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ケンのターン8

おれは病室のベッドで目を覚ました。少しすると朝の体調チェックを兼ねて看護師さんが朝ご飯を持ってきてくれる。

昨日の深夜、おれはトイレから帰る途中、女性が倒れているのを見かけて看護師さん呼んだ。今はその人が気がかりだった。そろそろだろうと思っていると、病室のドアがノックされ看護師さんが入ってくる。

「おはようございます」

いつもの笑顔な看護師さんが、今日は少し神妙な面持ちで病室に入ってくる。

「あの、昨日の女性は大丈夫なんでしょうか」

朝食もそっちのけでおれは看護師さんに確認をする。

「昨日は本当にありがとうございました。私たちも巡回直後だったので...。呼んでいただいたおかげで早期に対応することができました。彼女は無事でしたよ」

看護師さんはニコリと笑いながら、おれの望んでいた回答をくれた。

よかった、ほっとしながらおれは朝食に手をつける。


朝食後、リハビリとして病室のあるフロアだけだが少し歩くことにしている。残念ながら歩くと言っても、手すりに掴まりながら這う、と言った表現の方が正しいのが今の現状だ。

病室を出ると、1人の年配の女性に声をかけられる。

「昨日は助けていただいたようで、本当に本当にありがとうございました。」

見知らぬ女性に突然声をかけられ、困惑する。

「えっと、すみません。どなたのことをおっしゃられてるのか...」

「あっ、突然すみません。昨日の深夜に娘が倒れているところを他の入院患者さんが見つけて、看護師さんを呼んでくださったと。それでお礼をと思い、確認するとここの病室の方だと聞いたので」

なるほど、どうやらこのご婦人は昨日の女性の家族の方らしい。年齢などを考えると母親だろうか。

「いえ、全然。たまたま見かけただけですし、見ての通り僕もこんな状態なので、看護師さんを呼ぶことしかできず...。お気になさらないでください。」

「あなたに見つけていただかなければ、サヤカはあそこで倒れたままで...」

今、この人サヤカって言ったか?聞き間違いか?昨日の女性がサヤカ?

昨日の記憶を必死にたどる。光景が思い出され、だんだんと記憶が鮮明になっていく。心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

「あの、失礼ですが、娘さんのお名前をお伺いしても?」

「?」「橋本サヤカです。この病院に入院していて」

その名前を聞いた瞬間、おれは看護師さんのいる場所まで急いだ。スピードこそ出ないものの、ここ最近で一番の運動だった。

おれの担当の看護師さんを見つけ、声をかける。

「昨日の女性は、サヤカなんですか?サヤカは目を覚ましてるんですか?」

おれの後をついてきていた婦人はこちらを驚いたような目で見る。

「サヤカを知っているんですか?」

担当の看護師さんがおれの元に駆け寄ってくる。

「ここではお話はできません。何よりあなたの身体も万全とはほど遠い状態です。一度病室に戻りましょう」

「病室では、話を聞かせてもらえますか」

おれの鬼気迫った表情に圧されたのか、看護師さんは覚悟を決めたように頷く。

「一度病室に戻りましょう」

先ほどと同じ言葉をかける看護師さんの肩を借りながらおれは病室まで戻ることにした。


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