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第14話 温泉宿の企み

 シャインとレイニルが温泉に入ろうとした頃、ヘリオスとローサは宿泊部屋の一室にいた。

 婚約者どうしなので当然、同じ部屋で一夜を過ごす事になる。

 ローサは庶民的な宿には場違いな白いドレス姿でソファに腰掛ける。


「こんな安っぽい宿を取るなんて、シャイン様はどういうお考えなのかしら」


 ヘリオスにとっては宿の質など、どうでもいい。来たからには何か成果をあげたい。

 当然、愛のない婚約者のローサと甘い一夜を過ごす考えなんてない。今のヘリオスはレイニルを落とす事しか考えていない。


「なぁ、ローサちゃんは当然、兄貴に色仕掛けするんだろ?」


 ローサは一瞬、言葉に詰まってヘリオスを睨み返した。それがどういう感情なのか分からない。

 お互いが、シャインとレイニルを落とす計画で合意した……そんな協力関係なのに、どこか胸が痛む。


「いい事を教えてやるよ。兄貴は……」





 シャインがレイニルに一緒に温泉に入る事を告げると、レイニルの反応は意外なものだった。


「はい。私、誰かと一緒にお風呂なんて初めてです」


 あまりにも純粋な笑顔で言うものだから、シャインの煩悩が浄化されかけてしまった。

 忘れていたが、レイニルは子爵令嬢であったが地下牢で暮らしていた。年頃の娘なのに恥じらいどころか一般常識すら欠けている。

 ドSなシャインにとっては、多少は恥ずかしがられる方が萌えるのだが……それは仕方がない。


 一緒に貸し切りの露天風呂まで行くと、二人は服を脱いでタオル一枚だけを巻いた姿になる。

 シャインが驚いたのは、レイニルが細身の割にスタイルが良い事だった。長いブロンドヘアをアップにしているので、うなじが特に色っぽい。

 ここに来て初めて、レイニルもシャインの上半身を見て顔を赤くした。当然ながら下半身は白いタオルで巻いている。


(シャインの胸……大きくて逞しい……男の人って、みんなこうなの?)


 シャインだからというよりは『男性』という括りだけで見ていた。今まで男性の裸は見た事がないので比べようがない。

 しかしシャインの胸筋は厚く広く長身で体格も良いので、一般的な男性よりも確実に筋肉質で逞しい。

 そんなシャインは先に温泉に入って座ると、胸元まで湯に浸かりながら催促をする。


「ほら、いい湯だぞ。レイニルも隣に座れ」


 レイニルはゆっくりと片足ずつ温泉に足を入れると、笑顔で待ち構えるシャインのところまで近付いていく。

 ようやく隣に座ると、シャインは嫌でもレイニルの胸元に目線が行ってしまう。


「……気持ちいいですね」


 何気ないレイニルの言葉がシャインの脳を刺激する。これからオレが本当の気持ち良さを教えてやる、そんな気合とスイッチが入る。

 胸元まで浸かったレイニルの胸はタオルでは収まりきらずに、見た事もない豊満な谷間がシャインの体に更なる熱を加えていく。


 ……これで何もしないなんて、全世界の男が不可能だ。


 22歳のシャインは、女性との経験はある。だが一度も心までは熱くなれなかった。国のためとはいえレイニルとの契約結婚が初婚であった。

 温泉の湯は思った以上に熱い。体の熱も相まって、のぼせる前にレイニルに本当の熱さを教えてやらなくては……つい心と体が焦る。


「レイニル、ここに座れ」


 シャインは馬車の時と同じように、自分の膝の上にレイニルを座らせようとする。さすがにレイニルは驚いて戸惑うが、シャインの熱い眼差しには勝てない。

 レイニルは恐る恐る背中を向けて座ろうとするが、シャインに腰と肩を掴まれて反転させられて、向かい合う形で座らされてしまった。


「あっ、シャイン……?」

「これが正しい二人での温泉の入り方だ」

「そうなのですか……?」


 向かい合ってシャインにきつく抱きしめられると当然、レイニルの胸が彼の胸板にピッタリと密着する。

 弾力のある豊かなレイニルの胸が押し付けられて、タオル越しでもその感触がシャインの欲望をかき乱していく。

 その時、レイニルは肩や頭に降り注ぐ冷たい水滴に気付いた。胸元まで湯に浸かっている上にシャインに抱かれているので、肩から上の冷たさが際立つ。


(もしかして、雨……?)


 そう思ってレイニルが空を見上げようとしたが、顔を上げた瞬間にシャインに口付けられて視界を塞がれてしまった。

 キスも3度目になれば驚かないが、今のレイニルはそれどころじゃない。


「んっ! んんん、ん~!!」


 レイニルは目を大きく見開いたまま言葉で訴えようとするが、シャインのキスが深すぎて声どころか呼吸もままならない。

 今、確実に雨が降っているのに、シャインは気付いていない。いや、気付いているがわざとやっている可能性もある。


(シャイン、ずるい……雨、降ってるのに……)


 これで契約の勝負はレイニルの勝ちのはずなのに、このまま小雨の通り雨で止んでしまえばシャインが見過ごしてしまう。

 あまりにも一生懸命にレイニルが声を出すものだから、シャインは逆にいい気になって余計に力が入る。


(随分と色っぽい声を出すな……そんなに良いのか)


 調子に乗ってしまえば、もう止まらない。湯の中のシャインの片手がレイニルを巻いているタオルを器用に解いていく。


「シャイン、ず、るい……!」


 ようやく口を解放したレイニルが火照った頬でシャインを睨むが、その可愛らしい抵抗が余計にドSのシャインを煽る行為だとは知らない。


「……オレと交わるのは嫌か?」


 急に真面目な顔をして疑問形で攻めるテクニックもずるい。それは否定以外の言葉を出させない悪魔の言葉。


「……前に、言いました……」

「何と言ったかな?」

「……嫌では、ありません、と……」

「よし」


 シャインはレイニルの耳に唇を触れさせると、何度も愛を囁く。


「レイニル、愛してる。愛してるぞ」


 脳に送り込まれる『愛してる』の言葉は、レイニルを洗脳させるための呪文のように何十回、何百回と繰り返される。

 ……これが、シャインの言っていた『溺愛』なのだろうか。

 その甘い言葉と刺激がレイニルの心身を完全に支配すると、自然とシャインの溺愛を受け入れていた。



 二人だけが独占する露天風呂では、2枚の白いタオルがゆらゆらと湯の上に浮いていた。

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