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刷新の旅団  作者: 慈架太子


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第6章: 屈辱の反省会 ―― 三人の先輩が説く「死の回避」

ベルナールは、三人が寛ぐリビングスペースの奥に、さらに二つの寝室を氷の壁で仕切って作り上げた。自分用の簡素ながらも機能的な建屋とベッドを整えると、残る二つの部屋にも、先ほどエルザが絶賛した水のマットレスを備えた豪華な氷のベッドを二台ずつ配置した。


「一室はエルザとカレン、もう一室はミーナが使ってくれ。魔力の維持は俺が寝ている間も自動で行われるよう術式を組んである。……では、おやすみ。明日は早いぞ」


ベルナールが穏やかに告げて自分の部屋へと引き上げると、残された三人は、氷のランプが放つ淡い青光の中で顔を見合わせた。興奮と、彼への底知れない敬意で、とてもすぐには眠れそうになかった。


「……本当に、あの人には驚かされるわね」

エルザが水のソファに深く沈み込みながら、ぽつりと漏らした。

「強さだけじゃない。あの『スチームバレット』の発想も、この氷のベッドも……。魔法を単なる攻撃手段としてじゃなく、世界の仕組みそのものとして理解している。あんなに頭が良くて、柔軟な考え方ができる人、今まで出会ったことがないわ」


カレンも、氷のコップに残ったエールを飲み干して頷いた。

「アタシたちが知ってた『魔法』なんて、ベルナールに言わせれば子供の火遊びみたいなもんだったのかもね。無尽蔵の魔力があるからって、普通はここまで使い道を思いつかないわよ。戦いから生活まで、全部一人で塗り替えていっちゃうんだもん。あいつ、二十四歳でしょ? 人生二回目か何かじゃないの?」


「ふふ、でも……」と、ミーナが少し照れくさそうに、しかし誇らしげに口を開く。「私のウォーターカッターが原点だって言ってくれた。あんなに凄い人が、私の魔法を認めて、あんなに大切に育ててくれた……。私、一生懸命ついていかなきゃって、改めて思ったよ」


三人の会話は、夜が更けるまで続いた。刷新された自分たちの身体の調子、ベルナールへの信頼、そして彼が見せてくれる輝かしい未来。語れば語るほど、彼という存在の大きさが胸に染み渡っていく。最強の力と、それを操る超人的な知性。その両方を兼ね備えたリーダーの下にいる幸運を、彼女たちは噛み締めていた。


翌朝。森が深い霧に包まれる頃、四人の修行が始まった。


「いいか、昨日見せたのはあくまで俺の形だ。今日からは、それをお前たち自身の血肉にする。身体強化で一歩の踏み込みを数倍にし、索敵で森の鼓動を聞け」


ベルナールの厳格な号令が飛ぶ。

エルザは大剣を捨て、氷のハルバードを無詠唱で生成しながら、自らの血液を魔力で加速させる感覚を研ぎ澄ませる。カレンは姿を消し、空気中の水分と同調して森のすべての動静を掌中に収めようと試みる。ミーナは、もはや杖に頼らず、指先から熱と氷を同時に繰り出す精緻な魔力操作に没頭した。


ベルナールは三人の間を歩き、時には自らの魔力を直接彼女たちの回路へ流し込んで、正しい「水の理」を導いていく。


昨日までの美しき令嬢のような姿はどこへやら、彼女たちの瞳には、一刻も早くベルナールの隣に並び立ちたいという、強欲なまでの向上心が宿っていた。二十四歳のベルナールが見据える、世界の果て。そこへ至るための、地獄のような、しかし最高に充実した「刷新」の日々が、本格的に幕を開けた。



霧深い森の修練場に、地を這うような不気味な足音が響き渡った。現れたのは、全身を天然の鋼鉄鱗で覆われた凶悪な魔物、アイアンリザードの群れだ。その数、およそ二十体。並の冒険者パーティーなら、武器を折られ、なす術なく蹂躙される絶望的な状況である。


