〇壱六:楊志、金銀の荷を運び、呉用、智略をもって生辰綱を奪う
おや、おや、おや、どちらさんでっか、こんな日中に黄泥岡で、おっといけない、いけない。この暑さで頭もとろけて、つい独り言が、へへ。
さて、わたくし白勝と申しまして、ただいまご用命いただいたのが、この黄泥岡での大仕事。ごらんの通り、背には大きな酒樽が二つ。これがまた、ずっしりと重い。まるでわたくしのこれから背負う「大役」の重さそのもの。
♪あ~つっついなぁ~、あつあつ、あつあつ、こりゃまたとろけるような暑さでんなぁ。
こんな日は、キンと冷えた酒でも、グイッと一杯…いやいや、いけない、いけない。
今日の酒は、ただの酒ではおまへん。そう、あの楊志様一行が、喉から手が出るほど欲しがる「命の水」でございますからな。
それにしても、あの楊志様、えらい剣幕でっせ。
周りの者どもは、もうグッタリ。まるで打ち上げられた魚のよう。
無理もない。この炎天下、十万貫の生辰綱を護送するとなると、そりゃあ気も張り詰めまんな。
でも、その張り詰めた糸が、パチンと切れる寸前、そこに「偶然」現れるのが、わたくし、白勝。
♪ふふふ~ん、ふふふふ~ん。
なんせ、わたくしの役目は、「偶然」を装って、楊志様に「必然」の選択をさせること。
この酒を飲むか、飲まないか。
飲めば、天国か地獄か。
飲まねば、この灼熱で地獄行きか。
ま、選ぶは楊志様、仕掛けるは、あの智多星・呉用先生でございますからな。わたくしはただ、言われた通りに、この重い酒樽を運ぶだけ。
しかし、この酒、ただの酒じゃおまへん。呉用先生が、それはもう念入りに、秘伝の…おっと、いけない、いけない。口が滑るところでした。
ま、言ってみれば、「夢見酒」でございます。飲めば夢心地。そして、その夢心地の間に、十万貫は、ひゅるるる~っと、どこかへ消え失せてしまうという、まことに恐ろしい酒でございます。
♪もう~すぐ~そこ~、あの松の下に~、お疲れ~の~皆様~が~、えへへ~ん。
さあ、いよいよ近づいてきましたで。楊志様の鋭い眼光が、わたくしを射抜かんばかり。
あれは「怪しい」という目か、「助かった」という目か。
いやいや、わたくしはあくまで、ただの酒売り。
「おや、こんな暑い日に、珍しいこっちゃ。喉がカラカラで、酒でも売りに来たのかい?」なんて、軽~く言ってやれば、きっと向こうも、「もしや」と気を許すはず。
この一歩が、江湖を揺るがす大事件の始まりでございます。
この汗は、暑さの汗か、それとも緊張の汗か。
ま、どっちでもええわい。
さあ、白勝、いざ、大舞台へ!
⭐オマージュ to 桂枝雀師匠
【しおの】
さて、物語はあの日、公孫勝が奥座敷で晁蓋に向かい、「北京の梁中書が送る生辰綱(誕生祝いの宝)は、民を苦しめて得た不義の財。これを奪うに何の躊躇がいりましょう」と説いていた場面から始まります。
その時です。一人の男が外から風のように飛び込んでくるなり、公孫勝の胸ぐらを掴んで叫びました。
「大胆不敵な奴め! 今の悪巧み、すべて聞かせてもらったぞ」
見れば、それは智多星の二つ名を持つ呉学究、呉用でした。晁蓋は思わず吹き出し、「先生、驚かないでください。まずはご挨拶を」と、二人の間に割って入りました。互いに礼を交わすと、呉用は感嘆の声を漏らしました。
「江湖にその名も高き入雲龍、公孫勝一清殿とお見受けいたしました。まさか、今日この場所でお目にかかれるとは思いもよりませんでした」
晁蓋が「この秀才先生こそ、智多星の呉学究だ」と紹介すると、公孫勝も丁寧に応じました。
「加亮先生(呉用の字)のお名前はかねてより伺っておりました。保正(村長)殿の屋敷でこうして縁を結べたのも、保正殿が私利を捨てて義を重んじ、天下の豪傑を招き入れている徳のおかげですな」
晁蓋は満足げに頷き、「奥にはまだ志を共にする知己がいる。共に行こう」と、二人を奥へと誘いました。
