとした空中散歩ってとこか?」
赤い髑髏の男がそう言うと、足の炎が赤色より青色のより高熱な炎へと変化し地面へと噴射される、ヘルドランテの巨体ごと勢いよく飛び上がる。
「じゃあ、夜の空中散歩、楽しんで来い。・・・・おー夜景がきれいだ」
そう言うと、ヘルドランテを夜の空に放り投げた。
「うおおおおお!!!」
ヘルドランテは空中でどうにか姿勢を制御し、地面に対して水平に体を向けた。この高さから落ちたとしても、ヘルドランテならば耐えれない事は無い。
だが、そうはならなかった。
ヘルドランテの落ちる先には、西洋の鎧の様な物を着た者が、流動する金属の様な色をした巨大な剣を構えて待っていた。
「最期にいい思い出が出来ただろう。・・・地獄で思う存分語るがいい」
そう言うと、その巨大な剣を振りぬいた。
真っ二つになったヴィランを背に鎧の男は巨大な剣を叩く。すると、巨大な剣は人型に形を変えた。そして、その人型はどこからか声を発した。
『いやぁ、今回も強敵だったな』
「何とかなったがな」
『そうだけどさ、まぁ、リーダーが居れば大概何とかなるし』
「そうだな」
二人が談笑していると、仲間たちが駆け寄ってきた。
「お疲れ様!!リキッドシルバーにマスターアーマー」
『そっちこそ、お疲れ様ライトニングレディ』
「正確な投下だった。ありがとう、ファイヤーアームズ」
「なんの、俺はリーダーのいう事をやったまでさ」
遅れて、彼らのリーダーがやって来た。
「遅いよリーダー!!」
「そんなこと言ってもだなぁ、私はそんなパワーは持ってないんだよ」
「よく言うわね、私たちの誰よりも強いくせに」
「うむ」
『全く、そのとおりだね』
そう言って、笑いあう一同。しかし、リーダーが突然声を発した。
「皆逃げろ!!」
「え、なに!?」
「は、はははぁ!!・・・うぐおおおお!!!」
「な!?ヘルドランテ!!倒したはずなのに!?」
「まだ死んどらんわ!!・・・っははぁ!!貴様等も道連れにしてやる!!」
そう言うと、ヘルドランテの体が明滅し始めた。
「マズイ!!自爆する気だ!!」
「くそ!!もう一度俺の炎で・・・!!」
「間に合わない!!お前たちは逃げろ!!私が抑え込む!!」
「リーダー!!」
「早く!!」
「・・・っく!分かったわ!!行きましょう」
『死なないでね・・・リーダー』
「・・・ああ!!」
そう言って、リーダーを残し仲間たちは避難した。
「悪いな、付き合ってやるのは俺だけだ」
「ふふ、それでも良い・・・十分だ」
「・・・ありがとよ」
明滅が突然収まったかと思うと、辺り一面に強烈な光が広がった。
光が収まった後にはヘルドランテと言う名のヴィランも、彼らのリーダーもそこには居なかった。
アメコミでは死んだはずの奴が戻ってくるのはよくあることです。
そんな意味で付けた題名なので、別に死んじゃいません。