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私説 水滸伝一〇八編の鎮魂曲  作者: 光闇居士


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39/49

〇参八:及時雨(きじう)、神行太保(しんこうたいほ)に会し、黒旋風(こくせんぷう)、浪裏白条(ろうりはくじょう)と闘う

挿絵(By みてみん)

(舞台は荒れ狂う水飛沫の中、凄まじい波音が響き渡る。中央には力強くもがく李逵、その体に絡みつく張順の姿。)

語り手(太夫):

「ええい、見よや見よや、潯陽江の荒波よ!

天地を揺るがす黒き旋風、黒旋風李逵が、陸の勇名を水に沈めんとする、哀れなる姿よ!

たぎる血潮は墨のごとく、岩石のごときその身も、水を得てはただの木偶。

目を見開き、水を吐き、渇望するは陸の空気。

陸上無敵の豪勇も、水底深くはただの藻屑か!

屈辱に震えるその肩、焦燥にゆがむその顔よ!

(一方、白い肌が波間に光り、李逵に絡みつく張順に焦点を当てる。)

対するは、水を得て龍となる、浪裏白条、張順が神業!

雪のごとき白肌、水に溶け込むがごとき身のこなし。

墨を弾く白地が、その優雅さ、そして冷酷さを際立たせる!

李逵の黒き巨体を、いと容易く水底へといざない、

まるで白い龍が黒い岩を弄ぶがごとく、水を得たる者の、その神髄をここに示さん!

剛と柔、黒と白、陸の王者と水の神!

墨の濃淡が織りなす、この息詰まる一瞬!

ああ、この勝負、いかに相成るか、見届け給え、天下の皆様方!」

(一瞬の静寂の後、再び波音が強く響き渡り、幕)


【しおの】

 さて、宋江そうこうは差撥(さはつ・事務長)に別れを告げて抄事房しょうじぼうを出て点視庁へ向かうと、そこには節級(せっきゅう・看守長)が椅子にどっかと腰を下ろし、雷のような大声で怒鳴り散らしていた。

「新入りの囚人はどいつだ!」

 牌頭はいとうが宋江を指差して、「こいつでさぁ」と告げると、節級は口汚く罵り始めた。

「この顔の黒い、背の低い殺才さっさい・ろくでなしめ! 一体誰の威光を笠に着て、俺への常例銭(じょうれいせん・付け届け)を寄越さねえつもりだ?」

 宋江は平然と答えた。

「『人情は人の情け、人の情けは願ってこそ』と申すではありませんか。なぜ無理やり金を巻き上げようとなさるのです? 器の小さいお方だ」

 これを聞いて周りの者たちは冷や汗を流したが、節級は烈火のごとく激怒した。

「この賊配軍(ぞくはいぐん・流刑者)め、よくも抜け抜けと無礼な口を利きやがったな! 小さいだと? 俺を愚弄するか! おい、こいつを縛り上げて百叩きにしてやれ!」

 周りの囚人たちは以前より宋江と親しくしていたため、彼が打たれるのを見ていられず、蜘蛛の子を散らすように一斉に逃げ出し、その場には節級と宋江だけが残された。節級はいよいよ怒り狂い、自ら棒を掴んで襲いかかろうとした。