三人が奥座敷へ入ると、そこには劉唐と阮氏三兄弟が待っており、一同は改めて固い挨拶を交わしました。
【詩に寄せて】
金銀の財宝を蓄えれば、それは災いの種となる。
英雄たちの集いは、あらかじめ期したものではない。
一時の豪侠たちは権力をも欺き、
北斗七星の輝きは、帝の座をも揺るがす。
「今日のこの会合は、決して偶然ではありません。ぜひ保正兄貴に上座へ座っていただきたい」
一同の勧めに対し、晁蓋は「私はただの田舎の主、どうして上座になど」と謙遜しましたが、呉用が「年長者であるあなたが座らねば、筋が通りません」と押し切り、ついに晁蓋が第一席に、呉用が第二席、公孫勝が第三席、劉唐が第四席、そして阮小二、阮小五、阮小七が順に席に着きました。
酒宴が始まると、呉用が静かに口火を切りました。
「保正殿が『北斗七星が屋根に落ちる夢を見た』とおっしゃいましたが、今日、我ら七人が集い、事を起こそうとしているのは、まさに天が我らに授けた予兆に他なりません。この富は、手を伸ばせば掴み取れるも同然。先日、劉兄に経路を探らせようとしましたが、もう夜も更けました。明日、改めて出立してもらいましょうか」
すると、公孫勝がそれを遮りました。
「その必要はありません。貧道(私)が既に探りを入れましたが、奴らは黄泥岡という峠の大路を通るようです」
晁蓋が思い出して言いました。
「黄泥岡の東、安楽村という所に白日鼠の白勝という無頼漢がいる。以前、困っていたので路銀を恵んでやったことがあるのだが」
呉用は我が意を得たりと膝を打ちました。
「夢の中で北斗の柄にあった白い光は、その男のことだったか! 彼なら使い道があります」
劉唐が「あそこはここから遠いが、どこを拠点にするのだ?」と尋ねると、呉用は「その白勝の家を根城にさせてもらおう」と即答しました。
晁蓋は改めて呉用に問いました。「呉先生、我らは力ずくで奪うべきか、それとも計略を用いるべきか」
呉用は不敵な笑みを浮かべました。
「既に策は練ってあります。相手が力で来るなら力で、智恵で来るなら智恵で。実は私に一つ、とっておきの計略があるのですが……皆様、よろしいでしょうか」
呉用が声を潜めてその策を話すと、聞いた晁蓋は大喜びで足を踏み鳴らしました。
「素晴らしい! さすがは智多星、あの諸葛孔明にも勝る名案だ!」
呉用は油断なく付け加えました。「壁に耳あり、障子に目ありと言います。この話は決して他言無用に願いますぞ」
その後、阮氏三兄弟は一旦村へ帰り、決行の日に再び集まることを約束しました。呉用は自身の塾へ戻り、公孫勝と劉唐はそのまま屋敷に留まりました。
翌朝、五更(午前四時頃)のまだ暗いうちに朝食を済ませると、晁蓋は阮氏三兄弟に三十両の銀を渡し、「ほんの気持ちだ」と無理やり受け取らせました。呉用も「手筈通り、頼むぞ」と念を押し、三人は石碣村へと帰っていきました。
【詩に寄せて】
不当に蓄えたものを奪うのは罪にあらず、
私欲を肥やす者を挫くのは、これこそが公義。
計略が成ったならば、あとは静かに時を待つだけだ。
慌ただしく宝を運ぶ者たちの末路を、笑いながら見届けよう。
さて、場面は変わり、北京大名府。
梁中書は、十万貫にも及ぶ豪華な生辰綱を揃え終え、都へ送り出す吉日を選んでいました。
ある日、夫人の蔡氏が尋ねました。
「旦那様、お誕生日の品はいつ出立させるのですか?」
「品はすべて揃ったので、明後日にも出したい。だが、一つだけ気がかりなことがあってな」
「何が心配なのですか?」
「去年、十万貫を送った際、途中で賊に奪われ、いまだに取り戻せていない。今年も信頼できる者に任せられるか、迷っているのだ」
夫人は階下の武官たちを指差しました。
「あの方はとても腕が立つとおっしゃっていたではありませんか。あの方に全責任を負わせて、行かせてはいかがです?」
