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私説 水滸伝一〇八編の鎮魂曲  作者: 光闇居士


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〇参七:没遮攔(ぼつしゃらん)及時雨を追いかけ、船火児(せんかじ)潯陽江(じんようこう)に大いに鬧(さわ)ぐ

挿絵(By みてみん)

やばい、マジ無理ゲー! 追手の地元ヤンにビビって夜逃げした宋江そうこうたち、たまたま乗った船の船頭がまさかの強盗?!

船頭「おいお前ら、板刀麺ばんとうめんにして食われるか、それとも丸ごとのワンタンにされるか、どっちがいいんだ?(金品出せ)」

ってヤクザ口調で脅してくるし、しかも後ろからは追手たちが松明たいまつ持って「そこの囚人連中!出てこーい!」って鬼の形相で追いかけてくるし、もうどこにも逃げ場ないじゃん!

宋江「マジで詰んだ…もう終わりだ…」って震えてたら、そこに救世主キターー!

上流から爆速で近づいてくる別の船が・・・


【しおの】

 話は戻りまして、宋江そうこうがうかつにも五両の銀子を取り出し、あの棒術使いの教頭への褒美として与えた時のことでございます。掲陽鎮けいようちんの人垣を押し分けて一人の大男が現れ、眼を怒らせてこう喝破いたしました。

「こいつめ! どこで仕入れたインチキ棒術か知らぬが、俺の掲陽鎮に来て強さをひけらかすとはな。俺は皆に『こいつに銭をやるな』と命じておいたのだ。それを貴様、他所者の分際で金があるのを鼻にかけ、銀子を恵んでやりやがったな。俺たち掲陽鎮の顔に泥を塗る気か!」

 宋江は答えました。

「私が自分の銀子を彼にやったのだ。お前さんにとやかく言われる筋合いはない」

 大男は宋江を掴んで怒鳴りつけます。

「この泥棒の配流人風情が、俺に口答えする気か!」

「口答えして何が悪い?」

 大男は両の拳を振り上げ、いきなり宋江の顔面めがけて殴りかかってきました。宋江は身をかわして避けます。大男がさらにもう一歩踏み込んでくると、宋江も応戦しようと身構えました。

 その時でございます。例の棒術使いの教頭が背後から駆け寄り、片手で大男の頭巾を掴み、もう一方の手でその腰を抱え込んだかと思うと、あばら骨あたりをぐいと持ち上げ、たたらを踏ませて地面に見事に転がしました。大男が起き上がろうとあがくところを、教頭はさらに一足、蹴りを入れてひっくり返しました。

 二人の護送役人が慌てて教頭を止めに入りました。大男は地面から這い起きると、宋江と教頭を睨みつけ、

「覚えてやがれ。お前ら二人、ただで済むと思うなよ!」

 と捨て台詞を吐き、南の方角へ一直線に走り去っていきました。

 宋江は教頭に尋ねました。

「教頭、尊姓(お名前)は? どちらの出身ですか?」

 教頭は答えました。

「手前は河南洛陽の者で、姓はせつ、名はえいと申します。祖父は老種経略相公ろうしゅけいりゃくしょうこうの帳前軍官を務めておりましたが、同僚の恨みを買って昇進できませんでした。以来、子孫は棒術を見せて薬を売り、生計を立てております。江湖(世間)では手前のことを『病大虫びょうだいちゅう』薛永と呼びます。失礼ながら、恩人のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

 宋江は言いました。

「小生は姓を宋、名を江といい、鄆城県うんじょうけんの者だ」

「もしや、山東の『及時雨きゅうじう宋公明そうこうめい殿ではございませぬか?」

「いかにも、私がそうだ」

 薛永はこれを聞くや、すぐに拝礼しようとしましたが、宋江は慌ててそれを扶け起こし、

「少し杯を交わして話そうではないか」

 と言いました。薛永は、

「願ってもないことです! かねてより尊顔を拝したいと思っておりましたが、お目にかかる手立てがありませんでした」

 と大いに喜び、急いで槍棒と薬袋を片付けると、宋江と共に近くの酒場へと入っていきました。

 ところが、店の主人がこう言いました。

「酒も肉もありますが、お前さんたちに売るわけにはいかねえんだ」

 宋江が尋ねます。

「なぜ我々に売れぬのだ?」

 主人は言いました。

「さっきお前さんたちと喧嘩をしたあの大男が、人を寄越して言いつけたのさ。『もしあいつらに酒食を出したら、店を粉々に打ち壊してやる』とな。俺たちにとっちゃ、あいつに逆らうなんて恐ろしくてできねえ。あの男はこの掲陽鎮の一番の暴れん坊だ。誰も逆らえやしねえよ」

 宋江は言いました。

「そういうことなら、ここを出よう。あの男が必ず因縁をつけに戻ってくるはずだ」

 薛永は言いました。

「手前も宿に戻って勘定を済ませてまいります。一両日のうちに、江州こうしゅうにてお会いしましょう。兄貴は先に行ってください」

 宋江はまた二十両ほどの銀子を取り出して薛永に渡し、別れを告げて立ち去りました。

 宋江は仕方なく、二人の護送役人を連れてその店を離れ、別の店で酒を求めました。しかし、そこの店主も言いました。

「『小郎(若旦那)』から厳しいお達しがあったんでね。どうしてお前さんたちに売れようか。歩き回っても無駄骨だ、どこも出しはしねえよ」

 宋江と二人の役人は言葉を失いました。続けて数軒回ってみましたが、どこも判で押したように同じ返答なのです。三人は町の外れまで来て、何軒かの煮炊きをする商人宿を見つけ、泊めてもらおうとしましたが、そこでも拒絶されました。宋江が理由を尋ねると、やはり「あの小郎が触れ回って、お前さんたち三人を泊めるなと厳命していった」と言います。

