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異女子  作者: 変わり身
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【私】の話(中⑬)




最初に見た時、それが何なのか分からなかった。



「…………」



ライトに照らされるそれをどう認識したらいいのか、どう表現すればいいのか。

何もかもが分からなくて、ぼうっと突っ立っているだけ。ただただ無為に時間が過ぎてゆく。



「……ぁ……」



……だけど、いつまでもそのままじゃいられなかった。


脳みその中に生まれた小さな理解が、ゆっくりと落ち始める。

少しずつ、少しずつ。身体の芯を通り流れるそれはとても冷たくて、そして段々と大きさを増し、痛みすら伴うようにもなっていく。


そうして、その冷たさが腹の底まで降り切った時――ようやく、少しだけ足を動かせた。



「……ぁ、ぁあ」



それは、地面の上に無造作に広がっていた。


薄く、平たく、くしゃくしゃとして。

でこぼことした岩肌の起伏を浮き上がらせながら、地面の一部をそれの色で覆っている。

私のとは違う、普通の人間の肌のような、ベージュ色。


――いや『ような』じゃない。それは間違いなく人間の肌、人間の皮膚だった。


だって、それには手足が付いているんだ。

ぺったりと広がる皮膚の四隅から肉の詰まった四肢が繋がり、力なく転がっていた。胴体と頭の中身だけが、綺麗に抜き取られているようだった。


そして頭部に位置するだろう場所の皮膚には髪の毛のような毛束がくっついていて、地面に落ちたカツラみたいになっている。

どうにも不気味で、ともすれば間抜けだなと笑ってしまう光景だったけど……私の頬はピクリともしない。

ただ目の前のそれを見つめたまま、ふらり、ふらりと力の入らない膝を引きずった。



「ぁ、ぁ、ぁ」



その手足には、衣服が引っ掛かっていた。


パーカーとパンツと、肌着と下着と、靴下と靴。

私と同じくらいの子が着るサイズで、女の子用の、かわいいヤツ。


……見た、事が。

私はそのデザインを、その組み合わせを、見た事が、見覚えが、あり、あって……あ、あっ、て――。



「か、ぇ」



びちゃびちゃと、吐瀉物が落ちる。


あの腐乱死体の山の時ですら我慢出来ていたのに、あっさりと決壊した。

その場に膝をつき、げぇげぇと胃の中の物を吐き出し切って、それでも収まらなくて胃液も唾液も全部辺りにぶちまけた。


酷い匂いのそれらが足元を流れるけど、腐肉よりはずっとマシだ。そのまま手足を汚しながら、這うようにして皮膚に縋った。



「あ、ぅあ、ぁっ、ひぐっ、ぁ、あ、あ――」



涙がとめどなく流れる。

何も取り繕えはしない。否定したいのに出来なくて、勘違いだと思い込む事も出来なくて。


本当は最初に見た時から、いや、きっとそのずっと前から分かってた。

それを見ないフリして誤魔化し続け、騙し騙しでここまで来た。


……だけど、もう、無理だよ。


分かるよ。私が間違える訳ないんだ。

服装もそうだけど、手足の形や髪の質――形の残るその全てが、目を逸らす間もなく私に現実を叩きつけて来る。



――目の前に広がる手足のついた絨毯は、どうしようもなく、あかねちゃんだった。



「――ぁ、あかね、ちゃ、」



血と吐瀉物に塗れた手で、その身体に触れる。


薄く伸びたゴムのような、頼りない感触だった。

接触する地面の冷たさをそのまま伝えていて、形を保ってる手足の部分も冷えて固まり切っている。あったかくて、柔らかかった彼女の姿は、どこにも残っていない。



「……ぉ、おき……ねぇ、起き、て……」



小さく揺すれば、薄っぺらい皮膚がその下の地面と擦れ、ぬるりと滑る。


きっと、痛くしてしまった。掠れ声でごめんと謝って、今度は手の方を揺する。

その手はごろんと転がって、繋がる皮膚を痛そうに捻じってしまう。また、謝った。



「っ……ぅ、く……たのむよぉ、おねがいだから、ねぇ、ねぇってぇ……」



震える指を髪の毛に差し込み、どうにか掬い上げようとしたけど、失敗。

重さは殆どなかったものの血と吐瀉物で滑り落ち、顔の部分が上を向く。



「……っ」



でもそこに、顔なんて無かった。

目も鼻も無くて、ぽっかりと大きな孔だけが開いていた。


口端がこめかみに届くまで歪み切った唇が、その口を開けたもの――バスの時に夢で見た姿。

……孔の中には、やっぱり何も残ってなくて。私の身体から、全ての力が抜け落ちた。



「…………」



ぽたり、ぽたり。

俯き、見開かれたままの私の目から幾つもの雫が落ち、あかねちゃんの上で弾ける。


……なんで。なんで、こうなってしまったんだろう。


どうしてあかねちゃんがこんな目に遭わなくちゃならない。

こんなバカみたいな姿になって、こんな暗くて寂しい場所で。


優しくて良い子だったのに。

私なんかよりずっと可愛くて、ずっと笑顔でいて欲しかったのに。

私の初めての友達で、大好きで、今日も明日も一緒に居られると思ってて、なのに。



「…………」



……いつの間にか、あかねちゃんの手を握っていた。


反応はない。

ただ、肌の隙間で血と吐瀉物が粘ついて……そこでやっと、私が彼女を汚してしまっている事に気が回る。



(拭か、ないと)



