〇〇九:柴進は門を開いて天下の豪傑を招き、林沖は棒を振るって洪教頭を打ち負かす
物語は、あの薄暗い野猪林のただ中へと戻ります。
護送役の薛覇が、殺意を込めて水火棍を両手で振り上げました。林沖の脳天を叩き割ろうとした、まさにその刹那のことです。
「待て!」と叫ぶ間もありません。棍棒が振り下ろされるより早く、背後の松の木陰から、まるで雷鳴が轟くような咆哮が響き渡りました。
一条の鉄禅杖が閃光のように飛来し、薛覇の棍棒を凄まじい勢いで弾き飛ばしたのです。弾かれた棍は、遥か空の彼方、雲の向こうまで消え去りました。
そこへ躍り出てきたのは、岩のような筋骨を誇る、一人の巨漢の僧侶でした。
「この生臭坊主がお前たちの悪巧みを、林の陰でずっと聞いていたぞ!」
腰を抜かした公人二人が見上げると、そこには黒い直裰を纏い、腰に戒刀を差し、禅杖を構えて今にも二人を打ち殺さんと息巻く、猛々しい和尚の姿がありました。
九死に一生を得た林沖が、おそるおそる目を開けると、そこに立っていたのは義兄弟の契りを結んだ魯智深ではありませんか。林沖は慌てて声を上げました。
「師兄、お待ちくだされ! 手出しは無用、どうか拙者の話を聞いてください」
智深は荒い息をつきながら禅杖を止めましたが、震え上がる二人の公人は、恐怖のあまり身動き一つできません。林沖は静かに言葉を継ぎました。
「この二人の罪ではないのです。すべては高太尉が陸虞候に命じ、私を殺せと強いたこと。しがない役人の身で、その命に逆らえましょうか。ここで彼らを殺せば、それこそ本当の冤罪になってしまいます」
魯智深は鼻を鳴らし、戒刀を引き抜くと、林沖を縛り上げていた縄を鮮やかに断ち切り、彼を抱き起こしました。
「兄弟よ、あの宝刀を買った日に別れて以来、あっしはお前の身が案じられて夜も眠れなかったのだ。お前が罪に問われてからも、救う手立てが見つからず……。滄州へ流されると聞き、まずは開封府の前で待ち伏せていた。ところが、『使臣房に監禁されている』と聞き、さらには酒屋でこの二人のろくでなしが、『奥の部屋で旦那がお待ちです』などと怪しげな密談をしているのを見かけ、疑念は確信に変わった。道中で無体な目に遭わされぬよう、ずっと後ろをつけてきたのだ。昨夜の宿でも、こ奴らが熱湯でお前の足を火傷させたのを見て、その場で叩き殺してやろうと思ったが、客が多くて騒ぎになるのを恐れた。だから今朝、先回りしてこの林で待ち構えていたのだ。ここは奴らを始末するのに、これ以上ない誂え向きの場所だからな!」
林沖はなおも熱心に宥めました。
「助けていただいた恩は一生忘れません。なればこそ、この者たちの命だけは助けてやってください」
智深は二人の公人を激しく怒鳴りつけました。
「このろくでなしども! 兄弟の顔に免じて、細切れにされるところを許してやるわ。さあ、兄弟を肩に担いで、あっしの後ろについて来い!」
禅杖を軽々と担いで歩き出す智深の後を、二人の公人は「林教頭、お助けを」と泣きつきながら、重い荷物を背負って林の外へと這い出しました。
三、四里ほど歩くと、村の入り口に一軒の小さな居酒屋が見えてきました。
【風景を写す詩】
街道の先に宿駅の道が伸び、裏手には清らかな渓流の村が寄り添う。
数株の桃と柳が深い緑の陰を作り、葵や石榴の紅が鮮やかに咲き乱れている。
門の外には麻や麦が鬱蒼と茂り、窓の向こうでは蓮の花がしなやかに揺れる。
薫風に酒旗は軽やかになびき、短く編まれた葦の暖簾が真夏の酷暑を遮る。
壁際の甕には村自慢の濁酒がなみなみと湛えられ、
棚の瓶からは芳醇な美酒の香りが漂ってくる。
白髪の翁は静かに器を洗い、紅顔の乙女は晴れやかな笑顔で客を迎える。
魯智深、林沖、董超、薛覇の四人は店に腰を下ろし、肉と酒を注文しました。公人二人が智深の素性を探ろうと「失礼ながら、どちらのお寺の住持様で?」と尋ねましたが、智深は鼻で笑い飛ばしました。
