〇参弐:武行者、酔って孔亮(こうりょう)を打ち、 錦毛虎(きんもうこ)、義をもって宋江を釈(ゆる)す
その時、両者は十数合ほど激しく打ち合ったが、道士はふと武行者(武松)に隙を見せた。好機とばかりに道士が二口の剣を斬り込ませた、その刹那である。武行者は身を翻して狙い澄まし、ただ一刀の下に斬り伏せた。道士の首はころりと転がり落ち、その骸は石の上に崩れ落ちた。
武行者は大声で叫んだ。
「庵の中にいる女よ、出てこい。殺しはせぬ、ただ訳を聞きたいだけだ」
すると庵の中から一人の婦人が現れ、地に伏して拝んだ。
「拝むには及ばぬ。ここは一体どういう場所で、あの道士は何者だ?」
「私はこの嶺の麓にある張太公の娘でございます。この庵は先祖の墓所にあるものですが、あの道士はどこから来たとも知れぬ旅人で、陰陽や風水に通じていると称して宿を借りました。両親がうかつにも彼を留め置き、風水を見てもらったところ、言葉巧みにさらに数日居座るようになったのです。ところが、あの男は私を見るや邪心を抱き、居座ること二、三ヶ月、ついに両親と兄夫婦を殺し、私を強引にこの庵へ連れ込んで囲っていたのでございます。あの童子も他所からさらってきた者です。この嶺は蜈蚣嶺と申します。あの道士はここの風水が良いと言って、自ら『飛天蜈蚣』王道人と名乗っておりました」
「お前に他に身寄りはいないのか?」
「数軒の親戚はおりますが、みな農民で、あのような悪党と争える者などおりません」
「あの男は金を貯め込んでいたか?」
「一、二百両ほどの金銀を蓄えております」
「ならば、急いで荷物をまとめろ。庵に火を放つぞ」
「お師匠様、酒や肉はいかがですか?」
「あるなら振る舞ってもらおう」
「どうぞ中へお入りください」
「誰か隠れていて俺を襲うのではないか?」
「命の恩人であるお師匠様を騙すなど、首がいくつあっても足りません」
武行者は婦人に従って庵へ入ると、窓辺の卓に酒肉が並べられていた。大碗で酒をあおり、肉を食らう間に、婦人は金銀や財物をまとめ終えた。
武行者は庵に火を放った。婦人が金銀の包みを差し出して命乞いをすると、武行者は言った。
「俺はいらん。お前が持って行って暮らしの足しにしろ。さあ、早く行け!」
婦人は拝謝して嶺を下りていった。武行者は二つの死体を燃え盛る火の中に投げ込み、戒刀を鞘に収めると、その夜のうちに嶺を越え、小道伝いに青州の地へと向かった。
さらに十数日歩いた。村や宿場、町や郷を通ると、果たしてどこにでも武松捕縛の御触書が張り出されていた。しかし、武松はすでに行者の姿になっており、誰一人として怪しんで尋問する者はいなかった。
時は十一月、寒さは厳しさを増していた。武行者は道中、酒や肉を買って体を温めようとしたが、寒風の威力には敵わなかった。
ある土岡に登ると、前方に険しい高山が見えた。岡を下りて三、五里(約二キロ)ほど行くと、一軒の酒屋があった。店の前には清流が流れ、裏手には乱石の山が迫っている。見れば、ひなびた村の小さな酒屋である。
門は渓澗を迎え、山は茅茨に映ず。
疎らな垣根の畔には梅が玉の蕊を開き、
小さな窓の前には松が蒼龍のごとく伏す。
黒塗りの机と椅子には瓦の鉢や磁器の碗が並び、
黄土の壁には酒仙や詩人の句が画かれている。
一条の青き旗(酒旗)は寒風に舞い、
二句の詩詞は過客を招く。
まさに、馬を走らせる騎手も香りを聞けば馬を止め、
風帆を操る者も味を知れば舟を停めん。
武行者は岡を越えてその店に入り、腰を下ろして叫んだ。
「店主、まず酒を二角、それから肉を買いたいのだが」
店主が答えた。
「お師匠様、実を申しますと、酒は安酒しかなく、肉も売り切れてしまいました」
「まあいい、酒で寒さをしのぐとしよう」
