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異女子  作者: 変わり身
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【私】の話(中⑭)




――夢を、見た。


白く、淡く、音の無い世界。

見覚えのある、けれど決して学校のものではない、どこかの教室。


私はその中央にある机に腰掛け、一つ前の座席をじっと見つめていた。

誰も居ない、空っぽの席を。



「――――」



ついさっきまで、誰かが座っていた筈だった。


空席が並ぶがらんどうの教室の中、私と彼女の二人きり。

他愛ないおしゃべりをして、小さな事で笑い合う、いつかどこかにあった私達の時間。


……ここから繋がる悪夢を、何度も見た。

だけど、今この夢には何も無い。笑顔も、目玉も、恐怖も、何も。


それを上から俯瞰している私もいなくて、正真正銘の独りっきりだ。



「――……」



何が、いけなかったのかな。


席を立ち、一つ前の机を撫でながら考えるけど、ハッキリとした答えなんて出ない。

ぼんやりと突っ立ったまま、机の木目をなぞってゆく。



「――――」



かたん。

その時、背後で小さな音がした。


当然振り返ってみたけれど、最初は何も見つける事が出来なかった。


机は全部空席のまま、ロッカーにも掲示板にも変化は無い。

かといって床に何かが落ちている訳でも無くて、音の出所が分からない。


そうして、そのまま暫く教室の中を眺め――やっと、それに気が付けた。



(……?)



隙間。

教室後方の扉に、僅かな隙間が出来ている。


そしてそこから少しずつ、真っ白な靄が流れ込んでいた。


ゆっくりと教室内に染み入るそれに温度は無く、匂いも無い。

舞台とかでよくやる登場時のスモークのようにも見えたから、そのまま少し待ってみたけど、別に扉を開けて誰かが入って来るという事でも無さそうだった。


ただ、靄だけが延々と流れ、教室に充満していく。



「…………」



怖い、とは思わなかった。


やっぱりこの夢の中に恐怖の類は無いみたいで、段々と白んでいく周囲を見ても、心はずっと落ち着いている。

そうしている内、視界の全てが靄に包まれ本当に何も見えなくなって、気付けば傍らにあった机すら視認できなくなっていた。


……いや、実際にそこから消えているのかもしれない。

大きく手足を振っても何一つ掠るものが無く、さっきまで机の木目をなぞっていた指先を無意識にすり合わせる。


普段なら取り乱している所だろうに、それでも私はぼんやりとして、真っ白な世界を漂った。


――ぺた。



「…………」



靄の向こうで、音が聞こえた。

裸足で床を歩くような、軽く柔らかい音だった。


――びた。


……次に聞こえたのは、それとは違う音。

粘膜が床を転がるような、重たく湿った音だった


ぺた。

びた。

ぺた。

びた――。


それらは一度鳴るごとに入れ替わりながら連続し、やがて私の少し先で止まった。


何かが居る。

目を凝らすけれど、私の視力でも靄を見通す事は出来なくて、ただ気配だけが感じられていた。


そうして靄の向こうに立つ何かは、私をじっと見つめているらしい。その視線は近づきも遠ざかりもしなかった。



(……どっち……?)



