入学式からの呼び出し
新入生の全員が体育館に入り席に着くと、拍手の音も次第に小さくなっていった。
すると、体育館のステージへと上がる階段の脇に置かれたマイクの前に、頭頂部が輝かしいことになっているおじ様が立つ。俺の見立てでは、間違いなく教頭先生だ。あの頭だ。間違いあるまい。
「これより、明宝高等学校の入学式を開式いたします。本日、司会を務めます教頭の山田浩です」
そう言って教頭の山田先生は頭を下げる。
やはり、あの頭は教頭先生で間違いなかった。俺の勘もまだまだ捨てたものじゃないようだ。
続いてのプログラムは、校長先生の挨拶だった。
そして、校長先生はそれはそれは素晴らしい頭をしておられた。俺の頭が太陽だと言わんばかりに輝いておられる。これが教頭と校長の差なのか……。
「……最後になりましたが、新入生の皆様、保護者の皆様ともに、明宝高等学校へのご入学、誠におめでとうございます」
そう言って校長先生は礼をし、挨拶を終えた。
時間にして5分ほどの挨拶だったのだが、俺は1分を過ぎたあたりで話に飽きてしまい、ずっと校長先生の頭について考えていた。油でも塗っているんじゃないか? と本気で疑ってしまうくらいには神々しく輝いていたのだから仕方がない。
校長挨拶が終わると、今度は新入生代表の挨拶となった。
代表として挨拶をしてくれているのだから、新入生である俺はそのことに感謝しながら話を聞くのが筋だというのは分かっているのだが……眠い。それでも、入学式で寝るのはいかがなものかと思い必死に耐えていると、ようやく新入生代表の挨拶が終わった。続いて、在校生代表として生徒会長が挨拶をしてくれるらしい。
生徒会長と思われる人物が壇上に上がり、中央のマイクまで歩いていくのだが……どうにも見覚えがある気がする。
誰だっけ? 中学校の先輩か? いや、俺は陰キャとして完璧な帰宅部生活を送っていたので、先輩に知り合いがいるはずもないのだが……。
そんなことを考えながら話を聞いていると、新入生代表の時とは違って体感的には一瞬で挨拶が終わった。
「……在校生代表、柏村奈菜」
「……あっ」
通りで見覚えがあるはずだ。
柏村奈菜と言えば、今日久しぶりに再会した彩花の姉であり、俺の初恋の相手でもあるのだから。
彩花と同じように、奈菜さんも3年前に比べてかなり綺麗になっていた。年上の女性に対して『美少女』と表現するのは少し違う気がするので、例えるなら『近所の綺麗なお姉さん』が正しく進化を遂げた感じだ。
それにしても、まさか生徒会長になっていたとは……彩花も教えておいてくれればよかったのに。そんなことを考えていると、壇上から降りていく奈菜さんと一瞬目が合い、微かに微笑まれた気がした。
「さすがに気のせい……だよな?」
「ん? どうかしたのか?」
「いいや、なんでもない」
どうやら声に出てしまっていたらしく、隣に座っている智也に話しかけられてしまった。
奈菜さんの挨拶が終わった後は、来賓紹介と祝電の披露が行われ、閉式の辞をもって入学式は終了した。俺達は再び拍手に送られながら体育館を後にし、教室へと戻っていった。
教室に戻り各自が自席について担任を待っていると、智也が後ろから話しかけてくる。
「今日はもうこれで終わりなんだよな?」
「軽くホームルームをして終わりって感じだろうな」
「なぁ、悠。一緒に昼飯でも食べに行かないか? せっかく今日仲良くなったんだしさ」
「……まあ、いいけど」
「よっしゃ!」
「彩花も呼んでいいか?」
「もちろん! 人数は多い方が楽しいしな!」
智也は即答で了承してくれた。
これで『彩花と今度遊びに行く』という約束も同時に消化できてしまうという完璧な作戦である。
それから数分ほどすると、担任の桜庭先生が教室に入ってきた。
「入学式はお疲れだったな。今日はあと軽くホームルームをして終わりだから、気楽にやってくれ。そんでまあ、何をするかだが……まずは自己紹介をしてもらおうと思う。簡単に名前と趣味だけでいいから、出席番号1番から順番にな」
先生の指示で、出席番号順に自己紹介が進んでいく。そしてクラス全員が終わると、最後に先生が口を開いた。
「最後に私だが、桜庭由梨だ。このクラスの担任を務めることになっている。桜庭先生でも由梨ちゃんでも好きなように呼んでくれ。趣味は布教だ。是非オタクになりたいという奴がいるなら先生に相談してほしい! 必ず力になる! 先生を信じてほしい!」
やたらと熱の籠もった先生の自己紹介を聞いた俺達生徒一同は、言うまでもなくドン引きであった。あと、めちゃくちゃどうでもいいのだが、桜庭先生は独身らしい。
自己紹介が終わると数枚のプリントが配られ、ホームルームは終了となった。
今日はもうこれで解散とのことなので、彩花にも声を掛け、智也と3人で教室を出てお昼ご飯を食べに行こうとした――その時だった。
『新入生の翡翠悠くん。至急、生徒会室に来てください。繰り返します。新入生の翡翠悠くん。至急、生徒会室に来てください』
(……もしかして、俺のことか?)
呼び出されるような心当たりは1ミリもなかったが、名指しで呼ばれた以上は行くしかない。
智也と彩花には少し待っていてもらうことにして、俺はひとり、生徒会室へと向かうのだった。




