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第1話 私の婚約者

「もう、クライ様。私が代わりに倒して差し上げますわ! もう、本当に手のかかる方ですわ!」

「……いや、まて! それくらいのこと俺がしてみせる! ベスは下がっていろ!」

「そうはおっしゃいますが、よく周りを見てくださいませ! もう、時間がかかりすぎです。もう、周りの者たちの笑いものですわよ?」


 下級魔法しか使えない伯爵令息のクライシスの周りには、たくさんの人だかりができ、決断力のないクライシスに対しクスクスと嘲笑するものすらいた。私に言われ、クライシスは周りを見て唇を噛んでいる。私は目の前の魔獣を倒す補助をするために、クライシスに近寄ったのだが、お気に召さなかったらしい。

 とにもかくにも、パーティーで受けている学園の最終試験を突破しないと、卒業が出来ない。決断できないクライシスにいつまでもグズグズとされていれば、私だけでなく、パーティーを組んだ他の二人にも迷惑が掛かる。クライシスの婚約者である私が何とかしないといけないと思い隣に並んだ。

 手を翳すと、火の玉が私の手のひらへ突如として現れた。それは、メキメキと大きくなり威力を増していく。


「もう、素直に私の言うことを聞いてくださればいいのに」

「……聞きたくない。ベスのいうことなんて!」

「今は、それどころではありませんよ?」


 キッと睨むと、後ろにたじろぐクライシスに、後ろから小さなため息が聞こえてくる。及び腰になっているクライシスを同じパーティーメンバーである他の二人が見限ったのだろう。


「ベスは怖くないのか?」

「えぇ、全く。これは試験ですから。他の二人もクライ様が魔獣に止めを刺してくれるのを待っているのです」

「……そうは言っても、その……」


 私たちのパーティーの中で話し合いをした結果、クライシスに花を持たせようということになっていた。

 だからこそ、早く魔獣を倒してほしいと他の二人も口には出さないが思っているに違いない。


「もう! クライ様、しっかりしてくださいませ。私が攻撃魔法をしかけますか? それともクライ様に補助魔法をかけますか?」


 煮え切らないクライシス。こういうところを直さないと、いつまでたってもみなの笑いものなるのだ。親に爵位があるから誰も咎めはしないが、命にかかわるような場面で、うじうじとされていては、こちらの命がいくつあっても足りない。


「もう、クライ様。いい加減になさいませ! 今は授業だからこそ魔獣も幻影ですけど、本当ならクライ様の遅い判断で、ここにいるみなが死んでしまいます! 判断できないなら、リーダー失格です!」

「ベス!」

「もう、そこをどいてくださいませ!」


 少し強めにクライシスを押し退け、私が前に出ようとしたとき、別の女性に縋るようなクライシスを見た。私に押された勢いで尻餅をついていても、クライシスの心は私たちの卒業より、自身の恋心を優先させている。

 その様子を見て、私は危うくクライシスへ膨れ上がった火球を投げてしまいそうになったのをグッと我慢し思いとどまる。


 助けを求めるべき者は、目の前にいるのに、クライ様はどこを見ているのですか?


 クライシスの彷徨わせた視線を追わず、あえて目を瞑って感情を抑え、魔獣と向き合った。


「ベアトリス様! 婚約者であるクライシス様にあまりにもひどいのではありませんか?」

「……マリアーヌ」


 私の前に平民の女生徒が、崩れ落ちたクライシスを背に庇うように立ちはだかる。マリアーヌと呼ばれる彼女は、出自が平民でありながら、特別な魔法が使えるため、この学園で学んでいる。マリアーヌに縋るように背に隠れてしまったクライシスに言葉をなくす。


「大丈夫ですよ。私が力を貸しますから、クライシス様、一緒に魔獣を倒しましょう」


 寄り添うように座り込んだクライシスを立たせ、マリアーヌは魔法を使わせる。初級魔法であっても、マリアーヌがブーストをしたおかげか、火力は3倍になった。

 幻影の魔獣は跡形もなく消え失せ、クライシスとマリアーヌは手を取り合って喜んでいるが、取り残された私たち三人は、その二人の喜びを理解できずにただぼんやりと目の前で起こった不測の事態を受け入れるしかなかった。

 成績的に決して無事とは言えない卒業試験が、今、終わったのだ。私たちはクライシスとマリアーヌのせいで、卒業できる最低ライン評価しかもらえず、悔しい思いをすることになった。このパーティーに誘った他の二人に、私はただ謝るしかできなかった。

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