その疑問を抱いた事に、疑問を持たず。

私は白しか見えない中でゆっくりと足踏み出し、視線の下へと近づいた。


何かは私の行動にも動きを見せず、突っ立ったままだ。

一歩前へ進むごとそれの気配は濃くなって、靄越しにうっすらとその影が見えて来る。


それは人の形をしているようにも、或いは単純な球体のようにも見える、朧げで不安定なもの。

気配の目前まで近づいても何も変わらず、その形は定まらない。どちらにもなり、どちらにもならない。



「――、――」



だから。

だから私はそう在れるよう呼びかけて、靄の向こうに手を伸ばす。



『――あはぁ』



どこかで聞いた、私の好きな笑い声。

白に紛れる誰か/何かの眼球と、目が合った。




6




「――ぁ?」



ぶらん、ぶらん。

薄く開いた視界の先で、右手が揺れる。


包帯でぐるぐる巻きにされた、ボロボロになった私の腕だ。

どこか見覚えのある天井に向かって突き出されたそれが、変なバランスを保って左右にふらふら揺れていた。



「……また変な夢でも見てたのかい、君」



そのまま暫くぼうっとしていると、横合いからそう声をかけられた。

目だけでそっちの方を見てみれば、近くのソファから私を眺めるインク瓶の姿があった。


骨董品のようなゴツい丸眼鏡に、呆れと安堵の混ざったような表情。

どうしてかその頭には包帯が巻かれていて、ある意味丸眼鏡よりも目を引いた。


……どうしたんだろ、あの怪我。

靄ががかった頭を傾げて彼を見つめていると、インク瓶はこっちを案じるように少しだけ眉を下げる。



「あれからまだ一日も経っていないけど……意識、ハッキリしているかい? 自分の状況、わかる?」


「えー……?」



彼の言葉に、ゆっくりと周囲を見回した。


目に映るのは、それなりに見慣れた部屋の形と調度品。窓から見える空には日が高く上がっていて、温かい光が差し込んでいた。

たぶん、家の客間の一室。そして私はなんでかお客さん用のベッドに寝かされているらしく、若干の埃っぽさが鼻をつく。



「……あれ、何で私、こんなとこ――痛っ」



とりあえず起き上がろうとしてみたところ、全身がぎしぎし軋んでやたらと痛む。

右腕だけじゃなく身体中に包帯やら湿布やらが巻き付けられているようで、痛みと合わせてあんまりうまく動かせない。


……何でこんなんなってんだ?

ひとまず身体から力を抜いて、私は大人しく自分の記憶を振り返り、



「っ!!」



瞬間、無理矢理に跳ね起きた。


地下、痛み、死体、蜘蛛、単眼――あかねちゃん。

あの暗く寂しい暗闇で体験したもの全てが色鮮やかに頭の中を駆け抜けて、あっという間に暴走をする。


そうして何処へも分からず飛び出そうとしたけど……ズタボロの身体がついていけなかった。

ベッド縁に手をついた途端にガクンと崩れ、そのまま顔面から床に落っこちて――。



「ああもう、落ち着きなって」


「っぐ……」



そうなる前に、いつの間にか近寄っていたインク瓶に抱き留められる。


幾ら貧弱眼鏡とはいっても、小柄な女子中学生を受け止められるくらいには成人男性やってるらしい。

文字通りインクの香りを薄く纏わせている彼にもたれ掛かりながら、私はそれでもベッドの外へ出るべく身を捩らせた。



「は、離せよっ! あかねちゃん、あかねちゃんがぁっ!!」


「うわっ、だ、だから落ち着……これで満身創痍って嘘だろ……!?」



普段の私だったら簡単に弾き飛ばせる程度の弱い力なのに、今は抵抗するのが精いっぱいだった。


ベッドの上。女の子と男の人。絵面だけなら色々アレではあったけど、そんなものを気にする余裕なんて全く無い。


後から振り返ればきっと笑ってしまうくらい無様な非力さで、互いに一進一退の攻防を繰り広げ――私が傷の痛みに呻いた瞬間、均衡は一気にインク瓶へと傾いた。

私の身体は勢いよくベッドに押し込まれ、そのまま抑えつけられる。マットの埃が大きく舞って、ちょっとだけ咳込んだ。



「っけほ……こ、このっ、離せよぉ……お願いだから、ねぇって!」


「そういう訳にもいかないだろ……っ! いいから、今は大人しくっ、傷を――」


「はやくまた見つけてあげなきゃいけないんだよぉ! 落ちてっ、落としちゃったから、私が、」


「――もう、終わってるんだ……!」



……その絞り出すような声に、私はそれ以上動けなくなった。

インク瓶もそれきり何を言い募る事も無く、悲しそうな目を向ける。



(……やめろよ)



