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とものターン8

翌日。

しかし、これはある意味よかったのかもしれない。

あれから3年が経った今、サヤカを取り巻いていた先輩たちはすでに社会人だろう。

サヤカが弄ばれることももうないはず。

あとは、サヤカと話すことができれば……。

昨日、ジュニから話を悶々と考え、モヤモヤとした気持ちを抱えながら、リハビリの時間以外はほとんどの時間をぼんやりと過ごした。

コンコンとドアをノックする音が聞こえ、仕切りのカーテン越しに女性の陰が見えた。

担当してくれている看護師さんだった。

だいたい、夕方に体調チェックがある。いつものルーティンだ。

看護師さんは、おれが横たわるベッドの隣にある椅子に座る。

「具合はいかがですか?」

「まあ、変わらずですね。体は動かんです」

「そうですか。良かったです」

看護師さんは、手元にあるファイルに何か書き込むとこちらをニコッと微笑みながら見て立ち上がり、窓のほうへ向かった。

「長い間寝ていると免疫力も下がるから、2、3日で風邪を引く人が多いんですよ」

もう沈みそうな夕陽が見える窓のカーテンを、シャーっと閉めながら言った。

「そうなんですね」

看護師さんはこちらを向き、やはり笑顔で、

「体が動かないのはどうしようもないですが、数年ぶりに目覚めてすぐ立てていたのですから、大丈夫です」

そう言った。

「ところで、サヤカにはやっぱり会えないですか?」

「一途なんですね」

「わからないんです。ただ、知りたいだけなんです」

看護師さんの顔が少し陰ったように見えた。

しかし、すぐに先ほどのニコッとした笑顔に戻る。

「大丈夫です。安心してください。きっと大丈夫ですから」

「そうですか。顔だけでも見れないですか」

「うーん。わからないですね。また先生に聞いてみてください。もしかしたら……」

「そうですか……」

目覚めてから数日間、先生や看護師さんに会うたび聞いているが、毎回微妙な返事か否定的な返事しか返ってこない。

それでは。と、看護師さんが部屋から出ていく。

ベッドの上で寝転がりながら、どうしたものかとまた悶々として、1日が過ぎ去った。

そんな水曜日だった。


深夜、おそらく2時を過ぎたくらい。尿意をもようし、目が覚めてしまった。

ベッドの横に着いている手すりを使って立ち上がり、トイレへと向かった。

しかし、まだ完全に自立できるわけではないので、暗い廊下の壁にある手すりに体重を預けながら歩く。

トイレを済ませ、自室へ同じよう歩いて戻ろうとしている時だった。

廊下に倒れている女性が見えた。

「大丈夫ですか」

手すりにつかまりながらなんとか女性のところまで辿り着いた。

しゃがみ込んで女性の体を揺さぶる。

「大丈夫ですか!大丈夫ですか!」

その女性は、顔をこちらに向け、

「ああ、良かった」

そう言うと、そのまま意識を失った。

早く、看護師さんを呼ばないといけない。その一心で立ち上がり、

「誰か!誰か看護師さんを!」

そう叫びながら、看護師さんのいる場所まで手すりにつかまりながら歩いた。

この時、おれはパニック状態で、暗闇で見える女性の顔がサヤカに似ていることに、気づくことができなかった。

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