口寄せ
「次の方どうぞ」
「あ、はい……あの、よろしくお願いします。えーっと母の名前はモリ、モリアツコと言います。亡くなったのはええと、五年前で」
「はい、では今、お呼びいたしますね…………あら、ショウコ。元気?」
「お、お母さん……」
「うふふ、また会えて嬉しいわぁ。なーに、泣いちゃってぇ。それにちょっと痩せたんじゃない?」
「ううん、こんなものよ。ふふふっ、あのね、この間ね――」
「はい、次の方どうぞ」
「どうも、えっと僕のおばあちゃんなんですけど、あ、名前はタイナカサナエです。亡くなったのは十年前で、僕が小学生の時で……」
「お繋げしました……あらぁ、マーくん! 久しぶりじゃない!」
「うん、うん……おばあちゃん、久しぶり。また会いたくなって来ちゃったよ」
「嬉しいわぁ。うふふ、どうなの? 元気してる? 学校は?」
「うん、うん、あはは、ちゃんとやってるよ。でも、この前ね――」
「次の方どうぞ」
「……おう。モリナカトウコ。死んだ日付は、ええとこれだ」
「確認しました。では呼び出します……ゲン? あなた、ゲンなの……?」
「……違う。おい、俺の母さんじゃねーぞ!」
「キャンセルしました。呼び出したい方のお名前、没年等をよくお確かめの上、もう一度、画面をタッチするか口頭でお願いします」
「たくっ……あ、俺が間違えてたわ。正しい年はこれだ。じゃ、よろしく」
「確認しました。お座りになったまま少々お待ちください……タケオ? あんた、まーたそんなガラの悪い服を着てぇ!」
「か、かあさん……」
墓参り。それはもう、墓石の前で目を閉じて拝み、聞こえぬ死者の声に耳を澄ませることではなくなった。
地上三十階、地下十階建てのタワー型の納骨堂。
椅子に座り、音声ガイダンスに従い、口頭か画面にタッチして故人の情報を検索。そして画面内に呼び出されるのは生前、多岐にわたる質問や姿、声といった情報を詰め込んだAI。親族であろうと違和感を抱くことなく、故人と会話ができるのだ。
建物内に響く、鼻をすする音はどこか幸せそうであり、外に出て振り返り、手を合わせて拝むその姿はまさしく墓参り。
巨大な墓石は墓参者を温かく迎えてくれる。いつでも、いつまでも……。