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第06斬 "ブラウンウォーター・ネイビー"


ファンタジーには酒場や冒険者の集まる店は付き物だ。


しかし、集まる客層は店によって千差万別だろう。


これはそんなエピソード……








テンペストと【疾風怒涛】の面々は、名も無き(あったかも知れないが誰も知らない)盗賊団を壊滅させた後は、特に波乱もなくレパント・シティへと辿り着いた。


途中の街で、盗賊達の原型の残った生首を教会で防腐防臭処理(葬式やアンデッド狩りの長けた教会は、料金さえ払えばこういうサービスもやってくれる)し、"壊された"男女共々、盗賊団潰しの"物的証拠"としてシティの治安当局に提出した。


今頃、【多都市間治安局(インター・シティズ・ポリス・オーガニゼーション:ICPO)】の担当官が現場確認に向かっているだろう。


街道は確かにどこの都市の治安当局の管轄でもないが、魔物が出没したり盗賊が横行すれば街道が廃れるので、駆除した者には、その危険度や規模に応じた報償金が、ICPOから出るような仕組みになっていた。


それに関してはわりとしっかりした細かい規定があり、遅くとも10日後くらいには支払われるだろう。


ブラックマーケットには人身売買市場もあり、性玩具用の肉人形のマーケットも有るにはあるが、外道と評判のテンペストも、流石にそこに手を染めるつもりはないようだ。




☆☆☆




テンペストはそのまま、盗賊から巻き上げた財宝を馬車ごと"然るべき業者"に持ち込んで"使い勝手のいい金"に換金する。


と言っても別にブラック・マーケットというほど黒くはなく、実はレパント・シティ都市治安局の一般市民には非公開の"裏の窓口"だ。


税金の取れないブラックマーケットへの資金流出や、あるいはマーケット自体の拡大を嫌がった治安局は、民間業者を装い後ろ暗い代物の引き取りを開始し始めた。


その正体を知りながら、テンペストのような血腥い人間が利用するのは、単純に本物のブラックマーケットの業者より買い取り金額が高い(換金率が良い)からだ。


いくら取り締まろうと、レパント・シティのような自由交易都市には必ずブラックマーケットは生まれる。


表で取り締まってもしきれる物ではないのなら、むしろマーケットを成立させる大元……資金の流入を減少させようとする目論見は、それなり現実的な手段であった。


それに、たまに事情を知らない本物の盗賊が盗品を売りに来ることもあるが、逆にそれがきっかけで捕縛/処断される事もあり、"裏の窓口"はそれなりに有効に機能していた。


「羨ましいですな。私も一度くらい、それほどの大金をポケットに入れてみたい物です」


そうレパント・シティでは最もメジャーな"カニンガム金貨"の入った袋を手渡しながら言うのは、古物商に扮した"市職員"だ。


「アンタ、家族は?」


「? おりますが?」


テンペストは袋の中の金貨……思ったより悪くない金額を確かめながら、


「なら、やめておけ。ドブ臭い鉄火場は、死んだら泣く者がいる奴の立つ場所じゃない」


そう小さく手を振り、立ち去るのだった。










**********




「ほんじゃ、クエストの成功と行き掛けの駄賃を祝して」


「かんばぁ〜い♪」


『マスター、お疲れ様です』


『きゅっくぅ♪』


ここは、レパント・シティの港湾ブロックより少し離れた旧市街(ダウンタウン)にある、半地下にある酒場


【ブラウンウォーター・ネイビー】


だった。

いわゆる"冒険者の集まる店"だが、ややその面子がアングラ寄りだった。


簡単に言えば、表と裏の境界線を軸に行ったり来たりしてる連中の溜まり場だった。


集まる面子が面子だけにどこか店の雰囲気は荒っぽい……そんな店の一角の丸テーブルに【疾風怒涛】の面々は陣取っていた。




「やあ、テンペストさん。お邪魔させてもらいますよ?」


料理と酒を楽しんでいる時に姿を現したのは、どこか天使を思わせる柔らかそうな金髪と蒼い瞳に白い肌、華奢な身体と整ったに蝶ネクタイと吊り半ズボンがよく似合う"合法ショタ(笑)"、【ブラウンウォーター・ネイビー】の店主兼時々バーテンのホビット(小人)族の"オーソンウェル"だった。




「オーソンウェルか……店は暇そうには見えないが?」


この店は、"境界線稼業"の吹きだまりにしては繁盛している。


まあ、確かに間違えて観光客が入り込んでも満足して帰れる程度の味と、この業界では例外的な良心的かつ明朗な価格設定となれば、それも当然か?


まあ、オーソンウェルにとっては酒場は副業、もしくは趣味のような物で、別にここで儲ける気は無いから、これで良いのかもしれないが。


「別に暇潰しの顔見せじゃないですよ」


苦笑しながらオーソンウェルは、空いてる席に座る。

ちなみに丸テーブルを囲むように四席あり、二人と二体のパーティーで、椅子を使うのはテンペストとアハトだけなので、オーソンウェルが座ってもあと一席余る計算だ。




☆☆☆




オーソンウェルが座った途端に、ちょうどテンペストと対角線の店の隅にあるテーブルから、やや剣呑な怒声が聞こえた。


続いて聞こえる殴打音やグラスや酒瓶の割れる音。

どうやら、"酒場音楽"の演奏開始らしい。


「参加しますか?」


見た目は子供だが、年齢相応の含み笑いを浮かべるオーソンウェルに、テンペストは


「酒場で殴り合いなんて趣味じゃないさ。ヨハン・ヴァインの冒険活劇じゃあるまいし」


最近、アクションで評判の舞台俳優の名を上げるテンペスト。


「ごもっとも」


「それより、お前さんこそ止めなくて良いのか? 自分の店だろ?」


するとオーソンウェルは微かに笑い、


「大丈夫ですよ。いざとなったら、"ロザリア"がいます」


「それもそうか」


"ロザリア"というのは、オーソンウェル自慢の遺失科学文明(ロスト・サイエンティカ)が残したメイド型戦闘用自動人形(オートマトン)らしいが……


機会があればその内に出てくるだろう。




☆☆☆




「無粋なのは承知で打ち上げにお邪魔したのは、ちょっと頼みたい事がありまして……」


不意にオーソンウェルがそう切り出すと、テンペストは目を細めて、


「"ギルド"に回せない類の依頼か……?」


オーソンウェルは小さく頷き、


「"極めて個人的"な依頼です」


公募はかけず、秘密裏で内々に処理したい……オーソンウェルはそう言外に言っていた。


「……中々楽しそうなようだな? 酒の肴にちょうどいい」


テンペストはそう話すように促した。








次回に続くことを、シャヴラニグドゥに祈りつつ……






皆様、ご愛読ありがとうございましたm(__)m


いよいよレパント・シティ編が始まりましたが、早速テンペストが拠点にしている【ブラウンウォーター・ネイビー】が出てきました(^^;


果たして、オーソンウェルの依頼とは?


それでは、また次回があることを祈りつつ(__)





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