そんな目で見るな。あの場に居なかったくせに。何も見てないくせに。

なのに分かった風に言うなよ。勝手に察して決めつけるなよ。


……そう言い返そうとするけれど、どうやったって言葉は出ない。


だって、彼の丸眼鏡に反射する自分の顔を見てしまったから。

彼のそれと同じ光を湛えるその瞳に、自覚してしまったから。


――私は今、どうしようもなく悲しんでいた。



「……ぅ、あ」



あの暗く寂しい闇の中で見た、あかねちゃんの変わり果てた姿が浮かぶ。


ああ、そうだ。取り返しなんて何をしたってつく筈が無い。

もう――全部、終わってしまった。



「ひぅ、ぁ、ぁぁぁ、ぅあぁぁぁぁぁぁ……っ!」



あかねちゃんが、死んでしまった――。


……その事実を、今になって初めて正面から捉えられた気がして、私の全身から力が抜ける。

みっともない泣き声だけが、響いていた。







「……とりあえず、無事でよかったと言っておくよ」



それから暫く。

泣き疲れた末、大人しくベッドに横たわった私に、インク瓶は柔らかな声音でそう言った。



「本音としては、お説教の一つもしたいところではあるけれど……まぁいいさ。流石に、今の君に追い打ちをかけたくはないからね」


「…………」



そして溜息をつかれるけれど、反発する気力も無い。

私はぼんやりと天井を見つめたまま、浮かんだ疑問だけを口にする。



「……なんで」


「うん?」


「なんで、私生きてんの」



そう、あの地下での最後。蜘蛛から単眼(あかねちゃん)を引き抜いた後、地下の崩壊に巻き込まれた筈だ。


あまりよく覚えてはいないけど、全てが闇に包まれていったあの感覚は忘れようもない。

あそこから何をどうすれば生きて帰れるのか、私には見当がつかなかった。



「……まぁ、そうだね。言ってみれば、君の親御さんが頑張ったってところかな」



インク瓶は何事かを考えながらそう呟くと、ソファに戻って革手帳を取り出した。



「そもそも、あの時に何が起きたか、君はどの程度把握しているのかな」


「……なんか、噴水池のオカルトが出て……『うちの人』がたくさん落ちて来て……すごい、死んでって……」



無数に降り注ぐ人間の雨。あちこちで生まれる血肉の飛沫。

当時は冷静に考える余裕なんて無かったが、改めて振り返ると凄まじい光景だった。


思い出してまた気分を悪くしてげんなりしていると、インク瓶もその光景を想像したのか同情的な顔をする。



「……筋道立てて話そうか。まず、昨夜に君がいなくなっていると気づいてから、僕と君の親御さんは急いで自然公園へと向かった。あの時の君が僕達を出し抜いてまで向かうとしたら、まずあそこしか無かったからね」


「……やっぱ、とっくに分かってたんだな。噴水池の性質とか……あかねちゃんの事、とか」


「推測していなかったとは言わない。だけど今の君なら、伏せた理由を分かってくれているとは思っているよ」



どこか煙に巻くような言い方だったが、その視線は逸らされる事なく静かに私を見つめている。

……卑怯だよ。そう呟いて、私の方から視線を外した。



「ともかく、そうして君を追いかけた訳だけど……残念ながら間に合わなかった。例の広場に着いた時には君の姿は無く、噴水の周りに置いた苦し紛れのバリケードも転がっていた。君が何をしたのか、どうなったのか、すぐに察したよ」


「…………」


「……本当に焦ったんだからな。前に説明したが、僕達の側から『くも』の居る地下に干渉する方法は基本的に無かったんだ。正直、途方に暮れたよ」


「……なんでよ」



そんなの、私と同じように噴水のオカルトで蜘蛛を映して、気付かれて釣れば良いだけの話だろ。

『うちの人』なら蜘蛛の姿とかも知ってるし、実際そうやって穴を開かせて落ちて来たんじゃないのか――。


……ぼそぼそとそう言い返すと、インク瓶は不機嫌そうに鼻を鳴らした。



「……簡単に言ってくれるけどね、僕達じゃあの噴水を君と同じように利用する事は出来ないんだよ」


「……え、と?」


「まず君の親御さん。あの噴水が覗いた者が頭に浮かべていたものを中継するなら、彼女達が覗いた場合はどうなると思う?」


「……普通に考えてるのが映んじゃないの」


「忘れてないかい。彼女は万の身体をたった一つの意識で動かしている」


「……あ」



そこまで言われて、ようやく話が分かった。


曰く、『うちの人』はそれぞれに別個の人格が設定され、それぞれの人生を歩んでいるらしい。

だったら当然、その思考も身体の数だけ並列していて、常に動き続けている筈だ。


例え御魂雲としての意識は一つでも、抱える脳みそは何万個。

身体ごとの思考を参照してくれればまた違ったのだろうが、インク瓶の言い草ではそうはならなかったようだ。



「君の親御さんの話では、彼女達が覗き込むと噴水池の水が爆散するそうだ。おそらく他の身体の思考も一纏めにされ処理限界を超えてしまうんだろうが、そのせいで僕が調べるまで彼女達は『雨の日に覗き込むとびしょ濡れにされる噴水』だと勘違いしていたみたいだよ」


「ばーか……」


「一方で僕なら噴水のオカルトを問題なく利用出来るけど、残念ながら『くも』については言伝でしか知らなくてね。本体も穴の方も視た事が無い以上、頭に浮かべるも何もない」



まぁ、それはそうだろう。

実際私も蜘蛛の穴を視た事が無かったからこそ、例の悪夢で見た単眼を思い浮かべたのだから。


……思えば、あれもあれであかねちゃんを思い浮かべてたんだな。浅く、唇を噛んだ。



「かと言って、他に期待できる方法が無かったのも確かだった。結果として君と『くも』が同じ場所に居る事に賭け、僕が君を噴水に映させる事にしたんだが……その時には雨が止んでいてね。また降り出すまで結構な時間をロスしてしまった」


「……そういや私の時も、ちっちゃいぽつぽつ降りだった」



どうやら私が穴に落ちた後、雨雲はまた泣くのを我慢したようだ。


果たしてそれが私にとって幸運になったのか、それとも不運となっていたのか。

少し考えてみたけど、どっちにもとれる気がして途中でやめた。



「そして雨の降り始めを確認してすぐ、噴水のオカルトを利用した。後は君の見た通り、開いた穴に君の親御さんが飛び込んだ。待ってる時間で身体を揃えるだけ揃えたから……まぁ、派手な事にはなったみたいだね」