そこにいたのは、青面獣の異名を持つ楊志でした。
梁中書は喜び、すぐに楊志を呼び寄せました。
「お前のことを忘れていた。この生辰綱を無事に送り届ければ、必ずお前を相応の地位に引き立ててやるぞ」
楊志は拱手して答えました。
「恩相のお命じとあらば従いますが、どのような形で、いつ出立されるおつもりでしょうか」
「大名府の立派な車十両を仕立て、禁軍の精鋭十人に護衛させる。各車には『太師への献上品』と記した黄色い旗を堂々と掲げ、三日以内に出発だ」
しかし、楊志は首を横に振りました。「恐れながら、それでは私は行けません。他の者をお選びください」
「なぜ断るのだ? 太師への書状にも、お前の手柄を強く書いてやるというのに」
「恩相、去年も賊に奪われたとおっしゃいました。今、世間には盗賊が溢れています。東京(開封)までは陸路しかありません。通るのは二龍山や黄泥岡といった、強盗が巣食う難所ばかりです。金銀財宝だと宣伝するような旗を立てて行けば、襲ってくださいと言っているようなもの。命を捨てるような真似はできません」
「ならば護衛の兵を増やせばよいではないか」
「五百人いても無駄です。賊が現れれば、兵たちは真っ先に逃げ出します」
「では、どうすれば送れると言うのだ?」
「もし、すべてを私の一任にお任せいただけるなら、お引き受けしましょう」
「任せるとも。申してみよ」
「豪華な車は使いません。贈り物を十余りの荷に分け、普通の行商人の荷物に見せかけます。護衛も屈強な兵十人を選び、人足の格好をさせます。そして私も商人のふりをして、こっそりと昼夜を問わず東京へ向かうのです」
梁中書は「なるほど、道理だ」と感心し、その場で楊志に準備を命じました。
翌日、梁中書が楊志に「いつ発つか」と問うと、楊志は「明朝、五更に出ます」と答えました。
「実は、夫人の実家への贈り物も一荷追加することにした。お前一人では心細かろうから、夫人の乳母の夫である謝都管と、二人の虞候(侍従)も同行させることにしたぞ」
楊志は再び顔を曇らせました。「恩相、それならば尚更行けません」
「なぜだ?」
「全責任を私に負わせるとおっしゃいました。歩くも休むも、私の采配次第です。しかし、都管や虞候殿が一緒では、道中で意見が食い違った際、私は彼らに指図できません。それで大事を損じれば、私の立場がなくなります」
「案ずるな。あの三人にも、お前の指図に従うよう厳命しておこう」
楊志は「それならば承知いたしました。もし失敗すれば、どのような重罪も受ける覚悟です」と約束し、決意の誓約書を書きました。
梁中書は謝都管らを呼び出し、「道中の采配はすべて楊志に任せた。決して逆らうことは許さん」と釘を刺しました。都管たちは渋々ながら承諾しました。
翌朝の午前四時頃。一行は静かに屋敷を出発しました。楊志は笠を深く被り、青い衣を纏い、腰刀と朴刀を携えていました。謝都管も商人に、兵たちも人足に扮し、計十五人が大名府を後にしました。
時は五月半ば。空は晴れ渡り、息苦しいほどの酷暑が続いていました。
【古の詩に寄せて】
高貴な人々は涼しい水閣で戯れ、
冷たい水に遊ぶ魚を眺めては時を過ごす。
白く美しいむしろを敷き、宝石の枕を頭に。
一方、空の太陽ですらその熱を恐れて隠れたがり、
海の水は煮え返るかのようだ。
貴人が扇の風を物足りないと嘆くその傍らで、
旅人は炎天下の埃っぽい道を、汗にまみれて進んでいく。
六月十五日の誕生日。その期限に間に合わせるため、楊志たちは灼熱の道を行きました。最初のうちは、早朝の涼しいうちに歩き、日中は休むという無理のない旅でした。
しかし、人里を離れた険しい山道に差し掛かると、楊志は突然方針を変えました。朝の八時頃に出発し、最も暑い午後四時頃まで歩き続け、日が暮れる前に休むという、過酷なスケジュールです。
