表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

*第5話 はやて

城門を見上げながら高さの不揃いな石段を登る。

荘寿の屋敷に逗留とうりゅうして三日目、ようやくお目通りが叶った。

これでも異例の早さである。

話を聞かされた定包さだかねは大いに同情し義憤ぎふんられた。

八郎の行状仁徳にあらずと、老臣から外すよう進言したのは彼であった。

主君の名誉をも汚しかねない此度こたびの非道は肚に据えかねる。

とは言え、玉梓の美しさに魅了されたのもいなめない。

多少の下心あれど義心に偽り無し、八幡様もお許しになろう。


「奏上はワシが申し上げる、そなたは聞かれた事に答えるだけで良い」

「まことに有難う存じます。なんとお礼を申し上げて良いやら、

この御恩は生涯忘れませぬ」

「なんのなんの、これしきの事じゃ」


至急に光弘との対面を実現させる為、定包は自慢の馬を献上した。

領内随一と駿馬しゅんめの誉れ高き疾風丸はやてまるである。

朝日を浴びて黄金色に輝く白馬を、以前から光弘は欲しがっていたのだ。

満面に笑みを浮かべ、二つ返事で応じた。


「きっと助けて進ぜようぞ」

「はい!」


ようやくおがむ玉梓の笑みは、梅がに咲く花をもしのぐ可憐さであった。

なぁに、馬のひとつ惜しいものかは!


思えば冷静さを欠いていたのだろう。

定包は重大な事を失念していた。

主君神余光弘の為人ひととなりを・・・


***


おもてを上げよ」


村娘の願い事なんぞ常ならば気にも掛けぬが、

疾風丸の褒美じゃと思うて家臣の顔を立ててやった。

懐の深きを示すも主君のうつわと言うものぞ。

その程度の肚積もりであった光弘は、

畏れながらと奏上する定包の言葉も右から左であった。

ちょっとした興味で、顔でも見てやろうと声を掛けて驚いた!

言葉を失うとはこの事である。

物心ついてよりこのかた、これほどの佳人かじんを見た事が無い。

天女仙女もくあらんや。

挿絵(By みてみん)


「それはそれは、難儀であったの。玉梓と申したか?」

「はい・・・」

「そう畏まらずとも良い、ほれ、近こうへ」

「は、はい・・・」

「ほれほれ、近う近う」


手が届きそうなほど近くへ招いて、まじまじと覗き込む。


「この一件、そちに任せるぞ定包」

「次第にっては金碗殿を断ずる事になるやも知れませぬ」

「であるか、善きに計らえ」

「承知仕りまして御座ります」


と、通常ならここで話は終わり光弘が退席する。

ところが一向に立とうとはしない。

にまにまと玉梓を眺めている。

まさか自分から席を外す事も出来ずに、

定包は所在を無くしてもぞもぞとするしかない。


「うむ、そうじゃ!茶の湯の一席なとしつらえようぞ。

茶の嗜みは有るかの?玉梓よ」

つたなき真似事に御座いますが」

「善きかな善きかな、では奥に参ろう」


そう言って玉梓を連れて行こうとするではないか。

慌てたのは定包である。


「お館様、これは一体なんとなされます」

「なんじゃ?まだ居たのか。くだん采配さいはいは任せたであろうが」

「されど玉梓殿は荘寿殿より預かりしところなれば」


屋敷まで送り届ける責任がありますと言う事である。


「ん?荘寿殿がどうしたと言うのじゃ」

「あいや、玉梓殿は荘寿殿の縁者に御座ります」

「ほう!さようであったか」


初めに説明したでは無いか!

あぁ、上の空であったな・・・


「荘寿殿には使いを出す。玉梓は城で預かるゆえ、そう心得よ」

「お、お待ち下さりませ!それは・・・」

「くどいっ!そちには既に命じたであろう!

一刻も早う玉梓のうれいを(はら)ってやるのじゃ!

何をぐずぐずとしておる!直ちに取り掛かるが良いわ!」


そこまで言われては、これ以上の問答は無理である。

戸惑い不安気な玉梓をちらちらと見やりながら、

定包はようやく己の失態に気が付いた。

光弘もまた八郎に劣らぬ、いやそれ以上に横暴の者であったのだ。


会わせるべきでは無かった。

今にして思えば必要も無かったのだ。

疾風丸と引き換えに八郎を処罰する事は出来ただろう。

それほどの値打ちを持つ馬であった。

見方を変えれば八郎にそこまでの価値は無い。

早まった事をしてしまった・・・


後ろ姿が悔やまれる。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