 ここに至って、宋江は事態の悪化を悟りました。三人は足を速め、街道を急ぎました。見れば一輪の紅日は低く沈み、空は暗くなろうとしています。

【詩に曰く】

 暮煙ぼえんは遠きみねを迷わせ、寒霧かんむは長空をとざす。

 群星は皓月こうげつかこみて輝きを争い、緑水は青山と共にみどりを競う。

 疎林そりんの古寺、数声の鐘のひびき悠揚ゆうようたり。

 小浦しょうほ漁舟ぎょしゅう、幾点の残灯ざんとう明滅す。

 枝上の子規ほととぎす夜月やげつに啼き、園中の粉蝶ふんちょう花叢かそうに宿る。

 宋江と二人の役人は、日が暮れていくのを見て心細さを募らせました。三人は相談しました。

「つまらぬ棒術見物をしたばかりに、とんでもない奴を怒らせてしまった! 今や前の村には届かず、後ろの店にも戻れぬ。一体どこに泊まればよいのだ」

 ふと見ると、遥か小道の先、林の奥深くから灯火が漏れているのが見えました。宋江はそれを見て言いました。

「あそこの明かりは、きっと民家だ。なんとか下手に出て頼み込み、一夜の宿を借りよう。明朝早くに出発すればよい」

 役人が見て言いました。

「だが、あの灯火は街道沿いではありませんぜ」

「仕方あるまい。街道から外れるといっても、明日二、三里多く歩けば済むことだ。大したことではない」

 三人は街道を外れて小道に入り、二里(約一キロメートル)ほど進むと、林の背後から大きな荘園(屋敷)が現れました。

 宋江と二人の役人は屋敷の門前に来て扉を叩きました。使用人が出てきて門を開け、言いました。

「お前たちは何者だ? 黄昏の夜分に門を叩くとは!」

 宋江は腰を低くして答えました。

「小人は罪を得て江州へ送られる者です。今日、宿場を行き過ぎてしまい、休む場所がございません。貴荘にて一夜の宿をお借りし、明朝規定の宿代を納めさせていただきたく存じます」

 使用人は言いました。

「そういうことなら、ここで少し待っていてくれ。中に入って主人の太公たいこうに知らせ、泊めてもよいか聞いてこよう」

 使用人が中へ入って報告し、やがて戻ってきて言いました。

「太公がお呼びだ」

 宋江と二人の役人は奥の草堂へ通され、主人の太公に拝謁しました。太公は使用人に命じ、門番小屋で休ませ、晩飯を出してやるようにと言いつけました。使用人は承知して、三人を入門脇の草葺きの部屋へ案内し、灯りをつけ、休む場所を整えました。そして三人分の飯、吸い物、野菜を持ってきて食べさせました。使用人は食器を下げると、奥へ入っていきました。

 二人の役人が言いました。

「押司(宋江のこと)、ここは他人もいないことだし、かせを外してしまいましょう。一晩ぐっすり寝て、明日の朝早く出ればいい」

 宋江も同意しました。

「もっともだ」

 そこで枷を外し、二人の役人と共に用を足しに部屋の外へ出ました。見上げれば満天の星空です。打麦場(脱穀場)の端、屋敷の裏手に、村の寂しい小道が続いているのを、宋江は見て取りました。三人は用を済ませて部屋に戻り、戸を閉めて寝床につきました。宋江は役人たちに言いました。

「この主人の太公も、よくぞ我らを泊めてくれたものだ」

 そう話していると、屋敷の中で誰かが松明を灯し、打麦場に出てきてあちこちを照らして回っている音がしました。宋江が門の隙間から覗くと、太公が三人の使用人を引き連れ、火を持って見回りをしているところでした。宋江は役人に言いました。

「この太公は私の父上と同じだ。何事も自分で点検せねば気が済まぬ性分らしい。こんな夜分まで寝もせずに、自ら火の番をしておられる」

 そう話している最中に、外から門を開けろと叫ぶ声がしました。使用人が慌てて門を開けると、五、七人の男たちが入ってきました。先頭の男は朴刀ぼくとうを持ち、後ろの者たちは稲叉いねまたや棍棒を持っています。

 松明の明かりの下、宋江がよく見ると、

「あの朴刀を持っているのは、まさしく掲陽鎮で我々を殴ろうとしたあの男だ!」

 さらに太公が尋ねる声が聞こえました。

小郎せがれよ、どこへ行っておった? 誰と喧嘩をしたのだ? こんな夜更けに槍や棒など持ち出して」

 大男は答えました。

「親父には分からねえよ。兄貴は家にいるか?」

 太公は言いました。

「お前の兄なら、酔っ払って裏の東屋あずまやで寝ているよ」

「俺が起こしてくる。兄貴と一緒にあいつらを追うんだ」

「誰と喧嘩をして、兄まで叩き起こして追おうというのだ。事情を話しなさい」

 大男は言いました。

「親父、聞いてくれ。今日、町で棒術を使って薬を売っている奴がいたんだが、けしからんことに、俺たち兄弟に挨拶もなしに商売を始めやがった。だから俺は町中の者に『一文たりとも恵んでやるな』と触れを出しておいたんだ。ところが、どこから来たか知らねえ囚人が、いい格好しやがって五両もの銀子を恵み、俺たち掲陽鎮の顔を潰しやがった。俺がそいつを殴ろうとしたら、あの薬売りめ、俺を投げ飛ばして殴った挙句、蹴りまで入れやがった。今でも腰が痛えよ。

 俺はすぐに人をやって、方々の酒場や宿屋に『あの三人組に酒食や宿を提供するな』と言いつけておいた。今夜は野宿させてやるつもりだったんだ。その後、賭場の連中を集めて宿屋へ踏み込み、あの薬売りをとっ捕まえて、思う存分叩きのめしてやった。今は都頭(警備隊長)の家に吊るしてある。明日、川辺へ連れてって簀巻きにして川へ放り込み、鬱憤を晴らしてやるつもりだ。

 だが、あの二人の役人と囚人だけが見つからねえ。この先には宿屋もないし、一体どこへ消えやがったんだか。これから兄貴を叩き起こして、手分けして追いかけ、あいつらを捕まえてやるんだ」