「いいか、奢るな。俺たちはまだ弱い。この世界には物理攻撃が効かない霊体や、魔力を食らう天敵だってまだまだいる。慢心は死に直結するぞ」


ベルナールの冷徹な声が飛ぶと同時に、アイアンリザードたちが一斉に突撃を開始した。


「分かっているわ! ……身体強化・『マッスル』!」


先陣を切ったのはエルザだった。彼女は刷新された四肢に魔力を爆発的に巡らせ、体内の血液を沸騰せんばかりに加速させた。膨れ上がった筋肉が新調した服の袖をはち切れんばかりに押し上げ、彼女は無詠唱で巨大な『氷のハルバード』を生成する。


「はぁぁっ!」


一閃。鋼鉄の鱗を持つはずのリザードが、まるで柔らかい粘土細工のように、頭から尾の先まで真っ二つにぶった切られた。物理的な筋力と魔力による加重が合わさった、圧倒的な破壊力だ。


一方で、ミーナとカレンも同様に身体強化を試みるが、やはり元々の素養が異なる。強化魔法を使っても、エルザのような力押しでの粉砕は難しい。


「力で勝てないなら……精度で仕留める! 『ウォーターバレット』!」


ミーナは冷静に、リザードの鱗の隙間――わずかに露出した眼窩を狙い定めた。超高回転を帯びた一点の水の針が放たれ、鋼鉄の兜を貫くようにしてリザードの脳中枢を最短距離で射抜く。巨体が崩れ落ち、ミーナは止まることなく次の標的に狙いを定めた。


カレンは影を駆けるような速度で群れの真っ只中へと飛び込んだ。

「アタシはアタシのやり方で稼がせてもらうわよ!」


彼女は正面からの衝突を避け、三体のリザードの頭部を瞬時に『ウォーターマスク』で包み込んだ。暴れ狂う鋼の獣たちだったが、肺を水で満たされれば抗う術はない。酸素を求めて地面を掻き毟るリザードたちの動きが、数分もしないうちに完全に停止した。傷一つない、最高品質の鋼鉄鱗がそこに転がっている。


「いい動きだ。だが、まだ呼吸が乱れている。身体強化を維持しながら術式を組むとき、魔力の循環にムラがあるぞ」


ベルナールは自らは動かず、三人の戦いぶりを鋭い眼光で見守りながら、的確な指示を飛ばす。


二十四歳のベルナールという絶対的な指針の下、刷新された美しき三人の女神たちは、実戦という名の過酷な授業を通じて、自らの新しい肉体と魔法の融合を深めていく。一匹、また一匹と、森の捕食者が、さらに上位の「捕食者」へと進化した彼女たちの手によって屠られていった。


「残りは十五体だ。……休むな、次の波が来るぞ!」


ベルナールの声に応えるように、三人の瞳にはさらなる闘志が宿った。最強への道はまだ遠い。しかし、その背中には確実に、世界を統べる者の影が差し始めていた。



アイアンリザードの屍が積み重なり、静寂が戻るかと思われた修練場だったが、地響きはさらに激しさを増した。霧の向こうから現れたのは、通常のアイアンリザードを二回りも上回る巨躯、そして全身を漆黒の重厚な装甲鱗で包んだ上位種『アーマーリザード』の群れだった。


その数、再び二十体。彼らはかつての仲間たちの死骸を平然と踏みつぶし、その分厚い尾で大地を叩きながら、三人の戦乙女を包囲するように展開した。


「上位種か……。いい練習相手だ。各自、最速の解を導き出せ」


ベルナールの声が静かに響く。


「逃がさないわ。……『アイスバインド』!」


最初に動いたのはミーナだった。彼女は刷新された魔力回路を全開にし、五体のアーマーリザードの足元から一瞬で氷の鎖を噴出させた。関節を封じられ、身動きの取れなくなった巨獣たちが咆哮を上げる。だが、その口が開いた瞬間が死の合図だった。


ミーナは杖を介さず、左右の手から同時に『ウォーターバレット』を乱射した。鉄壁の装甲を避け、唯一の弱点である目、鼻、そして開かれた口腔内へと、水の針が吸い込まれていく。脳を直接撃ち抜かれた五体の上位種が、断末魔すら上げられずにその場に崩れ落ちた。