ぼんやりと思い。

ハンカチかティッシュか、私は持ってきてもいないそれらを探し、酷く緩慢な動作で衣服を探り……。



「――……、?」



……そうしてあかねちゃんから目を逸らした時、初めて周囲の変化に気が付いた。


靄だ。薄白い靄が、私たちの周りに漂っていた。

いつからそうなっていたのだろう。それは微かに流れる風に乗り、吸い込まれるようにして闇の向こうへと流れてゆく。


それを見た瞬間、さっき私を捕らえていた靄の触手を思い出したが、特に心は動かない。

ただの惰性でもって、その異常な光景を眺め続けた。



「…………」



闇の中。靄の集う先に、少しずつそれが浮き上がる。


白く、柔らかな質感を持った、歪な球体。

巨躯に膨らむその前方には八つの赤が――単眼が並び、全てが斑に散っている。そしてその少し上にたった一つだけ整った形のものがあり、ぎょろりぎょろりと不自然に蠢いていた。


――蜘蛛の頭。ついさっきまで、私が追っていたもの。



「……あは」



こんなに近くに居るというのに、恐怖、危機感、怒り、悲憤――全部なし。

心も生存本能も一切揺れず、何かもう全部がどうでもいい。そんな自分が滑稽で、少しだけ笑った。


そうしてくつくつと喉を鳴らしていると、蜘蛛の方から少しずつ靄が伸びて来る。

笑われているとでも勘違いして、怒ったのかな。そんな心があるのかどうか知らないけど。


捕まったら酷い事をされるって分かっているのに、あかねちゃんと同じ事をされるんだと思えば、それでもいいと思えた。

そう、いいんだ。私はあかねちゃんの手を握ったまま、平坦な気持ちでその時を待ち、



「――……、」



目が、合った。


蜘蛛の頭にある九つの眼の中で、唯一丸い形を保っている単眼。その視線が私をしっかりと捉えていた。

……いや、「しっかり」と表現するには、それは少しばかり落ち着きがないように見えた。


ぎょろぎょろ、ぎょろぎょろ、ぎょろぎょろ――。

ゆったりと広がってくる蜘蛛の頭の動きと反するように、その単眼はずっと忙しなく蠢いている。なのに視線は私から剥がれなくて、ずっと注視されている感覚が消えない。


色々な部分がちぐはぐなその様子に、動作を放棄していた私の脳みそが僅かに軋む。



(……眼、九つ……)



そうして一度頭が動くと、後回しにしたまま忘れていた違和感を思い出す。


幾十の身体を遣い、蜘蛛の八つある眼を潰した――『うちの人』は、そう言った。

その話が正しければ、蜘蛛の頭にある八つの赤斑がそれなのだろう。『うちの人』に潰されたという、八つの眼の傷跡だ。


なら……今私が見ている、この九つ目の眼は何なんだ?



「…………」



……蜘蛛は、そこに在る全てを取り込んで、血肉に変える。これも『うちの人』が言った事。


じゃあ、それで眼球を再生したって事なのか。

いやでも、それならまずは潰されてる目の方を治すんじゃないのか。

何で新しく九つ目を作る。何で同じく失ったっていう脚や腹部を治さない……?



(ええと、なんだ、なんか……)



脳みそが、ぎしぎしと音を立てている。

湧き出し始めた疑問が脳裏を無軌道に飛び交って、ぼやけた意識を揺らしている。


今考える事じゃないって分かってるのに、思考が止まらない。

それどころかどんどんと加速して、私より先に進んでいく。出来の悪い脳みそを置き去りに、直感と魂だけが何処か深い所に入っていく。


――私の視線が、勢いよくあかねちゃんへと向けられた。



(……あ?)



……何で今、私はあかねちゃんを見た?