 太公は言いました。

「馬鹿なことを言うもんじゃない。その男が自分の銀子を薬売りにやったからといって、お前に何の関係がある。なぜ殴りかかったりしたんだ? 逆に殴られたというが、大した怪我もないじゃないか。私の言うことを聞きなさい。兄を起こして知らせるんじゃない。お前が殴られたと聞けば、あの兄が黙っているはずがない。また人を殺すことになるぞ! 私の言う通りにして、もう部屋で寝なさい。夜中に他人の家の戸を叩いて回ったりして、村中に迷惑をかけるもんじゃない。少しは陰徳を積みなさい」

 男は太公の言葉に耳も貸さず、朴刀を持ったまま屋敷の奥へと入っていきました。太公もその後を追っていきました。

 これを聞いていた宋江は、役人たちに言いました。

「なんという不運だ。どうすればいい? まさか仇の家に泊まっていたとは。ここは逃げるしかあるまい。もしあの男に気付かれたら、必ず殺される。太公が黙っていても、使用人たちが隠し通せるはずがない」

 二人の役人も言いました。

「仰る通りです。ぐずぐずしてはいられない、早く逃げましょう」

 宋江は言いました。

「表の大路からは出られない。部屋の裏の壁を崩して外へ出よう」

 二人の役人は荷物を担ぎ、宋江は枷を提げ、部屋の裏壁を掘り崩して外へ出ました。三人は星月明かりを頼りに、林の奥深くの小道をひたすら走りました。

 まさに「慌ててみちえらばず」でございます。一更(約二時間)ほど走ったでしょうか。行く手を見れば、一面のあしの花が広がり、滔々と浪がうねる大河に行き当たりました。潯陽江じんようこうの岸辺に出たのです。

【詩に曰く】

 天羅地網てんらちもうき入り来たる、宋江の時蹇(じけん・不運)は実に哀しむに堪えたり。

 わずかに黒煞凶神こくさつきょうしんの難を離るるも、また喪門白虎そうもんびゃっこの災いに遇う。

 その時、背後から喊声(叫び声)が聞こえ、松明が乱れ動き、口笛を吹き鳴らして追ってくる気配がしました。宋江は「天よ、お救いください!」と叫ぶほかありません。三人は蘆の茂みに身を潜めましたが、振り返れば松明は近づいてきます。三人は心慌てふためき、足元もおぼつかぬまま蘆の中を突き進みましたが、前を見れば天の尽きぬ間に地の果てに行き着きました。目を凝らせば、大江が行く手を遮り、脇はまた広い入江となっています。

 宋江は天を仰いで嘆きました。

「こんな苦しみに遭うと知っておれば、いっそ梁山泊に留まればよかった。まさかここで命運尽きるとは!」

 宋江が絶体絶命の窮地に陥ったその時、蘆の茂みの中から、音もなく一艘の小舟が現れました。宋江はこれを見るや叫びました。

「船頭さん! 船を出して我ら三人を助けてくれ。銀子を弾むから!」

 船頭は船の上から尋ねました。

「お前たち三人は何者だ? なぜこんな所へ入り込んできた?」

「後ろから強盗が追ってきているのだ。無我夢中でここまで逃げてきた。早く船を出して渡してくれ。銀子はたっぷりやる」

 船頭は銀子を弾むと聞いて、船を岸に寄せました。三人は慌てて飛び乗りました。一人の役人が荷物を船底に投げ込み、もう一人が水火棍(すいかこん・棒)で岸を突いて船を出しました。船頭はに取り付きながら、荷物が船底に落ちた時の重そうな音を聞いて、内心ほくそ笑みました。櫓を一漕ぎすると、小舟はたちまち川の真ん中へと滑り出したのです。

 岸辺には追手が到着し、十数本の松明が輝いています。先頭の二人の大男は朴刀を構え、続く二十人余りも槍や棒を持って叫びました。

「おい船頭! 早く船を戻せ!」

 宋江と二人の役人は船底に身を伏せて頼みました。

「船頭さん、絶対に戻らないでくれ。礼の銀子はたっぷり払うから」

 船頭は頷きましたが、岸の人々には答えず、船を上流に向けてギイコギイコと漕ぎ進めました。岸の男たちは大声で怒鳴ります。

「おい船頭! 戻らねえと殺すぞ!」

 船頭は冷笑するだけで答えません。岸の連中はまた叫びました。

「どこの船頭だ? 肝っ玉の太い野郎だ! 戻せと言ってるんだ!」

 船頭は冷ややかに答えました。

「俺様はちょう船頭だ。ガタガタぬかすな!」

 岸の松明の中、背の高い男が言いました。

「なんだ、張の兄貴か。俺たち兄弟が見えねえのか?」

 船頭は答えました。

「目が見えねえわけじゃねえ、見えてらあ」

「見えてるなら、ちょっと戻って話を聞いてくれ」

「話なら明日聞くよ。客が急いでるんでね」

「俺たち兄弟は、その客の三人を捕まえたいんだよ」

「客の三人は俺の親戚でね、衣食の種(飯の種)なんだ。こいつらを家に連れて帰って、『板刀はんとう麺』をご馳走するのさ」

「頼むから戻ってくれ、相談があるんだ」

「俺の飯の種を、わざわざ戻してお前らにくれてやる馬鹿がいるかよ。お断りだね!」

「張の兄貴、そう言わずに。俺たちはその囚人を捕まえたいだけなんだ。戻ってくれよ」

 船頭は櫓を漕ぎながら言いました。

「ここ数日、まともなカモにありつけなくてね。戻るどころか、こいつらを横取りされちゃたまらねえ! 悪いが諦めてくれ。また会おうぜ」

 宋江は船頭の言葉に隠された符牒(隠語)の意味が分からず、船底でこっそり役人たちに言いました。

「あの船頭、我ら三人の命を救ってくれた。あんなに言い争ってまで守ってくれるとは。この恩徳を忘れてはならんぞ。この船が来てくれたのは、まさに天の助けだ」

 さて、船頭が船を漕ぎ出し、岸から遠ざかると、三人は船底から岸の方を眺めました。松明の光は蘆の茂みの中へと去っていきます。宋江は言いました。

「ああ、よかった! まさに『善人は相逢い、悪人は遠ざかる』だ。なんとか災難を逃れることができた」

 すると、船頭が櫓を漕ぎながら、湖州こしゅうの歌を口ずさみ始めました。

 俺様ゃ生まれも育ちも川のはた

 お上も怖けりゃ天も怖かねえ

 昨夜ゆうべは華光(かこう・火の神)が追いかけてきやがったが

 帰りしなに金磚きんせん一つ奪ってやったわ

 宋江と二人の役人はこの歌を聞いて、背筋が凍りつき、力が抜けてしまいました。宋江は「ただの戯れ歌だろう」と思おうとしました。三人がひそひそ話していると、船頭が櫓を置いて言いました。