 宋江は静かに言った。

「節級、私を打つというのなら、私に何の罪があるのか教えていただきたい」

「お前のような流刑者は俺の手の中の荷物も同然、咳を一つしただけでも罪になるんだよ!」

「罪を探したところで、死刑になるほど重くはないでしょう」

「死刑にならなくとも、お前を殺すなどはえを叩き潰すようなものだ」

 これを聞いて、宋江は冷やかに笑った。

「常例銭を払わぬだけで死罪になるなら、梁山泊の呉学究ごがくきゅうと知己である私は、一体どうなるのですかな?」

 節級はその名を聞くや否や、慌てて棒を投げ捨てた。

「何だと? 今なんと申した?」

「軍師・呉学究と知り合いだと言ったのです。それが何か?」

 節級は色を失い、慌てふためいて宋江の手を取り、問いかけた。

「あなたは一体どなたなのですか? なぜその名をご存知で?」

「私は山東鄆城県うんじょうけんの宋江という者です」

 節級は大いに驚き、慌てて両手を合わせる拱手こうしゅの礼をとった。

「なんと、貴方様があの『及時雨』宋公明殿でしたか!」

「私の名など、取るに足りぬものです」

「兄貴、ここは話をする場所ではありません。まともな拝礼もできませんので、街へ出てゆっくり語り合いましょう」

「よろしい。節級、少し待っていてくれ。部屋に鍵をかけてくるゆえ」

 宋江は部屋に戻り、呉用からの手紙と銀両を取り出し、鍵をかけて牌頭に見張りを頼むと、節級と共に牢城営を出て江州の街へ向かった。通りに面した酒場の二階に席を取り、節級が尋ねた。

「兄貴はどこで呉学究とお会いになったのですか?」

 宋江は懐から手紙を取り出し、節級に渡した。節級は封を切り、読み終えると大切に袖にしまい、改めて立ち上がって宋江に平伏した。宋江も慌てて答礼を返した。

「先ほどの数々の無礼、どうかお許しください」

「いや、私も『宋』という名の囚人が来たと聞いてはおりましたが、いつもなら五両の銀が届くはずなのに十数日経っても音沙汰がなく、今日たまたま暇だったので催促に来たのです。まさか仁兄あなただとは夢にも思わず、あのような暴言を……どうかご容赦を!」

「差撥からも貴殿の名は聞いておりました。拝顔の栄に浴したいと願いながらも住まいを知らず、城へ入る機会もなかったので、貴殿が来られるのを待っていたのです。五両の銀を惜しんだわけではなく、貴殿が自ら来られるのを待ち、お会いしたかったがゆえのこと。今日の出会いで、平生の願いがようやく叶いました」

 さて、この節級とはいかなる人物か。これこそ呉学究が推薦した、江州両院押牢節級、戴院長たいいんちょうこと戴宗たいそうである。当時、宋の金陵きんりょう地方では節級を「家長」、湖南地方では「院長」と呼んでいた。

 この戴院長には驚くべき道術の心得があった。緊急の軍務で出張する際、二つの甲馬(こうま・神符)を両足に結んで神行法しんこうほうを使えば一日五百里、四つ結べば一日八百里を走ることができた。ゆえに人は彼を称して神行太保しんこうたいほと呼んだのである。

臨江仙りんこうせんの詩に曰く】

 顔は広く唇は四角く、神眼しんがん突き出る

 痩せて背高く清秀な人材なり

 黒絹の頭巾のほとりに翠花すいか開く

 黄旗こうきには令の字を書き、紅きくし宣牌せんぱいに映ず

 その健足は千里の馬を追わんと欲し

 羅衫らさんは常に塵埃をまとう

 神行太保の術、奇なるかな

 程途ていと八百里、あしたに去りて暮れに還り来る

 戴院長と宋公明は互いの心情を語り合い、大いに喜んだ。二人は個室に座り、酒保に酒肴を整えさせて飲み始めた。宋江は道中で出会った好漢たちのこと、戴宗は呉用との交わりについて、尽きることなく語り合った。

 二人が心を通わせ、二、三杯飲んだ頃、階下が何やら騒がしくなった。店員が慌てた様子で飛び込んでくる。

「院長、あの方を止められるのは貴方様しかおりません。どうか仲裁をお願いします」

「一体誰が騒いでいるのだ?」

「いつもの『鉄牛てつぎゅう』李大哥(りだいけい・李の兄貴)が、下で主人に金を貸せと絡んでおるのです」

「またあいつか。誰かと思えば。兄貴、少々お待ちを。あいつをここへ連れてまいります」

 戴宗が下りていき、ほどなくして一人の黒く凛々しい大男を連れて戻ってきた。宋江は驚いて尋ねた。

「院長、この大哥あにきはいかなる者で?」

「これは私の手下の小牢子(しょうろうし・下級看守)で、姓は、名は沂州ぎしゅう沂水県ぎすいけん百丈村の出身です。あだ名を『黒旋風こくせんぷう李逵りきといい、故郷では『李鉄牛りてつぎゅう』と呼ばれていました。人を殺して逃亡し、恩赦に会いましたが故郷へ帰らず、ここ江州に留まっております。酒癖が悪く、皆に恐れられていますが、二本の板斧(ばんぷ・手斧)を使い、拳法にも長けた男です」