無自覚だった。

そうした理由も分からないまま、膜の張った視界で彼女の顔の孔を見つめて、



「――っ」



ぱちん。

何かが弾けるように視界が白み、ほんの一瞬とある光景が脳裏をよぎる。


――悪夢。

あかねちゃんの顔に空いた孔と、そこから零れた人間の眼球と、その奥から現れた真っ赤な単眼。



「……は、……は」



ぱちん。また白が弾け、別の光景がよぎる。


インク瓶から聞いた、査山の千里眼の事。

先ほど渡った腐肉の山。

身体のどこかを眼球に変えられた異常な死体――。


ぱちん、ぱちんと弾ける度、これまで見聞きした様々なものが頭に浮かぶ。

膜が取り払われるように、視界が、思考がクリアなものになってゆく。



「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!!」



同時に忘れていた動悸が騒ぎ始め、吐き気から来る脂汗が流れ出る。


……今、やっと。

理解に脳みそが追い付いて、分かった。分かってしまった。



「……っ」



ゆっくりと、あかねちゃんから……いや、あかねちゃんの抜け殻から、視線を上げる。

その先にあるのは、蜘蛛の頭。

潰れた八つの眼の上にある、新たな九つ目の眼玉――。



「――ぁ、あかねちゃん、で、作ったぁ……ッ!」



ぎょろ、ぎょろり。

その真っ赤な単眼は、未だに忙しなく蠢いていた。







蜘蛛は、そこに在る全てを取り込み、血肉に変える。

その意味を、私は食事みたいなものとして捉えていた。


獲物を捕らえて、食べて、自分の血肉とする。そんな普通の生態の延長線上にあるものだと思っていた。


……でも、本当はそうじゃなかった。

頭部に眼球以外の器官が見えなかった時点で、気付いておくべきだった。オカルトを生物の常識で測るべきじゃなかったんだ。


――この蜘蛛がするのは食事じゃない。

獲物を直接自分の血肉に作り替えて、身体にくっつける。きっと、そんな最悪な事をやっている。



「――……」



だって、道中に転がってた死体がそうだった。

身体のどこかが眼球に変容していたっていうのは、たぶんそういう事だろう。


そこまで手を加えておきながら、死体を自分の血肉にせず放置していたのは、それらが『うちの人』だったからだ。

死ぬだけで蜘蛛の身体を削るような肉体なんて、きっと蜘蛛にとっては毒だったに違いない。


……でも、あかねちゃんは、そうじゃなかった。



「……せ」



御魂雲じゃない、普通の女の子で。でも霊視ってやつの霊能を持ってるかもしれなくて。

蜘蛛からすれば、きっと眼球のいい材料に見えたんじゃないか。


だから……だから、あかねちゃんを捕まえた。

身体の中身をぐちゃぐちゃにして、真っ赤な単眼に作り替えて――口の孔から引きずり出した。

夢で見た、あの悍ましい光景みたいに。



「……えせ」



そうして、潰れた八つの眼の上にくっつけて。

あかねちゃんで、私を見てる。ずっと探し求めていた彼女に私を映し、殺そうとしている。



「……かえせ」



どう見えてる?

あかねちゃんを通した世界は。



「かえせ」



馴染むか?

私の一番大切な友達から奪った血肉は。



「かえせ――」



気に入った?

もう一度見たかった笑顔をぐちゃぐちゃにして作った、その目玉――。




「――返せよぉッ!!」




感情が、咆哮となって噴き出した。


目の前が真っ赤に染まり、足元の地面が弾け飛ぶ。

積み重なった疲労や傷の痛みなんてどこかに消えていた。ただ、荒れ狂う衝動のまま蜘蛛へと走った。



「お前のものじゃないだろぉッ!! それはっ、あかっ、あかねちゃんのッ!!」



腕の振り方、脚運び。それすらも激情に吹き飛んで、何度も何度も膝を崩した。

それでも止まれないまま最後には獣みたいな姿勢になって、必死に単眼(あかねちゃん)へと手を伸ばす。


考えなんて何もない。

許せなくて、取り戻したくて、それだけだった。


当然、蜘蛛はそんな私を放っておかず、近くにまで迫っていた靄を伸ばした。


今の私じゃ色んな意味で避けられやしない。

落ちて来た時と同じように、呆気なく腕を絡め捕られ――途端、靄はまた下品な音を立てて傷の中へと吸い込まれていった。



「邪魔だッ!!」



その光景に疑問や嫌悪を挟む余裕も、今は無い。

体積が減って糸と同じくらいに細まった靄を振り払い、前へ前へと進み続けた。


対する蜘蛛は、やはり何故か嫌がるように靄を引っ込めると、真っ白な巨体で身動ぎ一つ。

――次の瞬間、その体を大きく開かせた。



「っ!?」



まるで、大口を開けるように。

単眼の下の部位が広範囲に広がり、私を包み込もうと押し寄せて来る。


さっきまでの靄なんて比較にもならない。捕まれば最後、私の身体は振り払う間もなく靄の中で固定され……きっと死ぬ。

何をされるかはイマイチ予想できないけど、私にも御魂雲の血が流れているのなら、さっき見た死体の仲間入りをするのはまず間違いない。


嫌だ、怖い。

少しだけ残った冷静な部分が早く逃げろと叫ぶものの、滲んだ視界に映る赤がその理性をも焼き尽くす。いつの間にかスマホもどこかに投げ捨てていたが、残る僅かな明かりの中でもハッキリとそれが視えていた。



