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ループ四回目のお茶会で

作者: 赤戸まと

 


 暗く冷たい牢の中。

 卒業パーティで身につけていたドレスのまま、着替えることも許されず、乱暴に放り込まれて。


 靴音を響かせて、やってきたのは、あの男。

 殿下の近衛騎士であり、攻略対象者。オズデット・バーン侯爵令息だ。


 彼は私に問いかけて、私はそれを拒否する。このやり取りも三回目ね。

 何かが割れる音が響き渡り、視界が暗転する。

 そしてまた――。


 ******


 暖かい日差しが差し込むベッドの中。

 ほんの先程までと比べて、随分と小さくなった自分の手のひら。握ったり開いたりして、私を確かめる。

 侍女のミリが、少し慌てた様子で本日の予定を告げた。


 ああ、やはりあの朝だ。


 想像したとおりの現状を認識する。

 あの日の、お茶会の当日の朝だ。王太子殿下の婚約者を決めるためのお茶会。この身体では初めての、そして記憶では四回目の――。


 過去三回、このお茶会で悪戦苦闘した。


 一回目、乙女ゲームの世界に転生したと気づいたのが、この日の朝。

 王太子殿下の婚約者にして悪役令嬢、リアナ・クルムント公爵令嬢になってしまったのだ。ゲーム終盤の卒業パーティの日に断罪されてしまう役だ。

 なんとかして断罪を回避しなければ。絶対に婚約者に選ばれないようにしよう、と意気込んでお茶会に出席した。


 華やかな会場。かしましく咲き乱れる多くのご令嬢たち。

 そんななか私は、王太子殿下なんて興味ありませんよ? とばかりに壁の花令嬢として振る舞っていた。周りのご令嬢は自分が選ばれようと必死にアピールしているようだ。頑張って!

 などとのんきに構えていたら、殿下がこちらを見ているのに気づいた。他の令嬢と違う、と逆に目立ってしまったようだ……。かえって殿下の気を引いてしまい、結局このお茶会で私が婚約者に選ばれてしまった。


 その後、学園に入学してからもヒロインと距離をおいたり、慎ましく目立たず生きてきたが、物語の強制力には勝てなかった。卒業パーティの日に、ヒロインの聖女を害したとして断罪されてしまったのだ。


 国の宝である聖女を害してしまっては、いくら公爵令嬢とはいえただでは済まない。貴族牢ではなく平民用の牢に入れられて沙汰を待つ。


 しばらくして、一人の男がやってきた。たしか攻略対象のオズデット・バーンだ。

 あのお茶会の日も殿下の背後に控えていたのを覚えている。当時からずっと殿下の側近を務めているようだ。

 私を処刑するのは、側近である彼の役割、ということか。


 オズデットは乙女ゲームの攻略対象者だが、特に推しというわけでもなかった。だから、彼のルートは攻略していない。公式サイトでプロフィールを眺めたくらいだ。まあ推しに殺されるよりはいいか、と覚悟を決めた。

 ここからはよく覚えていない。やがて来る死の恐怖に体が震えていたことと、二言三言、何か言葉を交わしたことくらい。そして何かが割れる音とともに、私の意識は途切れた――。


 ******


 二回目。一回目の朝より混乱した。死んだと思ったら普通に朝起きたんだもの。夢?

 少し慌てた様子のミリが、本日の予定を告げるのを聞いて、ああ、ループ物か、と気づいた。

 ようしだいたいわかってきたぞ、と侍女のミリにめいっぱいおめかししてもらった。


 前回の知識を活かして、フリルひらひらのピンクドレスでお茶会に乗り込んだ私は、シナを作って馴れ馴れしく殿下にまとわりついた。王太子殿下の婚約者の座は私のものよ、とばかりに周りのご令嬢を威嚇するのも忘れない。

