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刷新の旅団  作者: 慈架太子


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第7章: 惨劇の霧 ―― 切り飛ばされた四肢と絶望の機動力

至福の晩餐が終わり、温かなスープと冷えたエールで腹を満たした四人の間には、修行の厳しさを忘れさせるような穏やかな時間が流れていた。ベルナールは空になった氷のコップを置くと、刷新された三人の美貌を順に見つめ、静かに立ち上がった。


「今日はこれくらいにしておこう。お前たちも疲れているはずだ。……おやすみ」


ベルナールが自室へと引き上げると、リビングにはエルザ、カレン、ミーナの三人だけが残された。彼女たちは水のマットレスが心地よいソファに深く腰掛け、だらだらとエールの残りを飲みながら、氷のランプが放つ淡い光の中で語らいを続けていた。


沈黙を破ったのは、エルザだった。彼女は刷新された自身の掌をじっと見つめ、熱を帯びた吐息と共にぽつりと漏らした。


「……ねえ。私、さっきの食事をしてて確信したわ。ベルナールに、惚れちゃったみたい」


その言葉は、唐突ではあったが、不思議と二人の心にすんなりと染み込んだ。エルザは氷のコップを握りしめ、顔を赤らめながら続ける。


「強くて、頭が良くて、あんなに冷徹なのに……私たちのために、こんなに快適な家も、美味しいご飯も、温かいお風呂まで用意してくれる。あんな男、この世界のどこを探したっていないわよ」


すると、カレンが不敵な笑みを浮かべながらエールを煽り、エルザを真っ直ぐに見返した。


「奇遇ね、エルザ。実はアタシもよ。あいつのあの無茶苦茶な教え方にムカつくこともあるけど、結局全部アタシたちのためのことじゃない? あんな完璧なリーダーに背中を預けられたら、女として意識しない方が無理だわ」


「……私も、同じです」


ミーナが震える声で、しかし決然と言葉を重ねた。耳まで真っ赤に染めながら、彼女は自分の胸元をぎゅっと押さえる。


「魔法使いとして私を認めてくれて、新しい世界を見せてくれた。……私にとって、ベルナールさんはもう、神様よりも大切な人なんです」


三人の視線が空中で交錯した。そこにあるのは、共に死線を越えてきた戦友としての絆と、一人の魅力的な男を巡るライバルとしての火花だった。


「いい? 二人とも。私たちが惚れるのは勝手だけど、抜け駆けだけは許さないわよ」

エルザが釘を刺すように言うと、カレンが「それはこっちのセリフよ。アタシの索敵からは逃げられないんだから」と返し、ミーナも「私も、魔法の精度では負けませんから……!」と意気込んだ。


二十四歳のベルナールが隣の部屋で眠る中、三人の女神たちは夜遅くまで、彼への想いと「公平な競争」について熱く語り明かした。


最強の力を持ち、刷新された美しさを手に入れた彼女たちの次なる標的は、森の魔物ではなく、自分たちのリーダーの心。夜の氷の邸宅には、エールの酔いだけではない、熱く甘い決意が満ち満ちていた。



翌朝、氷の邸宅の中に柔らかな光が差し込む頃、四人はすでに完璧な身支度を整えていた。ベルナールは刷新された三人の美貌と、その瞳に宿る戦士としての自信を確かめるように見据えた。


「修行の成果は十分だ。今日は全員でギルドへ向かい、これまで溜め込んだ素材と魔石を売りに行くぞ。支部長の腰を抜かしてやるのも、一つの区切りだからな」


ベルナールの言葉に、エルザ、カレン、ミーナの三人は力強く頷いた。彼女たちは自分たちの『アイテムボックス』に収められた、かつてないほどの質と量を誇る戦利品の重みを感じながら、森の出口へと歩を進めた。