【詩に曰く】

 家は住む 沂州ぎしゅう翠嶺すいれいの東

 殺人放火 ほしいまま行凶こうきょう

 煤墨ばいぼくを塗らずして渾身黒く

 朱砂しゅしゃくるに似て両眼紅あか

 ひまには渓辺に向かいて巨斧を磨き

 もだゆるや岩畔に来たりて喬松きょうしょう

 力は牛の如く猛く 堅きこと鉄の如し

 天をうごかし地を揺るがす黒旋風

 李逵は宋江を見ると、戴宗に向かって尋ねた。

「兄貴、この黒いおとこは誰だ?」

 戴宗は笑って宋江に言った。

「押司、こいつはこんな粗忽者で、礼儀というものを知らんのです」

 そして李逵に向き直り、言い聞かせた。

「弟よ、『どうして粗忽なんだ』と聞きたいのだろうが、まずは『このお方はどなたですか』と聞くのが筋だ。『この黒い漢は誰だ』などと、それが粗忽でなくてなんだ? 教えてやるが、この仁兄こそ、お前が常々『会いに行きたい』と言っていた義士の兄貴分だぞ」

「もしかして、山東の『及時雨』くろ宋江か?」

「こら! 呼び捨てにするとは無礼な。早く拝礼せんか!」

「へっ、本当に宋公明なら拝むが、ただの暇人なら拝む値打ちはねえ。騙して拝ませて笑い者にする気じゃねえだろうな?」

 宋江は穏やかに言った。

「私こそ、山東の黒宋江だ」

 それを聞くや、李逵は手を叩いて叫んだ。

「おやじさん! なんで早く言ってくれねえんだ、鉄牛を喜ばせてくれりゃいいのに!」

 李逵は地面に身を投げ打つようにして拝礼した。宋江も慌てて答礼し、「壮士つわもの、座ってくれ」と勧めた。戴宗が「私の隣に座れ」と言うと、李逵は「小さい杯はかったるい。大碗を持ってこい」と声を張り上げた。

 宋江が尋ねた。

「さっき階下で何を怒っていたのだ?」

「俺は銀の大錠を一つきれいさっぱり使っちまってな。主人に十両借りて質入れした大錠を受け出し、返した残りを小遣いにしようと思ったんだが、このくそ主人が貸さねえって言うから、店をぶっ壊してやろうとしてたんだ。そしたら兄貴に呼ばれたってわけさ」

「十両あればいいのか? 利息は?」

「利息はもう払ってある。要るのは元金だけだ」

 宋江は懐から十両の銀を取り出し、李逵に渡した。

「大哥、これで受け出してきなさい」

 戴宗が止めようとした時には、もう手遅れだった。李逵は小躍りして喜んだ。

「こいつはいいや! 二人の兄貴、ここで待っててくれ。受け出して返したら、宋の兄貴と城外で酒を飲もうぜ」

「少し飲んでから行けよ」

「すぐ戻る!」

 李逵はカーテンを力任せに押し開けて飛び出していった。戴宗は溜息をついて言った。

「兄貴、金を貸すべきではありませんでした。止めようと思ったのですが……」

「なぜだ?」

「あいつは根は正直ですが、酒と博打に目がないのです。銀の大錠など持っているはずがない。兄貴の金を騙し取ったのです。慌てて出て行ったのは、賭場へ行くためでしょう。勝てば返せますが、負ければ返すあてもなく、私の顔も立ちません」