「――あかね、ちゃ、」



靄の端が私の頭上に覆いかかり、ゆっくりと閉じてゆく。

恐怖の有無とは関係なく、迫りくる死の確信が心臓を激しく打ち鳴らす。それでも足は止まらずに、靄の向こうに手を伸ばした。


……結局、意味のない悪あがき。この手を届かせる事すら出来ずに終わる。

そう諦観する事すら出来ないまま、私は渦巻く激情ごと蜘蛛の中へと呑み込まれ――。



――視られている。



あまりにも唐突に、強烈な自覚が脳髄を焼いた。



「――~~ッ!?」



頭の芯を直接殴りつけられたかのように精神が揺さぶられ、外れた理性が音を立てて嵌り込む。

そうして強引に激情を吹き飛ばされた目に映るのは、閉じ切る間際の蜘蛛の大口――私は反射的に力の限り横っ飛び、滑り込むように靄の隙間へと身をねじ込んだ。



「っぐ!? ぅあっ、ぎぁ、はっ――!」



地面と皮膚が強く擦れ、露出した肉が削られた。

それでも何とか靄の隙間からは抜け出せた。完全に閉じ切るそれを背中に掠り、より遠くへと転がり逃げる。



(な、何だ、なんだ……っ!?)



あかねちゃんへの悲しみ、死にかけた事への恐怖、肉を削った痛み、ギリギリ助かった事への安堵。

一斉に鮮明となったそれらに加え、全身に刺さり続ける妙な感覚が正常な思考を許してくれない。


視られている――今こうしている間も、ずっとその感覚が続いている。

蜘蛛じゃない。それより遥かに強烈な視線がどこからか注がれ、身体の芯に絡みついて離れないのだ。


私は何を思えばいい。

何が、どこから視られている。

思考の、そして注意を向けるべき方向の判別もつかず、私の足取りがぐらりと歪み、



「っ」



ぽつ、ぽつり。

私の顔に、水滴のような物が当たった。


その冷たさで少しだけ我に返った私は、体勢を立て直しつつ上を向き――それを、捉えた。



「――あ?」



闇の中、光が一つ浮いていた。


どこかカメラレンズを思わせる、丸い形のぼんやりとした薄明かり。

この暗闇の中ではそれでも眩しいくらいだったけれど、どうしてか周囲の闇を照らさない。


――あれに視られているのだと、そう察した。



(何だ、あの、)




ぽつぽつとまた水滴が落ちる。

それはどうやら光の中から落ちているようで、まるで雨のような――。



「――雨?」



ふと引っかかりを感じたその瞬間、私は見ているものが光ではないと気が付いた。


夜空だ。分厚い雲のかかった、夜の雨空。

それがレンズの形に切り抜かれ、空中に浮かんでいた。


どうして、なんて思う筈が無かった。

だって私は知っている。この現象を、この光景を――自然公園のオカルトを。



(――そりゃ気付かれるよ、こんなの)



呆けたように考えて、自然と蜘蛛の方に目が行った。


蜘蛛は私の捕食に失敗したまま微動だにせず、ただ闇の中に浮かんでいる。

……いや、きっとあっちも上に意識が行っているんだ。


分かる。あの単眼(あかねちゃん)は私の方を見ていない。

私と同じく視られているって強烈な感覚に気を取られ、じっとその場所を見つめている――。


――噴水池の形に抜かれたレンズに、神経質な丸眼鏡の顔が映り込んだ。



「っ!?」



思わず足が止まり、それと同時に闇の中から靄が伸びた。私にではなく、上に向かって。


最初は噴水池のレンズに向かったのだと思った。

しかし靄はそれを素通りすると、もの凄い勢いでさらに上へと、闇の中へと消えていく。


一体何を――首を傾げかけ、すぐ思い出す。



(穴、を)



私やあかねちゃんと同じく、穴を開けてインク瓶を落とす気だ。


そう直感したものの、しかし私に出来る事は無かった。

再び蜘蛛へ走り出すより早く、遥か上方から薄明かりが降りて来る。


――閉じた暗闇の天井に穴が開かれ、地上の光が差し込んだのだ。



(っ、やば――)



噴水池のレンズに視線を戻すと、インク瓶の顔は既に映っていなかった。


まずい。私は息を呑み、光の差す方向を注視する。

私だって落下中にここまでボロボロになって、ようやく着地に漕ぎつけたのだ。あの貧弱眼鏡なんて絶対に死ぬ。


……だけど。



(――今なら、あかねちゃんのとこ、に)