だが、森を抜ける手前、静寂を切り裂くような金属音と、魔物の野太い咆哮が響き渡った。


「止まれ」


ベルナールの鋭い制止と共に、四人は足を止めた。前方から激しい剣戟の音が聞こえてくる。ベルナールは即座に指示を飛ばした。


「カレン、索敵だ。状況を報告しろ」


「了解。……展開オープン


カレンは瞬時に周囲の水分に魔力を同期させ、戦場の情景を脳裏に映し出す。彼女の刷新された感覚は、木々の向こう側にある「死」の気配を克明に捉えた。


「敵はオーガの群れ。全部で二十体。かなり大型の個体も混ざっているわ。……それと、冒険者と思われる三人組が交戦中。かなり追い詰められている……このままだと数分持たないわね」


カレンの報告を聞き、エルザが大剣の形状をした氷の武器を無詠唱で生成した。ミーナもまた、刷新された身体に魔力を巡らせ、いつでも飛び出せるよう『アクセル』の準備を整える。


「二十体のオーガか。お前たちの実戦テストにはちょうどいい。……助けるぞ。全員、遅れるな!」


「「「はい!」」」


ベルナールの咆哮と共に、四人は弾かれたように現場へと向かった。


木々をなぎ倒し、視界が開けた先には凄惨な光景が広がっていた。傷だらけの冒険者三人が、円陣を組んで必死に盾を構えているが、周囲を囲むオーガたちの圧倒的な質量と暴力の前に、その防壁は今にも崩れ去ろうとしていた。


「死にたくなければ伏せろ!」


ベルナールの声が戦場に轟く。

その背後から、刷新された三人の戦乙女たちが、まさに「神速」という言葉を体現するような速度でオーガの群れへと突入した。


エルザは『マッスル』を全開にして、重厚な氷のグレイブでオーガの棍棒ごと、その巨躯を一刀両断にする。カレンは『アクセル』で時間を置き去りにし、次々と生成される氷の矢を近距離から急所に叩き込んでいく。そしてミーナは、ハルバードを舞わせながら、オーガの懐へ鋭く突きを繰り出した。


絶望に沈んでいた冒険者たちの目の前で、二十体のオーガが、まるで収穫を待つ稲穂のように次々と刈り取られていく。


二十四歳のベルナールは、その蹂躙にも近い戦いぶりを冷静に見守りながら、自らも氷の剣を抜き放った。修行の成果、そして三人の恋心すら燃料に変えた彼女たちの真価が、今この場で証明されようとしていた。



戦場に静寂が戻るまで、十秒もかからなかった。


二十体のオーガは、エルザの剛腕による一閃、カレンの神速の射撃、そしてミーナの鋭いハルバードの突きによって、抵抗の余地すらなく絶命した。三人は流れるような動きで氷の刃を振るい、巨大な死骸をその場で解体。最高品質の魔石と素材を選別すると、一瞬にしてそれぞれの『アイテムボックス』へと収容した。


冒険者の三人組が、何が起きたのか理解できずに呆然と立ち尽くす中、ベルナールは彼らの惨状に目を向けた。一人は腕が不自然な方向に曲がり、一人は脇腹を深く裂かれ、残る一人も意識が朦朧として地面に膝をついている。


「ボサッとするな! 全員で『ウォーターヒール』だ!」


ベルナールの鋭い号令が飛ぶ。刷新された三人の戦乙女たちは、即座に負傷した冒険者たちの周囲に展開した。彼女たちは自らの魔力を大気中の水分に同期させ、慈愛に満ちた、しかし力強い青い光を放ち始める。


「体内の水を呼び覚ませ。細胞を活性化させろ!」


ベルナールの指導通り、三人は対象の生命力に直接働きかける治癒術を発動した。内側から肉を盛り上げ、血管を繋ぎ、折れた骨の接合を促す。激しい痛みに歪んでいた冒険者たちの顔が、驚きと共に緩和されていく。


同時に、ベルナールは自らのアイテムボックスから、以前に三百本ほど買い込んでおいた在庫のポーションを三本取り出した。


「これを飲め。内側からの治癒を助ける補助剤だ。……遠慮はいらん、まだ在庫は腐るほどある」


ベルナールは手際よく、一人ひとりの口元にポーションを運び、飲ませた。ウォーターヒールによる外傷の修復と、ポーションによる体力回復の相乗効果は劇的だった。さっきまで死の淵にいたはずの冒険者たちは、数分もしないうちに、信じられないといった様子で自分の身体を触り始めた。