「院長、何を水臭いことを。あの程度の金など気にするな。負けさせてやればいい。私は彼を忠直ちゅうちょくな漢だと見込みましたよ」

「腕はありますが、粗暴で困ります。酔うと罪人ではなく看守を殴るのです。私も何度迷惑をかけられたか。ただ、不義を見れば我慢できず、強い奴を殴るので、江州では皆彼を恐れています」

【詩に曰く】

 賄賂 公行こうこうして法 げて施され

 罪人 多く受く 不平の

 強を以て弱を凌ぐ 真に恨むに堪えたり

 天使てんし 拳頭けんとうを李逵に付す

「もう少し飲んでから、城外へ遊びに行こう」と宋江が提案すると、戴宗もそれに賛同した。

 一方、李逵は銀を握りしめて考えた。

「宋江の兄貴はすげえな。会ったばかりで十両も貸してくれるとは、さすが噂に聞く『仗義疏財じょうぎそざい』だ。ここ数日負け続きで一文無しだったが、この十両で勝負して、勝ったら兄貴に御馳走してやるか!」

 彼は城外の「小張乙しょうちょうおつ」の賭場へ走り込み、十両を卓に投げ出した。

頭銭とうせん・サイコロをよこせ!」

 小張乙は李逵が普段は正直な賭け方をすることを知っていたので、「大哥、一休みしなよ」とたしなめたが、李逵は聞く耳を持たない。

「五両賭ける!」

 他人の番を横取りしてサイコロを振ると、「喝!」と叫んだが、出た目はアウトであった。小張乙が銀を取ると、李逵は「俺の銀は十両だ」と言い張り、残りの五両で再戦を挑んだが、またしても叉が出た。

「俺の銀じゃねえんだ、返せ!」

「負けたのに何を言う!」

「明日返すから貸しとけ!」

「賭場に親なしだ。負けは負けだろ!」

 李逵はシャツを捲り上げ、「返すのか返さねえのか!」と凄んだ。

「いつもは真っ当なのに、今日はどうしたんだ」

 李逵は答えず、卓の上の銀を鷲掴みにし、他人の賭け金まで巻き込んでシャツに包み込んだ。

「いつもは真っ当だが、今日は無しだ!」

 小張乙たちが奪い返そうとすると、李逵は指一本で突き飛ばし、十二、三人まとめて殴り倒した。門番も蹴り飛ばし、壁をぶち破って逃走した。皆は「ひどいぞ李大哥!」と叫ぶだけで、追いかける勇気はなかった。

【詩に曰く】

 世人 無事なるもとばりなぶらず

 直道ちょくどう 只だ用う 賭の上

 李逵 直ならざるも亦た妨げず

 又た賭賊の為に榜様(ぼうよう・手本)を

 李逵が逃げていると、背後からがっしりと肩を掴まれた。

「人の金を奪って逃げるとは何事だ!」

「うるせえ!」と振り返ると、そこには戴宗と宋江が立っていた。李逵は途端に萎縮して言った。

「兄貴、悪かった。いつもは真っ当なんだが、兄貴の銀をすっちまって、もてなす金もなくて、つい……」

 宋江は大笑いした。

「金が必要なら私に言えばいい。負けたのなら返してやれ」

 李逵はしぶしぶ銀を取り出し、宋江は追ってきた小張乙に全額を返した。小張乙は自分の分だけ受け取ろうとしたが、宋江は「怪我の治療費だと思って取っておけ」と十両すべてを与えた。小張乙は深く感謝して去っていった。

 三人は琵琶亭びわていへ向かった。唐の詩人・白楽天ゆかりの古跡で、今は酒場になっている。潯陽江じんようこうを臨む絶景の席に座り、宋江を上座に、戴宗と李逵が同席した。