「ろくでなしめ、あっしの居所を聞き出して、高俅に告げ口するつもりか? 他人は奴を恐れても、あっしはこれっぽっちも恐ろしくないわ。出くわしたら最後、この禅杖を三百回は見舞ってやる!」
二人は恐ろしさに震え上がり、二度と口を開きませんでした。酒を飲み終えると、智深は厳かに宣言しました。
「『人を殺さば血を見よ、人を救わば徹底せよ』だ。あっしはお前を滄州まで送り届けてやる」
公人たちは顔を青ざめさせましたが、この和尚の威圧感には到底逆らえず、渋々従うほかありませんでした。
それからの道中、智深の命令は絶対でした。十七、八日が過ぎ、滄州まであと七十里という地点まで来ると、周囲には人家が増え、刺客が潜むような寂しい場所もなくなりました。智深は林の中で足を止め、林沖に告げました。
「兄弟、ここら辺りは人通りも多い。あっしの役目はここまでだ。いずれ、またどこかで会おう」
別れ際、智深は二人の公人を鋭い眼光で睨みつけました。
「貴様らの頭は、この松の木よりも硬いか?」
「いえ、滅相もございません。ただの皮と肉で包まれた骨にございます」
智深はフンと鼻を鳴らすと、禅杖を一閃させました。凄まじい破壊音とともに、大松の幹に二寸もの深い傷が刻まれ、太い幹がへし折れました。
「もし兄弟に少しでも邪心を抱けば、貴様らの首もこの松と同じ運命を辿ると思え!」
そう言い残すと、智深は風のように去っていきました。董超と薛覇はあまりの衝撃に言葉を失い、「恐ろしい坊主だ、一撃で木をへし折るとは……」と震えが止まりません。林沖が「これしきのこと、師兄にとっては朝飯前。以前、大相国寺の柳を根こそぎ引き抜いたこともあるのだ」と話すと、二人はただ驚愕して首を振るばかりでした。
やがて昼時になり、三人は一軒の立派な構えの酒店に辿り着きました。
【酒店の体裁を讃える詩】
古道にひっそりと佇む、孤村の優雅な酒店。
柳揺れる岸辺、朝風に錦の酒旗が鮮やかになびき、
蓮の花咲く湿原、青き暖簾が涼しげに揺れている。
壁には古の風流人、劉伶や李白の酔いしれる姿が描かれ、
村の地酒は農夫に活力を与え、老翁の顔を赤らめる。
神仙さえもその香りに誘われて宝玉を預け、
高貴な方々も冠を質に入れてまで飲み明かすという。
店に入ったものの、給仕たちは忙しく立ち働いており、林沖が罪人の姿であるのを見るや、まともに相手をしようとしません。林沖がしびれを切らして机を叩くと、店主が慌てて出てきて宥めました。
「旦那、どうかお怒りめさるな。実はこの村には柴進という、天下にその名を知らぬ者はない『小旋風』大官人がおられるのです。大周の柴世宗の後裔で、太祖皇帝から『誓書鉄券』という免罪の特権を賜った貴きお方。大官人は流罪となった豪傑を助けることを無上の喜びとされており、『罪人が通りかかったら、まずは私の屋敷へ寄らせるように』と仰せなのです。ここで腹を膨らませてしまっては、大官人の心のこもった施しを受けられなくなると、我らなりに気を利かせた次第でございます」
林沖はそれを聞いて喜び、二人の公人を連れて柴大官人の屋敷へと向かいました。
その屋敷は、まるで王族の宮殿かと思うほど、壮麗な構えでした。
【柴進の邸宅を称える詞】
重厚な門は帝の道に臨み、背後の山々は青龍が如き威容を誇る。
武陵の桃源郷のように花々が咲き誇り、名高き金谷の苑のごとく百花が競う。
「聚賢堂」には四季を問わず奇しき花が咲き、
邸内には勅命の金牌と、代々の宝である誓書鉄券が輝いている。
朱塗りの柱と碧色の瓦は、九層に重なる高楼を彩り、
見事な彫刻が施された梁は、さながら帝王の住まう宮殿を彷彿とさせる。
橋の上で涼んでいた家来に「東京の禁軍教頭、林沖と申す者が拝謁を願っている」と告げましたが、運悪く柴大官人は狩りに出ていて不在だといいます。林沖が落胆して引き返そうとしたその時、遠くから数十騎の人馬が砂煙を上げて近づいてきました。
