とものターン2
目が覚めると、時計の針は14時の少し前を指していた。
素晴らしい。大学生らしい時間に起きれた。今日の3限の講義にはもちろん間に合わない。もうどうにでもなれ。
二度寝に洒落込もうと、目を瞑る。
昨日起こったことがフラッシュバックする。
「お前にはまだ……言えない」
「ごめんね?好きな人、出来ちゃった」
「殺すぞ。てめえ」
みんな、どうしちゃったんだ。今まで普通に暮らしてきたつもりだった。
平々凡々。それはもう、アルビダに捕まっている時のコビーのように静かに過ごして、誰にも嫌われないように生きてきた……はずだ。
特に大学では完璧だった。
たった昨日、たった1日で、全てが崩壊してしまった。なぜだ。
一滴の涙が枕に落ちる。頬で感じる少し濡れて冷たい枕は、あいつのシャンプーの香りがした。
テレロンテレロン
電話が鳴る。
テテテ⤴︎ テテテ⤵︎ テテテ⤴︎ テテテン!といういつものライン電話じゃない。これは、滅多にならない電話の方だ。
そうだ。今日は、将来を決める日だ。電話で結果発表をするという今では珍しい企業さんだった。
プログラマを養成しつつ、いろんな企業や役所とコネクションがあり、安定系の企業だ。ここに入って、あいつを養ってやるくらいのつもりだった。
スマホを手に取り、重い体をグッと上げ、ベッド脇に座った。
緑色の通話ボタンを押し、その電話を取る。
「あ” い”。ん”ん”ん”。はい。なえくらです」
まずい。この瞬間に内定取り消しになったかもしれない。おわた。
「お世話になっております。トーテックアメニティの谷岡です。なえくら いけ様のお電話でお間違いないでしょうか?」
「はい。間違いございません」
「先日は、面接に本社までご足労いただきありがとうございます」
「いえ、こちらこそ、先日はありがとうございます」
この人は面接する側なのにすごく丁寧だ。
「本日は面接での結果をお伝えするために、ご連絡いたしました」
「はい」
「大変恐縮・・・」
それ以降はもうよく聞かなかった。何回目やねん。落ちたの。ていうかなんやねん。落とすなら電話すなや。さらに辛いわ。メールしろやメール。
それとも、あれか?内定電話したけれども、さっき、ん”ん”ん”とか言ったから落としたんか?それはごめんて。許してや。
「・・・り申し上げます」
ああ、聞いてなかった。なんかまだ喋っていたらしい。
よく聞こえなかったけど、多分最後は、”お祈り申し上げます”と言っていたのであろう。定型文。定型文。
「いえ、ありがとうございます。また、機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします」
「え、?あ、はい。では失礼いたします」
「はい失礼します」
ピ。ムカついたからこっちから電話を切ってやった。ビジマナ?知ったこっちゃないね。
今度はむかついてきた。
落ち着くためにもう一度、眠ることにしよう。
夜に開けたウイスキーを、夜に使ったグラスに少し多めに注ぎ、ぐいっと一口で飲む。
バタンと枕に顔を埋める。
あいつの香りが顔いっぱいに広がる。
フン。と鼻で大きく息を吐き、ウイスキーの香りでごまかした。