 最高級の酒「玉壺春ぎょくこしゅん」を開け、景色を眺める。

【景色を讃えて曰く】

 雲外の遥山ようざんみどりそばやかし、江辺の遠水は銀をひるがえ

 隠々たる沙汀さてい、飛び起つ幾行いくこう鴎鷺おうろ

 悠々たる浦口ほこうささえ回る数隻の漁舟

 翻々たる雪浪は長空をち、拂々(ふつふつ)たる涼風は水面を吹く

 紫霄峰ししょうほうの上に穹蒼きゅうそうを接し、琵琶亭は半ば江岸に臨む

 四囲は空闊くうかつ、八面は玲瓏れいろう

 欄干の影は玻璃はりに浸し、窓外の光は玉璧ぎょくへきに浮く

 昔日 楽天 声価せいか重く、当年 司馬 涙痕るいこん多し

 李逵は「大碗で飲ませろ」と騒ぎ、戴宗に叱られたが、宋江は笑顔で大碗を用意させた。李逵は「さすが宋の兄貴だ!」と喜んだ。

 宋江は鮮魚の辛いスープ(辣魚湯)が飲みたくなり、戴宗に尋ねた。

「ここは魚米の郷、新鮮な魚はあるかな?」

 戴宗は酒保に頼んだが、出てきたのは塩漬けの魚だった。

「美食は美器に如かずと言うが、器は立派だが魚はダメだな」と宋江は嘆いた。

 李逵は手掴みで魚を骨ごとバリバリと食べ、宋江と戴宗の分まで平らげて汁を撒き散らした。

 宋江は「大哥は腹が減っているようだ」と肉を二斤注文してやった。酒保が「羊肉ならありますが」と言うと、李逵は残った魚の汁を酒保にぶっかけた。

「牛肉しか食わねえ俺を馬鹿にしやがって!」

 宋江がなだめて羊肉を食べさせると、李逵はあっという間に平らげた。「壮哉そうなるかな!」と宋江は感嘆した。

 戴宗が酒保に「活きのいい魚はないのか」と聞くと、「活魚は船にあるが、仲買人が来ないので売れない」と言う。

 それを聞くや、李逵は「俺が捕ってきてやる!」と飛び出した。戴宗が止めるのも聞かず、行ってしまった。戴宗は「あんな野暮天を連れてきて申し訳ない」と詫びたが、宋江は「あのような裏表のない男は嫌いではない」と笑った。

【詩に曰く】

 湓江ぼんこう煙景えんけい 塵寰じんかんを出で

 江上の峰巒ほうらん 髻鬟けいかんを擁す

 明月 琵琶 人見えず

 黄芦こうろ 苦竹くちく 暮潮ぼちょう還る

 李逵が江辺へ行くと、漁船が並んでいた。漁師たちは仲買人を待って休んでいる。

「魚を二匹よこせ!」と李逵が叫ぶと、「まだ商売できねえ」と断られた。李逵は船に飛び乗り、生簀いけすの竹柵を引き抜いた。

 ところが、ここの船は船底の穴から水を引き入れ、竹柵で魚を囲っている仕組みだったため、柵を抜いた瞬間に魚は全て逃げてしまった。

 李逵は別の船でも同じことをし、七、八十人の漁師が竹竿を持って襲いかかってきた。李逵は上半身裸になり、竹竿を奪ってへし折り、漁師たちを追い散らした。行商人たちも殴って蹴散らした。

 そこへ一人の男が現れた。

「誰だ、俺のシマを荒らすのは!」

 その男は身長六尺五、六寸、三十二、三歳ばかり。黒髭を蓄え、青い頭巾に白い着物を着ている。

「誰を殴ろうが勝手だ!」と李逵が竹竿で打ちかかると、男はそれを受け止め、李逵の髪を掴んで足払いしようとした。しかし李逵は岩のように動かず、逆に男を押さえ込んで鉄槌のような拳を背中に叩き込んだ。

 そこへ宋江と戴宗が駆けつけ、李逵を止めた。男はその隙に逃げ出した。

 戴宗が李逵を叱っていると、先ほどの男が船に乗って戻ってきた。今度は素っ裸で、雪のように白い肌を晒している。

「黒い殺才め、ここで勝負だ! 逃げたら男じゃねえぞ!」

 李逵は激怒し、船に飛び乗った。男は李逵を誘い込むと、船を揺らして転覆させた。二人ともドブンと川へ落ちた。

 李逵は水泳が得意ではなかった。男は水中で李逵を翻弄し、沈めては引き上げ、引き上げては沈めた。李逵は黒い肉体、男は白い肌。二人が絡み合う様は、見物人たちに喝采を浴びせた。

