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ケンのターン7

病室のドアがノックされ、こちらの返事を待たず開けられる。普段では返事を待たずに入ってくるのはジュニくらいだが、ここは病院なので、ほとんどの人間は返事を待たずに病室に入ってくる。おれは正直、ここでのノックのような、意味のない形式的な行動様式は嫌いだがこんな事にいちいち苛立っていては精神が保たないと思い、ここ数日で順応するよう心がけていた。


「こうやってちゃんとしゃべるのは久しぶりだな」

「周りのお前らからすれば3年ぶりなんだろ。当然だろう。おれからすればたった3日ぶりだけどな」

「調子はどうだ」

「目を覚ましてからほとんど変わらないよ。身体は特に異常なし。周りの状況にはこれっぽちも追いつけてない」

本当に言葉の通りだった。おれの感覚ではつい数日前のことが世間からすればもう3年も前の話と言われても、全くもって実感はない。

少しの間、沈黙が続く。

「話をすると言っても、お前も何から話せばいいか分からないだろう。とりあえずおれから質問するから、それに答えながら色々聞かせてくれ」

「目を覚ましたばかりなのに、お前は冷静だな。そういうところ、あの時のままだな。正直、助かる」

「いきなりだけど、サヤカがおれを振った理由は?」

「サヤカがお前と付き合う前、どういうやつだったかは知ってるよな?おれはサヤカがお前と付き合う前からも、お前と付き合ってからもちょこちょこ話を聞いてたんだ。大学に入った頃のサヤカはその純粋さにつけ込まれて先輩たちから遊ばれてたんだ。サヤカは遊ばれてるとは知らず、自分に好意的な言葉や態度で接してくる奴らといちいち真面目に向き合ってた。その結果、遊ばれて、あることないこと言いふらされてた。あの時のサヤカは見ていられなかった」


ここまでは知っている話だ。おれもそのことは知った上でサヤカと関わっていた。

「サヤカは、お前と付き合ってから、見違えるほどに変わったよ。前よりも明るくなったっていうか、大学に入った頃のあいつの明るさを取り戻したようだった。おれはお前ともサヤカとも親しかったから、すげー安心してたんだ」

「けど、おれらが大学の4年になった頃、サークルにOB連中が顔を出すようになったんだ。当時お前は就活やらであんまり顔出してなかったから、知らなかったと思うけど。そこで、昔、サヤカを弄んでたやつらがまたサヤカに目をつけてな、付きまとうようになったんだよ」

「おれはそんな事聞いてないぞ。いつの話だよ」

「サヤカは、お前に知られたくなかったんだよ。ようやくちゃんと付き合う人ができて、うまくいってたから。そっから数日後には、お前とサヤカが付き合ってることをOB連中が知ることになって、サヤカはそいつらがお前に接触するのを嫌がって、過去の自分の話を掘り返されんのを嫌がって、就活で忙しくしてるお前に余計なこと考えさせたくなくて、別れることにしたんだ」


ジュニから事の顛末を聞いたおれは後悔なのか困惑なのか怒りなのか、よく分からない感情になっていた。何かサインはあったはずなのにそれに気づけなかった自分にも腹が立つ。

その後もジュニは何やら話していたようだが、耳には入ってこなかった。

「じゃあ、サヤカがあの時うちの地元にいたのは...。」

「お前にちゃんとあの時の事を話したくなったんだろうな」

今までサヤカのことなんて思い出したくないと思っていたが、今はサヤカとちゃんと話さなければいけない。ただ、そのサヤカは今は話すことはできない。おれはサヤカと話ができる時までここにいようと決めた。

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