その中心にいたのは、眉目秀麗で凛々しい風格を漂わせた、三十五、六歳の貴公子でした。雪のように真っ白な馬に跨り、紫の刺繍が施された贅沢な袍を纏っています。これこそが、柴進その人でした。
柴進は林沖の名を聞くや、馬から飛び降りて草の上に膝をつきました。
「林教頭の大名は、かねがね耳にしておりました。まさか、このような辺境の地でお会いできるとは、何たる光栄!」
柴進は感激した様子で林沖の手を引き、奥の広間へと招き入れました。
酒宴が始まると、柴進は最高級の羊を料理させ、豪華な皿を次々と並べさせました。そこへ、洪という名の剣術教師が、尊大な態度で現れました。柴進が「こちらは東京八十万禁軍の教頭、林沖殿だ」と紹介しても、洪教頭は鼻で笑い、「このような薄汚れた配軍(罪人)を、なぜこれほど厚遇するのか。大官人はお人が良すぎる。私と棒で立ち合って勝てるなら、本物と認めてやろう」と無礼な挑発を繰り返しました。
柴進は、内心では林沖の真の実力を見たいと思い、二人に試合を勧めました。月が昇り、中庭は昼間のような明るさに包まれています。
林沖は最初、相手が柴進の師範かもしれないと遠慮して手加減していましたが、柴進が「気にせず本力を出されよ」と促し、さらに「勝った者に銀二十五両を遣わす」と褒美を投げ出すと、林沖はついに覚悟を決めました。
洪教頭は「把火焼天勢」という、大きく上段に構えた力任せの構えで打ちかかります。対する林沖は「撥草尋蛇勢」という、地を這うような低い構えで応じました。洪教頭が力任せに打ち込むのを、林沖は木の葉のようにひらりとかわし、相手の足元がわずかに乱れた一瞬の隙を見逃しませんでした。林沖の棒が、稲妻のように一閃しました。
「パシッ!」
乾いた音が響き、棒の先端が洪教頭の向こうずねを的確に捉えました。洪教頭は悲鳴を上げ、持っていた棒を投げ出して、無様に地面に転がりました。
柴進は大喜びで拍手し、周囲の人々は大笑い。あまりの屈辱に顔を真っ赤にした洪教頭は、そのまま逃げるように屋敷を去っていきました。
数日後、柴進から手厚い紹介状と路銀を授かった林沖は、ついに目的地である滄州の牢城営に到着しました。
【牢城営の威容】
門は天を突くほど高く、壁は鉄のように堅牢。敷地は果てしなく広く、堀は底知れぬほど深い。
柳の枝は煙のようにたなびき、古木の松が青々と生い茂る。
出入りするのは鉄の意志を持つ剛の者たち、
行き交うのは死をも恐れぬ猛者ばかり。
監獄に入ると、古参の囚人たちが林沖に声をかけました。
「ここの差撥(さぱつ:役人)や管営(かんえい:所長)は欲深な連中だ。金を包まねば『殺威棒』という百叩きの刑で、生かさず殺さずの地獄を味わせられるぞ」
案の定、現れた差撥は「この賊配軍め! なぜ跪かぬ!」と汚い言葉を浴びせてきました。しかし、林沖が柴進から預かっていた銀五両をそっと差し出すと、その態度は驚くほど一変しました。
「おお、林教頭。お名前はかねがね伺っております。端正なお顔立ち、やはりただ者ではございませんな。高太尉に陥れられたとのこと、お察しいたします」
さらに管営にも銀と柴進の書状を届けると、林沖は「殺威棒」を特別に免除され、最も楽で安全な仕事である「天王堂の看守」に任命されました。
こうして林沖は、天王堂で掃除をし、香を焚きながら平穏な日々を過ごし、四十日余りが過ぎました。冬の足音が聞こえ始めたある日、林沖が営の外を散歩していると、背後から聞き覚えのある、懐かしくも不吉な声が聞こえてきました。
「林教頭、なぜこのような所におられるのですか!」
振り返った林沖の目に飛び込んできた人物とは――。
それは林沖の運命を再び激しい火の海へと叩き込む、残酷な再会でした。
【Vol.009:林沖、絶体絶命からの「神」展開】
1. 脳筋の親友、ストーカーばりの愛で参上!