店主は酒を二角汲み、大碗に注いで出し、一皿の野菜の煮物を添えた。たちまち二角を飲み干した武行者は、さらに二角を注文した。店主はまた大碗に注いだ。武行者はただひたすら飲み続けた。
岡を越える前にすでにほろ酔い加減だったところへ、さらに四角の酒を煽り、北風に吹かれたことで酔いが回ってきた。
「おい店主、本当に売るものはないのか? お前らが食べる分でもいいから分けてくれ。金なら払うぞ」
「見たことのないお坊様だ。酒も肉もと仰るが、無いものは無いのです。諦めてくだされ」
「タダで食おうってわけじゃないんだぞ、なぜ売らん」
「申し上げた通り、この安酒しかないのです」
押し問答をしていると、外から一人の大男が三、四人を引き連れて入ってきた。武行者はその男を見た。
頭には魚尾のごとき赤き頭巾、
身には鴨の頭のごとき緑の戦袍。
足には土を蹴る靴を履き、
腰には数尺の紅き帯を巻く。
丸顔に大きな耳、唇は厚く口は四角い。
身長七尺以上、年は二十四、五。
堂々たる相貌の強壮な士、
いまだ女色を侵さぬ少年郎。
大男たちが入ってくると、店主は満面の笑みで迎えた。
「若旦那、どうぞこちらへ」
「頼んでおいたものはできているか?」
「鶏も肉も煮えております。お待ちしておりました」
「俺の青花甕の酒はあるか?」
「こちらにございます」
男は連れと共に、武行者の向かいの席の上座に座り、連れの三、四人はその下座に就いた。店主は青花模様の酒甕を抱えてきて、封泥を開け、大きな白い盆に注いだ。
武行者が盗み見ると、それは熟成された極上の酒で、風に乗って芳醇な香りが漂ってきた。その香りを嗅いだだけで喉が鳴り、奪い取って飲みたい衝動に駆られた。
さらに店主は厨房から、二羽の蒸し鶏と大皿の精肉を運び出し、男の前に置いた。野菜も並べられ、杓子で酒を燗につけ始めた。
武行者は自分の前の粗末な野菜を見て、無性に腹が立ってきた。「目は満ちても腹は減る」とはこのことか。酒の勢いも手伝って、卓を拳で叩き割りそうな勢いで叫んだ。
「おい店主、来い! 客を馬鹿にしやがって!」
店主が慌てて来た。「お師匠様、そうカリカリなされますな。酒ならいくらでも」
武行者は目を剥いて怒鳴った。
「道理の分からん奴だ! なぜあの青花甕の酒と鶏肉を俺に売らんのだ? 俺も同じように金を払うと言っているのに!」
「あれは若旦那が家から持参されたもので、場所を借りて飲んでいるだけです」
「嘘をつけ! 屁理屈を言うな!」
「こんな乱暴なお坊様は初めてだ」
「俺が乱暴だと? タダ食いするわけじゃあるまいし!」
「出家人が『俺様』などと……」
それを聞いた武行者は激昂し、立ち上がって店主の顔に張り手を食らわせた。店主はよろめいて吹っ飛び、顔半分が腫れ上がって起き上がれない。
向かいの席の大男が激怒して立ち上がった。
「おい、そこのクソ頭陀、行儀が悪いぞ! 出家人のくせに『瞋恚(しんい・怒り)』の心を起こすとは何事だ!」
「俺がこいつを殴ろうがお前の知ったことか!」
「親切に諭してやれば、減らず口を叩きおって!」
武行者は卓を押し退けて進み出た。
「誰に向かって口を利いている!」
「貴様とやり合おうってんだよ。太歳(たいさい・凶神)の頭の土を掘り返すような真似をしやがって!」
大男は手招きした。「表へ出ろ、賊坊主!」
「怖気づいて逃げると思うなよ!」
武行者が表へ飛び出すと、大男も身構えて待ち受けていた。武行者が掴みかかると、大男も組み付こうとしたが、武松の千斤の神力には敵わない。武行者は子供を扱うように男を引き寄せ、軽く払っただけで男は転がり、手も足も出ない。連れの村人たちは震え上がって動けない。
武行者は男を踏みつけ、拳を雨霰と浴びせかけ、二、三十発殴ったところで持ち上げ、店先の渓流へ放り込んだ。
