ケンのターン4
「うわっっ」
背後から肩をつかまれ、不覚にも情けない声を出してしまう。
いや、こんな状況なら誰だってこうなることだろう。
肩に置かれた手を反射的に振り払い、勢いに任せて振り返る。
「やほ。久しぶりじゃん?」
そこにはかつてよく見た、そして今となっては最も見たくない顔があった。
「ごめん。そんな驚くと思わなかったからさ。てか、こんな声のかけ方しなくても、驚くか。」
そこにいたのは、つい最近までおれの彼女だった人であり、最近のおれの沈みゆく気分の原因の一端を担うサヤカだった。
「なんでお前がこんな所にいるんだよ。っていうか、いまさらなんだよ。」
「うん。そのことなんだけどさ、ごめん。」
最近抱いていたイメージとは違い、しおらしく謝る元カノ。そんな姿を見ると嫌でも付き合っていた当時の事が思い出されてしまう。
「ごめんって?ほんとに謝る気があるなら、ちゃんと説明してよ。」「お前のこと、別れてからいろいろ聞いたぞ。」「別にもう別れたんだし?今さらなんとも思わないけどさ」
おれはフラれたことだけでなく、最近の不運や鬱憤まで彼女のせいだと言わんばかりにまくしたてる。端から見たら異様な光景というか、問題のありそうな光景だろうが、そんなこと今は知ったこっちゃない。
「その、今日ここを歩いてたらさ、たまたま良幸のこと見かけてさ。それで、迷ったけど声、かけたくなっちゃって。」「でも、そうだよね。」「ごめん。」「私、もう行くよ。」
なんだよ。急に来て、急にいなくなるって。切り替えようとしてるところなのに。
そう思ったが、実際は自分が何にも切り替えられていないこと、ちょうど色々うまくいってなくてやけになってきていることを思い出し、これ以上の文句を必死に飲み込む。
話したいことは山のようにあるが、とりあえず今は冷静に話せる状況じゃない事は自分でも分かっていた。
「いつまで、ここにいるんだよ」
「あ、ごめん。もう行く。」
「そうじゃなくて。いつまでこの町にいんの?時間あるなら少し話がしたい」
おれは今日の20時、サヤカと会う約束をし、母に頼まれていた用を済ますため、いや、自分の頭を冷やすため、店に向かった。