一方、エルザは氷のハルバードを構え、正面から突進してくる個体と対峙していた。

「……縦の装甲はアイアンリザードの比じゃないわね。なら!」


彼女は身体強化『マッスル』を一段階引き上げ、踏み込みの一歩で地を爆ぜさせた。重厚な装甲が重なる胴体への一撃を捨て、狙いを「首の隙間」へと絞る。ハルバードの刃が、装甲の継ぎ目を滑るように通り抜け、巨獣の首を軽々と刎ね飛ばした。


「次!」


返り血を刷新された肢体で浴びながら、エルザは舞うように旋回し、立て続けに五体の首を落としていった。


圧巻だったのはカレンだ。彼女は正面衝突の非効率を誰よりも理解していた。

「アタシ一人に十体も回して、いい度胸ね……!」


カレンは影に溶けるような速さで十体の群れの中心へと潜り込んだ。彼女が両手を広げると、十体すべての頭部に巨大な『ウォーターマスク』が形成された。さらに彼女は冷静に魔力を変質させ、その水球の表面だけを『アイスマスク』へと瞬時に相転移させた。


物理的な破壊では時間がかかる重装甲の獣たちが、鼻口を完全に氷に封じられ、酸素を求めて悶絶する。カレンはその中心で、冷徹な死神のように腕を組んで立っていた。数分後、十体のアーマーリザードは、傷一つない完璧な漆黒の装甲鱗を残したまま、静かに絶命した。


「……終わったわ」


二十体の上位種を完封した三人の背中には、以前のような疲弊は見られない。むしろ、溢れ出す魔力が彼女たちの肉体を内側から輝かせ、その美貌に戦士としての凄みが加わっていた。


「上出来だ。素材の損傷も最小限、魔力消費も効率的だ」


二十四歳のベルナールは、倒れ伏したアーマーリザードの群れを見渡し、満足げに頷いた。


「これなら、街に戻ればまた支部長が泣き言を言うくらいの金になるな。……さあ、アイテムボックスに収めるぞ。次の修行は、この『装甲』をどう剥ぐか……解体の実践だ」


ベルナールの不敵な笑みに、三人は誇らしげな微笑みを返した。最強の牙と、最強の効率。刷新された彼女たちは、今や森の生態系そのものを凌駕する存在へと昇り詰めていた。



アイアンリザードとアーマーリザードの山を前にして、ベルナールはふと顎に手を当てた。これだけの巨体を毎回、自分の『アイテムボックス』に収容する手間はさほどではないが、今後パーティーが分かれて行動する際や、個々の継戦能力を考えれば、彼女たち自身に「器」を持たせるべきだと判断したのだ。


「いいか、三人とも。お前たちの魔力回路は、俺の中継を経てすでに常人の数百倍の容量を確保している。……今なら、空間を捻じ曲げて固定する『アイテムボックス』の術式を刻み込めるはずだ」


ベルナールの言葉に、刷新された三人の戦乙女たちが緊張の面持ちで居住まいを正した。


「今からお前たちの意識に、術式の構成を直接同期させる。拒絶するな、お前たちの膨大な魔力の一部を、この世界の裏側にある『隙間』に定着させるイメージを持て」


ベルナールが三人の額に順に指を触れていく。空間魔法の深淵な術式が、彼女たちの脳内へと流れ込んだ。無尽蔵の魔力に支えられたその術式は、本来なら極一部の選ばれた者しか使えない高位のものだが、ベルナールの導きによって、彼女たちの魔力中枢へと精密に定着していった。


「――っ、これは……!? 頭の中に、広大な空間が広がっているのがわかるわ……!」


エルザが目を見開き、虚空に手を伸ばした。彼女が目の前のアーマーリザードの巨体に触れると、その重厚な肉体が吸い込まれるように消え、彼女の管理する空間へと収納された。