「……酷い光景だったよ。私に当たってたら巻き添えで死んでた」


「そのあたりについては妙な自信を持っていたな。落ち方と『くも』の削り方は熟知していると言っていたし――君がここに帰って来られたのも、そのおかげのようだ」



やっとその話に戻った。ほんと話なげーなコイツ。



「詳しい方法は分からないよ。ただ……君を抱きしめた親御さんの死体が、『くも』の穴から飛び出してきた瞬間を僕は見ている。おそらく、御魂雲の力の応用なんだろうね」


「……死体……」



最後の最後、意識が消える間際に感じた、誰かに抱きしめられる感覚。

それが『うちの人』の死体からのものだったのであれば、何ともぞっとしない話だけれど――。



「…………、」



……どうしてか、そのちょっと前に私の目の前で落下死した『うちの人』の微笑みを思い出す。

そうした私の沈黙をどう思ったのかは知らないが、インク瓶の気遣わしげな目が向けられた。



「……何にせよ、彼女達の尽力で君が助かったという事に間違いは無い。そうしてボロボロだった君を親御さんが家まで運び、治療なり何なりをして今に至る訳だ。その辺を詳しく知りたければ、後で自分で聞くといい」


「……私とアイツら、会話成立しないの知ってんだろ」


「そうだね。でも、やってみなよ」



ほんとヤなヤツだなコイツ……と思ったが、意外な事に彼の表情からは意地の悪さは窺えなかった。

苦笑に近いそれからはなんでか善意のような気配すら感じられ、それがどうにも居心地悪く、視線を逸らして部屋のあちこちにウロウロ散らす。



「……そもそも、当のソイツらは。いないけど」


「部屋の近くに控えてるよ。君に大量の落下死を見せてしまった事を気にして、落ち着くまでは姿を見せないでおく事にしたらしい」



前の反省だってさ、とインク瓶は軽く肩をすくめる。


何の事だと首を傾げ、すぐに真っ赤なぐしゃぐしゃに殺された金髪の青年の事だと察した。

確かにあの時は彼の死に取り乱して逃げてしまったけど――それを反省してるって? 鉄仮面鉄面皮の『うちの人』が? 気にしてる?



「…………」


「うーん両目に不審の字。まぁそれも彼女達の自業自得なんだろうけど」



呆れたように溜息をつくインク瓶だが、それ以上何かを言う気はないらしい。

ソファにその背中を深く預けて、革手帳をゆらゆらと振る。



「とりあえず、僕の方からはこんなものかな。ほかに何か聞きたい事はあるかい」


「……後でいいや。何か……ちょっとだけ、しんどい」


「そう」



それきり互いに口を閉じ、無言の時間が流れ始めた。


重たい沈黙って訳じゃない。緩すぎも張り詰めすぎもしない、適度な軽さ。

インク瓶の視線も開いた革手帳に移っており、見られてるって緊張感とかも無し。

……息が、しやすい。



(……急に、黙るんだ)