「あ……傷が、消えてる……」

「さっきまで、腕が折れてたはずなのに……」


助けられた冒険者たちは、目の前に並ぶ刷新された美貌の三人と、その中心で冷徹かつ正確な指示を出していた二十四歳のベルナールを見上げ、恐怖に近い敬意を抱いた。彼らにとって、この四人はもはや同じ「冒険者」という枠には収まらない、神話の住人のように見えていた。


「立てるな。……無事ならそれでいい」


ベルナールは氷の剣を消し、冷淡に言い放った。背後では、エルザ、カレン、ミーナが、昨夜語り合った「ベルナールへの想い」を秘めつつも、今は完璧なプロの顔で周囲を警戒している。


「解体は終わった。……さあ、行くぞ。ギルドでこの連中を送り届けるのも仕事のうちだ」


二十四歳のリーダーの背中を追い、三人は静かに歩き出す。絶望から救われた冒険者たちは、ただその神々しい後ろ姿を、震える思いで見守ることしかできなかった。


傷が癒えた美女三人組が、信じられないものを見るような目で立ち上がった。彼女たちは互いの無事を確認し合うと、救い主であるベルナールたちに向き直り、深々と頭を下げた。


重い鎧を纏った剣士の女性、清らかな法衣の神官、そして知的なローブ姿の魔法使い。彼女たちは二十五歳から二十八歳という、冒険者として最も脂の乗り切った、成熟した美しさを湛えた実力者たちだった。


「……助かりました。死を覚悟していましたが、あなたたちのような高潔な方に救われるとは。私は剣士のクラリス、二十八歳です。このパーティーのリーダーをしています」


凛とした声で名乗ったクラリスは、ベルナールの落ち着き払った態度に、自分たちと同等か、それ以上の経験を積んだ熟練の冒険者であるという確信を持って見つめた。続いて、法衣を整えた神官が柔和な笑みを浮かべる。


「神官のセシル、二十五歳です。……あの『ウォーターヒール』の温かさ、一生忘れません。本当に、ありがとうございました」


最後の一人、眼鏡を指先で直した魔法使いが、食い入るようにミーナやカレンの術式構成を思い返しつつ、震える声で告げた。


「私は魔法使いのリン、二十六歳よ。……信じられないわ。魔法を介さずにあんな精緻な術式を組み、オーガを塵のように屠るなんて。あなたたちの力、既存の魔法体系を根底から覆しているわよ」


彼女たちは自分たちも相応の経験を積んだベテランの自負があったのだろうが、目の前に立つ四人の放つ圧倒的な覇気、そして刷新された三人の女神たちの完成された美しさに、完全に気圧されていた。


二十四歳のベルナールは、年齢を明かすことなく、冷淡かつ礼節を保って頷いた。


「礼には及ばない。たまたま通りかかっただけだ。俺はベルナール。……こっちはエルザ、カレン、ミーナだ」


ベルナールが短く紹介すると、三人の女神たちもそれぞれの武器を収め、会釈をした。昨夜、ベルナールへの想いを確認し合ったばかりの彼女たちは、助けた相手が大人びた色香を漂わせる美女三人組であることに、無意識のうちに女としての対抗心を燃やしていた。


「動けるようになったのなら、そのままギルドまで同行しろ。魔物の残党に襲われては、先ほど消費したポーションが無駄になる」


ベルナールのぶっきらぼうな、だが確かな配慮に、クラリスたちは顔を見合わせ、再び深く頭を下げた。


「ありがとうございます、ベルナールさん。……あの、もしよろしければ、ギルドに着いた後、改めてお礼をさせていただけませんか? 私たちから、せめてもの感謝を示させてほしいのです」


クラリスの控えめな、しかし真摯な申し出に対し、エルザが少しだけ目を細めて微笑んだ。その微笑みには、自分たちが手に入れた刷新された力への絶対的な自信が混ざっていた。


