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第12斬 "トーリオ・ユーフィリアとナゲット・イーター"


偽名を使うには意味がある。

真の名前を隠すという理由が……


しかし、その理由というのは人それぞれである。




さてさて、金目の物を抜き取った九人分の焼けて随分と小さくなった遺体を、証拠隠滅を兼ねて埋葬した後のこと……


「ほぅ……お前さんが、市長の親戚ねぇ〜」


随分と短縮されてしまったクエストではあったが、とりあえず接触と回収(?)は終わったので、テンペストは荷台にユーリヒを乗せ、来る道よりはのんびりと馬車を走らせていた。


ちなみに馭者席に座るテンペストの横ポジはアハトががっちりキープして、日向で微睡む猫のように目を細めて寄り掛かっていた。


「まあね。ああ、それとさ……お前さんとかお前ってのは出来ればやめてくんない?」


「ユーリヒと呼べと?」


するとユーリヒ、荷台に寝っ転がったまま首を左右に小さく振り、


「いんや。"ユーリヒ・トーリヒテル"ってのは偽名。オイラの本名は、【トーリオ・ユーフィリア】ってのさ♪」


するとテンペストは納得いったように、


「なるほど……名字と名前を入れ換えて捩ってたって訳か」


だが、それが全てではないようで……


「レパント・シティ市長は今は"ゼローシュ・イングウェイ"って名乗ってるけど、あの人は元々は"ゼローシュ・ユーフィリア"って言ってさ、ウチの一門の出身だよ。昔、色々あって出奔したけどね」


ユーリヒ改め"トーリオ"は、小さく笑い、


「生まれは同じ"ベネット・シティ"さ」




☆☆☆




「ベネット・シティ……"金貨喰いの(ナゲット・イーター)"か」


商業、特に金融取引と錬金を売りにしている重商業都市国家だ。


非常に大きな経済力を誇るが、そうであるが故に狙う者や敵が絶えず、また貧富の差が激しい。


であるが故に、付いたアダ名が"ナゲット・イーター"だ。




「まさに弱肉強食。生き馬の目を抜く都市だよ」


そう苦笑するトーリオに、


「お前……いや、トーリオも市長も"ベネトニアン"だったのか?」


ベネット市民と言えば、"守銭奴"の代名詞と言われるが……どうにも荷台に暢気に寝転ぶ男はそういう風には見えない。


いや、寧ろ趣味に金を浪費して散財、女房に散々どやされるタイプにさえ見える。


「ベネトニアンね……ベネット・シティ生まれって意味じゃ間違いないけど、"ゼローシュの旦那"も俺もイマイチ馴染めなくてさぁ〜……ベネット・シティの流儀って奴に」


「ベネット・シティの流儀? 金か?」


即座に返答したテンペストに、トーリオはサムズ・アップし、


「テスタメント!(神に誉れあれ!) マネー! マネー! マネー! それが我らが信奉する唯一絶対なる力にして真理なりやっ!!」


ゲラゲラと少々品無く笑い、


「だが、オイラと旦那はどうにもその教えとは相性悪くてさ……金や財産、蓄財より楽しい物がある時点で、ベネトニアンとしちゃあもうアウトさ」


「そういうもんなのか?」


正直、テンペストには分からない世界だが、


「そんなもんさ♪ もっとも……」


トーリオは自嘲的に笑い、


「ベネット・シティ出ても"ベンティン(商売神ベンザイティンの略称)"なんぞ信奉してる教団に囲われてるあたり、オイラも我ながらカルマ深いとは思っちゃいるけどね♪」




☆☆☆




「ねーねー、そういえばトーリオってお金持ちなの?」


不意に見た目に釣り合った幼い調子でアハト=アハト・シュレークが聞いた。


別段、不思議な質問じゃない。

一般にベネトニアンは全員が金持ちだと思われてるのだ。


ベネット・シティは光と影の落差が激しい。

街の外に豪華な旅装でバカンスに出るのは光が当たる側の人間ばかりで、影側の人間は街の日の当たらぬ裏通りでゴミにまみれて力無く佇むだけだ。


「いんや。基本的に思わずびんぼーダンス踊りたくなるくらいびんぼーだぞ? 蓄財はそれなりに上手いが、出ていく早さはそれ以上だ」


なんか赤字企業の経営者っぽい物言いだった(汗)


「ほぇ? びんぼーダンス?」


不思議そうな顔をするアハトに、


「おうよ♪ ベネット・シティ恒例行事で、毎年の貧乏神を決める踊りでな。こう低く張ったバーの下をいい感じに身体を反らせて潜り抜けるという……」


「そりゃリンボーだ」


容赦ないテンペストのツッコミがすかさず入った。


「チィ〜ッ! どうして南部の少数民族にしか伝わってないマイナーな踊りを知ってる……?」


無意味にシリアスな口調となるトーリオだったが、


「これでも一応、自由公益都市を根城にしてるからな。そりゃ変な情報だって時には手に入るさ」


……もしかして、存外に悪くないコンビなのだろうか?









**********




さてさて……


テンペストと愉快な仲間達を乗せた馬車が、もうすぐレパント・シティの行政区分に差し掛かろうとした時のこと……


「ニャハハハハハ!! 待っていたニャ! ○マトの諸君!!」


街道を封鎖するように巨大な戦鎚(ウォーハンマー)片手に虎縞のぬこ耳と尻尾をピコピコ動かして立っていたのは、とりあえずツッコミ所満載の猫(虎?)系の獣人族の少女……いや、見た目はアハトと大差ない幼女と、明らかに数合わせ臭のする雇われ僧兵(ニュウドウ)約30名だった。



☆☆☆




「なあなあ、とりあえず『ヤ○トって何だ?』ってツッコむ所だと思うか?」


馭者席、具体的にはテンペストとアハトの間に身を乗り出してお気楽な台詞を宣うトーリオに、


「知るか」


とすげなく返すテンペスト。


「裏切者トー……ユーリヒ・トーリヒテル! ベンティンに代わり、このバーサーカー"ミーコ"が、正義の金槌を食らわせてやるニャン!!」


「それを言うなら、"正義の鉄槌"な」


思わず我慢しきれなく反射的にツッコむテンペストに、


「う、うるさいにゃっ!! 大きな違いは無いニャ!!」


どうやら顔を真っ赤にしたリアクションから考えるに、ガチに間違えたらしい……




どうやらクエストのラストに、色々と面倒臭そうな敵とエンカウントした事を溜め息混じりに自覚するテンペストであった。







次回へと続く……そう信じれば、書ける筈だ。







皆様、ご愛読ありがとうございましたm(__)m


ユーリヒ改めてトーリオの真名(笑)やレパント・シティ市長のフルネーム、オマケにケモノ系新キャラまで飛び出すエピソードは如何だったでしょうか?(^^;


次回はエピソード(クエスト)最後のチャンバラになるかな?




それでは皆様、また次回にてお会いできる事を祈りつつ(__)




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