現在、蜘蛛の意識は完全に私から逸れている。

今走れば、邪魔される前に単眼(あかねちゃん)の所まで辿り着ける……かもしれない。


でもそうなると、インク瓶が。

今その姿を見つけて見失わないでいられれば、どうにか受け止められるかもしれない。


さっきまでの私であれば迷いなく走ったけれど、半端に正気に戻ってしまった今となっては強い躊躇いが生まれてしまう。

そうして見上げ見開いた目が充血する中、差し込む薄光の先にとうとう人の影が現れた。



(インク瓶――)



夜の微かな光を背負うその影は小さく、朧げなものだった。

私の視力であっても、僅かに瞳を揺らすだけで見失いかけ、二つ三つとぶれて見え……、



「え?」



気付く。それはぶれではなく、実際にそこにある影だった。


二、五、十、二十、四十――。

その数は眺める内に加速度的に増え続け、やがては視界いっぱいに広がっていく。


――沢山の人間が、落ちてきている。

意味の分からないその光景を咄嗟に呑み込む事が出来ず、ただ立ち竦み。



「ぁ――」



落ちる人影が大きくなり、その顔が見える程の距離にまで近づいた時。

そこに浮かんだ酷く冷たい無表情に、私は彼らの正体を察した。


――『うちの人』。

そう呟いたと同時、最初に落ちた一人と地面の距離がゼロになり、血肉の華を開かせた。



「っ……ぐ」



目を逸らす間もなかった。


私から離れた場所ではあったけど、酷く聞き苦しい湿った音がこっちまで届き、吐き気が上る。

とはいえ、既に腐乱死体の山すら渡った身だ。それ以上取り乱す事も無く、顔を歪めるだけに終わる。嫌な慣れだ。



(くそ、なんでコイツら……インク瓶はどうし――、っ!?)



思考を巡らせようとした最中、轟音が耳を劈いた。


雷が落ちたかのような、或いは土砂降りの雨跳ねのような、そのどちらにも聞こえる高く激しい音。

地鳴りすら伴うそれは蜘蛛の頭から鳴り響いているようで、まるで悲鳴にも聞こえなくはない。


いや、実際に悲鳴なんだろう。さっきの『うちの人』の落下死体に目が行った。



「削る……くそ、ほんと趣味わる、うわっ!?」



また一人『うちの人』が落下死し、一層悲鳴と地鳴りが酷くなる。

それは最早地震と言ってもいい程の揺れ方で、私も腰を落としてバランスを取っておく。


悲鳴は分かるけど、何で地震まで起きるんだ。

そう悪態を突きかけ、そういえばこの地下空間そのものも蜘蛛の力だったと思い出す。



(……削るってまさか、空間ごとやってんの……?)



嘘だろと思うが、一人、また一人と『うちの人』が血肉の染みになっていく度、やはり地面の揺れが大きくなっている。

蜘蛛と同じく、この空間自体も悲鳴を上げているのだ。立っている地面のすぐ横にも大きな亀裂が一本走り、反射的に足を引く――。



「…………」



でも、堪えて。

引いた足を差し戻し、蜘蛛の頭を静かに睨む。


……落ちて来てるのがインク瓶じゃないのなら、そっちを気にする必要は無くなった。

まぁ別の意味で心を削いでいくのだが、そこはいい。よくないけど、いい。


だったらもう、やる事は一つだけ。

噴水池のレンズに吹き飛ばされた激情が、ゆっくりとまた昇る。



「……はっ……はっ……」



悲鳴を上げ続ける蜘蛛は苦しみ、悶えていた。


元々歪な球体であった頭部は更に不定形に歪んでいて、単眼(あかねちゃん)もぎょろぎょろと視線を四方八方に散らしている。

こっちに注意を向けている余裕も無さそうで、むしろ逆に逃げていかないかが心配になる有様だ。


ぐちゃり、ぐちゃりとイヤな雨音が響く中、私は浅い呼吸を繰り返しながら身を屈め、



――ぐちゃり。新たにその音が鳴った時、蜘蛛の一部が弾け飛んだ。



「――――」



歪な形になった頭部がぐらりと揺らぎ、地面を転がる。

幸い単眼(あかねちゃん)に傷は無く、角度を変える頭に合わせてその位置も移動する。


そうして止まったのは、地面の近く。たぶん、私の背伸びで届く高さ。

それを確認した瞬間、力の限り駆け出した。



(今だ、今、いまっ――!)