「おい、そこのクソ野郎ども。役人なんざ平生から密貿易の商人をゆすって苦しめてやがるくせに、今日に限って俺様の手にかかるとはな! さて、お前ら三人は『板刀麺ばんとうめん』が食いたいか? それとも『ワンタン』が食いたいか?」

 宋江は言いました。

「親父さん、冗談はおやめくだされ。板刀麺とは何で、ワンタンとは何のことです?」

 船頭は目を剥いて言いました。

「俺様が冗談なんぞ言うか! 『板刀麺』が食いたきゃ、この床板の下に風を斬るような鋭い刀がある。三太刀も五太刀も要らねえ、一人一太刀で三人まとめて水の中へ叩き込んでやる。もし『ワンタン』が食いたきゃ、さっさと着物を脱いで、素っ裸になって自分から川へ飛び込むんだ」

 宋江はこれを聞き、二人の役人を引き寄せて言いました。

「ああ、なんということだ! まさに『福はならび至らず、わざわいひとり行かず』だ」

 船頭は怒鳴りました。

「三人でよく相談して、さっさと返事をしやがれ!」

 宋江は答えました。

「船頭さん、ご存じないでしょうが、我々はっぴきならない罪を犯して江州へ流される者です。どうか慈悲を持って我ら三人をお助けください!」

 船頭は一喝しました。

「寝言をほざくな! 助けるだと? 半人たりとも助けはしねえ。俺様は天下に名の聞こえた『狗臉(いぬづら・犬のような顔)』のちょう爺様だ。来る時に親父の顔も見分けず、去る時にお袋の顔も見分けねえ(親兄弟でも容赦しない)人間よ。つべこべ言わずに、さっさと水に入りやがれ!」

 宋江は必死に懇願しました。

「荷物の中の金銀、財物、衣服、すべて差し上げます。どうか命だけはお助けを!」

 船頭は床板の下からギラギラと光る板刀を取り出し、大喝しました。

「お前ら、どうするんだ!」

 宋江は天を仰いで嘆きました。

「私が天地を敬わず、父母に孝を尽くさず、罪を犯したばかりに、お前たち二人まで巻き添えにしてしまった」

 二人の役人も宋江にしがみつき、

「押司、もうこれまでだ! 我ら三人、一処で死にましょう」

 と言いました。船頭はまた怒鳴ります。

「さっさと着物を脱いで飛び込め! 自分で飛び込まねえなら、俺様が切り刻んで水に放り込むぞ!」

 宋江と二人の役人が抱き合い、まさに水へ飛び込もうとしたその時、川面からギイコギイコと櫓の音が響いてきました。宋江が頭を上げて見ると、一艘の速船はやぶねが飛ぶような勢いで上流から下ってきます。船には三人の男が乗っていました。一人の大男が手に行李叉またを持って船首に立ち、船尾では二人の若者が二本の快櫓かいろを操っています。星明かりの下、船は瞬く間に目の前へ迫りました。

 船首で叉を構えた大男が叫びました。

「前を行くのはどこの船頭だ? この水域で商売をするなら、積荷(獲物)は山分けだぞ!」

 こちらの船頭は振り返り、慌てて答えました。

「なんだ、の兄貴か。誰かと思ったぜ。兄貴も商売かい? 弟分に声をかけてくれてもいいのに」

 大男は言いました。

「張の兄弟、またここでお馴染みの手口か! 積荷は何だ? 実入りはありそうか?」

 船頭は答えました。

「聞いて笑ってくれよ。ここ数日あがりがなくて、博打にも負けて文無しになり、砂浜でふて腐れてたんだ。そしたら岸の連中が、三匹の獲物を俺の船に追い込んでくれたのさ。くだらねえ役人二人と、色の黒いチビの囚人が一人だ。どこの者か知らねえが、江州への配流人だと言ってる。だが首に枷もかけてねえ。岸まで追いかけてきた連中は、あの鎮のぼく家の兄弟でな、こいつらを引き渡せと言ってきたが、脂が乗ってそうだったんで断ってやったのさ」

 船上の大男が言いました。

「おや! もしかして、我が兄、宋公明殿ではないか?」

 宋江はその声に聞き覚えがあり、船底から叫びました。

「船上の好漢はどなたか? 宋江を助けてくれ!」

 大男は驚愕しました。

「まさか本当に兄貴か! 危ないところだった!」

 宋江が船から這い出して見ると、星明かりの下、船首に立つ大男は他でもない、

 家は潯陽江のうらに住み、最も豪傑英雄と称す。

 眉濃くまなこ大きく面皮つら赤し、髭須ひげは鉄線の如く垂れ、語話は銅鐘のごとし。

 凛々たる身躯しんくたけ八尺、利剣霜鋒そうほうふるい、波をき浪に躍って奇功を立つ。

 廬州ろしゅうに生るる李俊りしゅん綽号あだなは「混江龍こんこうりゅう」。

 船首に立つ大男は、まさに「混江龍こんこうりゅう李俊りしゅんであったのです。背後で櫓を漕ぐ二人は、「出洞蛟しゅつどうこう童威どういと、「翻江蜃ほんこうしん童猛どうもうでした。

 李俊は宋公明だと聞くや、船へと飛び移り、叫びました。

「兄貴、驚かせて申し訳ございません! 私が来るのが少しでも遅れていたら、兄貴の命を誤るところでした。今日は虫の知らせか、家で居ても立っても居られず、船を出して私塩(闇塩)を運ぼうとしたところ、まさか兄貴がここで難に遭っておられるとは!」

