第05斬 "悪徳の栄えと悪党の掟"
社会には社会のルールがある。
当たり前の話だ。
裏社会にはルールがあり、またそこに生きる悪党達にも掟がある。
今回はそんな掟にスポットを当たるのかもしれない……
テンペスト・ホーカーシドレーのパーティーはレパント・シティに行く前に"行き掛けの駄賃"を手に入れる事にしたようだ。
具体的には、比喩でなく半殺しにした盗賊の生き残りに道案内させ、どうやら盗賊達がアジトに蓄えた財宝を根刮ぎ奪うつもりらしい。
「て、テメェ……盗賊の上前跳ねるつもりなのかよ……!?」
「それがどうした? まさか奪われる覚悟も無しに奪ってたとか言うなよ?」
テンペストは平然と、
「弱い奴は強い奴のエサだ。それがお前らのルールだろう? ならば、お前らより強かった俺達が奪うのに何の不都合があるんだ?」
☆☆☆
"ザシュ"
おめおめとテンペスト達をアジトに案内した盗賊に、アジトの見張りをしていた仲間が逆上して斬りかかってきた。
それをテンペストは、何の躊躇いなくライキリの居合で切り捨てた後、
「どうやらお仲間は、お前さんより奪った財宝が大事らしいな?」
「クッ……」
「別に気にする事じゃない。盗賊には盗賊の正義がある」
テンペストはまだ体温の残る生首を蹴飛ばし、奥から出てきた新たな盗賊の顔面にヒットさせながら、
「それを忠実に実行してるだけとも言えるし、何より……」
"ザンッ!"
また一人ライキリで斬り伏せながら、
「俺も正義の味方って訳じゃないからな。その辺の理解はあるつもりだぞ?」
さてさて他の面々ではあるが、飛び道具(?)使いであっても小回りの効くレイとニーズヘッグはともかく、流石にアジトの中で巨大戦斧を振り回す不利を理解してるアハトは、
「ひゃっほぉ〜い♪」
"めきっ!"
"ぐしゃっ!"
"ぐちゃっ!"
愉快な喜声をあげながら、楽しそうに握剣の一つで両刃の"鎧徹し"のような刃を持つ【ジャマダハル】を両腕の籠手から展開し、振り回していた。
どうやら、このジャマダハルこそがゴツい籠手の隠しギミックの一つだったらしい。
ジャマダハルという刀剣武器は、メリケンサックの打甲の代わりに両刃を取り付けたような武器で、間合いは短いが拳の延長としての使い勝手がある。
オマケにアハトの使うそれは、並のジャマダハルの3倍近い分厚さがあり、本来の貫通目的というより、"鈍器としての刃"という方が意味が強い。
しかも、刃が放射状の三叉戟タイプになっており、三叉の狭間に敵の刃を絡めとりヘシ折る"ソードブレイカー"としての機能まで持ち合わせていた。
☆☆☆
ドワーフは"森の最優秀狩人"と目されるエルフに比べると、その戦闘力が評価される事は少ない。
ただ、それは単にドワーフが他種族との接触が少なく、故に戦闘の機会が少ない故の評価であり、小さくとも頑強な身体に人間とは比べる方が馬鹿馬鹿しくなる筋力など、
【コンパクト/タフネス/ハイパワー】
を地でいくドワーフは潜在的には高い戦闘力があるのだ。
例えば小さい故にリーチは短いが、それは"インダラ・バトラックス"のような大きな武器である程度補えるし、小さいという事はそれだけ確率的に敵の攻撃が当たりにくいという意味にもなる。
**********
大した盛り上がりもないままに戦闘は進み、ボスも出ないまま終幕を迎えた。
どうやら【疾風怒涛】を襲ったのは本当に場末の盗賊団だったらしく、襲撃に来た面子が文字通りの主力だったらしい。
そして、肝心の首領も先の戦いで呆気なく死んだようだ。
ならば、本格的な護衛を雇った大規模な通商隊を襲える訳もなく……
「まあ、こんなもんだろ……」
宝物庫には相応の物しか無かった。
まあ、それ以外に主に性的な意味で"壊された"男女がいたが、テンペストはさして気にもしてない。
とはいえ、置いていくにも後味が悪いので、目ぼしい財宝共々に馬車へと積み込む。
「お、おい……」
血腥いアジトから早々に立ち去ろうとするテンペストに、生き残った盗賊が声をかけた。
「ああ、そうだったな」
テンペストはもう一度、波刃のブーツダガーを抜いて盗賊に投げ渡す。
命の惜しい盗賊は、手早く自らの身体にダガーを突き立て、
「ハハ……ハハハ!! これで俺は助かるぞぉっ!」
しかし……
「ぐはっ!?」
盗賊の体に筆舌し難い痛みが駆け抜け、悶絶させた。
☆☆☆
「ふぐっ!? ぐおっ!?」
倒れ込む盗賊からテンペストはダガーを抜き取って血を拭い、
「騙されてくれて助かったよ。このポイズン・ダガーは"キラービー(殺人蜂)"って別名があってな……」
再びシースに収めながら、
「一度差した時に"毒の原料"を体内に作り、二度目にさした時に猛毒を体内に精々するのさ」
名前の通りにテンペストのポイズン・ダガーは、蜂の毒と同じ特性を持っていた。
つまり、一度目に刺した対象の体内に"抗体"を生み出し、二度目に刺した時にはその抗体とダガーの毒が【アレルギー性激症反応】を引き起こし、対象をショック死に至らせる……
ターゲットを毒殺ではなく蜂に刺されて死んだように見せかける"暗殺用の短剣"の機能だった。
☆☆☆
「とある暗殺者から取り上げた代物だが、使いどころが難しくてね」
「だ……だまし……」
息も絶え絶えという感じの盗賊に、
「誰が助けてやると言ったんだ? 俺はアジトに案内するよう命じただけだ」
目を苦しげに見開いたまま絶命する盗賊……
もはや何一つ興味を失ったテンペストは、何事も無かったように、
「さて、行くか」
**********
「無法者相手の時のテンペストって、ホントに悪党だよね〜♪」
『それがマスターですから』
なんて会話が、馬車の馭者席に座るテンペストの左右から聞こえてくるが、
「悪党相手にはイカサマも手の内さ。向こうだって法は守ってない。同じ穴の狢の俺が、律義に道理だの法だのを守る義理はねーさ」
どうやらテンペスト、自分が悪党だという自覚はあるらしい。
「それに俺がそんな腐れ悪党だとわかっててつるんでるお前らも、大概のもんだと思うのは気のせいか?」
しかし、アハトはキョトンとすると、
「ほぇ? ボクはテンペストのそういうとこも好きなんだけどなぁ〜♪」
『認めるのは癪ですが、それに関しては私もアハトに同意します』
相槌を打つようなレイにテンペストは苦笑しながら、
「へいへい。さよでっか」
慣れた手つきで馬に鞭を入れて馬車を走らせる。
勿論、今度こそレパント・シティに真っ直ぐ向かう為に……
次回はレパント・シティ編か……?
皆様、ご愛読ありがとうございましたm(__)m
とりあえず、勢い任せで5話まで書いてみましたが、これにて初期メンバーの紹介を兼ねたプロローグはおしまいです(^^;
なんか、テンペストが思ったより悪党になってしまったのは何故だろう?(汗)
一応、この先の初期プロットはあるのですが……
正直、続きを執筆しようかどうか迷ってます(;^_^A
何しろリアクションが少ない作品なので、需要があるのかどうかも自分では解らなくなってしまって……
なので、皆様のご意見ご感想をお聞かせ願えれば幸いです(__)