重い荷を担ぐ兵たちはたまりません。木陰を見つけるたびに休みたがりましたが、楊志はそれを許さず、遅れる者があれば藤の鞭で容赦なく打ち据えました。
荷物を持っていない虞候たちでさえ、息を切らして不満を漏らしました。
「以前のように早朝に歩けばいいものを、なぜこんな炎天下に歩かせるのだ」
楊志は怒鳴りつけました。
「勝手なことを言うな! 以前は安全な平地だった。だが今はいつ賊が出るか分からない難所だ。明るいうちに峠を抜けねば、命がいくつあっても足りんぞ!」
虞候たちは表面上は従いましたが、腹の中では「いつか見ておれ」と呪っていました。
木陰で休んでいた謝都管に、虞候たちが泣きつきました。
「楊志の奴め、たかが流れの役人の分際で威張り散らしおって」
都管は彼らをなだめました。
「旦那様が逆らうなとおっしゃったから黙っているが、私も腹に据えかねている。まあ、しばしの辛抱だ」
兵たちも汗だくになりながら都管に窮状を訴えましたが、都管は「東京に着いたら私が褒美を出すから、今は耐えてくれ」と慰めるしかありませんでした。
翌朝、まだ暗いうちに兵たちが準備を始めると、今度は楊志が「寝ていろ!」と怒鳴り散らしました。
「涼しいうちに行こうとしても叩かれ、暑い中歩かされても叩かれる。どうすればいいんだ!」
兵たちの不満は頂点に達し、都管も内心で楊志を憎み始めました。
六月四日。正午近く、空には一点の雲もなく、太陽が火を噴くように照りつけていました。
【古詩に寄せて】
火の神が南から現れ、火龍を鞭打つ。
空は赤く焼け、まるで燃え盛る旗のよう。
太陽は天の真ん中で立ち止まり、万物は燃え盛る炉の中にある。
山々の翠は枯れ果て、海の波さえも干からびようとしている。
あぁ、いつになったら秋の風が吹き、この天下の熱を掃き清めてくれるのか。
一行が二十里ほど歩いたところで、急な坂道に差し掛かりました。兵たちは限界を迎え、柳の木陰に荷を投げ出そうとしましたが、楊志が立ちはだかりました。
「歩け! 早くあの岡を越えるんだ!」
しかし、この日の暑さはもはや異常でした。
【暑さを讃えて】
熱気は人を蒸し上げ、埃は顔を打つ。
天地は巨大な蒸し器となり、太陽は天辺で燃えている。
風は死に絶え、樹木は焼け、谷の底は裂ける。
空の鳥は力尽きて林へ落ち、水底の魚は泥の中へと潜り込む。
石の虎ですら喘ぎを止められず、鉄の像からも汗が滴るようだ。
一行が這うようにしてたどり着いたのが、黄泥岡という場所でした。
兵たちは我先にと松林の中に倒れ込みました。
「こら、ここはどんな場所か分かっているのか! 立て、歩くんだ!」
楊志が鞭を振り回しても、兵たちは「殺されたって、もう一歩も動けない!」と動こうとしません。
遅れて登ってきた都管と虞候も、その場にへたり込みました。
「提轄、無理を言うな。さすがにこの暑さは死人が出る」
「都管、ここは黄泥岡です。真っ昼間でも強盗が出る難所なのです。こんな所で休んでは、格好の餌食になります!」
「聞き飽きたよ、脅かすのもいい加減にしろ!」と虞候が吐き捨てました。
都管も続けます。「少し休んで、日が傾いてから行けばよかろう」
「この先、数里は人家もありません。今行かねば野宿になりますぞ!」
楊志が強引に兵を立たせようとすると、ついに都管が激怒しました。
「楊提轄! 私はこれまで多くの将軍を見てきたが、お前のような不届きな振る舞いは初めてだ。私は相公の家の都管だぞ。私の言うことが聞けないのか!」
「都管、あなたは屋敷育ちで、世の中の厳しさを知らないだけなのです」
「何を! 私だって各地を旅したが、お前のような不吉な話は聞いたことがない。そんなに文句があるなら、私の舌でも引っこ抜いてみろ!」
その言い合いの最中、向かいの松林から一人の男が顔を覗かせました。
「見ろ、怪しい奴だ!」
楊志はすぐさま朴刀を掴んで林へ駆け込みました。