 船頭は半ば呆然として言葉も出ませんでしたが、ようやく尋ねました。

「李の兄貴、この黒い方が、あの山東の『及時雨』宋公明殿なのかい?」

 李俊は言いました。

「その通りだ!」

 船頭は平伏しました。

「ああ、旦那様! どうしてもっと早くお名前を仰ってくださらなかったのです。あやうく大それたことをしでかし、仁兄あなたさまを傷つけるところでした」

 宋江は李俊に尋ねました。

「この好漢は誰だ? 姓名は?」

 李俊は答えました。

「兄貴はご存知ないでしょうが、この好漢は私の義兄弟で、元は小孤山しょうこざんのふもとの者、姓はちょう、名はおう、あだ名を『船火児せんかじ』と申します。専らこの潯陽江で、こうした『穏やかならぬ』商売をしております」

 宋江と二人の役人は笑い出しました。

 二艘の船は並んで岸辺へと向かい、船を係留して、船倉から宋江と二人の役人を助け上げました。李俊は張横に言いました。

「兄弟、俺が常々話していた天下の義士、山東の『及時雨』鄆城の宋押司とは、このお方のことだ。よおくお見知りおきしろ」

 張横は火打石で火を点け、灯りで宋江を照らして見ると、地にひれ伏し、砂浜の上で拝礼しました。

「兄貴、どうかわしの罪をお許しくだされ!」

 宋江が張横を見ると、その姿は、

 七尺の身躯、三角眼さんかくまなこ黄髭きひげ赤髪紅睛こうせい、潯陽江上に声名せいめい有り。

 波を衝くこと水怪の如く、浪に躍ること飛鯨ひげいに似たり、

 悪水狂風もすべおそれず、蛟龍こうりゅう見るところ魂驚く。

 天 列宿れっしゅくを差して生霊を害す。

 小孤山の下に住む、船火せんかは張横。

 張横は拝礼を終えて尋ねました。

「義士の兄貴は、どのような事情でこちらへ流されて来られたのです?」

 李俊が宋江の罪状と、江州への配流の件を説明しました。張横は聞いて言いました。

「兄貴に申し上げておきますが、わしら兄弟は母を同じくする二人兄弟で、兄がこの私、弟が一人おりますが、こいつがまた大した奴でして。全身雪のように真っ白な肉体をしており、四、五十里の水面などものともせず、水底に七日七晩潜っていられ、水を行くこと白魚しらうおの如し、加えて武芸の腕も立ちます。ゆえに人はあやつを『浪裏白跳(ろうりはくちょう・波間の白魚)』張順ちょうじゅんと呼びます。

 当初、我ら兄弟は揚子江のほとりで、『まっとうな』商売をしておりました」

 宋江は言いました。

「聞かせてもらおう」

 張横は語りました。

「我ら兄弟は、博打に負けると、わしがまず一艘の船を出し、川岸の人気の無い場所で無許可の渡し船をやるのです。百銭の渡し賃を惜しんだり、急いだりする客がわしの船に乗り込みます。船が満員になると、弟の張順も一人旅の客に変装し、大きな荷物を背負って乗り込んでくるのです。

 わしは船を川の真ん中まで漕ぎ出すと、櫓を止め、錨を下ろし、板刀を突き立てて船賃を要求します。本来なら一人五百銭のところ、わしは三貫(三千銭)払えと言います。まず弟に請求すると、弟は払わないふりをする。そこでわしは弟の頭と腰を掴んで、ドボンと川へ放り込みます。それを見て客たちは震え上がり、言われるままに三貫払うというわけです。金を巻き上げたら、客を人気のない場所で降ろします。弟は水底を歩いて対岸へ渡り、客がいなくなってから合流して、また博打に行くのです。当時はそんな商売で食っておりました」

 宋江は笑って言いました。

「なるほど、よくもお前の闇船に客が来たものだ!」

 李俊たちも皆笑いました。張横はさらに言いました。

「今では兄弟二人とも稼業を変え、わしはこの潯陽江で私商(密貿易)などをやっております。弟の張順は、今は江州で魚の仲買人をしております。兄貴が江州へ行かれるなら、手紙を書いて託したいのですが、あいにく字が書けなくて」

 李俊が言いました。

「村へ行って、塾の先生にでも頼んで書いてもらおう」

 童威、童猛を船番に残し、三人は李俊に従い、張横が提灯を持って村へと向かいました。

 半里も行かぬうちに、岸にまだ松明の光が見えます。張横が言いました。

「あの兄弟はまだ帰っていないようですな」

 李俊が聞きました。

「誰の兄弟のことだ?」

「あの鎮のぼく家の兄弟ですよ」

「よし、ついでにあいつらにも兄貴に挨拶させよう」

 宋江は慌てて言いました。

「ならぬ、あの二人は私を捕まえようとしているのだ」

 李俊は言いました。

「仁兄、ご安心を。彼らは兄貴が宋江だと知らないだけです。彼らも我々の仲間です」

 李俊が手を振り、口笛を吹くと、松明を持った一団が飛んできました。李俊と張横が宋江をうやうやしく奉って話しているのを見て、穆家の兄弟は大いに驚きました。

「二人の兄貴、なぜこの三人と親しくしておられるのです?」

 李俊は大笑いして言いました。

「このお方をどなたと心得る?」

「存じません。ただ鎮で棒術使いに銀子を恵み、俺たちの顔を潰した奴らだ。捕まえようとしていたところです」

 李俊は言いました。

「このお方こそ、私が日頃話していた山東の『及時雨』、鄆城の宋押司公明兄貴だぞ。お前たち、早く拝礼せぬか」

 穆家の兄弟は朴刀を投げ捨て、地にひれ伏して拝みました。

「お噂はかねがね承っておりましたが、まさか今日お目にかかれるとは。先ほどは大変なご無礼を働き、兄貴を傷つけました。どうかお慈悲を持ってお許しください」

 宋江は二人を扶け起こして言いました。

「壮士よ、お名前を」

 李俊が紹介しました。

「この二人は土地の富豪で、姓はぼく、名はこう、あだ名は『没遮欄(ぼつしゃらん・遮るものなし)』、弟の穆春ぼくしゅんは『小遮欄しょうしゃらん』と呼ばれ、掲陽鎮の一番の顔役です。