 どうよ。お嫌いなミーハー令嬢ですよと殿下の表情を窺うと、そこにはみっともなく鼻の下を伸ばした殿下のニヤケ顔があった。殿下の背後に控える側近たちも一様に顔を赤くして俯いていた。

 そう、私は舐めていたんだ。悪役令嬢の超絶美貌を――。


 即行で婚約者に選ばれてしまった……ものの、聖女様のヒロイン力には勝てず。

 またしても物語の強制力に巻き込まれて。

 美姫としてもてはやされていた私は、乱れた髪に埃汚れのドレスを纏った惨めな姿で牢に放り込まれた。


 やはりやってきたオズデット・バーンは、そんな私の姿を見て、眉を顰めた。

 ああ、推しでなくてよかったわ。推しにこんなに嫌われたら耐えられないよ。

 それからえっと、何を話したのだっけ? とにかく何かが割れる音がして――。


 ******


 三回目。やっぱりあの朝だ。

 そうね、やはり堂々と悪役令嬢を演じましょう。殿下の好みはあのふわふわピンクヒロイン。前回の失敗は、ミーハー令嬢として無意識にあのヒロインに寄せてしまったことだわ。

 さあミリ。ワタクシを気高く彩りなさい。髪を巻きに巻いて、真紅のドレスを用意して頂戴。さあ、行きましてよ。ホホホ。


 お茶会の会場に到着して、様子を眺めた。

 殿下の背後には側近候補の少年が数人並んでいる。その中に、幼き日のオズデット・バーンもいた。私を処刑した男。

 ん? 彼が殿下になにか耳打ちしている?


 私の断罪の相談でもしてるのかしら? ってそんなはずないよね。それは数年後の話。


 席に着き、まずは周囲のご令嬢を威圧。姿勢、テーブルマナー、会話など、格の違いを見せつける。そりゃそうよね。これでも一応、二回も王太子妃教育を受けているんですもの。お茶会無双よ!

 殿下には一切興味を示さず、幼い令嬢たちのミスを悉く指摘していく。高圧的にワガママに。涙目の幼令嬢に心が痛むけれど……。ごめんなさいね。これで最有力候補の私は嫌われて、選考から外れるはずだわ。


「なるほどな、オズ。君の言うとおりだ」

 王太子殿下が何か呟いた。


 えっなになに? 殿下が愛おしげにこちらを見てるんですけど。その背後では、オズデットが手のひらで顔を覆いながら天を仰いでいた。


 後日、これぞ国母としてふさわしい堂々とした振る舞いだと称賛され、殿下の婚約者に選ばれた。


 そしてもちろん断罪。

 オズデットにたぶん処刑? されて――。


 ******


 そして今回は四回目です。もう手がありません。


 策を練ろうにも時間がなく、ミリに追い立てられて。

 欠席することもお父様には許されず、今回も殿下の前に放り出されてしまいました。


 とりあえず目立たないベージュのドレスに、紺のカーディガンを、露出を隠すように羽織ってきた。背中を丸めて息を潜めていれば、多少の時間は稼げるはず。


 ――さあ、どうする?


 ちょっと頭のおかしな、クレイジー令嬢として振る舞う?

 だめだ、由緒ある公爵家の評判に影響してしまう。実家が落ちぶれて没落、破滅コースだ。


 ミステリアスな預言者令嬢になって、未来を予言するってのはどう?

 ヒロイン聖女の登場や、王太子殿下か彼女に惹かれて私を断罪……。って、殿下が浮気をするなんて言えば、下手をすれば王家に対する不敬罪になっちゃうよ。


 ああっ、もうすぐ殿下に挨拶する順番が回ってくる!

 えーいとにかく前回と反対で、気弱なコミュ障を演じよう!

 そうすれば王太子妃にふさわしくない、とかになって候補から外れる……はず?


