とものターン
愛知は名古屋市にある本陣町。
名古屋駅から地下鉄で10分。飲み屋やご飯屋さんも多いちょうどいい町。
本陣駅からすぐ近くのスーパーの駐車場。夜な夜なこの一角に屋台ラーメンがくる。
ここですするラーメンの味は、実に無類である。
深夜、俺はカウンターでラーメンを、それはもう上品に嗜んでいた。
「ヘイいらっしゃい」
「隣いいですかな?」
すぐ背中からの男の声。この時間は、席がほぼ空いているにも関わらず、変な奴もいたものだ。
「ずううううずずず……ええ、どうぞ……なんだお前か」
振り向くとそこには、いつもムカつくほどに顔の整った友人がいた。ジュニである。
「大将!いつものをおくれ」
「お客さん、すみません、いつものってなんでした?」
「いつものはいつものだ!ここで一番人気の!」
「ああ!へい少々お待ちください!」
席に着くや否や、大将と謎の掛け合いをしている。
「ジュニ。お前、ここにはよく来るのか?」
「いや、初めてきた。お前のインスタを見て」
「サイコパスか?それともストーカーか?」
「失敬な!面白い親友と言え!」
「聞いたぞ!お前、別れたらしいじゃないか!」
ラーメンを待っている、ジュニからありえない一言が飛び出た。
「ブフォ。おい、誰から聞いた。早すぎやしないか」
ラーメンが口から出た。それはものの数時間の話だ。
「陰湿で陰険で根暗でバカ舌でアホなお前のことだ。愛想尽かされたか、他の男に目移りしたか。時間の問題と言った通りだったな!」
「うるさいやい」
「新たな恋にうつつを抜かす時が来たんだ。切り替えろ!」
そう言いながら、俺の背中をさそるこいつの顔、ぶん殴ってやりたい。
「つい3時間前だぞ。切り替えるも何も、まだ現実味も味わえていない」
「現実味を味あわず、ラーメンを味わいに来たのか!」
「現実逃避にラーメンは付き物だ」
「いいや違うね!お前は現実味という味より、ラーメンの味にうつつを抜かしたんだ!浮気してるんだよ」
本当に殴ってやりたい。
「ジュニ、どこまで知ってるんだ」
「さあね!インスタ見てただけだ!しかし、ここのラーメンは美味しそうだな!」
「ああ、無類の味だ。それこそ現実味がないほどに美味しい」
「そいつは、気になるな」
「へいおまち!」
そこには湯気のたった、黄色く、艶やかな、チャーハンが置かれていた。
「ガハハハハハ!おい!ここの人気料理はチャーハンらしいぞ!」
「俺の舌を甘く見るな」
「そうだった!」