ケンのターン
ラーメンとチャーハンを食べ終わり、ジュニとともに店を出た。
「今日はごちそうさん。今度はおれが出すよ」
「ガハハハハ!気にすんな!」
ここは家からすぐだが、今日は少し遠回りをすることにした。実際、1人で消化するつもりが、ジュニのおかげで、あるいはジュニのせいでまだ消化できていない。ジュニに別れを言い、家とは反対方向に歩き出す。少しでも気持ちを切り替えようと、新鮮な道を歩いてみようとするが、なにぶんこの辺りは家の近所であり、目新しいものは何もない。いつもの風景だ。10分ほど歩いた後、おれは諦めて帰路につく。
最後の角を曲がる時、後ろで何か動くものが視界に入る。普段こんな時間に人は歩いていないはずだし、猫のような小さな動物でもなさそうだ。防犯意識が特別高いわけではないが、何か気味が悪く、家の前を素通りする。自意識過剰と思われるかもしれないが、1周余分に歩くだけで、何かトラブルに巻き込まれる可能性を減らせるのであれば、安いもんだ。
改めてマンションの前に着きエントランスに入ると、そこにはジュニがいた。
「どうした?何か忘れ物でもしてたならケータイに連絡をくれればよかったのに」
「おれ、知ってるんだよ。お前が彼女と別れたことについて」
「それはさっき聞いたよ」
「違う。そうじゃなくて。。。」
ジュニは少し困惑しているようだった。こんなジュニの姿を見るのは初めてで、おれにも謎の緊張感が走る。
「お前が彼女にフラれた理由は...」「いいや、やっぱ今日は帰るよ」
なんだそれ。ようやくここから切り替えていこうと思ったところで。しかも、よりにもよって、なんでお前がそんなことを言ってくるんだよ。お前はいつも単純で馬鹿で気のいい男だったじゃないか。
踵を返し、去っていくジュニを追いかけ、腕をつかむ。
「どういうことだよ」
ジュニは何も答えない。
「お前が何を知ってるんだよ!中途半端なことすんなよ!」
「お前にはまだ...言えない。」
ジュニはおれの腕を振り払い、走り出す。もともとジュニはおれより身体が大きく屈強で、大学まで体育会系の人間だったため、平凡な体型のおれが力で勝るはずもなく、追いかけることはできなかった。
スウェットについた砂利を情けなく払いながら、マンションに向かう。オートロックを解除し、部屋に入り眠りにつくまで、彼女の言葉や今日のジュニの表情などいろいろな事が頭の中をぐるぐるしているようだったが、全てがぼんやりとしていて何か建設的な思考ができている感じではない。今日はもう酒を飲んで眠りにつこう。ウイスキーをグラスで流し込み、ベッドに倒れ込むように、あえて全てのスイッチを落とすように、おれは眠りについた。