そう思ったけど、口にはしなかった。


彼も本当は、地下での詳しい事を聞いておきたいんだろう。

でもそれを問い詰めず、無理に触れようとして来ない。私のターンだと水を向けず、静かに待ってくれている。


こんなのでもライターだ。そういう手だとは分かってるけど――それでも、背中がベッドに少しだけ深く沈み込んだ。



「……………………………………靄が、さ」



そうして、長い時間が過ぎた後。

気付けば、無意識に口を開いていた。



「うん?」


「……穴、落ちてる時……靄の触手に、捕まった」


「…………」


「腕、動かなくて……むりやり、引っ張ったんだ。それで、手、一回目、怪我して……したらさ、傷に――……」



ぽつりぽつりと、もごもごと。

殆ど独り言のように、地下での出来事を零していく。


ある時は痛みを思い出して声が震え、またある時は恐怖を思い出して嘔吐きが出る。

纏まりが無くとっ散らかって、何度も何度もつっかえるそれは、酷く聞き取り難いものだった筈だ。


だけどインク瓶は急かす事も聞き返す事も無く、時折簡単な相槌を入れるだけ。

私の声と感情はその一切を遮られずに、ただただ流れ落ちてゆく。


……きっと、私も一度は吐き出したかったんだと思う。

そうして覚えている最後まで語り終えた時には、シーツに涙の染みがまた増えていた。



「……っく……ぅ」


「…………」



静かな室内に、私の嗚咽だけが響く。


インク瓶は神妙な顔で革手帳に目を落としたまま、特に反応をして来ない。

ともすれば冷たいとも取れる態度ではあったけど、下手に慰めに来られるよりは気が楽だった。


その内に私もどうにか感情を抑え込み、こっちから彼に声をかけようとして――。



「――少し、肌を出してもらえるかい」


「……は?」



いきなり何言っとんじゃコイツ。

遂にその眼鏡を割る時が来たかと拳を握るが、彼は至って真面目な雰囲気で、劣情やふざけているような気配は微塵も無い。


……どうしよ。

私は少しの間おろおろとして――ハッと察し、おずおずと左腕を差し出した。

包帯の巻かれた手首より少し上、二の腕の素肌を。



「……ええと、おまじないのヤツ……的な?」


「ああ。痛みや違和感があったらすぐに言いなよ」



懐から黒インクの小瓶を取り出す彼は淡々としたもので、私は握った拳をそっと解く。

そして申し訳ないやら気まずいやらでしおしおになる私に、彼は怪訝な顔をしつつも小瓶を傾けた。


前と同じように粘性の高いインクが真っ白な肌に落ち、ほんの一瞬だけ<遮>という文字を形作って輪っかと変わる。

蜘蛛からの視線を遮ってくれる、黒インクのおまじないだ。



(……や、ていうか、なんで今……?)



今更首を傾げる。


インク瓶の突拍子もない言葉でここまで流されたが、考えてみると随分と脈絡が無い気がした。

いやまぁ、そのありがたさは知っているので、別に文句は付けないけれど――と。



「――やっぱりか」


「え……あ、あれ?」



どろり、と。

突然インク瓶が呟いたかと思えば、刻んだばかりのおまじないが溶け崩れてしまった。


元の黒インクに戻ったそれは私の肌上を滑り落ちるけど、シーツに垂れる前に小瓶に回収されていく。

何してんだろう。視線でインク瓶に問いかけると、彼は難しい顔で首を振り、



「……僕は今、おまじないを解く意思は無かった。つまり勝手に崩れたんだよ」


「え……ええと、それは、どういう――」



言いかけ、よぎる。


私が噴水前で蜘蛛の気を引き、地下に落とされる直前、これと似たような事があった。

左手に刻まれたおまじないが弾け飛び、腕が跳ね上げられたのだ。


あれよりだいぶ大人しくはあるけれど、起こった事に差異は少ないように思えた。



「……今から話す事は、あくまで僕の推測だ」



……その意味を深く考えようとした、その時。

軽くため息をついたインク瓶が、小さくそう呟いた。



「持っている情報と今の君の話を、それっぽく繋いだだけ。裏付けも確証も無い、作り話に近いものだという事を念頭に置いて欲しい」


「……まどろっこしいな。なんなの」



勿体ぶった言い回しにそうせっつけば、彼は酷く真剣な目をして――。



「――君のお友達、査山銅って子。彼女はまだ、続いているのかもしれない」




――瞬間。私の頭の中が、真っ白に染まった。




「……、…………、………………、」



……上手く、言葉を受け止められなかった。


その意味を理解できなくて、ただ戸惑って、でも胸の奥底で期待して。

しかし地下で見たあかねちゃんの惨状が鮮やかに蘇り、浮つきかけた心が一瞬で氷の上に接地する。



「……あの、そういうのいいから、別に……」


「もしかして励ましだと思ってる? 違うよ。噴水の件で君に隠し事は悪手だって分かったからね。また勝手をされる可能性があるなら、最初から隠さない方がマシだと判断して渋々つまびらかにしてあげるんだ。思い上がらないでくれよ」



何だコイツ。

インク瓶はまた腹の立つ上から目線で鼻を鳴らすと、一方でまた気遣う目となり私を見た。



「……さっきの君の話では、査山銅は『くも』の眼球に作り変えられてしまったと取れたけど、それに間違いは無い?」


「っ……」



弱々しく、頷く。


本当は今だって悪い夢だと思いたい。

だけど単眼(あかねちゃん)を抱えた腕が、触れた指先が、その感覚を覚えている。

どうしようもなく、現実だった。



「……その眼球を『くも』から引き抜き、落としてしまった事も?」


「…………ほんとう」


「そう。……ごめんね」



インク瓶は俯く私に謝ると、革手帳に視線を落とす。

そしてややあってから、言葉を選ぶように話し始めた。



「……査山銅は、霊視に関する霊能を持っていた。それはまず間違いない」


「……?」


「或いは、本当に千里眼に纏わる霊能を持っていた可能性もある。そしておそらく、その才は人並外れたものであった筈だ。そうでもなければ、霊能の教えすら受けていない子供が、遠方から御魂雲の血の封を解くなんて芸当、出来る訳が無い」