【詩に曰く】

 一つは沂水県の精と成れる異物、一つは小孤山しょうこざんの怪をす妖魔

 れは酥団そだん結就けっしゅうせる肌膚きふ

 れは炭屑たんせつ湊成そうせいせる皮肉

 ……(中略)……

 正に是れ 玉龍 くらかきまわす天辺の日、黒鬼 かかげ開く水底の天

 李逵はたっぷりと水を飲まされ、白目を剥き始めた。

【詩に曰く】

 舟 陸地を行けば力 すも

 拳 江心こうしんに到れば施す無し

 真に是れ 黒風こくふう 白浪を吹き

 鉄牛児てつぎゅうじ 水牛児と

 宋江は戴宗に助けを求めた。戴宗はあの男が「浪裏白条ろうりはくじょう」こと張順ちょうじゅんだと気づいた。宋江は「彼への兄の手紙を持っている」と言った。

 戴宗が岸から叫んだ。

張二哥ちょうじけい、やめろ! 兄の張横ちょうおうの手紙があるぞ! その黒いのは俺たちの弟分だ!」

 張順は戴宗を知っていたので、李逵を放して岸へ上がった。戴宗に挨拶し、再び潜って李逵を助け上げた。李逵は水を吐いてぐったりしていた。

 四人は琵琶亭に戻り、着替えて飲み直した。

 戴宗が紹介すると、李逵は「しこたま水を飲ませやがって」と文句を言ったが、張順は「あんたも俺を殴っただろう」と笑い、二人は和解して義兄弟となった。これぞまさに「殴らなければ知り合えなかった(不打不成相識)」というやつである。

 宋江が張横の手紙のことを話し、張順の正体を知ると、張順は平伏した。

「久しくお噂はかねがね。今日お会いできて光栄です」

 宋江が魚を食べたがっていたことを知ると、張順は李逵を連れて再び川へ行き、今度は極上の金色鯉を四匹捕まえて戻ってきた。

 酒宴が盛り上がり、宋江が満足していると、一人の若い歌女かじょがやってきて歌い始めた。李逵は自分の武勇伝を語ろうとしていたところを邪魔され、イラついて指で娘の額をつついた。