「アタシにもできたわ。……すごい、重さを全然感じない! これならどんなに重い素材を狩っても、涼しい顔で持ち運べるじゃない」


カレンは不敵に笑い、自分の周囲に転がっていたリザードを次々と虚空へ消し去っていく。


「私……本当にアイテムボックスが使えるようになったんだ……。これで、重い魔導書や予備の杖、採取した薬草も鮮度を保ったまま全部持ち歩けます」


ミーナは感動に肩を震わせながら、自らの手で空間を操る感覚を噛み締めていた。


「お前たちが手に入れたのは、ただの倉庫じゃない。戦場での予備武装の管理や、物資の運搬を可能にする『自立』だ。これで、俺が不在の時でもお前たちは完璧に機能できる」


二十四歳のベルナールは、三人がそれぞれのアイテムボックスに素材を収めていく光景を満足げに眺めていた。これで彼女たちは、単なる戦闘員としてだけでなく、個々が膨大な物資を管理・運搬できる高度な冒険者としての能力を備えたことになる。


刷新された女神たちは、手に入れた新たな権能に瞳を輝かせた。もはやベルナールに頼り切りだった昨日の自分たちではない。彼女たちは今、自らの意志で戦利品を収め、管理する力を手に入れたのだ。


「よし、これで回収作業の効率も上がったな。……残りの素材も全部詰め込め。明日からは、さらに深く、この森の真の主を探しに行くぞ」


ベルナールの言葉に、三人は力強く頷いた。最強の暴力、至高の美貌、そして手に入れた無尽蔵の収納力。四人の伝説は、一歩ずつ、確実に完成へと近づいていた。



アイアンリザードとアーマーリザードの死骸をすべてアイテムボックスに収め、一息ついた三人を前に、ベルナールは冷徹な眼光を向けた。


「いいか、浮かれるな。お前たちは水魔法の基礎をすべて手に入れたが、魔力に頼りすぎるのは未熟者の証だ。世の中には魔力無効化の結界を張る敵もいれば、魔力を吸い取る魔物もいる。……次は、魔法を一切禁止する。近接戦闘だけで敵を屠れ」


ベルナールの非情な宣言に、三人の表情が引き締まる。


「エルザ、お前は氷の武器を生成する際、毎回異なる形状を選べ。大剣、ハルバード、槍、メイス……戦況に応じてすべてを使いこなせ。身体強化『マッスル』は使っていいが、技量のみで敵を圧倒するんだ」


「……分かったわ。どんな獲物でも私の手足のように動かしてみせる」

エルザは刷新された四肢を躍動させ、次々と生成される氷の武具を手に、その重心を確かめる。


「カレン、お前は短剣に逃げるな。リーチの長い獲物や打撃武器も習熟しろ。それと、常時『索敵』を展開しておけ。敵の気配だけでなく、空気の揺らぎ一つで見えない斬撃を読み取るんだ。一瞬でも気を抜けば死ぬと思え」


「厳しいわね……。でも、やってやるわよ。アタシの目は、影の中まで全部見通してあげる」

カレンは不敵に笑い、氷のグレイブを回転させながら周囲の水分に魔力を同期させていく。


「そしてミーナ。お前は魔導師の皮を脱ぎ捨てろ。自在に武器を操り、近接戦闘を身体に叩き込むんだ。……危なくなっても俺は手を出さん。怪我をするのはお前が弱いからだ。死に物狂いで食らいつけ」


「……はい! 私、もう守られるだけの魔導師には戻りたくありません!」

ミーナは震える手で氷の剣を握りしめ、刷新された肉体を極限まで緊張させた。


直後、森の奥から凶暴な大型の魔獣たちが現れた。魔力を封じられ、純粋な技量と身体能力のみで戦うという過酷な試練。


慣れない近接戦闘に、ミーナは何度も敵の爪に晒され、その白い肌を紅潮させながら必死に刃を振るう。エルザは一撃ごとに武器を切り替え、ハルバードで薙ぎ払った直後にメイスで装甲を砕くという超人的な連撃を見せ、カレンは索敵の網にかかる敵の殺気を紙一重でかわし、慣れない長柄武器で致命傷を叩き込んでいく。