……あかねちゃんの、おまじないの話だろうか。


確かに言われてみれば、彼女は地下深くから噴水のオカルト越しに――加えておそらく死にかけの状態で、私におまじないをかけたという事になる。

霊能力者界隈の基準なんて何も知らないけれど、相当な事をやったってのは想像がつく……のだが。



「……あの、いきなり何? 関係あんの、それ……」



そう、今この話題でその件に触れる理由が分からない。

訝しげに首を傾げれば、分厚い丸眼鏡の奥から静かな視線を返されて、



「――そんな『視る力』の異才が、昆虫の物とはいえ、自身の霊能を顕す眼球そのものになったんだ。しかも『くも』から千切られ、個の存在に分離済み……正直、かなり嫌な感じだ」


「…………」



……この街の見立て。川と橋の役割についての話が、自然と浮かぶ。


川は血流、橋は死。

インク瓶曰く、それらをそれぞれ見立てる事で、御魂雲の霊能に繋げて蜘蛛を封じているという。


なら――見立てどころか、直で重なっている単眼(あかねちゃん)は……?



「――……」



だけど、無知な私が確かな答えを出せる筈も無い。

ただ眉を下げ、話の続きをじっと待ち――インク瓶の視線が、また私の左腕に向かった。



「……さっき試したおまじないは、前と同じものだよ。オカルトからの視線を遮り、隠すためのもの」


「……うん」


「それが通らなかった以上、君は既に何かから捕捉されているとみていい。それも僕のインクじゃ隠し切れない程に、しっかりと……」



インク瓶は断定を避けるように、途中で言葉を切った。

私はそれを問い質さないまま、包帯塗れの左掌へと目を落とす。


あのバスでの最中、ここに刻まれたおまじないは、崩れる事無く私の左手に巻き付いて、その効力を発揮した。

そして噴水のオカルトで蜘蛛に気付かれた時、その力に耐えきれないように弾けて消えた。


……さっきのおまじないに起きた現象は、そのどちらでもない。

刻まれもせず、弾けもせず。黒インクはただ静かに崩れ、流れていった。


まるで、全く別のものを相手にしているかのように――。



「――その一方で、『くも』はまだ、地下に居るままでもある」


「っ」



出そうになった答えを遮るように、インク瓶の声が落ちた。



「多少削れはしたけど、やっぱり頭を砕くまでには至らなかったみたいだよ。幾度となく御魂雲につつかれながらも、しぶとく隠れ続けてるだけの事はあるんだろうね」


「…………」


「……だから、決めつけられない。僕がハッキリと言い切れるのは、君を捕捉しているものに関して、幾つかの作り話を考えられる状況にある――それだけだ」



インク瓶はそう小さく息をつくと、切り替えるように丸眼鏡を軽く上げる。



「で、それを踏まえた上で聞きたいんだ。その捕捉してくるものを、君はどうしたい?」


「……どう、って……」


「このままだと、君はまた多くのオカルトに絡まれ続ける事になる。君が救出されてから今まで何も起きていないから、前よりは多少はマシと見えるけど……御魂雲の性質に加え、オカルトから常に見られ続けているのが確かである以上、些細なきっかけで遭遇するようにはなっている筈だ」


「ぅ……」



真っ赤なぐしゃぐしゃを視つけてからの一夜を思い出し、呻き声が漏れた。

あの時よりどの程度マシになるかは知らないが、出来る事なら勘弁願いたい事柄であった。



「さっきの僕のおまじないは通用しなかったけど、他にも手段はある。君が望むのであれば、その霊視の瞳を閉じさせ、オカルト自体から離れる事も不可能ではないだろうね。……流石に、一度目覚めた御魂雲の血そのものを封じるのは難しいだろうけど」



