あとがき
曲亭馬琴原作による「南総里見八犬伝」では語られる事の無かった、
怨霊玉梓の出自や少女期のエピソード。
物語の原点となった最重要人物の過去が、なぜ語られ無かったのか?
私は玉梓の処罰とその経緯に、どうにも拭えない違和感を持ちました。
当時の世情は室町幕府の中頃。
中央の統制は緩み地方豪族の反乱が相次ぎ、
重税に苦しむ農民が一揆を起こすなど、
不安定さが増していた時代です。
いくら城主の愛妾が悪女だとしても、
それが国の乱れの原因では無いだろうと。
責任は為政者にこそあれ、玉梓の悪事が如何ほどの事かと。
金碗八郎の玉梓に対する異常なまでの固執は何故か。
進言を受け入れて貰えなかったと言う理由での出奔。
それのどこが忠臣なのか?
また光弘暗殺の実行犯は八郎の子飼いの者。
主君の仇討ちと言いながら、他国の武将に国を明け渡す。
しかも里見義実は幕府に謀反を起こして敗れた敗残兵。
玉梓の存在が無ければ、逆賊はむしろ八郎ではないのか?
罪を玉梓に被せる事で自らを正当化したのではないのか?
そう思えて来たのです。
そうなると浮かび上がるのは、その美貌故に男に翻弄され、
無念の末路を辿った哀れな女人の物語。
それでこそ怨霊となるに相応しい。
玉梓と言う言葉には「伝言を届ける使者」の意味が有ります。
古来より恋文の代名詞として使われて来ました。
なんと麗しい名前でしょう。
その名に相応しいストーリーが必要だとは思いませんか?
それを書いてみようと思った次第です。
楽しんで頂けましたでしょうか?