 よし、と気合を入れて、王太子殿下と相対した。

 どもりながら猫背のカーテシーを披露し、ボソボソと視線をそらしながらの挨拶。見事なコミュ障演技。

 あれこれ演技じゃないじゃん、日本でのあたしそのまんまじゃん。


 ちらりと殿下を窺うと、――冷めた目付きの王子殿下は適当に返事をして、すぐに次のご令嬢に興味を移した。


 え、これでいいの……?

 任務達成? ループ四回目にして、断罪回避成功?

 ほっとした気持ちと、あっけなさでへたり込みそうになった。


 遠目に、殿下と数人の令嬢が談笑しているのを眺めながら、一息ついて紅茶で唇を湿らせた。そうしていたら、ようやく実感が湧いてきた。やっと終わったんだ……。


 せっかくだから、このお茶会を楽しもう。落ち着いて見渡したら、会場にはたくさんの美味しそうなスイーツが並んでいる。他のご令嬢は殿下に夢中なので、こちらはぼっちスイーツだ。


 舌鼓を打っていると、よく見知った少年騎士がやってきた。げ、オズデット・バーンだ。

 私の前に立つと、彼は跪いて――。


「ひと目見た時からあなたに惚れました。一生お守りします。俺と婚約してくれませんか?」


 頬を上気させた少年はそう宣った。

 フォークを取り落とした私は、ループ五回目を覚悟した。


 ******


 後日、別の令嬢が王太子殿下の婚約者に決まったと聞いた。

 やっと婚約回避した結果なのに、私の心は晴れなかった。

 まだ、この手に平穏はない。


「一度くらい、お会いしてみては?」

 侍女のミリも心配そうにこちらを窺うが、私はベッドの上でシーツに顔を伏せたまま、首を振る。


 花束や贈り物が部屋を埋め尽くしていた。

 王太子殿下との婚約の時はこんなことはなかった。これまでの三回とは確実に違っている。


 一体何のつもりか、あのお茶会の日から毎日、オズデット・バーンからの訪問があると聞いている。体調不良を理由にこれまで面会を拒んできた。最初は断っていた花束も贈り物も、どうしてもというので結局折れて、すべて部屋に届けられている。


 お花に罪はないわね、と部屋に飾る。

 その花を見ていたら、ふと牢でのオズデットを思い出した。話の内容は思い出せないけど、彼の表情は処刑前の厳しい顔、というより、何かを期待しているような眼差しだった……気がする。

 その後響き渡る何かが割れる音。私はあの音にずっと怯えていた。それとオズデットを重ねていたのかも。

 彼は本当に私を処刑したのかしら? あの割れる音は何?


 贈り物の箱をひとつ開けてみたら、出てきたのはかわいいクマさんのぬいぐるみ。そういえば、今の私はまだ12歳だったわね。


 ――明日は会ってみても、いいかな。


 そう決めて、今夜は眠りについた。

 その翌日から、オズデット・バーンは来なくなった。


 ******


 学園に入学して、王太子殿下ともヒロインとも関わらず、距離をおいて過ごしている。

 以前までのループの時との違いは二つ。

 王太子殿下の婚約者は私ではなく別の侯爵令嬢であること。

 そしてもう一つ、オズデット・バーンは側近を外され、学園にも入学していなかった。


 たまに、かの侯爵令嬢がヒロインに苦言を呈しているところを見かける。

 だけどそれは常識の範囲内だ。マナーが欠けた男爵令嬢に対する侯爵令嬢の振る舞いとして、なんの問題もない。あれを虐めや犯罪と捉えるものなどいないだろう。それでもあの侯爵令嬢は断罪されるのだろうか。


