勇者
「できるかな・・・?」
隣にいた男が不安げな声を上げた。
静かな部屋。男のつぶやきでも響いた。衣擦れの音、息を呑む緊張感
全て俺のために演出されたようなものだ。この日の為に準備はしてきた。
きっと大丈夫だろう。
「まかせとけって!」
本当に大丈夫か?自問自答しながらゆっくりと扉を開けた。
ギィイイィ....
古く錆びついた重い扉がゆっくりと開いた。
『グオォォォオォオォ!!!』
そこには燃え盛る炎を吐き出すドラゴンがいた。
見上げるほどの大きさと、まるで岩山のようなゴツゴツした肌
「うぉおぉぉおおおおおおお!!」
震える両足を叩き雄たけびに呼応するがの如く、叫び俺はドラゴンに向かって走り出した。
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「いやぁあ!!マジですごいじゃん!!そこまで行ったやつ見たことないよ!」
「ゲーム歴=年齢みたいなもんだからな!!余裕ですわ!」
発売から2年。このKing of Dragon。今やみんながハマる大人気オンラインRPGでこの階層までたどり着きボスを倒せた勇者は過去にいないだろう!
時は2125年昔は色々な国があり色々な文化があったとされているが、今は約80年前に起きた第三次世界大戦の後全ての国が世界政府によって統一された。
来週ある世界平和記念日の式典のために学校は半日で終わり世界中がお祭り騒ぎの中、俺は学校に残り友人とただひたすらゲームをしていた。
まぁ帰っても両親はアメリカにいるから一人で生活しなくちゃいけないしつまらないから仲間とこうやってゲームしてる方がよっぽど充実してるんだけどな。
「やっぱショウの腕はすごいなぁ。認めたくないけど勝てないわ~」
そう呟いているのは友人のダイキ。見た目はちょっとチャラそうな男だが俺にはない社交性を持っているから友人が多い。
「お前はそんなにチャラそうな感じなのにオンラインゲームやってるの本当意外だよな~」
「チャラそうはショウには言われたくないよ!お前だって入学してきたとき髪の毛金髪で近寄りがたい雰囲気出てたもん」
笑いながらダイキはそう返答してきた。
「ショウの両親アメリカ人なんだっけ?」
「そうだよ。この金髪も生まれた時からの地毛だよ。まぁ両親っていうか親父だけだけどね」
近寄りがたい雰囲気か・・・確かに出てたかもしれないなぁ
まぁコミュニケーション苦手でずっと縮こまってたからな。
「ボスクリアしたし祝杯上げ行こうぜ!SNSにあげれば明日からお前は有名人だもんなー」
「あー悪い!ちょっと用事あってさ、また今度でいい?」
「しょうがないなぁー。また明日学校でな」
ダイキはまだゲームの事で話したいことがあったのかわかりやすく肩を落としそう呟いて教室を後にした。
悪いな・・・でも今日は俺の推しのアイドル東城アリスちゃんの誕生日なのだっ!
今日はこの後新発売のアクリルスタンドを買って推しのライブ映像を家で鑑賞するという大事な大事な用があるのだ!
ニヤニヤする顔を抑えショウも鞄を手にふわふわと教室を後にした。