 すると娘は悲鳴を上げて倒れ、顔色は土のように青ざめ、口も利けなくなってしまった。

 店主が慌てて止めに入り、訴えてやると騒ぎ出した。

【詩に曰く】

 香を憐れみ玉を惜しむ情緒無く

 鶴を煮て琴を焚く(無粋なこと)は是非トラブルを惹く

 果たして宋江ら四人は、この酒場での騒動をどう切り抜けるのか。

【Vol.038:【悲報】脳筋の黒い人、調子に乗って水属性のラスボスに挑んで詰むwww(あと宋江アニキ課金しすぎ)】


1. 牢屋のボスとまさかの感動の対面

場面: 牢城営ムショ

展開: 看守長の戴宗たいそう が「新入りの宋江、挨拶ワイロねーぞ!」ってブチ切れ。

宋江: 「ワイロ? 払わんけど? てか梁山泊の呉用マブダチだけど?」と煽る。

戴宗: 「ファッ!? 呉用先生のお知り合い!? もしかして及時雨(神)ですか!?」→ 手のひらクルーで土下座。即、義兄弟へ。推しに会えて限界化する戴宗。


2. 狂犬・李逵りき登場! 民度低すぎて草

場面: 飲み会。

新キャラ: 戴宗の部下、李逵(通称:鉄牛)。色黒で筋肉ダルマ。酒癖×、暴力◎のヤベーストリーマーみたいな奴。

反応: 宋江に会うなり「お前が宋江か? 本物なら拝むけど、偽物なら殴るわ」→ 本物と知って「アニキ一生ついてく!」と即落ち。

課金: 宋江、李逵に「借金返してこい」と10両(数十万円相当)をポイ投げ。李逵「神かよ」と感動して賭場へダッシュ。


3. 賭博で沼って暴走 → アニキの神対応

場面: 賭場。

展開: 李逵、借りた金でギャンブル。「勝ったらアニキに奢るぜ!」→ 即負け(運なさすぎ)。

暴挙: 「今のナシ! 俺の金返せ!」と卓の金を強奪して店員全員ボコる(理不尽)。

解決: 宋江たちが追いつく。「負けたなら返せばいいじゃん」と宋江が店側に全額補填+治療費。宋江の財布の紐ガバガバすぎて好き。


4. 魚食べたすぎて漁師と全面戦争

場面: 景色のいい「琵琶亭」で飲み直し。

事件: 宋江「新鮮な魚スープ飲みてぇな」。店「ないです」。李逵「俺が獲ってくるわ!」。

やらかし: 漁船の生簀いけすの柵を引っこ抜く → 構造を知らず魚が全部逃げる(天然)。

バトル: 漁師軍団ブチ切れ → 李逵、上半身裸で無双。竹竿へし折って暴れまわる。


5. 陸の最強 VS 水の最強(ここがクライマックス!)

陸戦: 張順ちょうじゅん が登場。「シマ荒らすな!」と挑むも、陸上では李逵のワンパンで沈む。

水戦: 張順「水の中で決着つけようぜ」。李逵、挑発に乗って船へ → 船ひっくり返される。

結末: 李逵(カナヅチではないが水泳雑魚)VS 張順(水泳ガチ勢)。張順、李逵を沈めては引き上げ、沈めては引き上げのおもちゃ状態。黒い炭団(李逵)が白い雪見だいふく(張順)にボコられる図に観客大ウケ。


6. 和解からの指一本でヒロイン気絶

オチ: 戴宗が「そいつ俺らの弟分!」と止める。張順も宋江リスペクト勢だったことが判明し、和解。

宴会再開: 張順が獲った激ウマの魚で優勝。そこに歌い手の女の子が登場。

悲劇: 李逵「歌うるせーよ」と指でデコピン → 女の子、白目剥いて気絶(攻撃力バグってる)。店主「訴えてやる!」で次回へ続く。


宋江の金払いと人たらしスキルがカンストしてる回。李逵は「純粋な悪ガキ」すぎてトラブルメーカーだけど、そこが可愛い(?)。そして張順の水上戦のかっこよさが異常。

「陸なら李逵、水なら張順」というパワーバランスが確立された神回です。


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主要人物図鑑(登場順)


江州編こうしゅうへん、マジで梁山泊の人材リクルート祭り(フェス)すぎて激アツですよね!

ここで加入する三人は、後に梁山泊の中でも「幹部クラス(天罡星)」に君臨する超重要キャラたち。


055:人間新幹線・戴宗たいそう★梁山泊一〇八将★

(序列20位/天速星)

あだ名: 神行太保しんこうたいほ

現代で言うと: 「超高速Wi-Fiルーター」兼「ブラック企業の敏腕人事部長」

属性: 俊足、道術、苦労人、ツッコミ役

【どんな奴? 〜今回の活躍〜】

江州の牢屋のボス(看守長)。最初は宋江に「付け届け(金)ねーぞコラ!」とオラついてたのに、相手が憧れの「宋江」だと分かった瞬間、秒でファン化。「アニキ!一生ついていきます!」と態度急変。

この人のヤバさは、足に「甲馬」っていう課金アイテム(お札)を貼ると、一日800里(約400km)走れるというチート能力。東京~大阪間を自分の足だけで日帰り出張できるレベル。

【その後の活躍とネタバレ】

戦闘力: 武力はそこまで高くない。基本は「伝令・諜報・スカウト」のスペシャリスト。RPGで言えば、攻撃力低いけど移動速度カンストしてるサポートキャラ。

梁山泊での役割: 総務探偵局長。戦況報告、ニセ手紙作戦、人探しなど、彼がいないと梁山泊の業務が回らない。

最期: 多くの好漢が悲惨な死に方をする中、彼は寿命を全うして神になるという勝ち組エンド。足が速すぎて死神も追いつけなかった説濃厚。


056:制御不能の殺戮マスコット・李逵りき★梁山泊一〇八将★

(序列22位/天殺星)