二十四歳のベルナールは、冷酷なまでに静かにその光景を見守っていた。

「遅い。もっと流れるように動け。武器に振り回されるな、お前たちが武器そのものになれ」


刷新された三人の女神たちは、汗と泥にまみれながらも、自らの限界を超えようと足掻いていた。魔法という絶対的な盾を奪われ、剥き出しの闘志だけで戦う彼女たちの姿は、真の強者へと変貌を遂げるための、最も激しく、最も美しい産声のようであった。



近接戦闘の修行が一段落し、全身に土埃と汗を纏った三人を前に、ベルナールは静かに掌を掲げた。慣れない武器を振り回し、魔獣の鋭い爪を紙一重でかわし続けた彼女たちの肢体には、いくつかの生々しい擦り傷や打掛傷が刻まれている。


「よくやった。だが、戦場では傷を負わないことと同じくらい、負った傷をどう処理するかが生死を分ける。……最後に教える水魔法の真理は『再生』だ」


ベルナールの指先から、透き通るように清らかな水が溢れ出し、エルザの腕に刻まれた深い切り傷を優しく包み込んだ。


「『ウォーターヒール』だ。いいか、勘違いするな。聖属性の魔法のように、失った手足を生やしたり、欠損した臓器を無から作り出すような奇跡じゃない。これは、対象の体内の水分を魔力で活性化させ、細胞の代謝を極限まで引き上げることで、身体が本来持つ自浄作用と治癒力を数万倍に加速させる技術だ」


ベルナールの魔力が水を通じてエルザの体内へと浸透していくと、傷口から流れていた血が瞬時に止まり、割れた皮膚が生き物のように蠢きながら、数秒のうちに元の滑らかな肌へと戻っていった。跡形もなく、傷が「無かったこと」になっている。


「……すごい、痛みが一瞬で引いていく。それに、細胞の一つひとつが内側から若返っていくような不思議な感覚だわ」

エルザが自身の腕を驚きと共に撫でる。


「ミーナ、お前は魔導師だ。この術式の繊細さが理解できるはずだ。外部から無理やり肉を繋げるのではなく、内側の『水』を揺り動かして生命力を引き出す。……お前たちの今の刷新された肉体なら、軽い骨折や内臓の損傷程度なら、この術式で即座に戦線復帰できる」


カレンも、自身の足首に負っていた捻挫のような痛みが霧散したことに気づき、目を見張った。

「戦いながら治す……。これがあれば、アタシたちは継戦能力でも誰にも負けないってことね」


「その通りだ。攻撃、防御、拘束、生活、そして治癒。水という一つの属性を突き詰めれば、お前たちは一人ひとりが完全なる個として完結する。……怪我を恐れて縮こまる必要はない。だが、慢心してこの癒やしを前提に戦うなよ。痛みは経験として魂に刻め」


二十四歳のベルナールは、完全に傷が癒えた三人の美貌を満足げに見渡した。刷新された彼女たちのプロポーションは、治癒の魔法を受けてより一層の輝きを放っている。


「さあ、今日はここまでだ。氷の邸宅に戻り、最高の食事と風呂で身体を休めるぞ。……明日からは、これまで教えたすべてを組み合わせた、実戦形式の総仕上げだ」


ベルナールの背中を追って、三人は深い信頼を込めた足取りで歩き出す。水魔法の可能性をすべて見せられ、自らのものとしつつある彼女たちの瞳には、もはや弱者の面影は微塵も残っていなかった。



森の深部、静寂を切り裂くように重厚な足音が響き渡った。霧の向こうから現れたのは、漆黒の甲冑に身を包み、魔力を帯びた大剣を携えた二十体の『マジックナイト』。彼らは出現と同時に、周囲の空間を歪ませるほどの「魔法封じ」の波動を放った。


「くっ……魔力の流れが!」

ミーナが息を呑む。術者の魔力に直接干渉し、発動を阻害する広域結界。三人の魔法は、文字通り「封じられた」状態となった。だが、ベルナールの過酷な指導は、まさにこの瞬間のためにあった。


「魔法に頼るなと言ったはずだ。身体で覚えた技を使え!」

ベルナールの冷徹な声が飛ぶ。


真っ先に動いたのはエルザだった。彼女は魔法を封じられる直前、反射的に身体強化『マッスル』を発動させていた。一度筋肉に定着した強化は、外部からの干渉を受けてもすぐには霧散しない。エルザは刷新された四肢を躍動させ、手元にあった巨大な『氷のグレイブ』を握り直した。