「お礼なら、無事に街へ着いてから考えればいいわ。今は、私たちの足が止まらないうちにしっかりついてくることね」


こうして、最強の四人と、救われた美女三人組は共に街への帰路についた。ベルナールの正体不明の威厳と、刷新された三人の女神たちの輝き。計七名の華やかな一行は、森を抜けてギルドの門を潜る際、門番や道行く人々を驚愕させる異様な光輝を放っていた。



ベルナールは、責任者から手渡された分厚い羊皮紙の束を三人に回し読みさせた。そこには、熟練の鑑定士たちが戦慄し、ギルドの予算を絞り出す覚悟で弾き出した数字が並んでいた。


【査定見積明細書(特級・無傷査定)】

ゴブリン関連(上位種込)


一般・ホブ・ジェネラル・キング・エンペラー一式:39,390,000 G

(※エンペラーの心臓及び、欠損のない王の皮は国宝級評価)


リザード関連


アイアンリザード × 20体(無傷査定):13,000,000 G


アーマーリザード × 20体(黒銀装甲鱗・特級):39,000,000 G


マジックナイト関連


漆黒の魔導鎧(修復不要) × 20セット:52,000,000 G


高純度魔石(闇・魔封じ) × 20個:26,000,000 G


その他(オーガ・森の猛獣類)


オーガ × 20体(角・胆嚢・肉):15,600,000 G


フォレストベア等(最高品質毛皮):6,500,000 G


【差引支払総額】:191,490,000 G

「一億九千百四十九万……。昨日までの私たちの常識が、ゴミみたいに思えるわね」

エルザが呆然と数字を見つめる。カレンとミーナも、自分たちの『アイテムボックス』から吐き出された獲物が、一国の地方都市を買い取れるほどの富に変わる現実に、刷新された胸を高鳴らせていた。


「……ベルナールさん。三割ほど色をつけさせていただきました。これだけの『無傷の素材』、特にアーマーリザードとマジックナイトの装備は、近隣の騎士団が血眼になって買い叩きに来るでしょうからな」

責任者が額の汗を拭いながら、必死の面引きで告げた。


二十四歳のベルナールは、二億近い巨額を目の当たりにしても、当然の結果だと言わんばかりに冷淡に頷いた。


「妥当な判断だ。これでも市場に出れば、ギルドの取り分は十分残るはずだ。……クラリス、お前たちの命の価値は、この見積もりには入っていない。そっちはそっちで、ギルドへの依頼完了報告としてしっかり上乗せして受理させておけ」


「え、あ……はい! 私たちの報酬なんて、この額に比べたら誤差みたいなものだけど……本当にありがとう!」

クラリスは、自分たちが死を覚悟したオーガが、この見積書の中では「その他」の項目に押し込まれ、それでいて自分たちが一生かかっても稼げない「15,600,000 G」という額で記載されていることに、ただただ圧倒されていた。


「よし、査定に異議はない。金は全額、ギルドの預り証に発行しておけ。端数は今すぐ金貨で用意しろ。……三人に、最高の祝杯を挙げさせてやるからな」


ベルナールの不敵な言葉に、三人の女神たちは誇らしげな、そして彼への熱い想いを込めた微笑みを浮かべた。

最強の力、至高の美貌、そして二億に届こうかという財力。四人の伝説は、この一枚の見積書によって、ギルドの歴史を塗り替える揺るぎない「事実」となった。



「支部長、顔を出してくれ」


ベルナールの呼びかけに応じ、奥の執務室から支部長が慌てて姿を現した。山積みにされた国宝級素材と二億近い見積書を前に、支部長は揉み手をしながら「これでも精一杯の数字でして……」と口ごもる。