そう意気込む一方、距離はなかなか縮まらなかった。


実際にはあまり離れてはいない筈だなのが、地面が激しく揺れているため思った以上に走り辛い。

一歩一歩地面を踏みしめるのにも気を遣い、まっすぐ進む事すら一苦労だ。



「っ、くそ!」



加えて、『うちの人』も邪魔だった。


進路上にも雨のように落下してくる彼らに激突すれば、当然ただでは済まないだろう。

地上からの夜光があるとはいえ暗い事には変わりなく、そんな中で落下物を避け動くのは、地震もあって酷く神経が磨り減った。


今もすぐ近くで一人弾ける音が聞こえ、私は反射的にブレーキをかけてしまい――幸運にも、その目前に逆さまになった『うちの人』が降り落ちた。



「な――」



悲鳴を上げる余裕もなく。

緩慢になった時の中、それと目が合った。


少しシワの目立つ、どこにでも居そうなおばさん。

やはり無表情の彼女は、私の顔を見て僅かに眼を見開いて――。



「――っぐ!」



ぐちゃり。

数歩先でまた真っ赤な華が咲き、血肉が私の頬に飛ぶ。


頭から落ちた『うちの人』は上半身ごと潰れ切っていて、もう顔なんて分からなくなっていた。

……私は、少しの間それを茫然と見下ろして。一瞬の後、歯を食いしばって走り出す。



「――ぁぁぁああああッ!! なんなんだよぉッ!!」



最期の瞬間、『うちの人』は無表情を微かに崩し、微笑んでいたように見えた。

まるで、やっと私を見つけて安心したように。


そんな訳ない。錯覚だ。

それは分かっているけど、何故か感情が沸騰したまま収まらない。


やめてくれよ。いい加減いっぱいいっぱいなんだ。

痛くて怖くて辛くて、意味不明な事ばっかりで、私のやること成すこと合ってるかどうかも分からない。


嫌だ。疲れた。うんざりで、分かんなくて、限界で。

だから。だから、だから――。



「――帰る。もう帰るんだ、一緒に……!」



呻くように絞り出し。

降り続く『うちの人』を全部無視して、真っすぐに蜘蛛の下へと飛び込んだ。


すぐ近くで何人もの『うちの人』が弾けて散って、大量の血肉を引っ被る。

そして千切れ飛んだ腕か何かが背中に強くぶち当たり、堪え切れずに転がった。


ある意味では、文字通り背中を押されたのかもしれない。

ぐらぐらとする頭を抱えて身を起こせば、すぐ側に真っ白な靄の塊と真っ赤な球体が浮いている。


――手の届く所にまで下げられた、人の頭よりも大きな単眼。

蜘蛛の頭なんて無視して、私はそれに縋りつく。



「っぁ、あ、あかねちゃん――」



返事なんて無い。


間近で響く蜘蛛の悲鳴が煩すぎて、きっと聞こえていないんだ。

そう思い込もうとして、だけど失敗し、私はぽろぽろと涙を零しながらその真っ赤な粘膜に手を添えた。



「なぁ……もう、帰ろ? 満足したろぉ、こんな……さ、散々、さぁ……」



ぎょろぎょろと蠢く単眼(あかねちゃん)を抑え込み、言い聞かせるように声をかける。


あかねちゃんがオカルト探しに熱中しすぎた時、私はいつもこうやって急かしていた。

でも大抵は聞いてくれず、何のかんの理屈を並べて抵抗する。私の頭じゃ彼女を言い負かす事が出来なくて、結局説得を諦めるのがパターンだった。



「……なんか言ってよぉ。今まであったじゃん。みえろとか、他にもなんか……なのになんで、もう……、……」



今だってそうだ。単眼(あかねちゃん)は何も答えてくれない。私の言葉を聞いてくれない。

これ以上気の利いた口説き文句なんて咄嗟に浮かぶ筈も無く、何を言えばいいのかも分からなくなって黙り込む。いつも通りの諦めだった。


――そしてそうなった時、私は例外なく腕力に訴える事にしていた。



「――ッ!!」



ズ、と。

真っ赤な粘膜に触れる手を滑らせて、蜘蛛の真っ白な身体との隙間に突っ込んだ。


するとやっぱり私の手は靄の中で固着され動かなくなるけれど……直後、またじゅるじゅると傷口の中に吸い込まれていき、無理すれば動かせる程度には抵抗が減った。


……予想通りだけど、ほんと気持ち悪い現象。

とはいえ今はそれが有難く、私は単眼(あかねちゃん)に抱き着くようにして抱え込み――力の限り引っ張った。



「ぐ、ぬ、あぁぁぁぁぁ……ッ!!」



ミチ、ミチ。ギチ、ギチ。

粘着質な音が響き、少しずつ単眼(あかねちゃん)が靄の中から引き剥がされていく。


高さの事もあり踏ん張り切れない姿勢ではあるが、私の膂力であれば大した問題でもない。

そのまま体重も込めて引き続けていれば、やがてブチリと音を立て、感じる抵抗が弱くなった。



「帰、るぅ……い。いっしょ、にぃ――きゃあっ!?」



それを好機とみて力を入れ直そうとした時、蜘蛛の頭が大きく揺れた。