林の中には、七台の車が置かれ、七人の男たちが上半身裸で涼んでいました。そのうちの一人のこめかみには、大きな赤いあざがありました。
「貴様ら、何者だ!」
楊志の一喝に、七人は驚いて飛び起きました。「なんだ、あんたこそ何者だ?」
「怪しい奴らめ、正体を明かせ」
「俺たちはただの棗売りだ。強盗が出ると聞いたから、涼しくなるのを待って、みんなで一緒に越えようとしてるんだよ。あんたを強盗かと思って様子を見てただけだ。疑うなら棗でも食ってみな」
楊志があたりを調べると、確かに中身は棗ばかり。ただの行商人のようです。
「すまなかった。俺も強盗かと思ってな」
楊志が戻ると、都管が鼻で笑いました。
「どうだ、強盗はいたのかね?」
「……ただの棗売りでした」
楊志もさすがに疲れ果て、武器を置いて木陰に腰を下ろしました。
しばらくすると、天秤棒を担いだ一人の男が、歌を歌いながら岡を登ってきました。
「太陽は火のように照りつけ、田んぼの苗は枯れ果てる。農夫の心は煮え返るようだが、貴族の若殿は優雅に扇を使っている……」
男は松林で荷を下ろし、涼み始めました。桶の中身を聞くと、白酒だと言います。
喉が張り裂けそうな兵たちが「売ってくれ」と詰め寄ると、楊志が厳しく制しました。
「ならん! 素性の知れない酒など飲んで、痺れ薬でも入っていたらどうする!」
売り手の男は面白くなさそうに言い返しました。
「余計なお世話だ。こっちこそ、薬が入ってるとか難癖をつけるような奴には売らねえよ」
そこへ、先ほどの棗売りの七人がやってきました。
「何を騒いでるんだ?」
事情を聞くと、七人は笑いました。
「なんだ、そんなことか。俺たちも喉が渇いてるんだ。疑うなら、まず俺たちに一桶売ってくれ」
売り手は渋りましたが、五貫文を積まれると、一桶を渡しました。七人は次々に酒を掬って飲み、棗をつまみにあっという間に飲み干してしまいました。
「もう一つの桶も売ってくれ」と頼みますが、売り手は「こっちは売らねえ」と頑なです。
その時、一人の男(劉唐)が強引に蓋を開け、半柄杓ほど掬って飲みました。売り手が慌てて追いかけると、別の男(呉用)が林から出てきて、桶に柄杓を突っ込み、何かを注ぐような仕草を見せました。
「こら! 何をしやがる!」
売り手は呉用の手から柄杓を奪い取り、桶の中へ戻して蓋をしました。「なんて行儀の悪い客だ!」
この光景を見ていた兵たちは、もう辛抱できませんでした。
「都管様、あの棗売りたちがあんなに飲んでも何ともありません。我々にも飲ませてください」
都管も限界でした。楊志に向かって言いました。
「もう、これくらい許してやれ。棗売りも飲んだのだし、毒などあるはずがないだろう」
楊志も(奴らが目の前であれだけ飲んだのだから、大丈夫だろう)と考え、ついに許可を出しました。
兵たちは小銭を集めて酒を買い、大喜びで回し飲みしました。都管も虞候も飲み、最後に楊志もあまりの暑さに耐えかね、半分ほどを飲み干して棗を口にしました。
売り手の男(白勝)は「さっきの客に飲まれた分、少し負けてやるよ」と笑い、空になった桶を担いで岡を下りていきました。
すると、それまで涼んでいた棗売りの七人が、楊志たちを指差して冷ややかに笑いました。
「倒れろ、倒れろ……!」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに、十五人の視界がぐにゃりと歪みました。足腰から力が抜け、一人、また一人と地面に崩れ落ちていきます。
七人は松林から車を出し、棗を捨てると、十一担の金銀財宝を鮮やかに積み込みました。
「ご馳走さん!」
皮肉な一言を残し、彼らは風のように去っていきました。
【詩に寄せて】
民の汗と涙を絞り取って祝いをする。
民の苦しみに目を向けぬ者。
結局は自らが盗賊を招いたことに気づくがいい。
悪意に満ちた財宝には、必ず因果の報いがあるのだ。