舞台は殺意100%の「野猪林」。護送役のクズ二人が林沖をボコろうとした瞬間、茂みから「待てコラァア!」とガチギレした魯智深がダイブ。
実はこの和尚、林沖が心配すぎてずっと後ろからストーキング(保護)してたんです。まさに「神」降臨。クズ二人は腰を抜かして失禁寸前。魯智深は「こいつら肉団子にしてやろうか?」と鼻息荒いけど、聖人・林沖が「仕事なんだから許してあげて」と神対応で制止。結局、目的地近くまで和尚が24時間体制でフルガードすることに。別れ際、和尚が「手出ししたら首折るぞ」って松の木を素手でブチ折って威嚇したの、マジでパワフルすぎて草。
2. 課金勢の貴公子、柴進氏がパトロンすぎる
滄州へ向かう途中、林沖たちは超リッチな名士・柴進に出会います。この人、大周皇帝の末裔で「免罪符」持ちという最強の課金勢。しかも、流罪になった有名人にスパチャしまくるのが趣味っていう超ホワイトなパトロン。
柴進は林沖に会うなり「うおおお本物の林教頭じゃん!推せる!」と大興奮。最高級のディナーと酒でVIP待遇。
3. 煽りカス教頭、林沖に1ミリでボコられる
そんな中、柴進の屋敷にいた洪教頭っていう性格の悪い格闘技講師が登場。「罪人の分際で調子乗ってんじゃねーよ、俺とタイマンしろよ」と超絶煽り。
柴進も「林教頭のガチが見たいな~」ってことで、賞金を賭けて試合スタート。
洪教頭はめちゃくちゃイキって大振りの技を出すけど、林沖は「あ、こいつ、雑魚だな」と一瞬で見抜き、シュッとかわして足元に一撃。パシッ!という音と共に洪教頭は派手に転倒して爆死。「はい、実力差乙」。煽りカスは恥をかいてソッコーで退場していきました。
4. 地獄のプリズンも「マネーの力」でヌルゲー化
最後、林沖は刑務所(牢城営)に到着。最初、看守が「おいゴミ配軍!」と怒鳴り散らしてくるけど、林沖が柴進からもらった銀をそっと渡した瞬間、看守の態度が180度変わって「いや~林様、お噂はかねがね!」と媚び売りモード。
結局、きつい重労働は全部免除され、一番楽な「お堂の掃除当番」という神ポジションをゲット。
「持つべきものは、物理最強の親友と、石油王並みのパトロン、そして現金」
林沖、運勢のV字回復がすごすぎて全読者がニヤける回です!
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主要人物図鑑(登場順)
011:小旋風・柴進★梁山泊一〇八将★
スペックが「運営の寵児」すぎる件
一言でいうと、「前王朝のガチ皇族末裔で、国公認の『BAN無効パス』を持ってる最強の支援者」です。
1. 血筋が「ロイヤル」すぎて草
柴進の先祖は、今の「宋」ができる前の「大周」っていう国の皇帝(柴栄)。今の皇帝の家系に国を譲った形になってるから、現政府も柴進の一族には手出しできないっていう、歴史レベルの超絶VVIPなんです。
2. 所持アイテム:『誓書鉄券』がチート
これ、マジでヤバいアイテム。皇帝から直々に「お前の一族は何があっても処刑しないし、罪も免除するよ」と約束された「永久BAN無効パス」。
だから、自分の屋敷にどれだけ指名手配犯やワケアリの好漢を囲っても、警察(官憲)は指一つ触れられない。まさに「治外法権の聖域」を経営してるオーナーなんです。
3. 趣味:英傑への「爆速スパチャ」
柴進の生甲斐は、才能あるヤツや不遇なヒーローに投資すること。
林沖が来た時も、馬から飛び降りて「うおおお!本物の林教頭じゃん!会いたかった~!」とガチ勢のオタクみたいなテンションで大歓迎。
単に金持ちなだけじゃなく、相手のリスペクトが半端ない。豪華なメシ、いい酒、そして別れ際には「これ、軍資金ね」って現金を握らせる。推しへのスパチャ額が桁違いなんです。
4. ビジュアル:圧倒的な「陽キャのカリスマ」
登場シーンからしてエモい。白い名馬にまたがって、紫の刺繍が入った高級ブランド服をさらっと着こなす。35歳くらいのイケおじで、顔も良くて性格もホワイト。
林沖みたいな「実力はあるのに運が悪くて詰んでる勢」からしたら、絶望の淵に現れた「光り輝く救済者」にしか見えません。
5. 「小旋風」っていう名前の由来
「小さなつむじ風」って意味だけど、彼が動けば天下の豪傑たちが風に巻き込まれるように集まってくる。彼がいるだけで、そこが「梁山泊のエピソード0」みたいなコミュニティになっちゃうんです。
柴進の「神」ポイント
経済力: 無限。
権力: 国家公認の無敵モード。
性格: 困ってるヒーローを見過ごせない「徳」の塊。
役割: 林沖という「SSRキャラ」が消滅しそうな時に現れて、最強のバフをかけてくれる最高のサポーター。
今の時代にいたら、「元皇族の超有名インフルエンサー兼、若手起業家(好漢)たちを支援しまくるエンジェル投資家」って感じ。
林沖との出会いは、まさに「どん底の無課金勢が、サーバー最強の重課金パトロンに拾われた」くらいの激アツ展開なんです!




