八月は“恵まれし者の大きなお祭り”
この時期は最も忙しく、モンちゃんも気を抜けないぞ。領主にとって一番大変な時期なんだぞ♪
この月の主役となる神は若き女神シロネンだ。トウモロコシを司っている。
ん? やっぱりトウモロコシ系の神が多すぎやしないかって?
何度も言うが、トウモロコシは我らの主食であり、必ず食卓に並ぶ一品だ。これを抜きにして食は語れない、大切な存在だ。当然、それを司る神もまた、多くいて当たり前というものだぞ。
そもそも、我が国は豊かな大地の実りが約束されし豊饒の大地! その食材も多数存在す。肉類の食材を挙げても、鳥や獣はもちろん、爬虫類に魚にエビ、犬に人間、これほど多種多様に存在する。味付けは塩と唐辛子な。
他にも豆や各種野菜、卵、食材の種類も量も豊富であると自負している。
だが、そんな中にあっても、やはりトウモロコシは特別なのだ。
御客人の住んでいた場所では、麦なる植物を主食にされていると聞いたが、当然、それに対して思い入れはあるだろう?
ほほう、麦を挽いてパンなる食物を作ると申すのか。しかも、パンは御神体でもあると。赤い酒は神の血であると。
住む場所は違えど、考え方に似たものはあるものよな。
なに? 生贄はよろしくないだと?
なぁに、心配いらん。先程も申したが、生贄の大半は敵国の捕虜や奴隷ばかりだ。我が国の人口が減っては困るからな!
あと、ついでに申しておくと、数多存在するトウモロコシ系の神だが、その頭は四月の祭事に登場したチコメコアトルだ。この女神がトウモロコシの統括者と言えよう。凶作、不作になったらだいたいこいつが怠けたせいであるから、トウモロコシ系の神々を代表してこやつが責めを受けることとなる。
神とは人間に豊穣をもたらす存在。それを怠けたというのであれば、責めを受けて当然というものだ。職務怠慢は許されるべきではない。
そんなトウモロコシだが、この八月の時期が大変なのだ。夏という厳しい状況に加え、収穫前ということもあって、この時期はトウモロコシは毎年不足がちになる。貧しい者、あるいは地方からも食料の配給を求めて都市部に人々が流入する。
これをどうにかしないと、領主として失格である。
主に、トウモロコシを粉に挽いて焼いた物を提供する。中には蜂蜜や果物で甘く味付けした物を提供する場合もある。そこらは領主の力量次第である。
そして、食料の提供に応じられなかった場合、領主は無能者と皆から罵られる。場合によっては、殴り殺されても文句は言えないのだ。
神もそうだが、領主であろうと、職務怠慢は許されない。いざという備えなき領主など、さっさとその座を明け渡してもらうに限る!
おっと、祭事の話を忘れるところであった。つい自分にも関わる事であるから、熱が入ってしまったわ。
祭事の件であるが、若い女性をシロネンに見立てて着飾らせ、豊作を祈って踊り歌うのだ。そして、それが終わると、女神の化身は首を刎ねられ、心臓を抉り、神への供物とする。
ここで気を付けねばならないのは、首を刎ねてから心臓を抉るということだ。先に心臓を抉ってはだめだぞ。なぜなら、“首を刎ねる”ことは“トウモロコシを収穫する”ことに通じているからだ。豊作を祈願する祭事であるし、その辺りの手順や作法は重要だぞ。決して間違いてはならない。
生贄にも作法や手順があり、それを違えることは神への冒涜である。作法のない生贄の儀式など、ただの人殺しであるからな!