楊志は、意識だけはかすかにありましたが、指一本動かすことができません。奪われていく宝を、ただ虚しく眺めることしかできませんでした。
さて、この七人とは一体誰だったのでしょうか。言うまでもなく、晁蓋、呉用、公孫勝、劉唐、そして阮氏三兄弟です。酒売りの男は白勝でした。
仕掛けはこうです。二つの桶には最初は何も入っていませんでした。一つを七人が飲み、もう一つを劉唐が飲んで安全を信じ込ませました。そして呉用が、薬を仕込んだ柄杓で桶をかき混ぜ、白勝がそれを桶の中へ戻した瞬間に、蒙汗薬(強力な痺れ薬)が酒に混ざったのです。これこそが、呉用が練り上げた策略「智取生辰綱」の全貌でした。
楊志は飲んだ量が少なかったため、夜更けになってようやく起き上がることができました。しかし他の十四人は、いまだに地面に転がって泥のように眠っています。
楊志は絶望の淵に立たされました。
「生辰綱を奪われて、どうして梁中書に顔向けできようか。身分を証明する文書も捨ててしまった。家にも帰れず、どこへ行けばいい……いっそ、この崖から飛び降りて死んでしまおうか」
楊志は覚悟を決め、黄泥岡の崖っぷちへと歩みを進めました。
【詩に寄せて】
三月の雨が、せっかくの花を散らしてしまい、
秋の霜が、美しい柳の枝を枯らしてしまう。
果たして、誇り高き青面獣・楊志の命運はどうなるのでしょうか。
【Vol.016】:【神回】インテリ天才が考えた「絶対バレない最強の強奪作戦」がエグすぎた件www
1. 夢のお告げで「ドリームチーム」結成!
まず、村長の晁蓋兄貴のところに、怪しい道士の公孫勝が「ヤバいお宝の輸送情報ありますよ」って凸してくるところからスタート。そこに軍師の呉用(超インテリ)も混ざって、合計7人のガチ勢が集結。「これ、北斗七星が俺ん家に落ちてきた夢の正体じゃね?」ってことで、運命感じちゃって「生辰綱強奪プロジェクト」が始動します。協力者に地元の陽キャ、白勝も指名して準備は万端。
2. 現場の空気が「ブラック企業」すぎて詰んでる楊志
一方、お宝を運ぶ責任者は「青面獣」こと楊志。こいつは超エリートだけど、過去に失敗してて「次は絶対ミスれない」ってガチガチに緊張してるタイプ。
真夏のエグい暑さの中、楊志は「夜は強盗が出るから昼間に歩くぞ!」っていう超絶スパルタ命令を連発。重い荷物を持たされてる部下たちは「これパワハラじゃね?」「もう一歩も動けねえわ」とメンタル崩壊寸前。上司の都管ともギスギスしてて、チームの雰囲気は最悪。もうこの時点でフラグ立ってます。
3. 黄泥岡(強盗の名所)で「神ドッキリ」決行
一行がヘトヘトで「黄泥岡」っていう峠に着いた時、運命の時間が来ます。
木陰で休んでると、現れたのは「棗売りの商人」に化けた晁蓋たちの集団。そこにタイミングよく、お酒を担いだ白勝が歌いながら登場。
部下たちは「酒だ!飲ませろ!」って騒ぐけど、慎重派の楊志は「待て、これ絶対薬とか入ってるだろ」とガード。
4. 呉用の「神すぎる」ソーシャルエンジニアリング
ここからが呉用の本領発揮。
まず、強盗グループ(晁蓋たち)が先に一桶をペロリと飲み干して「安全アピール」をします。
さらに、もう一つの桶を奪い合うフリをして、ドタバタしてる一瞬の隙に呉用が特製の「しびれ薬」をチャージ。
これを見た楊志も「あ、あいつらも飲んでるし、別の桶から直接掬ってるから大丈夫か……」と見事に騙されて「ワンチャン飲んでよし!」と許可。
みんなで「お疲れー!」って乾杯した直後、全員ガチで白目を剥いてダウン。
5. 楊志、絶望のあまり「人生オワタ」
目が覚めたらお宝は全部消えてて、犯人たちは「ごちそうさまー!」と煽り散らかして撤退済み。
楊志は一人取り残されて、「もうキャリアもプライベートも詰んだ……死ぬしかないんか?」と崖っぷちで絶望の涙。エリートのプライドがボロボロになったところで、次回へ続く!