「魔法が使えなくても、この筋力があれば十分よ!」

地を爆ぜさせ、エルザが黒銀の旋風と化す。一閃。重装甲のマジックナイトが、盾ごと紙切れのように両断された。魔法を封じたことに慢心していたナイトたちは、その超人的な物理破壊力に対応できない。エルザは流れるような歩法で次々と間合いを詰め、たった一人で十体のマジックナイトを紙一重の技量で薙ぎ払った。


一方、カレンもまた冷静だった。彼女の『索敵』は、魔力によるレーダーではなく、大気中の水分と自分の感覚を同期させる、技量に近い術式として定着していた。

「アタシの目は、あんたたちの結界じゃ曇らないわよ」


カレンは魔法封じの余波を嘲笑うように、氷の弓を引き絞った。放たれた『氷の矢』は、空中でベルナールが説いた『バレット』の術式を物理的な衝撃で誘発させ、着弾の瞬間に爆発的な貫通力を発揮した。魔法そのものではなく、生成済みの氷の矢に込められた慣性と圧力が、残る十体のナイトの急所を的確に射抜いていく。


わずか数分の出来事だった。二十体のマジックナイトは、魔法という切り札を封じたはずの相手に、物理と技量の暴力で完封された。


「……私の、出番がなかった」

ミーナが、手にした氷の剣を虚しく握りしめ、がっかりと肩を落とした。近接戦闘を必死に身につけ、今度こそ貢献しようと意気込んでいた彼女だったが、二人の圧倒的な速度の前に、剣を交える隙すら与えられなかったのだ。


「気にするな、ミーナ。敵の初動を読み、魔法を封じられる前に最適解を出した二人が早かっただけだ。お前は次でその牙を見せればいい」

ベルナールはミーナの頭に軽く手を置き、沈んだ心を鼓舞した。


「さあ、立ち止まるな。マジックナイトの装備は高値で売れる。魔石も特級品だ。……解体して、自分の『アイテムボックス』に収めろ。これも立派な修行だ」


三人は慣れた手つきで、傷一つないマジックナイトの鎧を剥ぎ取り、輝く魔石を摘出していく。刷新された彼女たちの指先は、戦いだけでなく解体の技術すらも美しく、洗練されていた。


二十四歳のベルナールが見守る中、漆黒の残骸は次々と虚空へと消えていく。魔法を封じられてもなお、世界を蹂躙できる。その絶対的な自信が、四人の絆をさらに強固なものへと変えていた。



深い森の奥、もはや道とは呼べないほどに生い茂った樹海の中を、刷新された三人の戦乙女たちが疾風のごとく駆け抜けていた。


ベルナールから授けられた新たな術式、身体能力を爆発させる『マッスル』と、神経系の伝達速度を極限まで高める『アクセル』。この二つを重ね掛け(オーバーレイ)した彼女たちの動きは、もはや人の目では捉えきれない領域に達していた。


「――来たわね。散りなさい!」


エルザが地を蹴る。目の前には、巨木のような体躯を誇る『フォレストベア』が立ち塞がっていたが、彼女の速度はそれを遥かに凌駕していた。『アクセル』によって研ぎ澄まされた反射速度で熊の豪腕を紙一重でかわすと、『マッスル』によって鋼鉄のごとき硬度を得た筋肉が、氷の大剣を振り下ろす。ズドォォン! という重低音と共に、森の王と恐れられた猛獣が、一撃で地面に沈んだ。


その隣では、カレンが目にも留まらぬ速さで森を舞っていた。

「逃がさないって言ったでしょ?」

逃走を図る『フォレストディア』の群れに対し、彼女は『アクセル』を全開にして空間を支配する。索敵で捉えた未来位置に、氷の短剣を次々と突き立てていく。流麗な動きの合間に、突然現れた『レッドウルフ』の喉元を、マッスルの剛腕を乗せた打撃で粉砕する。魔法という遠距離手段を封じられながらも、彼女たちの近接戦闘能力は、もはや魔物たちの本能的な恐怖を呼び起こすレベルに達していた。