村人たちは「大変だ!」と叫びながら、慌てて川へ飛び込んで男を助け上げ、南の方へ逃げ去った。店主も殴られたショックで動けず、奥へ隠れてしまった。
武行者は言った。「ざまあみろ! お前らが逃げたなら、俺様が酒と肉を頂くとするか!」
彼は大碗で甕の酒をすくい、がぶ飲みした。手付かずの鶏と肉も、箸を使わず手掴みで貪り食った。半時もしないうちに八割方平らげ、満腹して酔っ払った武行者は、袖を背中で結んで店を出、渓流沿いに歩き出した。
しかし北風に煽られ、足元がおぼつかない。四、五里も行かないうちに、土塀の陰から一匹の黄色い犬が現れ、武松に向かって吠え立てた。
泥酔した武行者は、犬ごときに吠えられたのが腹立たしく、鞘から戒刀を抜いて追いかけた。犬は川岸を逃げ回る。武行者が一刀斬りつけたが空振りし、勢い余って頭から渓流へ転げ落ちてしまった。
冬の川水は干上がって浅かったが、骨まで凍みる冷たさだ。ずぶ濡れになって起き上がろうとしたが、戒刀を探してまた転び、泥水の中を転げ回る羽目になった。
その時、岸壁の陰から一団の男たちが現れた。先頭には鵝黄(がこう・淡い黄色)の綿入れを着た大男が哨棒を持ち、後ろには十数人の男たちが続く。
「あいつだ! 弟を殴った賊頭陀だ! 弟が見つからないから兄貴が店へ捕まえに行ったが、まさかこんな所にいようとは!」
見れば、遠くからさっき殴られた男も着替えて朴刀を提げ、二、三十人の屈強な男たちを引き連れてやってきた。
長王三に矮李四。
急三千に慢八百。
籬の糞に、屎の中の蛆。
米の中の虫に、飯の中の屁。
鳥の上の刺に、沙小生。
木伴哥に、牛筋ら。
この一団は口笛を吹き鳴らして武松を取り囲んだ。
「この賊頭陀が弟を殴った奴です」
鵝黄の着物の男が命じた。「捕まえろ! 屋敷へ連れて行ってじっくり可愛がってやる」
三、四十人が一斉に襲いかかった。哀れ武松は泥酔して身動き取れず、起き上がる間もなく引きずり回され、川から引き上げられた。
近くの大邸宅へ連行され、衣服を剥がれ、戒刀や荷物を奪われると、大きな柳の木に縛り付けられた。「藤の鞭を持ってこい、皮を剥いでやる!」
三、五回鞭打たれたところで、屋敷の中から一人の男が出てきた。
「兄弟、また誰をいじめているんだ?」
二人の大男は手を合わせて言った。
「師匠、聞いてください。今日、弟が近所の友人と馴染みの店で飲んでいたら、この賊行者が因縁をつけて弟を半殺しにし、川へ放り込んで凍死させかけたのです。着替えて仕返しに行ったら、奴は俺たちの酒肉を食い荒らし、泥酔して川に落ちていました。こいつはどう見てもまともな出家じゃありません。顔には『金印』の刺青があり、髪で隠しています。きっと逃亡犯でしょう。問い詰めてから役所へ突き出します」
殴られた方の弟が叫んだ。
「役所なんて生温い! こいつに負わされた傷は一、二ヶ月じゃ治らないんだ。いっそここで打ち殺して焼き捨ててやらなきゃ気が済まない!」
彼が再び鞭を振り上げると、出てきた男が止めた。
「待て。まずは顔を見せろ。ただならぬ相貌をしているぞ」
この時、武行者は酔いが醒め始めていたが、狸寝入りをして打たれるがままになっていた。男は武松の背中の棒傷を見て言った。
「妙だ。これは受けて間もない傷だぞ」
男は武松の髪を掴んで顔を上げさせ、じっと見つめると叫んだ。
「これは我が兄弟、武二郎ではないか!」
武行者は目を開け、その男を見た。「兄貴か!」
男は叫んだ。「早く解け! 私の兄弟だぞ!」
孔明・孔亮の兄弟は驚愕した。「この行者が、師匠の義兄弟なのですか?」
「彼こそが、私が常々話していた景陽岡の虎殺し、武松だ。なぜ行者の姿をしているのかは知らぬが」