「支部長、あんたも俺が元々うだつの上がらない、弱小冒険者だったことは知ってるはずだ」


ベルナールは静かに、だが重みのある声で語りかけた。かつて泥水を啜り、不当な扱いに耐えてきた記憶がその瞳に宿っている。


「だからこそ言う。俺たちを素人だと思って買い叩こうとするな。無傷の素材を揃えるために、俺の仲間たちがどれだけの命懸けの修行をしてきたと思っている。あんたらのギルドだって、これを国に納めれば莫大な利益と信用が手に入るんだ。お互いに商売なんだから、気持ちよく買い取ってくれ。……ここで俺たちをないがしろにするなら、俺は迷わず他へ行く。それはあんたにとっても損失なはずだ」


「ひ、ひぃっ……! おっしゃる通りです、ベルナール殿! すぐに正当な預り証と金貨を用意させます!」


支部長を説得したベルナールは、エルザたちに向けて柔らかく頷いた。

「行くぞ。今日はみんなで贅沢をしよう」


一行は、クラリスたち三人組を伴い、街で一番の高級飲食店へと向かった。刷新された三人の女神たちの美貌と、かつての弱さを克服し、今は堂々たる風格を纏うベルナール。その一行を、店側は最上階のテラス席へと案内した。


最高級のワインと、豪華な料理が並び、宴が始まる。刷新された身体に、温かな美食が染み渡る。ベルナールは三人の成長を心から労い、共に杯を上げた。


そんな中、助けられたクラリスが意を決したように立ち上がった。彼女たちは二十五歳から二十八歳のベテランだが、目の前の四人が見せた「本物の強さ」と、仲間を想うベルナールの誠実さに心を打たれていた。


「ベルナールさん……皆さん。私たちは今日、自分たちの至らなさを思い知りました。そして、あなたのようなリーダーの下で、本当の強さを学びたいと心から思いました」


セシルとリンも、真剣な眼差しで続く。


「お願いです。私たちを、あなた方のパーティーに入れていただけないでしょうか。どんな過酷な役割でも構いません。あなたたちの背中を見て、共に歩みたいのです!」


クラリスの切実な申し出に、エルザ、カレン、ミーナの間に微かな緊張が走った。昨夜、彼への恋心を誓い合ったばかりの彼女たちにとって、新たな美女三人組の出現は無視できない事態だ。


「……ベルナール、どうするの?」

エルザが、独占欲と期待が入り混じった瞳で彼を見つめる。


ベルナールは料理を口に運び、かつての自分を思い返すように少しだけ目を細めた。

「俺たちは、ただ強くなることだけを考えてきた。……もし、その覚悟が本物で、死に物狂いでついてくる気があるなら、拒む理由はない」


三人の美女に、さらに三人の決意が加わった。二億の富を背景に、最強の四人はさらに大きな運命の渦へと踏み出そうとしていた。



高級飲食店の最上階テラス席。贅沢なシャンパンの泡がクリスタルのグラスの中で踊り、七人の再会と勝利を祝う乾杯の声が夜空に溶けていった。


「乾杯!」


豪勢な食事が並び、ひとしきり賑やかに杯を交わした後、ベルナールは静かに席を立った。自分がいれば彼女たちが羽を伸ばしきれないことを察した彼は、少し離れたカウンター席へと移動し、琥珀色のウィスキーを注文した。かつては安酒しか飲めなかった自分が、今はこうして極上の酒を味わっている。その感慨に浸りながら、彼は夜風に吹かれてグラスを傾けた。


一方、テーブル席では、図らずも「女子会」が幕を開けていた。エルザ、カレン、ミーナの刷新された三人と、二十代後半の落ち着きと色香を纏ったクラリス、セシル、リン。当初は緊張感があったものの、美味しい料理と酒が回るにつれ、話題は自然と「あの男」のことへと流れていく。