相当に苦しんでいるようで、一際甲高い悲鳴を上げて身を捩っては暴れ回る。

当然私も激しく宙を振り回されては、何度も地面に打ち付けられた。



「ぎっ――かふっ、がぼっ――ご、んのッ……!!」



頭をぶつけ、気が遠くなり。肩をぶつけ、変な音がして。


それでも絶対、単眼(あかねちゃん)を抱える手だけは離さない。

逆流した鼻血でせき込みながらも、もっと深く深く抱え込み――。



『――なんで』



「――は」



声が、聞こえた。



『ごめんなさい、助けて、ください』



それは今一番聞きたくて、絶対に聞けないと諦めたもの。


聞き間違える筈が無い。

それは確かに、何一つの間違いなく――あかねちゃんの声だった。



『なんでこんな事に』


「っ、あ、あか――ぐぎゅ、ぁっ」


『やだ、たすけて。おかあさ』



咄嗟に呼びかけようとしたけど、舌を噛んで血を吐いた。

こんな状況じゃどうにも出来ず、ただ聞き続けるしかなくて……その内、これがどういったものか段々と察しがついた。



(――あかねちゃんの、最期の)



彼女が人の姿を失い、こんな姿になるまでの今際の際――。

頭の中に響く悲痛な感情が、その情景を示していた。



『靄、くるしい、息、できな』


(……な、んで)


『おなか、あつい。いたい、いたい――』


(何で聞こえんだよぉ! 何で、こんな……!)



あれほど聞きたかった声なのに、耳を塞ぎたくなった。

まるで傷口から吸い込まれる蜘蛛の身体と共に、それが流れ込んでくるようで――いや、一緒に単眼(あかねちゃん)の一部も吸い込まれてて、実際にそうなってる?

分からない。分からないけど――。



『とけてる。め、みえな、とける……とけ て』


(やだよぉ……やめてよぉっ……!)



あかねちゃんが、生きたまま中身を溶かされ、作り変えられていく。

怖かっただろう。痛かっただろう。

ただただ心が軋み、張り裂けそうになる。



『――なんで、わたしなんだろう』



……突然、声色が変わった。

少しだけ言葉の形がハッキリとして、どこか暗いものを纏った気がした。



『いつも三等賞なのに、こんな時だけ、どうして』


(あかね、ちゃ)



『なんで、コトちゃんじゃ、なかったの』



息が止まる。

ほんの一瞬、身を襲う痛みすら飛んでいた。



(……え)


『いちばんより、上のなのに。わたしより、ずっと価値ある、のに』



羨むような、或いは妬むような声。

私が知らない生々しさを含むそれに、どうしてかショックを受けていた。



『きれいで、つよくて、わたしも、欲しくて』


(…………)


『……なのに、全部いらないって。だったら、そっちで……』



聞きたくない。心の底からそう思った。

でも声は止まってくれなくて、私は頭を振って抵抗を――。



『わたしじゃなくて、コトちゃんが、こうなってれば、』



「――……」



……力が、抜けた。


悲しくなって、落ち込んで。

蜘蛛の動きに抵抗する気も無くなり、より激しく身体が傷ついていく。


続きを聞けば、きっと私は耐えられないだろう。

その確信があったけど、どうする事も出来ない。ぎゅっと目を瞑って、その時を待つ。



『……、そんなだから』


(……?)



けれど、続いた言葉は私の予想と違っていた。



『だから、わたしは、一緒じゃない……並べな、くて、こうな、る』


(…………)


『妬んじゃう。から、わたしのせかい、いちばん、も……』


(……ちがう、って)



その意味は分からなかったけど、否定しなきゃいけない気がした。

身体に力を入れて、蜘蛛への抵抗をまた始める。



『……いっとうしょう、なりたかった、なぁ』



もう、何も分からなくなっていたんだろう。

夢うつつで、ひどく切なげな声だった。



『いつか……ことちゃ、おいつい、て、ちゃんと、おなじ……』


(……違うんだよ。私が勝ってる所なんて、最初から何も――ちがう、こういうのが、きっと)



卑下しかけた思考を投げ棄て、蜘蛛の動きに合わせて地面に立つ。


未だ『うちの人』は死に続けていて、地震も信じられないくらい酷くなってる。

気付けば蜘蛛の身体もボロボロで、ギリギリ振り回されずに踏ん張れた。



『かえりたい、よぅ。おかあさ、ことちゃ、あいた、い』


「そう、だよ。っぐ、今から、帰んだよ。はぁ、はっ……一緒に、連れて……!!」



打ち身だらけになった足を突っ張り、腰を落とす。

靄の奥の方まで手を突っ込み、単眼(あかねちゃん)の裏側から鷲掴む。



「……あかねちゃんママ、心配、してたよ。はぁっ、遊園地の約束だって、あるだろ。っぐ、オカルト探し、もう止めたりしないし。自虐もやめる。だから、だからぁ……っ!!」