兄弟は慌てて縄を解き、乾いた着物に着替えさせ、草堂へ招じ入れた。武松が拝礼しようとすると、男は喜びと驚きの入り混じった顔で支えた。「兄弟、まだ酒が抜けていないだろう。まずは座ってくれ」
武松は男を見て酔いが半分醒め、汁物を飲んで落ち着くと、改めて拝礼して旧交を温めた。
その男とは他でもない、鄆城県の人、姓は宋、名は江、字は公明であった。
武行者は言った。「兄貴は柴大官人の屋敷におられると思っておりましたが、なぜここに? 夢でも見ているのでしょうか」
宋江は語った。
「君と別れてから半年ほどあそこにいたが、父上が心配で弟の宋清を先に帰したのだ。その後、家からの手紙で『捕り手の手が回って海捕文書(指名手配書)が出た』と知り、ここにいる孔太公が何度も人を寄越してくれたので、ここへ避難してきたのだ。ここは白虎山、孔太公の屋敷だ。さっき君と喧嘩したのは次男の孔亮、短気で喧嘩っ早いから『独火星』と呼ばれる。鵝黄の着物を着ているのは長男の孔明、『毛頭星』と呼ばれる。二人とも槍棒が好きで、私が少し手ほどきをしたので師匠と呼ばれているのだ。ここに来て半年になるが、清風寨へ行こうと思って準備していたところだ。……ところで兄弟、君は西門慶を殺して配流されたと聞いていたが、なぜ行者の姿に?」
武松は答えた。「柴進の屋敷を出てから……」
虎退治、兄の仇討ち、十字坡での張青・孫二娘との出会い、孟州での施恩との義兄弟、蒋門神を打ち、張都監ら十五人を殺害し、逃亡中に王道人を斬り、そして孔亮との喧嘩に至るまで、すべてをありのままに語った。
孔明・孔亮の兄弟は驚き入り、平伏して謝罪した。「泰山を知らずして無礼を働きました。どうかお許しください」
武行者は言った。「お二人が俺を敬ってくれるなら、奪った度牒や手紙、荷物、そして戒刀と数珠を返してくれればそれでいい」
孔明はすぐに手配し、すべてを返却した。宋江は孔太公を呼び、皆で顔合わせをした。
その夜、宋江と武松は同じ寝台で一年余りの積もる話をし、宋江は大いに喜んだ。
翌日から連日宴が開かれ、村の親戚や知人たちが挨拶に訪れた。
ある日、宴席が果てると宋江は尋ねた。「二郎、これからどこへ行くつもりだ?」
武松は答えた。「昨夜も言いましたが、張青の手紙を持って、二龍山の宝珠寺にいる魯智深と楊志を頼って落草するつもりです」
宋江は言った。「それも良かろう。実は私も清風寨の知寨(ちさい・長官)、『小李廣』花栄から何度も手紙をもらっていてな。ここから遠くないし、一緒に行かないか?」
武松は言った。「兄貴のお気持ちは嬉しいですが、俺は大罪人です。もし道中で正体がバレれば、兄貴まで巻き添えにしてしまう。花栄殿にも迷惑がかかる。俺は二龍山へ行きます。もし命があって招安(しょうあん・恩赦)を受ける日が来れば、その時にまたお会いしましょう」
宋江は「君が朝廷に帰順する心を持っているなら、天も必ず守ってくれるだろう」と、無理強いはしなかった。
十日余り滞在した後、二人は出発することになった。孔太公は引き留めたが、宋江の決意は固く、送別の宴が開かれた。
翌日、孔太公は武松に新しい行者の衣裳一式と、預かっていた品々を返し、さらに銀五十両ずつを路銀として二人に贈った。武松は再び行者の姿になり、戒刀を腰に差し、荷物を背負った。宋江も旅支度を整えた。
孔明・孔亮兄弟は二十里余りも見送り、別れを告げた。
さらに進み、瑞龍鎮という三差路に来た。
宋江が道を聞くと、「二龍山は西へ、清風鎮は東へ、清風山を越えて行く」と教えられた。
宋江は言った。「兄弟、ここでお別れだ。最後に三杯飲もう」
手を握り期に臨んで別れを話すは難し
山林の景物は正に闌珊たり
壮懐寂寞として客嚢弾く
旅次愁い来たりて魂断たんと欲す
郵亭宿する処
鋏空しく弾く