あだ名: 黒旋風こくせんぷう鉄牛てつぎゅう

現代で言うと: 「IQ3のバーサーカー」または「宋江ガチ勢のメンヘラ強火オタク」

属性: 脳筋、酒乱、ギャンブル中毒、二丁斧、宋江しか勝たん

【どんな奴? 〜今回の活躍〜】

登場していきなり「賭博でスる → 店で暴れる → 宋江に借金肩代わりしてもらう(スパチャ)」という、ダメ人間のフルコースを披露。

でも、「嘘がつけない」「裏表がない」というピュアな一面が宋江に気に入られる。

今回のハイライトは、「魚食いてぇ」→「生簀の柵抜く」→「魚全部逃げる」というピタゴラスイッチ的やらかし。知能指数が魚より低いかもしれない。

【その後の活躍とネタバレ】

戦闘力: 対雑魚戦最強。戦場では二本の斧を振り回して、敵味方関係なくミンチにする「歩く災害」。ただし、テクニック系の武人(燕青とか)には手玉に取られることも。

名場面: 母親を背負って山越え中に虎に母を食われ、ブチ切れて虎を4匹惨殺するエピソードは伝説。マザコン属性あり。

最期: ここが一番のエモ(そして地獄)ポイント。物語のラスト、宋江が朝廷に毒を盛られて死ぬ時、「俺が死んだら李逵が謀反を起こすだろう」と危惧され、道連れに毒酒を飲まされる。

李逵はそれを知っても「死んでもアニキの部下だ」と言って死を受け入れる。究極の忠誠心というか、愛が重すぎて泣ける。


057:水上の絶対王者・張順ちょうじゅん★梁山泊一〇八将★

(序列32位/天損星)

あだ名: 浪裏白条ろうりはくじょう

現代で言うと: 「水泳ガチ勢のイケメン」兼「水属性SSRキャラ」

属性: 色白、細マッチョ、水中戦無敵、義理堅い

【どんな奴? 〜今回の活躍〜】

魚市場の元締め。陸上では李逵にボコられたけど、「水の中なら負けねぇ」と李逵を川に引きずり込み、完全に水没させてわからせた男。

「黒い炭(李逵)」と「白い雪(張順)」のコントラストは、まさにオセロ。

宋江アニキへのリスペクトも高く、李逵との喧嘩もあっさり水に流して(水だけに)義兄弟になるスマートな陽キャ。

【その後の活躍とネタバレ】

戦闘力: 水中なら世界最強。梁山泊の水軍頭領として、敵の船底に穴を開けたり、水中に引きずり込んで始末したりと、特殊部隊(SEALs)みたいな活躍をする。後に、宿敵である高太尉(高俅)を水中で生け捕りにするという大金星を挙げる。

最期: これが水滸伝屈指のトラウマ&名シーン。

杭州の湧金門ゆうきんもん攻略戦で、水路から潜入を試みるも敵にバレて、上から無数の矢を浴びてハリネズミになって壮絶な戦死を遂げる。

死後、その魂は龍王となり、兄貴分たちを霊体となって助けに来るという、死んでもカッコいい男。


今回のまとめ:奇跡のトリオ結成

この回は、現代の会社組織に例えるとこんな感じです。

CEO(宋江): カリスマ性と資金力(課金力)で人を惹きつける。

人事部長(戴宗): 超速で情報を繋ぎ、CEOと現場を仲介する。

鉄砲玉(李逵): コンプラ無視で暴れるが、CEOのためなら死ねる。

技術職トップ(張順): 特定のフィールド(水)で誰も勝てない専門スキルを持つ。

宋江という「ハブ」を中心にして、本来なら交わらないはずの「役人・犯罪者・漁師」が兄弟の契りを交わす。

まさに「アベンジャーズ・アッセンブル」な瞬間であり、ここから梁山泊の快進撃とカオスが加速していく神回です!

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