 処刑役のオズデットもいない。

 いつの間にか、彼を探している自分に気づいて、ちょっとおかしくなって笑った。


 彼を恐れていた。

 でも、少し信じてみようと思って、そしてまた裏切られた。

 もうなんなの! と腹を立てたこともあった。

 いつだって、彼は私の心を揺さぶって。


 ******


 卒業パーティの日、断罪されたのは侯爵令嬢だった。

 彼女は何も悪くない。私が役割を放り出したことの、尻拭いをさせられただけだ。そう思ったら自然と足が動いた。


「私が、彼女に命じたのです」


 あの侯爵令嬢に命令できる令嬢など私しかいない。彼女よりも上位貴族である公爵令嬢のリアナ・クルムント。


 悪役令嬢は私だ。


 断罪は嫌だけど、他人に身代わりさせるのはもっと嫌。

 そもそも虐めや犯罪などはありもしないのだけれど、物語の強制力に抗っても無駄だと身に沁みている。

 それに私にはあれがある、はず。――ループ能力だ。


 侯爵令嬢は必死に否定してくれたけど、私は主犯として、あの馴染みの牢に入れられた。

 王太子殿下が、連行される私を見ながら呟いた。その言葉がやけに耳に残った。


「オズデットが言った通りの悪女だったな」


 ******


 暗く冷たい牢の中。

 今回も、本当にループが起こるのだろうか。処刑役のオズデット・バーンはいない。

 そもそもなぜ、ループが起こるのか。オズデットが関係しているの?


 オズデットルートも攻略しておくんだったと後悔する。何か思い出せることはないかと、公式サイトのキャラクター紹介ページの記憶を掘り起こしてみた。


【近衛騎士オズデット・バーン】

 栗色の涼やかな短髪、切れ長の目元に整った眉、朗らかな笑顔の美麗ビジュアルイラスト。

 脳筋わんこ系騎士というアオリとともに、身長、生年月日、趣味、特技、口癖など。それとルート攻略のキーアイテムがあったはず。確か――と、考えていたら、牢の入り口の方から足音が響いた。


 やってきたのは、オズデット・バーン侯爵令息だ。


 あのお茶会の日以来に見た彼の姿に、ほっとする私がいる。

 そして先程の王太子殿下の言葉を思い出し、私を処刑しに来たんだと、恐怖が少し上回った。

 でも、恐怖による体の震えは以前ほどではない。意を決して彼に問いかける。


「わたしを処刑しに来たの?」


 悲しそうに、眉を下げるわんこ騎士。

 今までこの牢では、彼を処刑人としてしか見なかった。だけど、オズデットの表情に、そんな雰囲気は微塵もない。

「この牢に入れられた時点で、あなたの処刑は覆せません。ですが、処刑までまだわずかな時間が残されています。その前に俺が――」


 私を助けようと、来てくれてたってこと?

 でも、信じることはできない。だって……。

「さっき殿下が言っていたわ。あなたが、私のことを悪女だって――」


 オズデットは目を見開いて、否定しようと言葉をひねり出そうとして。

 でも何も言葉が出てこなくて、オズデットは少し考えをまとめるように眉を寄せた。


「最初は、あなたを褒め称えていたんです。控えめで可愛らしい令嬢だ。美しくて女性の魅力たっぷりの令嬢だ。ええとその次は、気高く堂々として、国母にふさわしい、と」


 ん? どっかで聞いたフレーズ?


「そしてやっと気づいたのです。私はただ世間話をしているつもりが、思いの外殿下からの信頼が厚く、婚約者選びの重要な参考として捉えられていた、と」


 え待って、それって――。


「なので四回目の今回は、心苦しかったのですが、あなたの悪口を殿下に言ってみたのです。そうしたらあっさりとあなたを婚約者候補から外して――」


 今四回目って言った!


 オズデットもループしていたってこと!?

 しかも毎回婚約者に選ばれたのはオズデットのせいってことじゃない!