独り憐れむ
長夜の苦だ漫漫たるを
武行者は言った。「兄貴、少し先まで送りましょう」
宋江は止めた。「『送君千里、終有一別(君を送ること千里なれど、終には一別あり)』だ。自分の前程を大切にし、早く目的地へ着け。入山してからは酒を控えろよ。もし招安の機会があれば、魯智深や楊志も説得して帰順し、辺境で功を立てて妻子のために名を残せ。無駄に一生を終えるなよ。私の言葉を忘れるな」
武行者は四拝して別れを告げ、西へと去っていった。
宋江は東へ向かい、清風山を目指した。数日行くと、険しい山が見えてきた。
八面は嵯峨として、四囲は険峻。
古怪なる喬松は鶴の蓋いを盤まらせ、
杈枒たる老樹は藤蘿を掛く。
瀑布は飛び流れ、寒気は逼って人の毛髪を冷やし、
緑陰は散り下り、清光は目を射て夢魂を驚かす。
澗水時として聴き、樵人の斧響く。
峰巒特起し、山鳥の声哀し。
麋鹿群れを成し、荊棘を穿って往来跳躍し、
狐狸隊を結び、野食を尋ねて前後呼号す。
もし仏祖の修行処にあらずんば、定めて強人の打劫場ならん。
宋江は山の景色に見とれて歩を進めたが、宿場を見つける前に日が暮れてしまった。冬の夜は冷え込み、虎狼が出るかもしれない。不安になりながら小道を急ぐと、一更の頃、足元の絆索(ばんさく・罠の縄)に引っかかり転倒した。
銅鈴が鳴り響き、林の中から十四、五人の手下が飛び出してきて宋江を縛り上げ、「獲物だ!」と叫びながら山へ連行した。
山寨へ連れて行かれると、そこは木の柵で囲まれ、草葺きの広間があった。宋江は「将軍柱」に縛り付けられた。手下たちは「大王は寝ているから、酔いが覚めたらこいつの心肝(心臓と肝臓)で醒酒湯(酔い覚ましのスープ)を作ろう」と話している。
宋江は嘆いた。「閻婆惜を殺して逃げ回り、こんな所で最期を迎えるとは……」
二、三更の頃、大王が起きてきた。頭に赤い手拭いを巻き、棗色の綿入れを着たその姿は……。
赤髪黄鬚、双眼円かに、
臂長く腰闊くして気天を衝く。
江湖に称して錦毛虎と作す、
好漢 元来 却って姓は燕。
この男は山東萊州の人、姓は燕、名は順、あだ名は「錦毛虎」。元は羊馬商人だったが、元手をすって山賊になった。
燕順が椅子に座ると、手下が報告した。「お目覚めのスープの材料を捕まえました」
「よし、他の二人の大王も呼んでこい」
すぐに二人の好漢が現れた。左の男は小柄で眼光鋭く、
天青の衲襖 錦繍補い、
形貌崢嶸として性 麤鹵。
貪財好色 最も強梁、
放火殺人 王矮虎。
両淮の人、姓は王、名は英、あだ名は「矮脚虎」。元は車引きだが、客を襲って逃亡し、ここへ住み着いた。
右の男は色白で美男子、
衲襖は銷金の油緑、
狼腰 緊く繋ぐ征裙。
山寨の紅巾の好漢、
江湖の白面郎君。
浙西蘇州の人、姓は鄭、名は天寿、あだ名は「白面郎君」。元は銀細工師だが武芸を好み、王英と互角に渡り合って仲間になった。
三人が揃うと、王英が「さあ、スープを作ろう」と促した。手下が宋江の胸に冷水を浴びせ(血を散らして心肝を脆くするため)、刀を構えた。
宋江は嘆いた。「惜しいかな、宋江、ここで死すとは!」
燕順が聞き咎めた。「待て。今なんと?」
「こいつ、『惜しいかな宋江』と言いました」
燕順は立ち上がった。「貴様、宋江を知っているのか?」
「私こそが宋江だ」
「どこの?」
「済州鄆城県の押司、宋江だ」
「山東の『及時雨』宋公明か?」
「いかにも」
燕順は驚き、刀を奪って縄を切り、自分の着物を宋江に着せ、上座に座らせて三人が平伏した。
「我らは目がありながら人を見抜けず、危うく義士を殺すところでした!」
宋江も答礼し、これまでの経緯を語った。三人は大いに喜び、連日宴を開いてもてなした。