 ここには『三覇』がおりまして、兄貴にお教えしましょう。掲陽嶺けいようれいの上と下は、私と李立りりつが仕切る一覇。掲陽鎮は、この兄弟が仕切る一覇。潯陽江のほとりの闇商売は、張横・張順の兄弟が仕切る一覇。これをもって『三覇』と称しております」

 宋江は答えました。

「どうりで知らぬわけだ。皆が兄弟分の情で結ばれているなら、どうか薛永を放してやってはくれまいか」

 穆弘は笑って言いました。

「あの棒術使いの男ですか? 兄貴、ご安心を。すぐに弟の穆春に取りに行かせて、お返しします。まずは兄貴を拙宅にお招きし、礼を尽くして詫びをさせてください」

 李俊が言いました。

「それがいい、それがいい! お前たちの屋敷へ行こう」

 穆弘は使用人に船を見に行かせ、童威・童猛も屋敷へ呼ぶように手配しました。一方で屋敷に人を走らせ、酒食の準備、牛や豚の屠殺、宴会の支度を命じました。

 一行は童威、童猛を待ち、共に屋敷へと向かいました。ちょうど五更(夜明け前)の頃、屋敷に到着し、父の穆太公が出てきて挨拶し、草堂で賓主の席に分かれて座りました。宋江が穆弘を見ると、まことに立派な人物であります。

 おもては銀盆に似て身は玉に似たり、こうべまどかに眼細く眉単ひとえにして、威風凛々として人をせまって寒からしむ。

 霊官 斗府とふを離れ、佑聖ゆうせい天関を下る。

 武芸高強にして心胆大きく、陣前 空しく還るをがえんぜず、城を攻め野に戦いて旗幡を奪う。

 穆弘は真の壮士、人は号す「没遮欄」と。

 宋江は穆太公と向かい合って座りました。話をして間もなく夜が明け、穆春が「病大虫」薛永を連れて戻ってきたので、皆で対面しました。穆弘は宴席を設け、宋江たちをもてなしました。その日は皆、屋敷に泊まりました。

 翌日、宋江が出発しようとすると、穆弘はどうしても許さず、皆を引き留めて鎮を案内し、掲陽の市村の景色を見物させました。さらに三日滞在しましたが、宋江は期限に遅れるのを恐れ、固く出発を願い出ました。穆弘たちも引き留めきれず、送別の宴を開きました。

 翌朝、宋江は穆太公と好漢たちに別れを告げ、薛永にはしばらく穆弘の元に留まり、後で江州へ来て再会しようと言い含めました。穆弘は「兄貴、ご安心を。ここは私が面倒を見ます」と言い、盆いっぱいの金銀を宋江に贈り、二人の役人にも銀子を与えました。出発に際し、張横は穆弘の屋敷で人に頼んで家書を書いてもらい、弟の張順に渡してくれと宋江に託しました。宋江はそれを荷物に収めました。

 一行は潯陽江の岸辺まで見送りに出ました。穆弘は船を呼び寄せ、荷物を積み込みました。皆は川辺で、宋江に枷をかけ直し、酒食を船に持ち込んで餞別とし、涙を流して別れを惜しみました。李俊、張横、穆弘、穆春、薛永、童威、童猛の一行は、それぞれ家路につきました。

 さて、宋江は二人の役人と共に船に乗り、江州へと向かいました。今回の船頭は以前とは違い、順風に帆を揚げ、またたく間に江州の岸へと送り届けました。

 宋江は枷をかけ直し、役人たちは公文書を取り出し、荷物を担いで江州の府(役所)へと直行しました。ちょうど府尹(ふいん・知事)が登庁するところでありました。

 この江州知府は姓をさい、名を得章とくしょうといい、当朝の蔡太師・蔡京さいけいの九番目の息子であるため、江州の人々は「蔡九さいきゅう知府」と呼んでいました。この男は貪欲で汚職を好み、驕り高ぶる人物でした。江州は銭糧が豊かで、人も物も多い土地であるため、太師が特に彼を知府として送り込んだのです。

 二人の役人は公文書を提出し、宋江を庁下に引き据えました。蔡九知府は宋江の風采がただならぬものであるを見て、尋ねました。

「なぜ枷に本州の封印紙がないのだ?」

 役人たちは答えました。

「道中、春雨に降られ続け、水で濡れて損じてしまいました」

 知府は言いました。

「すぐに書状を書き、城外の牢城営ろうじょうえいへ送れ。本府から役人を付けて護送させる」

 二人の役人は宋江を牢城営へ送り届け、引き継ぎを行いました。江州府の役人は文書を持って宋江と役人を連れ、州衙を出て酒場で酒を買いました。宋江は三両ほどの銀子を江州府の役人に渡し、受領書を受け取り、単身房(独房)へ送られて待機することになりました。役人は先に管営(かんえい・所長)と差撥(さはつ・看守長)のところへ行き、宋江のために口添えをしておきました。役人は引き継ぎを終えて受領書をもらい、江州府へ戻っていきました。

 二人の護送役人も宋江に荷物を返し、千恩万謝して別れを告げ、城内へ入っていきました。二人は「怖い目にも遭ったが、随分と銀子を稼げたわい」と言い合い、州衙で帰還の文書をもらい、済州へと帰っていきました。

 さて、宋江はまた人を使って手回しをし、差撥が独房に来ると十両の銀子を渡しました。管営には倍の二十両と贈り物をし、営内の事務係や軍健たちにも茶代として銀子を配りました。そのため、宋江を好まぬ者はいませんでした。

 やがて点視庁てんしちょうへ引き出され、枷を外して参見しました。管営は賄賂を受け取っていたので、庁上でこう言いました。

「新入りの囚人、宋江よ。先朝の太祖武徳皇帝の定めにより、新たに配流された者は『殺威棒(さついぼう・威し打ち)』百回を受けることになっている。左右の者、こやつを取り押さえよ」