インク瓶はそれを最後に口を閉じ、私の答えを待った。


……あんだけ色々語っときながら、最後は私にぶん投げかよ。

そう毒づきたくなったけど、それが彼の誠意という事は分かっていた。


だって本当に面倒事を避けたいのなら、さっきの話なんて隠したままで良かったんだ。


何も知らなければ、オカルトと縁を切るのに迷いなんて無かった。

疲れ果て、消沈したまま、異常の無いかつての世界を謳歌していた。


きっとそれが一番私にとって優しくて、インク瓶にとって面倒の少ない結末だったに違いない。

……だけど彼はそうせず、言える事を全部ぶちまけやがった。優しくないし、苦労性。


そんな彼に、私は心の中で感謝と悪態の両方を零し――顔を、上げた。



「――このままで、いい」



意外なくらいすんなりと声が出て、自分でも驚く。

インク瓶は諦めたように溜息をひとつ。むっすり組んだ腕を神経質にトントン叩いた。



「……ほらこうなる。くそ、やっぱり内緒のままにしてれば良かった……!」


「あんたから勝手に話して来たんだろ……」


「分かってるのかい。怖い思いに痛い思い、きっと沢山する事になるんだぞ」



私のぼやきを無視して、インク瓶はそう問いかけた。

その声音には重たい実感が籠っていて、私の意志が早速揺らぐ。とはいえ吐いた言葉を戻す気も無く、ただ小さく苦笑した。



「……言ってなかったけどさ。あかねちゃんって、オカルト探しが趣味だったんだ」


「……へぇ、随分と高尚な趣味じゃないか。何故だか親近感を覚えてしまうね」



一瞬怪訝な顔をされたけど、即座にイヤミを返して来る。

親友としてなんか言い返すべきかと迷ったが、やめておく。私も正直どうかと思っていた趣味だったし……たぶん今後も、その考えは変わらないだろうから。



「それに付き合うのが私の役目でさ、一緒に色んなオカルトスポット行ったんだ。まぁほとんどは何も起きなくて、おでかけの口実くらいのノリだったけど」


「……今の君を思うと肝が冷えるね。よく何事もなく無事でいられたものだよ」


「その時の私が分かんなかっただけで、あかねちゃんには何か視えてたんだろうな。思い出すと、なんかそれっぽい事やってたや」



改めて考えるとひでぇ話である。


当時のオカルトを視認出来なかった私は、知らない内に散々ヤバイ場所へと連れ回されていたのだ。

いや、視えないからこそ絡まれなくて安全だとか考えてたのかもしれないが、これまで遭ったオカルトを思い出すと、無事だからヨシ!で済ますのは流石に抵抗があった。



「ほんと、どうかと思うよな。ニコニコしながらあちこち行って写真撮って……下手したら二人揃って死んでたかもしんないのに」


「…………」


「つーか、実際に今回そうなったんだ。あかねちゃんがバカやってさ、私が巻き込まれてさ、それで……こう、なって」



……言ってるうちに泣きたくなって、今度は腹も立ってきた。


あかねちゃん、よく私の頭の出来をからかってきたけど、あの子も違う方向でバカじゃねーか。

というかこうなった以上、むしろ私より頭悪いまである。これまでバカって言ってきたの覚えてろよ。



「こんなオカルト視えるようにもされて、ひどくない? 助けて欲しかったのは分かるけどさ、こっちだって死ぬほど痛くて熱くて苦しかったし……これからの事だって、考えるだけで無限に溜息吐ける」


「……でも、このままでいい、と?」


「……ん」



ほんとは、よくは無いけど。

ほんとは、すごく怖いけど。

ほんとは、すごくイヤだけど。でも、



「――言ったろ。あかねちゃんに付き合ってやんのが、私の役目なんだって」



そう、いつもの事。だからしょうがないと諦めて、合わせる。

今更目を逸らしての拒絶なんてしてやるもんか。


その答えに、インク瓶は今日イチの溜息を吐き出した。



「……もう一度言うけどね、僕の話は推測混じりの作り話だ。査山銅については僅かな可能性の話でしかないし、君の知っている彼女が戻らない事に変わりはない。普通に考えれば、『くも』がまだ君を捕捉し続けているとした方が自然なんだ」


「……だとしてもさ、私にオカルトを視えるようにしたの、あかねちゃんだってのには違いないんだろ」


「それは……そうだろうけど」


「だったら、私を見てるのが蜘蛛の方だとしても変わんないんだ。このおまじないは、あかねちゃんので……だったら、ちゃんと付き合ってやんなきゃ」



そうして訪れる日常は、きっとこれまでみたいに楽しくない。

インク瓶の危惧する通り、しんどい目にはたくさん遭って、毎日のようにイヤだイヤだと零し続ける自分の姿が目に浮かぶ。


絶対後悔するし、絶対恨む。それでも。



「――これだって、私達の時間なんだろうからさ……」



掠れた吐息に、そう重ねた。



「…………」



インク瓶もそれ以上何かを言う気は無くなったようで、静かに革手帳に目を落とす。

それきり互いに無言となって、もう何度目かも分からない沈黙が落ちた。



「……ひとつ、思った事がある」



そんな中、インク瓶の囁き声が小さく空気を震わせる。



「君は査山銅のおまじないを、助けの求めだという風に受け取ったようだけど……本当に、そうなのかな」



これまでのネチネチした話しぶりとは違う、淡白な声音。

私はどこか落ち着かなくなりながら、首を傾げた。



「……何が言いたいんだよ」


「査山銅が数々のオカルトスポットを巡っても無事だったのは、おそらく霊視能力のコントロールが完璧だったからだ。そうして敢えて視えなくなる事で、オカルトをやり過ごしていたんだろう」