そして、ミーナもまた、かつての華奢な魔導師の面影を脱ぎ捨てていた。

重厚な突進を仕掛けてくる『フォレストバッファロー』に対し、彼女は正面から向き合う。

「魔法が無くても……私は、戦えます!」

『アクセル』で時間の流れが遅く感じる世界の中、バッファローの角の隙間に氷の槍を滑り込ませる。身体強化によって引き上げられた膂力りょりょくは、巨大な獣の突進エネルギーを逆利用し、その巨躯を容易に投げ飛ばした。着地と同時に、槍の石突きで急所を貫く。


「……ふぅ。これで全部かしら」


エルザが額の汗を拭い、刷新された美しい肢体を休ませる。周囲には、傷一つない最高品質の毛皮や肉を持つ魔物たちの山が築かれていた。


二十四歳のベルナールは、大樹の枝に腰を下ろし、冷徹かつ満足げな視線を三人に投げかけた。

「いい動きだ。重なり合った二つの強化が、お前たちの本来の魔力と共鳴している。魔法という『杖』を捨てて、ようやく自分たちの肉体という『剣』を手に入れたな」


三人はそれぞれ、倒した魔物を手慣れた手つきで自らの『アイテムボックス』に収容していく。

かつては一匹の魔物に命を懸けていた彼女たちが、今や森の生態系そのものを、一切の損壊なく、かつ最小限の労力で「収穫」している。


「さあ、このまま奥へ進むぞ。マッスルとアクセルの維持で、魔力回路に負荷がかかっているはずだ。それを呼吸と同じように自然なものに変えろ」


ベルナールの声に応え、三人は再び森の闇へと消えていく。刷新された美貌に、戦士としての凄みと自信を湛えた彼女たちの旅路は、もはや誰も止めることのできない伝説へと昇華されつつあった。



静寂に包まれていた森の奥深くから、耳を劈くような耳障りな叫び声と、地を揺らす無数の足音が押し寄せてきた。


「ゴブリンスタンピード……! 数は百五十を超えているわ」


カレンの『索敵』が瞬時にその規模を弾き出す。前衛には筋骨隆々としたホブゴブリンが五十体、その後方には威圧感を放つゴブリンジェネラルが数体、そして中心部には王者の風格を纏うゴブリンキング、さらにはその頂点に君臨するゴブリンエンペラーが控えていた。


「魔法は不要だ。教えた通り、近接戦闘と武具の生成だけでこの雑兵どもを片付けろ」


二十四歳のベルナールの冷徹な号令が飛ぶ。


最初に動いたのはカレンだった。彼女は『アクセル』で加速させた超人的な反応速度を活かし、氷の弓を次々と引き絞る。放たれる氷の矢は、魔法の軌道ではなく純粋な物理的殺意として、最前列を走るホブゴブリンたちの眼窩を正確に、そして冷酷に射抜いていく。彼女が矢を放つたび、一体、また一体と緑の怪物が地面を這った。


「道を開けるわよ! 『マッスル』、全開!」


エルザが刷新された四肢に力を込め、氷のグレイブを頭上に掲げた。彼女が踏み込むと、地面が陥没し、その巨躯に似合わぬ速度でゴブリンの群れの真っ只中へと突っ込む。旋回するグレイブの刃は、ホブゴブリンの太い首を、そしてジェネラルの重厚な盾を、紙切れのように薙ぎ払っていく。漆黒の戦乙女と化したエルザの周囲には、肉片すら飛ばない鮮やかな絶命の円が描かれていた。


そして、かつては後方で杖を握っていたミーナも、今はその中心にいた。

「私も……もう負けません!」


ミーナは『アクセル』と『マッスル』を完全に重ね掛けし、自身の身の丈を超える氷のハルバードを軽々と操っていた。彼女はバッファローとの戦いで得た間合いの感覚を活かし、ハルバードの長リーチを最大限に利用して、周囲のゴブリンをまとめて薙ぎ払う。ジェネラルが放つ大剣の一撃をハルバードの柄で受け流し、その隙に突きで心臓を射抜く。その動きには、もはや魔導師の面影はなく、一流の近接戦士としての洗練された美しさが宿っていた。