 宋江は告げました。

「小人は道中、風邪を患い、いまだ治っておりません」

 管営は言いました。

「確かにこの男は病人のように顔色が悪く痩せている。棒打ちは一時猶予としておこう。この者は元々県の役人であったゆえ、本営の抄事房しょうじぼうにて書記を命じる」

 すぐに書類が作成され、書記の仕事に就くことになりました。宋江は礼を言い、独房から荷物を持って抄事房へ移りました。囚人たちは宋江が顔が利くのを見て、酒を買って祝いに来ました。翌日、宋江も酒食を用意して皆に返礼しました。折を見て差撥や牌頭(はいとう・組頭)を招いて飲み、管営にも常に贈り物を欠かしませんでした。宋江は金銀を豊富に持っていたので、彼らと親しくなるのは容易かったのです。半月もしないうちに、営内で彼を好まぬ者はいなくなりました。古語に言う、「世情は冷暖を、人面は高低をう(世間の情は相手の勢いで変わり、人は相手の地位で態度を変える)」とはこのことです。

 ある日、宋江が抄事房で差撥と酒を飲んでいると、差撥が言いました。

「賢兄、以前話したあの節級(せつきゅう・牢役人の頭)への定例の付け届けだが、どうして何日も送らないのだ? もう十日以上過ぎているぞ。明日彼が降りてきたら、具合が悪いことになる」

 宋江は言いました。

「構いませんよ。あの人には金をやりません。差撥の兄貴が必要なら、いつでも宋江に言ってくだされば差し上げますが、あの節級が欲しがっても一文たりとも出しません。彼が降りてきたら、私から話をつけます」

 差撥は言いました。

「押司、あの男は恐ろしく手強いし、腕っ節も強い。もし言い争いになって恥をかかされても、私が忠告しなかったとは言わないでくれよ」

 宋江は言いました。

「兄貴は放っておいて、ご安心ください。私に考えがあります。金を送ってもどうなるか分からぬし、彼が私に請求できないとも限りませんからな」

 そう話している最中、牌頭が走ってきて報告しました。

「節級が降りてこられました。庁上で『新入りの配流人が、なぜ俺への定例金をよこさんのか!』と怒り狂っておられます」

 差撥は言いました。

「言わんこっちゃない。あの男が来たら、私たちまでとばっちりを食う」

 宋江は笑って言いました。

「差撥の兄貴、失礼します。お相手できずに申し訳ないが、また後日飲みましょう。私が彼と話してきます」

 差撥も立ち上がり、「我々は会わんほうがいい」と言いました。宋江は差撥と別れ、抄事房を出て点視庁へと向かい、その節級に会いに行きました。

 宋江がこの人物と会わなければ、

 江州城内は虎の巣窟、狼の穴となり、

 十字街頭は屍の山、血の海と化すことはなかったでしょう。

 まさに天羅てんらを突き破って水滸に帰り、地網ちもうをこじ開けて梁山に上る。

 果たして宋江は、この節級とどのように対面するのでしょうか。

【Vol.037:推しに課金したら地元ヤンキーに絡まれた件、からの海賊とマブダチ展開】


1. 推し活したら詰んだ

江州(流刑地)へ向かう宋江たち一行。「まあ罪人だけど金はあるし余裕っしょ」って感じで掲陽鎮に到着。

そこで路上パフォーマーの薛永せつえいが棒術やってるのを見かける。宋江、感動して「スパチャ(銀子5両)」を投げる。

すると、地元のボス穆弘ぼくこうが登場。「俺の許可なく投げ銭すんなし」ってブチ切れ。薛永がまさかの激強でボスをボコすが、これ完全に地雷踏んだやつ。

「あいつら出禁な」って通達出されて、宋江たち泊まる場所なくて草。


2. 隠れ家が敵のアジトだった件

日も暮れてマジ無理なんで、森の奥の豪邸に「一晩だけオナシャス」って駆け込む。

親切なおじいちゃん(太公)が泊めてくれたんだけど、夜中に帰ってきた息子がまさかのさっき喧嘩した穆弘だった。

「親父、あいつらどこ行った!? 簀巻きにして川に沈めるわ」とか言ってるのが聞こえて震える宋江。「ここ敵の本拠地じゃん! 詰んだ!」って壁に穴あけて全力ダッシュで逃亡。


3. 板刀麺(物理)かワンタン(水死)か

追手が松明持って追いかけてくる中、川に到着。「船頭さん助けて! 金なら払う!」って小舟に飛び乗る。

一安心…かと思いきや、船頭の張横ちょうおうが川の真ん中で豹変。

「はい、ここでお品書きです。『板刀麺(切り刻んで川へ)』と『ワンタン(自分で服脱いで飛び込む)』、どっちがいい?」

これには宋江も「福は並び至らず、禍は単り行かず(泣きっ面に蜂すぎるだろ…)」と号泣。


4. 伏線回収・オールスター感謝祭

「もう死ぬ」って時に、上流から塩の密売やってる李俊りしゅんが登場。

「おーい張横、今日は獲物なしか? …ん? その黒くてチビなおっさん、もしかして及時雨の宋江兄貴じゃね?」

張横「えっ、あの有名な!?」

穆弘「追いついたぞ! …えっ、兄貴なの!?」

全員「「「サーセンしたァァッ!!」」」

ここから急に「昨日の敵は今日のマブ」展開。穆弘の家で宴会スタート。「お詫びにめっちゃ金渡すわ」ってことで解決。水滸伝のコミュ力どうなってんの。


5. 江州ライフ、課金ゲーすぎる

なんとか江州の牢屋に着いた宋江。

「地獄の沙汰も金次第」ってことで、役人たちに銀子を配りまくってVIP待遇をゲット。「棒叩き100回」も仮病と賄賂で回避。

でも、牢屋のボス(節級)にだけ挨拶(賄賂)しなかったら、「なんで俺だけ無視なん? ナメてんの?」ってブチ切れられる。

宋江「あいつ態度デカいから金やりたくない。俺が直接レスバしてくるわ」

次回、いよいよ江州の大物たちとご対面!