数日後、臘月(ろうげつ・十二月)初旬のこと。山下から報告があった。「輿に乗った婦人が墓参りに来ています」
好色な王英はこれを聞くや、手下を連れて下山し、婦人をさらってきてしまった。燕順と鄭天壽が宋江を連れて王英の部屋へ行くと、王英は婦人に言い寄っていた。
宋江が婦人を見ると、喪服を着た美しい女性だった。
「あなたはどなたですか?」
「私は清風寨の知寨の妻です。母の喪が明けたので墓参りに来たところを捕まりました」
宋江は考えた。(花栄の妻か? ならば救わねば)
「夫の名は?」
「花栄殿は武官の知寨、私の夫は文官の知寨、劉高でございます」
宋江は(花栄の同僚の妻なら、やはり救わねばならん)と思い、王英に言った。
「賢弟、好漢が『骨の髄までとろける』ような色事にふけるのは感心しない。この方は役人の奥方だ。私の顔に免じて放してやってくれ」
王英は渋ったが、宋江が跪いて頼み込み、「後で私がきちんとした嫁を世話するから」と約束すると、燕順たちも賛同し、婦人を解放させた。
婦人は「ありがとうございます、大王様!」と感謝したが、宋江は「私は大王ではない、鄆城の客人だ」と告げた。
劉高の妻が寨に戻ると、劉高は激怒していたが、妻が「私が知寨の妻だと言ったら、賊たちは恐れ入って解放しました」と嘘をつくと、劉高は手柄顔で部下たちを労った。
宋江は数日後、花栄の元へ向かうため山を下りた。三人の頭領は名残惜しみつつ見送った。
坎坷に遭逢するは皆天数、
風雲に際会するは豈偶然ならんや。
宋江は花知寨を訪ねて行くが、そこで誰と出会うのか。
【Vol.032:武松と宋江の奇跡の再会で、物語の主軸バトンタッチ】
1. 武松、偽修行僧をサクッとデリート
前回から引き続き、蜈蚣嶺でイキってた王道人(飛天蜈蚣)とのタイマン。武松が誘い込みからの鮮やかなワンパン(一閃)で道士の首を飛ばして終了。庵にいた女の子(張太公の娘)から「家族を殺されて監禁されてた」って重い過去を聞かされて、武松は「金持って実家帰れ!」と旅費を渡して庵を全焼させます。相変わらずのハードボイルド。
2. 酔っ払い武松、犬に負けて川にダイブ
その後、青州へ向かう武松。11月のガチ寒波に耐えられず酒屋へ。
店主: 「酒(安酒)はあるけど肉はない」
後から来た孔亮(地元の金持ち息子): 豪華な鶏肉とマイ酒を持参してどんちゃん騒ぎ
武松: 「なんであいつだけ肉食ってんだよ!俺にも売れ!」とブチギレ、店主をビンタして孔亮をボコボコにして肉と酒を略奪。
ここからがダサいんですが、店を出た泥酔武松は道端の黄犬に絡みます。犬を斬ろうとして空振り、勢い余って真冬の川に頭からダイブ。起き上がれずモタモタしてるところを、着替えて仲間を引き連れて戻ってきた孔亮に捕まり、屋敷で縛り上げられてフルボッコにされます。
3. 奇跡の合流!「え、兄貴!?」「武松じゃん!」
そこで出てきたのが、孔兄弟の師匠をやってたレジェンド宋江(及時雨)。
宋江: 「待て待て、その背中の傷……もしかして武松?」
武松: 「兄貴!夢かよ!」 感動の再会で、孔兄弟も「虎殺しの武松さんっすか!さっきはサーセン!」と手のひらクルーで大宴会。10日ほどパリピ生活を送ります。
4. 宋江、あわや「酔い覚ましスープ」の具に
二人は別々の目的地へ。武松は二龍山へ、宋江は清風砦の花栄の元へ向かいます。 一人旅になった宋江は清風山で山賊に捕まり、「大王(燕順)の酔い覚ましに、こいつの心臓と肝臓で酸っぱ辛いスープ作ろうぜ!」三蔵法師かよと軽々しくカニバリズムに突っ込み入れたところ、文字通りまな板の上の鯉状態に。 絶体絶命の瞬間、宋江が「宋江、ここで死ぬんか……」とボソッと呟くと、リーダーの燕順が「え、及時雨の宋江さん!?!? マジかよ!!」と速攻で縄を解いて平伏。知名度エグすぎ。