 私は腰が抜けてその場にくずおれた。

 でもまあ、今回選ばれなかったのは彼の機転のおかげだし。悪口っていうのが釈然としないけどさ。さっき王太子殿下が言っていたのはそのことだったのね。


 でも、オズデットもループしながら私が断罪されるのを回避しようと動いてくれていたってことだ。

 結局、私が余計なことをしてまた牢に入れられてしまったんだけど。


「この牢に入れられたあなたを助けるには、私が処刑したことにして、あなたをこっそり連れ出すことくらいしかできません。ですがその場合、表舞台から消えて、私の領地でひっそり生きていくことになります」


 オズデットの領地で、彼に匿われて生きる? ちょっと想像してみた。

 ん、それいいかも。バーン侯爵領もけっこう自然豊かでいいところだし。王太子妃になったらしなくちゃいけない面倒な公務とかも放り出せるし。スローライフ万歳。


「あなたは毎回、私の提案に首を振りました」


 ああー。

 それはそうだわ。だってオズデットのこと、ずっと処刑執行人だって思ってたんだもの。上手く言いくるめられてどこに連れて行かれるか、わかったもんじゃない。

 もちろん、いまはそうじゃないよ。


「なので、残された手段として、この宝珠を使いました」

 そう言ってオズデットは、懐から手のひらサイズのガラス玉を取り出した。

 あれは……バーン侯爵家に伝わる『時渡りの宝珠』だ! 彼のルートのキーアイテムとして公式サイトで紹介されていた。どんな効果があるかまでは知らなかったけど――。


 彼によると、宝珠を割ることで、内部に溜まった魔力が解放されて、時を巻き戻すことができる魔導具だそうだ。

 あの何かが割れる音って、これだったんだね。あれを使ってループを引き起こして……。

 でもどうしてそんな大切なものを私に使ってくれたの?


 問いかけると、オズデットは姿勢を正して私を見つめた。

「リアナ・クルムント公爵令嬢。俺は、あなたに惚れているんです」


 えっ? ええっ?

 ぼっ、と顔に熱が昇る。


「あなたが王太子殿下の婚約者に選ばれては、臣下である私が想いを寄せることは叶いませんでした。ですが今回は別の方が選ばれましたので、堂々と婚約を申し込むことができたのです」


 じゃあ、本当にオズデットは私と婚約したかったの!?

 ドキドキ鳴る胸の鼓動。でもその片隅に、チクリと痛みが刺す。どうしてあの日から突然来なくなったのか。それは聞いておきたい。

 ずっと、待っていたのに――。


「宝珠の魔力が減ったことに、父に気づかれまして。侯爵家の家宝を勝手に持ち出した罰として、領地での蟄居を命じられたのです」


 そんな……。じゃあ、私を助けるためにしたことが原因ってことじゃない!


 殿下の側近を外されたことも、学園に入学できなかったことも。

 あの日から、私に会いに来なくなったことも……。


 それなのに、今も宝珠を持ってきてるってことは、また持ち出したってことだよね?


「今回バレたら、蟄居どころじゃ済まないでしょうね」

 いたずらっ子のように笑うわんこ騎士は、どうしてそこまでして私を助けてくれるの? という問いかけに、当たり前のように答えた。


「どうしてもあなたを助けたかったからです」


 そうして彼は、毎回ループ直前にしていた問いを、私に向けた。


 ――宝珠を使いますか? それとも、私とともに生きてくれますか?


 そんなの、決まってる。

 もう、あのお茶会まで巻き戻る必要もない。

 宝珠の力は、もう使わない。

 そんな私の決意の表情を見て、頬を上気させた騎士は、跪いて――。


「ひと目見た時からあなたに惚れました。一生お守りします。俺と結婚してくれませんか?」


 あの日、ループ四回目のお茶会で告げた言葉を、少しだけ変えて。


 オズデット・バーン侯爵令息は、私、リアナ・クルムント公爵令嬢に求婚した。


 オズデット・バーンは推しじゃない、はずなのに――。

 ロマンチックのかけらもない、こんな牢のなかでのプロポーズなのに――。


 ループ四回目にして、初めて彼の問いに首を振ることをやめた。


 そしてようやく私は、安住の地を見つけたのだ。


 そこは、暗く冷たい牢ではなく。

 ひだまりのように温かい、オズデットの胸の中だった。



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