「……で、ぶっちゃけ聞きたいんだけど。エルザさんたちは、ベルナールさんのこと、どう思ってるの?」


口火を切ったのは、最年長のクラリスだった。彼女は頬を赤らめ、少し離れた背中でウィスキーを飲むベルナールを盗み見る。


「どうって……。さっきのパーティー加入のお願いも、半分は『あの人のそばにいたい』って気持ちがあったんじゃないの? クラリスさん」


カレンがニヤリと笑いながら突っ込むと、クラリスは「うっ……」と言葉を詰まらせた。


「否定はしないわよ。あんなに強くて、不器用だけど仲間をちゃんと見てくれる人、そうはいないもの。私たち、助けられた瞬間に三人とも骨抜きにされちゃったんだから」


その言葉に、神官のセシルと魔法使いのリンも深く頷く。それを聞いたミーナが、負けじと氷のコップを握りしめた。


「ダメですよ、お姉様方! ベルナールさんは、私が魔法の可能性を見せた時から、ずっと支えてくれたんです。一番近くにいたのは私なんですから!」


「あら、それを言うなら、あたしの『索敵』とあいつの技術は相性抜群なの。公私ともにパートナーに相応しいのはあたしよ」


カレンが応戦し、エルザもワインを飲み干して参戦する。


「ふふ、年下のあなたたちも可愛いけど、ベルナールのあのストイックさを支えられるのは、同じように前衛で血を流せる私だと思っているわ」


二十代半ばから後半の、成熟した女性たちの恋バナは、夜が更けるほどに熱を帯びていった。刷新された三人の若き女神たちと、経験豊富な三人の美女。彼女たちは互いの「恋心」をぶつけ合いながらも、どこか楽しげだった。同じ男を敬愛し、その高みを目指す者同士、不思議な絆が芽生え始めていた。


カウンターで一人、静かにウィスキーの氷を転がすベルナール。

背後から聞こえてくる、華やかな笑い声と「自分の名前」が混ざった賑やかな会話。彼はそれを聞こえないふりをしながら、また一口、独りごちるように酒を飲み込んだ。


最強の力を持ち、二億の富を手にしても、女心という難解な術式だけは、今の彼にもまだ解き明かせそうになかった。



豪華な装飾が施された天蓋付きのベッド、最高級の羊毛を使った枕。街で一番と名高い高級宿の朝は、本来なら至福の目覚めを約束するはずだった。


しかし、朝日が差し込む食堂に現れたエルザ、カレン、ミーナの三人は、揃って険しい顔をして自分の首や肩を揉みほぐしていた。


「……痛たた。どうしたのよ、首がガチガチだわ」

エルザが首を左右に回しながら、骨が鳴るような音をさせて顔をしかめる。


「アタシもよ。なんだか体が重くて……。ねえベルナール、この宿、本当に最高級なの? 昨日の食事も、結局ベルナールが作ってくれるご飯の方がおいしかったし、寝心地に至っては最悪だわ」

カレンもまた、刷新されたしなやかな肢体を窮屈そうに動かしながら、不満そうに唇を尖らせた。


ミーナに至っては、昨夜の女子会の余韻もどこへやら、眠たげな目を擦りながら力なく呟いた。

「私もです……。街で一番の有名店のはずなのに、味付けが濃すぎるというか……。森の中でベルナールさんが作ってくれたあの氷の建屋と料理の方が、ずっと身体が休まった気がします。不思議……」


三人の様子を見て、昨日助けられたばかりのクラリス、セシル、リンの三人は、ポカンと口を開けて不思議そうな顔をしていた。


「えっ、何を言っているの? ここのベッドは王侯貴族も利用する、街で最高級のものなのよ。食事だって、予約を取るのも困難な超一流シェフの料理だったじゃない。私たちなんて、昨日までの野宿に比べたら、まるで天国にいるみたいに感動したのに」

クラリスが信じられないといった様子で三人を交互に見る。セシルも「ええ、あんなに美味しいものを食べたのは初めてです」と同意し、リンも眼鏡を直しながら首を傾げた。


「ベルナールさんの料理って……森の中で、しかも男の人の手料理でしょう? 最高の食材を揃えたこの宿のフルコースより美味しいなんて、そんなこと……」


二十四歳のベルナールは、カウンターで提供されたコーヒーを一口啜り、呆れたように三人を一瞥した。

「当たり前だ。俺が作った建屋は、お前たちの体調に合わせて室温も湿度も魔力で精密に制御し、寝床の硬さも水の密度を変えて完璧に調整してあった。食事にしてもそうだ。お前たちのその日の魔力消費量と栄養状態を計算して、一番効率よく身体を刷新できるメニューを組んでいたんだ。市販のサービスと、俺の全自動体調管理術式を比べる方が間違いだ」