考えつく限りの言葉で乞い願い、それでも現実は変わらない。

とっくの昔に、こうなっている。取り返しがつかなくなっている。



『……眼、ごめん、ね――』



それを最後に、声は途切れた。



「――ああああああああああッ!!」



剥がれかけの爪を立て、さっき以上に強く引く。


指先に激痛が走るけど、知るものか。

暴れる蜘蛛に片足だって突き刺して、全身全霊で力を込めた。



「あああああああああッ! わあああああああああッ!!」



もう、意味のある事も言えなかった。

ただ獣の叫びを上げて、少しずつ単眼(あかねちゃん)を引き抜いていく。


ぶち、ぶちり。

糸のようなものが千切れる音が連続し、単眼(あかねちゃん)が大きく揺れる。

蜘蛛も暴れて靄の触手を私に向けて伸ばすけど、近くでまたぐちゃりという音がした瞬間に弾け飛ぶ。



「ああ、ぁ、はーっ、はーっ……あぁ、っんのッ……!」



気付けば単眼(あかねちゃん)は殆ど蜘蛛から飛び出して、数本の靄が糸となって繋ぐだけとなっていた。


視神経か、筋か。

ともかく相当な粘度を持つそれは、単眼(あかねちゃん)をまだ身体に引っ張り戻そうとしていて――まるで「返せ」と言わんばかりのその動きに、私の血管もブチ切れた。



「ぐ、ぎ、んがぁぁぁぁあぁぁぁぁぁ……ッ!!!」



一本、また一本と、単眼(あかねちゃん)と蜘蛛を繋ぐ靄の糸が切れていく。


もう抵抗は殆どない。

蜘蛛は悪あがきにもこっちに這って来ようとするけど、ひび割れ、揺れ動く地面がそれを許さない。


私も私でいい加減にボロ雑巾だけど、あと少し頑張るくらいの力は残ってる。

零れそうになる単眼(あかねちゃん)を抱え直し、最後の一押しを踏ん張って――。



「――帰るん、だぁぁぁ……!!」



――ぶちん。


残った靄の糸が全て千切れて、宙を舞う。

私も自分が込めた膂力のままに、単眼(あかねちゃん)ごと大きく背後へ投げ出された。



(やっ――)



あかねちゃんを、取り返した。


……字面だけならこうだけど、絶対に喜んでいい結末じゃない。

だけどその瞬間だけは、私も小さな笑みくらいは浮かべられて――でも、すぐに凍り付いた。


轟音。

単眼(あかねちゃん)を失った蜘蛛の身体から、凄まじいまでの絶叫が放たれたのだ。



「がっ――」



……自分の耳の良さを、酷く恨んだ。


至近距離でのそれは私の鼓膜と脳を激しく揺らし、両目がぐるんと裏返る。

そうして、ほんの一瞬だけ意識が飛んで――単眼(あかねちゃん)を掴んでいた手が、離れてしまって。



「――」



抱える胸の中からすっぽ抜け、私よりも早く後方へと飛んでいく。

即座にまた手を伸ばすけど、血とぬめる粘膜に滑り掴む事が出来ない。届かない。


――そこで、終わった。



「――っ!?」



今の悲鳴がきっかけだったのか、それとも『うちの人』が死に過ぎたのか。

地面に入った亀裂が一気に深まり、地面が割れた。


それだけじゃない。

壁や天井、見える範囲の全てが崩れ落ち、削られ切った空間そのものが、壊れ始めていた。



「……――! ――!」



さっきの悲鳴で耳が壊れて、自分の声すら聞こえない。

それでも喉を嗄らしてあかねちゃんの名を呼んで、闇に沈みゆく単眼(あかねちゃん)へと手を伸ばす。


地面なんてとっくに抜けてる。私だって着地出来ないまま、何処とも知らない暗闇の底へと落ちている。

だから、手なんて届かない。今度は指先さえも掠らず、求めた赤は黒の中へと沈んで消えた。


……さっき、ちゃんと掴んでいたのに。やっと、取り返せたのに。

なのに――もう、取り零した。



「――!」



叫ぶ。

けれど何も果たす事は無く、ただ散った。


そうして、全部、全部がなくなった。

地面も、壁も、天井も、死体も、瓦礫も、蜘蛛も……あかねちゃんも。

やがては私だって、全てが深く昏い闇に包まれ、消えていく――。



…………。


……どうしてだろう。


そうなって、意識が遠のく、その直前。

誰かに抱きしめられたと、強く感じた。


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