馬鹿げてる、でも憧れる
いつも真面目に過ごした。
授業はしっかりと聞き、「分かる人」と問われれば姿勢よく挙手し、板書はノートに丁寧な字で書き写し、出された宿題はきっちりとする。
「つまらない子」
「他にすることが無いんじゃないの?」
いつも真面目に過ごした。
そうすれば親が安心するから。
教師からは褒められる。
内申点が上がる。
慌てなくてもテストでそこそこの点数が取れる。
「家で勉強ばっかりしているんじゃない?」
「くそマジメ」
いつも真面目に過ごした。
だって、真面目が楽だから。
真面目にしていればそれなりに成績が良くなって、素行が良ければ入試にもきっと有利で、不真面目な子よりも楽に進学できると思うから。
でも、憧れる。
堂々と授業をサボる子、宿題を忘れてもテストが赤点でも平然としている子、スカートの丈が短い子、夜光タスキを着けない子、ヘルメットを被らない子。
授業をサボれば教科書が進んでしまう、授業に出てちゃんと聞けばいいのに。
宿題を忘れたらテストで満点を取ってもきっと総合的な評価が満点ではなくなる、家でやらないのなら授業が終わってすぐの休み時間にすればいいのに。
スカートの丈が短いと階段の昇降時に下から見えてしまう、カモシカのような足ならまだいいかもしれないけれど、大根足はただ醜いだけなのに。
夜光タスキを着けないのもヘルメットを被らないのも被っていて顎のベルトを止めないのも、ただ危険なだけなのに。被っていてベルトを止めない……安全性で見て何の意味もない、被らないという勇気もない、中途半端。
自分は?
私は?
真面目、凄く真面目、つまらない真面目、何の面白みもない糞真面目。
でも、ちょっとだけ、抵抗する。
真面目からの、糞真面目からの抵抗。
制服の白ブラウスのボタンを留めている白い糸を、裁縫セットから取り出した糸切り鋏でチョキンと切る。
切れた糸の先を引っ張って、ボタンを外す。
針に新しい糸を通す、薄い灰色の糸を。
糸の一方を玉結びして、ブラウスの裏側から針を出し、ボタンの穴に針を通して。
白ブラウスはほんの少しだけ表情を変える、きっと誰も気付かない。
人から見たら真面目街道一直線のつまらない私。
でも、私だけは自分がそうじゃないことを知っている。
私は真面目だけれど要領のいい真面目で、でも、ほんの少し不真面目な真面目。