かつては泥水を啜り、安宿の硬い床で寝ていたベルナールだからこそ、休息と栄養の重要性を誰よりも理解していた。彼の作る「氷の城」は、住む者の生命力を最大限に引き出すための、計算し尽くされた聖域だったのである。


「……そういうこと。もう、私たちの身体はベルナールの『過保護』な魔法に慣らされちゃってるのね。舌まで肥えさせられちゃって、これからどうすればいいのよ」

エルザが苦笑いしながら、痛む首を自らの水魔法で軽く癒やす。


「贅沢な悩みね、本当に」

カレンが笑うと、クラリスたちは驚愕の表情でベルナールを凝視した。

「……そこまで、そこまで至れり尽くせりなの!? その氷の家とベルナールさんの料理……一度でいいから、私たちも体験してみたいわ」


二億の富を手にした翌朝、最高級の贅沢を凌駕する「ベルナールの魔法」の凄まじさを、新メンバーの三人は図らずも思い知らされることとなった。




二億近い預り証を懐に収め、ベルナールは静かに街の市場へと歩を進めた。これから始まるであろう、新メンバーを交えた長期の練武。彼女たちの肉体を「刷新」し、その潜在能力を極限まで引き出すためには、市販の食事では到底足りないことを彼は熟知していた。


「まずは野菜を。鮮度はもちろん、土の力が強く残っているものを選ぼう。根菜類と葉物、この市場にある良質な品をすべて買い取りたい」


ベルナールの落ち着いた指示を受け、エルザたちが鮮やかな手つきで動く。商人たちが驚愕の表情を浮かべる中、次々と運び出される旬の野菜が、彼女たちの『アイテムボックス』へと整然と収容されていった。


次に向かったのは、街で最も歴史のあるパン屋だ。

「焼きたてのパンを二千人分ほど用意してほしい。一度に焼き上げるのは骨だろうが、手間賃は惜しまない。職人たちに、最高の仕事をしてくれるよう伝えてくれ」

ベルナールが穏やかに、しかし抗いがたい重みを持って金貨を置くと、店主は震える手でそれを受け取り、店中の窯に火を入れさせた。香ばしい小麦の香りが街を包み込む中、焼き上がったばかりのパンが山をなし、これも瞬時に収納された。


さらに、彼は調味料の専門店へと足を運ぶ。

「岩塩、砂糖、そして数種のハーブを樽ごと頂こう。特に代謝を促す香辛料の在庫はすべてだ。料理はただの栄養摂取ではない。魔力の循環を助ける儀式のようなものだからな」

かつての困窮時代、調味料一つで体調を崩した経験があるからこそ、その言葉には深い実感がこもっていた。


最後に向かったのは、酒造ギルドの広大な倉庫である。

「エールを二千樽。すぐに運び出せる分を。残りは追って受け取りに来る」


この圧倒的な注文に、新メンバーのクラリスが思わず言葉を失い、問いかけた。

「ベルナールさん……二千樽ものエールを、私たちだけでどうされるのですか?」


ベルナールは琥珀色の瞳を彼女に向け、静かに微笑んだ。

「過酷な修行の後は、魔力だけでなく精神も摩耗する。水分と糖分の補給、そして何より仲間と語らう時間は、強くなるために不可欠な投資だよ。……昨夜の君たちの様子を見る限り、これでも控えめな量だと思っているがね」


カレンとミーナが顔を見合わせて少し照れくさそうに笑う中、次々と積み上げられる樽が異次元の空間へと消えていく。


「さて、準備は整った。森へ戻ろう。……クラリス、セシル、リン。君たちの覚悟を、形にする時が来た」


ベルナールの静かな、しかし確信に満ちた背中を追い、六人の美女たちは再び「氷の聖域」へと足を踏み出す。巨万の富と膨大な物資。そのすべては、彼女たちが真の強者へと至るための礎となる。




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