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【3】水槽の中のクリスマス

 クリスマスって大人になってもワクワクするわね、寝ている間にサンタさんからクリスマスプレゼントを貰えるわけではないけど何か胸が高鳴るの。音楽のせいかな。私はテレビから流れてくる『All I Want For Christmas Is You』を聴きながらスマホを眺めていた、現代人なんてこんなものだと思う。昔の偉い人が奴隷制度を廃止しなかった理由がなんか分かる、そんな感じ。友達がどこに行ったとか誰と一緒にいるとか投稿しているのをなんとなく眺めていると、あいつから連絡が来た。

「そろそろ帰るよ」

バナーを上にスワイプして、既読はつけない。だから私はあいつのメッセージに気付いてないってことになってはいる。だけど、頭の隅っこの方、たぶん右後頭部のしおりくらいの大きさの部分、であいつのことを考えてしまう。

 あいつの良いところは顔と頭、それは認める。だから付き合ってるわけだし。そういった外面的強さを持ってるやつだから、異性にモテる。私にバレないようにスマホの通知はたぶん切ってる、私から画面を覗くことなんてないけど。誰にでもハハッって感じの笑顔をふりまくのに、その笑顔のまま簡単に関係を切るから何人もの女の子を泣かせてきた。数年後に後悔しろって感じ。一応私はあいつの本命ってことになってるんだけど、遅れる理由は明らかね。私はため息をついて何となく画面から顔を上げた。

「ふぉっふぉっふぉ」

机の上に赤い服の小さいおじさんが立っていた。十人が見たら十人が例の老人を想像する姿、ゲームセンターで取れるぬいぐるみくらいの大きさだった。

「ぬしの欲しいものは何かの」

ニコニコとしながら私に問いかけてきた。ちょっと待って、情報量が多すぎる。いったん整理しよう。

「質問してもいいですか」

「なんじゃ」

「サンタさんですか?」

老人は少し黙ったあと、答えた。

「そう考えて差し支えないの」

なるほど。

「どうして私のお願いを聞いてくれるんですか?」

クリスマスだというのに私は夜遅くまで起きている、もう子供じゃないはずだ。老人は答えた。

「無作為に選ばれた数人の内がぬしだったのじゃ。世界は大きな力で周っているから、わずかな人間の、現実的ではない願いを叶えることなど誤差のようなものじゃ」

なるほど、そういうものなのか。少し落ち着いた私は、自分がとても幸運なんだと気付いた。

「その、本当になんでも欲しいものを言っていいんですか?」

「実現可能な範囲ならの」

私は適当に相槌を打って、何をお願いするか考え始めた。最近出たケインズの冬服?前々から欲しかったランバンの香水?それとも空を飛ぶ能力とかのメルヘンな願い事でもいいの?。とても難しい。私がとても思い悩んでいると、スマホが震えた。

「ごめん、30分くらい遅れる」

はあ、って感じ。30分あったら何が出来るんだろう。あいつにとっての30分は覇権アニメを観るくらいの一瞬なんだろうけど、私はカップラーメン10個を何もしないでボーって待つくらい長い。いっつもそうだ。本当に必要最低限のメッセージしか寄越さない上に返事も遅い。それで私が、今度会ったら問い詰めてやろう、いっそのこと縁を切ってしまおうかなんて悶々と思いながらあいつに会うと、眩しい笑顔のせいでどうでも良くなってしまう。きっと大昔なら、それこそポケベルすらもない時代なら、私たちは上手くやれていたのだろう。おっきな水槽に私とあいつ、お互い好きなように緩やかに動いて、たまに会ったら、おや奇遇だねって他愛の無いことをゆったりと話す、そんな関係。

「サンタさん、決まったわ」

独りごちた私は、視線をサンタさんへと向けた。

「私の欲しいものはーーー」

 それから1時間ほどして、とある女性のマンションのドアが開いた。高身長な、透明の笑顔の男性が玄関に足を踏み入れる。そして玄関から廊下を渡り、リビングにつくと、そこには眠たそうな女性が、微かな笑顔をたたえて座っていた。

「ただいま」

「うん」

いつも女性は気だるげだが、今日はなんだか更に機嫌が悪そうだなと思いながら、男性が女性の反対に座る。

「ねえ」

「なに?」

「サンタさんって信じる?」

「子供みたいなことを言うね」

「子供でいたかったわ」

言いつけを守って眠る子供の元にサンタはやってくる、眠らない大人の元には果たして訪れるのだろうか。


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