5. 王英の女癖と宋江の「空気読め」ムーブ
山賊メンバー(燕順・王英・鄭天寿)と仲良くなった宋江ですが、ここで「短足の虎」こと王英が墓参り中の美女(清風砦の文官・劉高の嫁)を拉致ってきます。 ムラムラしてる王英に対し、宋江は「知り合い(花栄)の同僚の嫁だから放してやれよ。義理が立たないだろ」とガチの正論で説教。 王英は超不満そうでしたが、宋江に「今度もっといい女紹介するから!」となだめられ、泣く泣く美女を解放します。
まとめ
武松: 圧倒的武力。でも酔うと犬に負けて川に落ちるドジっ子属性。
宋江: どこに行っても名前を出すだけで命が助かるチートキャラ。正論で仲間の楽しみ(?)を奪う。
劉高の嫁: 助けてもらったのに、帰宅後は「自分たちの兵が奪い返してくれた」と嘘をつく、ちょっとしたフラグを残して終了。
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主要人物図鑑(登場順)
白虎山の「孔兄弟」:宋江の教え子コンビ
040:独火星・孔亮★梁山泊一〇八将★
経歴: 白虎山のふもとに住むセレブ、孔太公の次男坊。 気が短くて、とにかくケンカがしたくてたまらないタイプ。 実は宋江の弟子(武芸の教え子)でもある。
活躍: 居酒屋で「俺の酒と肉を分けてやるわけねーだろ」と武松に絡んでタイマンを張るも、神レベルの筋力を持つ武松に秒でボコボコにされ、川に投げ捨てられる。 その後、師匠である宋江の紹介で武松と仲直りし、屋敷で爆食い宴会を主催する。
041:毛頭星・孔明★梁山泊一〇八将★
経歴: 孔太公の長男で、孔亮のお兄ちゃん。 槍や棒の武芸が大好きなガチ勢。 彼もまた宋江に武芸を教わった弟子の一人。
活躍: 弟の孔亮がボコられたと聞いて、自ら三十人くらいの庄客(家のスタッフ)を引き連れて武松を捕らえに行く。 宋江を半年間も自分の屋敷にステイ(避難)させていた、地元の重要スポンサー的存在。
清風山の「三人の大王」:宋江のガチ勢ファンクラブ
042:錦毛虎・燕順★梁山泊一〇八将★
経歴: 山東萊州出身。 元々は羊や馬の売買をしていた商売人(元転売ヤー?)だったが、資金がショートして緑林(山賊)にジョブチェンジした清風山のボス。 赤髪に黄色い髭という、かなり派手なビジュアル。
活躍: 捕まえた宋江の心臓と肝臓で「酔い覚ましスープ」を作ろうとしたエグい奴。 しかし、宋江が名前を呟いた瞬間に「え、及時雨の宋江さん!? マジ推しなんですけど!」と態度が急変、秒で縄を解いて平伏するという手のひら返しを見せた。
043:矮脚虎・王英★梁山泊一〇八将★
経歴: 両淮出身の元車引き。 客の財産を強奪して逮捕されるが、脱獄して山賊になったというアウトローな過去を持つ。 身長が低く、とにかく「金」と「女」に目がなくて手が早い。
活躍: 墓参りに来ていた美女(劉高の妻)を拉致り、自分の部屋でムフフなことをしようとする。 しかし、宋江から「知り合いの同僚の嫁だから放してやれよ、ダサいぞ」と正論でガチ説教され、激しく不満げながらもしぶしぶ解放。 宋江に「今度もっといい女を紹介するから!」となだめられる。
044:白面郎君・鄭天寿★梁山泊一〇八将★
経歴: 蘇州出身の元・銀細工師。 色白でスラッとしたイケメン職人。 旅の途中で王英とタイマンを張り、50〜60合戦っても決着がつかないほどのガチの腕前だったため、スカウトされて清風山の三番手になった。
活躍: 燕順・王英と一緒に宋江をもてなす宴会メンバー。 宋江が「王英、女を放してやれ」と土下座した際、慌てて宋江を助け起こすなど、わりと常識的で空気が読めるポジション。
今回は個性的な好漢が豊作だわ!