【教訓】

知らない土地でのマイルールには気をつけろ。

タクシー(船)に乗る時は正規の業者を使え。

宋江の知名度、ガチでチート級。


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主要人物図鑑(登場順)


第三十七回で登場したこの4人、通称「掲陽鎮けいようちんガチ勢」。

宋江を殺す寸前まで追い詰めたかと思えば、一瞬でマブダチになるという、情緒不安定かつキャラの濃いメンツです。


055:路上ライブの元エリート

病大虫びょうだいちゅう薛永せつえい★梁山泊一〇八将★

キャラ属性: 苦労人、実力隠し持ってる系、スパチャで揉める人

生い立ち(成平):

祖父はなんと老種経略相公(超エリート軍人)の部下。でも同僚に妬まれて失脚し、家没落。今では棒術を見せて薬を売る「路上パフォーマー」としてドサ回りの日々。

この回のハイライト:

地元ヤンキーの穆春に「ショバ代払えや」と絡まれるも、瞬殺。宋江から投げ銭(銀子5両)をもらって喜んでたら、それが原因で大乱闘スマッシュブラザーズ開幕の引き金を引く。

武芸・強さ:

あだ名の「病大虫(病気の虎)」は、「病気に見えても虎は虎(ナメたら死ぬぞ)」という意味と、「顔色が悪い」という見た目をかけたダブルミーニング。

派手さはないけど、基礎がガチ。チンピラならワンパンで沈める実力者。

【ネタバレ】その後の活躍:

梁山泊では「歩兵隊の将校」として地味に活躍。派手な一騎打ちは少ないけど、乱戦や潜入任務でいぶし銀の働きを見せる。

最後は方臘ほうろう討伐戦で、敵の弓矢を浴びて戦死。最初から最後まで「堅実な仕事人」だった。


056:虎の威を借る弟

小遮欄しょうしゃらん穆春ぼくしゅん★梁山泊一〇八将★

キャラ属性: 兄の腰巾着、イキり系、生存戦略の達人

生い立ち(成平):

穆弘の弟。兄貴が強くて金持ちなので、それを笠に着て街でイキり散らしている。典型的な「お前が強いんじゃなくて兄貴が強いんだぞ」タイプ。

この回のハイライト:

薛永にケンカを売るも、一瞬で投げ飛ばされ、さらに蹴りを入れられてボコボコにされる。泣きながら「覚えてろよ!」と兄貴にチクりに行くムーブが小物界の鑑。

武芸・強さ:

弱くはないけど、梁山泊の中では下位ランク。歩兵の小隊長クラス。兄貴や薛永には勝てない。

【ネタバレ】その後の活躍:

ここが一番面白いポイント。兄の穆弘や他の豪傑たちが次々と戦死・病死していく中、彼はしぶとく生き残る。

最終戦争後、生き残った彼は地元に帰り、元の富豪生活に戻る。ある意味、この物語の一番の勝ち組かもしれない。


057:掲陽鎮の不動産王(兼ヤンキー)

没遮欄ぼつしゃらん穆弘ぼくこう★梁山泊一〇八将★

キャラ属性: 金持ち、地元最強、ツンデレ、課金勢

生い立ち(成平):

掲陽鎮を取り仕切る富豪・穆家の長男。「三覇(この地域の3つの勢力)」の一つを束ねる若きドン。金もあれば腕っぷしも強い、いわゆる「陽キャの王」。

この回のハイライト:

自分のシマで勝手なことをした宋江を地の果てまで追いかける執念深さを見せる。でも、相手が推し(宋江)だと分かった瞬間、「兄貴ィィ!」と土下座&全額奢り。切り替えの速さがサイコパス級。

武芸・強さ:

あだ名の「没遮欄」は「遮るものなし(誰にも止められない)」の意味。

実は彼、梁山泊に入ってからのランクが異常に高い。なんと「騎兵八虎将」の一人で、序列24位。あの史進(九紋龍)より格上扱い。作中では目立たないけど、ステータスはオールAみたいな万能型タンク。

【ネタバレ】その後の活躍:

前線でバチバチに戦う主力アタッカー。数々の戦いで功績を挙げるけど、最期は杭州で流行り病にかかって病死。戦場で負けなしだった男が、病には勝てなかったという無念のラスト。


058:川の上のブラック企業面接官

船火児せんかじ張横ちょうおう★梁山泊一〇八将★

キャラ属性: 海賊、パワハラ、サイコパス、弟大好き(ブラコン)

生い立ち(成平):

潯陽江の海賊。弟の張順ちょうじゅんと組んで、客を船に乗せては「金出すか死ぬか」の二択を迫る美人局つつもたせビジネスで生計を立てていた。現在はソロ活動中。

この回のハイライト:

逃げてきた宋江を船に乗せ、川の真ん中で「板刀麺(切り刻む)か、ワンタン(水死)か選べ」と詰め寄る。このセリフは水滸伝屈指のトラウマ名言。李俊が来なかったら物語が終わってた。

武芸・強さ:

陸上では並だけど、水上戦なら無敵クラス。ただ、弟の張順(水泳の達人)に比べると、「船の操縦とパワー」に特化しているタイプ。

【ネタバレ】その後の活躍:

水軍の頭領として大暴れ。

特筆すべきは最期。弟の張順が戦死した際、なんと張順の幽霊が張横の体に憑依。憑依状態で敵将(弟の仇)を切り殺して首をあげるというオカルト展開を見せる。その後、弟を追うように病死。兄弟愛が重すぎる。


まとめ:この4人の関係性

「路上で揉めた(薛永 vs 穆春)」

→「兄貴が出てきた(穆弘参戦)」

→「逃げたらヤバい奴に捕まった(張横)」

→「全員まとめて宋江のファンクラブ結成」

という流れです。

現代で言うと、「渋谷で肩ぶつかって喧嘩になりかけたけど、共通の趣味(宋江)が発覚して、そのまま全員で居酒屋行ってマイメンになった」みたいなノリです。

特に穆弘は、今後「梁山泊のスポンサー兼主力」として地味に超重要キャラになるので、ここで顔を売っておくのが大事な回でした!

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