「う、うん……?」


「だけど、『くも』には通じなかったんだろうね。いや、噴水のオカルトの性質のせいかな。とにかく見つかり、捕まった」


「――……」



胸が詰まり、歯が軋む。

しかしインク瓶は言葉を止めず、淡々と語り続けた。



「……そうして地下で苦しむ中、やがて彼女は見たんだ。噴水のオカルトを通して映った、君の顔を」


「…………」


「きっと、自分と同じ方法を取ったとすぐに分かっただろうね。そしてこの後、君がどうなるのかも。その時、査山銅は何を思ったか」


「……だから、助けて、って」


「そうかな――僕としては、逃げて、だったんじゃないかと思うけど」



――思わず、ぽかんとしてしまった。

しかしすぐに呆れが沸いて、乾いた笑いが口をつく。



「んなワケ無いだろ。だったら、わざわざおまじないをかける意味が……」


「視えなくても、襲われたから」



丸眼鏡の奥。険が薄れ、どこか眩しいものを見るかのような瞳と目が合った。



「査山銅が霊視に長け、そしてオカルトに慣れていたのなら。まず間違いなく、『くも』と関わった前後には霊視の瞳を閉じていた筈だ。いつものように、やり過ごすため」


「…………」


「だが、無意味だった。視えようが視えまいが関係が無く……そんな存在に、親友が目を付けられそう。そしてその子には、霊視の瞳が無い……」



――視えた方が、まだ逃げられる。そう判断してもおかしくないんじゃないかな。



「――……」



……インク瓶のその言葉は、私にとある一言を思い起こさせた。


あの真っ赤なぐしゃぐしゃを目撃した時。

耳に当てていたスマホから聞こえた、裏返った誰かの声。


に、げ、て――逃げて。



「……、……」


「勿論、これも推測だ。……君には、心当たりか何かがあるのかもしれないけど」



そう言ってまた鼻を鳴らすインク瓶の目から逃げるように、毛布を上げて顔を隠した。そしてそのままもごもごする。



「……なんで、そんなの話すんだよ」


「最初に言わなかったかい。面倒事にならないよう、隠し事はしないって」



だから、これも言っておくけど――。

毛布に遮られた視界の中、溜息とも苦笑ともつかない息がひとつ聞こえて。



「――君がいつか音を上げても、責める人はきっと居ないさ。ずっと、覚えておくといいんじゃないかな」



……その言葉だけは、推測だとも作り話だとも言わず。

ぱたん、という革手帳の閉じる音が、やけに大きく響いた気がした。







「……さて、こんなものかな」



それから、少し経った後。

そんな呟きと共に、ソファの軋む音がした。


毛布を下げてそちらを見やれば、立ち上がったインク瓶が、何やらスマホを確認している所だった。



「……どっか、行っちゃうの?」


「君の親御さんの所にね。様子、聞いた事、君について色々と相談しなきゃならない」


「相談……」



ふと、思う。


コイツがこの街に来たのは、私に御魂雲の血に関しての諸々を説明するためだった筈だ。

そして今の私はきっと、それらについて最低限以上の知識を持っている……と思う。


……役目は果たされた、という事だろうか。

寂しい、なんて絶対思ってやらんけど、今の状況で彼との縁が切れるのは不安以外の何物でもなかった。知らず、握る毛布にシワが寄る。


――ちらり。丸眼鏡の奥から、視線を感じた。



「……まぁ、怪我人を一人きりにしてしまう事になるが、ドアの外には御魂雲の身体が控えている。何か異常があれば、すぐに駆け付けてくれるだろう」


「…………」


「とはいえ、この親子関係だ。もの凄く気は進まないだろうから――これを君に預けておくよ」



インク瓶は懐にスマホをしまった手で、真っ黒なインクの入った小瓶を取り出した。


さっきおまじないに失敗し、崩れたインクを回収したもの。

それを私の頭もとにそっと置き……その横に、何故か小さなメモ帳を付け加えた。



「……なにこれ?」


「おまじないの一つ。詳しい説明は後でするけど……とりあえずそのインクを紙に垂らせば、いつでもどこでも僕と繋がる。イザって時の緊急連絡用として、これから常に携帯し続ける事をオススメするよ」


「……、……え」



――これから。常に。

一拍置いてその言葉の意味に気付いたが、その時には彼はこちらに背中を向けて、扉へと歩き出していた。



「ちょ、まっ、これからって――」


「一応、友人の娘なんだ。そのためだけにこの街へ常駐するのは無理だけど、気にかけるくらいの事はしてあげるさ」



呼び止める私を軽くあしらい、ドアノブを引く。

そうして、そのまま振り返る事なく部屋を後にして――。



「――ああ、でも、そうだね。そのインク、ちゃんと機能するか一応確かめておいた方が良いかもしれないな」



寸前、僅かに振り返り。

何でかやたらとわざとらしい棒読みでそれだけ残すと、今度こそ立ち去って行った。


……後にはただ、ベッドに横たわる真っ白けがひとつ。

扉に伸ばした手をぷらぷらと振るその顔は、きっと何とも言えない表情をしている事だろう。



「…………」



そろりと、頭の横にある小瓶を見る。

表面に薄く細工の施されたガラスの中、真っ黒なインクが光沢をもって揺れていた。




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