「ミーナ、いい動きだ! そのままキングの懐を突け!」

ベルナールの激が飛ぶ。


三人の連携は、もはや一つの生物のように完成されていた。カレンが遠距離から動きを止め、エルザが装甲を砕き、ミーナが止めを刺す。百五十体の群れは、わずか数分のうちにその数を減らし、ついにキングとエンペラーまでもが、傷一つない素材としてアイテムボックスへと収められていった。


「……はぁ、はぁ。ベルナールさん、私……戦えました!」

ミーナが、刷新された美貌を紅潮させ、満足げな笑顔をベルナールに向けた。


「ああ、よくやった。ミーナ、お前も立派な前衛だ。これで俺たちのパーティーに死角はない」


二十四歳のベルナールは、三人が自らの力で戦場を支配したことに深い満足を覚えながら、静かに頷いた。最強の暴力と技量を備えた彼女たちの伝説は、このスタンピードの殲滅を以て、さらなる次元へと突入した。



スタンピードの喧騒が去り、森に静寂が戻ると、ベルナールは刷新された三人の美貌を見渡して穏やかに告げた。


「よし、今日はここまでだ。三人とも、アイテムボックスに収めた獲物を解体してくれ。素材の部位ごとに仕分けが終わる頃には、俺が風呂を沸かして飯を作っておく」


「了解よ、ベルナール。これだけの数、腕が鳴るわね」

エルザが氷のナイフを生成し、不敵に微笑む。かつては一匹の解体にも苦労していた彼女たちだが、今や水魔法の精密操作と『アクセル』による速度を心得ている。


ベルナールは邸宅へと戻ると、まずは巨大な氷の湯舟に無尽蔵の魔力を注ぎ込んだ。一瞬にして満たされた水は、彼の意識一つで最適な温度へと加熱され、白い湯気が建屋の中に満ちていく。続いて彼は氷のキッチンに立ち、アイテムボックスから最高級の肉と新鮮な野菜を取り出した。


氷の鍋の中で、魔力加熱されたスープがグツグツと音を立てる。火を使わないため煤一つ出ない清潔な空間で、彼は手際よく氷のカトラリーを並べ、キンキンに冷えたエールと香ばしいパンを準備していく。


その頃、外では三人が驚異的な速度で作業を進めていた。

「ミーナ、ジェネラルの魔石は傷つけないようにね」

「分かってるわ、カレン。水の刃で細胞の隙間をなぞれば、ほら……綺麗に取れるわ」

ミーナは刷新された指先を繊細に動かし、魔力で強化された視覚で肉と皮の境界を見極める。カレンもまた、無駄のない動きでエンペラーの希少な装甲鱗を剥ぎ取っていく。彼女たちはベルナールの教えを忠実に守り、素材を「資源」として完璧に処理していた。


作業を終え、風呂で血と泥を洗い流した三人がリビングに戻ってくると、そこには温かなスープの香りと、ベルナールの作った至高の食卓が待っていた。


「お疲れ様。さあ、座れ。今日はミーナも前衛でよく動いたからな。肉は多めに入れてあるぞ」


二十四歳のベルナールが氷のコップを掲げると、三人は刷新された瑞々しい肢体を水の椅子に預け、至福の吐息を漏らした。

「……最高。戦って、稼いで、お風呂に入ってこのご飯。もう、他の生活なんて考えられないわ」

エルザが氷のスプーンで熱いスープを口に運び、幸せそうに目を細める。


「本当ね。ベルナールさんと出会って、私たちの世界は魔法みたいに変わっちゃった」

ミーナも、氷のフォークで柔らかく煮込まれた肉を味わいながら、彼への深い信頼を瞳に宿した。


外の闇ではまだ魔物たちが蠢いているが、この氷の聖域の中だけは、最強の四人だけが許された豊穣な時間が流れている。ベルナールは三人の成長としみじみとした充実感に浸りながら、静かにエールを喉に流し込んだ。


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