【今回のまとめ】
呉用: 心理戦の天才。初見殺しのギミックで完全勝利。
楊志: 仕事はできるが、現場の不満を無視しすぎて足元を救われるタイプ。
教訓: 喉が渇いても、怪しいセールスマンから酒を買ってはいけない。あと、部下には優しくしよう。
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主要人物図鑑(登場順)
029:白日鼠・白勝★梁山泊一〇八将★
今回のMVPにして、水滸伝屈指の「おいしい役回り」をさらっていった白勝先輩についてですね。
こいつ、一見すると「ただの酒売りのコスプレしたおっさん」ですけど、実は梁山泊の物語全体で見ると、「人生の乱高下がエグすぎる男」なんですよ。
あだ名「白日鼠」。直訳すると「真っ昼間に動き回るネズミ」。
これ、褒め言葉じゃなくて「コソ泥」とか「セコい博打打ち」って意味です。定職につかず、村のヤベーやつらとつるんで博打ばっかりしてる、いわゆる「地元のニート系無頼漢」でした。
でも、村長の晁蓋兄貴には過去に借金を肩代わりしてもらったのか、「恩があるんで、兄貴のためなら体張ります!」っていう、変なところで義理堅いマインドの持ち主なんです。
2. 第十六回の「神演技」がレベチ
この回の白勝は、マジで「アカデミー賞助演男優賞」ものです。
ワンオペの極致: クソ熱い中、酒の桶を天秤棒で担いで、鼻歌歌いながら峠を登ってくる。
煽りスキルの高さ: 楊志に「毒入ってんだろ!」って疑われたら、「は? 疑うような奴には売らねえよw」って逆ギレして、相手の「飲みたい欲」を爆上げさせる。
ポーカーフェイス: 呉用たちが目の前で薬を仕込んでる間、完璧に「あー、客に行儀悪くされたわー、最悪だわー」という被害者のフリを完遂。
この「絶対にバレちゃいけないドッキリ」を成功させた功績は、実は呉用と同じくらいデカいんです。
3. その後の展開が「詰み」すぎてて草
この強盗事件の後、白勝は真っ先に「身バレ」します。
そりゃそうです、地元で有名な無頼漢がいきなり大金使い始めたら目立ちますよね。速攻で役人にパクられ、拷問部屋へ連行。
ここで白勝先輩、「拷問痛すぎる無理www」ってなって、あっさり晁蓋たちの名前を吐いちゃいます。
「え、裏切り者じゃん!」って思うかもしれませんが、これが彼の人間味。でも、ここからが梁山泊の熱いところ。晁蓋たちは「吐いた白勝も悪いが、助けないのは義にもとる!」って言って、わざわざ監獄を襲撃して彼を救い出します。 ここで白勝、正式に梁山泊メンバー入り(内定)です。
4. 梁山泊での立ち位置(地味だけど重要)
最終的なランキングは108人中106位。
「下から数えたほうが早いじゃん!」ってバカにしちゃいけません。彼は戦闘力はゴミですが、「潜入・偵察」のスペシャリストとして重宝されます。
ネズミみたいにどこにでも入り込む。
変装して敵陣の情報をゲットしてくる。
メッセージを届けるパシリ(失礼、伝令)として爆走する。
派手な無双シーンはないけど、「白勝がいなきゃ詰んでた」っていう地味に大事なミッションをいくつもこなす、裏方界のエースなんです。
5. 最期はどうなった?
物語のラスト、方臘の乱という地獄の遠征中、彼は戦死ではなく「病死」します。
数々の修羅場を「ネズミ」のごとく生き抜いてきた彼ですが、最後は流行り病に勝てなかった……。でも、あの「酒売りドッキリ」で歴史に名を刻んだ実績は、108人の中でも一生語り継がれる伝説となりました。
白勝ってどんなやつ?
一言でいうと、「メンタルは弱めだけど、ここぞという時の演技力とステルス性能が完凸してる、愛すべきお調子者」です。
もし現代にいたら、「怪しいけどなぜか憎めない、潜入レポ系YouTuber」としてバズってたかもしれませんね。第十六回を読むときは、この「必死に酒売りを演じてる、心臓バクバクの白勝」の緊張感を想像すると、さらにパッションを感じるはずです!




